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イメソン♪シャッフルバトン
「黄瀬君ーパスタ用のお皿二つ出してー」
「了解ッスー」
黄瀬との奇妙な共同生活が始まって早一週間。もともとお互い人見知りするタイプではないこともあり、二人は早くも打ち解けた雰囲気を出していた。
「うわぁ〜っ。今日もうまそうッスね〜」
「今日はベーコンとジャガイモのパスタと、トマトサラダ、カボチャのスープでーす」
一週間の間に、それぞれの役割もだいぶ決まった。料理と洗濯は信の仕事。逆に、信の苦手な掃除は黄瀬の仕事。ゴミ出しや皿洗いなどのこまごまとしたものは当番制となった。
「うっまーい!」
「おかわりあるよー」
「くださいっ!」
ぺろりと平らげられたパスタの皿を受け取り、信は二杯目を注いであげる。
最初は色々な懸念も多かったが、いざ生活してみると、わりとお互いストレスもなく過ごせているように感じた。
「信さんほんっと料理上手ッスよねー俺毎日自分で飯作るとか無理ッスわー」
「ははっ、慣れだよ慣れ。っていうか、黄瀬君はホントに美味しそうに食べてくれるから作りがいがあるよ。うちの次男なんて、なに作ったって「別に」とか「フツー」とかしか言ってくれないからさ」
「だってホントにうまいッスから。コンビニ弁当とか、楽屋の弁当とかって、どれも似たり寄ったりで飽きるんスよねーホント」
「あ、ならお弁当作ろうか?」
「いいんスか!?え、でも、信さん朝忙しいのに余計に負担になるんじゃ…」
「いや、一人分も二人分もぶっちゃけ変わんないから。っていうか、一人分作る方が微妙に材料余っちゃって困るんだよね。だから、よかったら」
「欲しい!食べたいっす!」
「ん。じゃあ、明日からね」
―――…さて、今日のゲストは、今人気急上昇中の若手俳優、八神蓮さんでーす。
つけっぱなしだったテレビから、女性の黄色い歓声と拍手が聞こえてきて、思わず信と黄瀬はテレビに視線を移した。
「あ、蓮さん。へーこのトーク番組出てたんスね」
「うん。そうみたい…あ、蓮といえば、この間のお詫びのケーキ届いてたから、食後に食べようね」
「あ、俺太っちゃうといけないんで、1個だけでいいッス」
「ん、了解」
―――蓮さんといえば、最近女性用の化粧品のCMに出演されておられましたよね。
「あぁ…俺、あのCM見た時、リアルにコーヒー吹いたんだよね…」
「アレは仕方ないッスよ…」
今テレビで話題となっているCMは、なんと蓮が女装して出演しているのだ。美女に化けて、パーティー会場で男たちを魅了し、お手洗いへと言って席を立つ。そして、入ったトイレは、男性用。鏡の前でウイッグを取って、視聴者にネタばらしをするという内容だった。
ちなみに、信以外の他の悪友たちや、優人や神田も、このCMをみた際に、もれなく口に入れたものを吹き出している。
―――女性さえも騙すメイクを…というのが監督のリクエストだったので、今回は男の俺がCMに出ることになりました。
―――なんでも、メイクは蓮さんがご自分でしたとか。
プロのメイクではなく、蓮本人と聞いて、会場も驚きの声を上げる。それに、蓮はニヤリと笑って言った。
―――プロの方がされたら、視聴者の皆さんも「どーせプロがやってるから」とか思うでしょう?なんか世間は女装した俺にばっか注目してるみたいですけど、メインは化粧品ですから。
―――なるほど。男性でもこれほど化けられてしまうメイクだ、と。
―――まあ、元が良いのもありますけどね。
―――言いますねぇー!
「またあいつは敵を作るようなことを…」
「まあ、確かに事実ッスけどね…」
―――ちなみに今回女性になるうえで参考にされた方がいらっしゃるとか…?
―――ああ。コンセプトは、友人Sの高校時代の元カノです。
「ゴフッッッツ!!」
「うぇっ!?ちょ、信さん!?」
信は思わずスープを吹き出した。ヤバイ、気管に入った…!
なんとかむせながらも、テーブルにぶちまけたスープを布巾で拭いて、画面の蓮を睨みつけると、蓮はテレビの中でさも楽しそうに笑っていた。
―――あら、ご自分の彼女さんではなく?
―――いや、俺高校時代は地味な奴だったんで(笑)参考に出来るのが友人の彼女ぐらいだったんですよ。
「アイツ…!全国放送の番組でなんっつーことを…!!」
たしかに、CMを見た時に似てるな、とは思った。けれど今頃それを蒸し返すか、この男は!!
「えぇっ!?なに、もしかして信さんの…!!」
「ちょっ、黄瀬君なにわくわくしてるの?なに目を輝かせちゃってんの?」
「信さん!俺信さんの元カノさんがみたい!!」
「残念だけど、電話もメルアドも知らないし、第一顔だってもう曖昧にしか…」
―――ひょっとしたら卒業アルバムとかにちゃっかり載っちゃってんじゃないですかね?
「れぇぇえええん!!何言っちゃってんの!?お前ホントに何言っちゃってんの!?わかってる!?これテレビだよ!?メディアだよ!?不特定多数の人に見られてるんだよ!?って、ちょっと黄瀬君、きみどこに行こうとしてんの?え?何で俺の部屋のドアノブ捻ってんの?ちょっ…!待てコラこのクソガキ!!!」
ピンポーン
「センセー、ちょっと国語教え…て……」
ドアを開けた火神の目に飛び込んできたのは、フローリングの床に沈んだ黄瀬の頭を、担任の教師が足で押さえつけているという衝撃的な構図だった。
「…………シツレイシマスダ」
関わらない方が良い。本能的にそう直感した火神は、即座にドアを閉めようとしたが、それは信の足によって阻まれた。
「ちょーっと待って火神君。ん?なに?国語で聞きたいことがあるって?」
「イエ…自分でナントカするデス。だからセンセイもごゆっくりしてろください。どうぞ、俺のことはほっておいて続きでも…」
「うん。続かないから。To be continuedとかないから」
「いや…俺別に……先生にそーゆーシュミがあっても気にしねぇんで…」
「ちょっと待て。そーゆー趣味ってどういうことかな?火神君」
「じ、磁石の極的な…」
「ないから。SM趣味とかないから。寧ろ俺は好きな人には徹底的に尽くすタイプだよ!!殴るや蹴るなんてどーでもいい奴にしかやんないし!!」
「それちょっとひどくないッスかぁ!?信さん!!」
勢いよく起きあがった黄瀬の目線と、火神の目線がかちあった。
「えっ!?火神っち!?」
「黄瀬!?何でお前がここにいんだよ!!」
「それはこっちの台詞ッスよ!え…っていうか待って…先生ってどういうことッスか!?」
「……えっと…二人は知り合い…?」
3人とも、それぞれ聞きたいことができたようだ。とりあえず、お互いの情報を共有しようということで、火神も一度、信の部屋に上がることとなった。
「火神君甘いもの平気?」
「ああ」
「よかった。ちょうど知り合いから送られてきたケーキがあるんだ。結構色々種類あるんだけどどれがいい?」
「俺はこのチョコの…」
「俺はチーズケーキで!」
「オッケー」
火神の皿にはチョコケーキ、黄瀬はチーズケーキ、信はとりあえずフルーツタルトを食べることにした。それぞれの前に紅茶をだし、信も席につく。
「さて…まあ、食べながら話そうか。質問があるなら答えるけど」
「…なんで先生の家に黄瀬がいんだよ」
「んー俺の幼馴染の一人が今俳優やっててさ。知ってるかな?八神蓮って言うんだけれど」
「ほら、最近化粧品のCMですっげー美女に女装して出演してる人ッスよ!」
「あー…わかった。見たことあるわ、俺も」
「そう。そいつと黄瀬君が雑誌の撮影で知り合ってね、黄瀬君丁度その時パパラッチに追いかけられてたんだよ」
「もー…家にも潜伏してたホテルにも張り込まれて大変だったんスよー?」
「まあ、そういうわけで、しばしの隠れ家として蓮が提供したのが、この俺の部屋ってこと」
「ふーん…」
先生の知り合いって、すっげー奴が多いんだな…。
火神でも聞いたことのある大企業に就職している研究者の夏に、若手だが良い写真を撮ると注目されているカメラマンの千博、そして、俳優の蓮。みな、それぞれの業界で注目されている人々ばかりだ。
「あ、じゃあ次俺からの質問!火神っちと信さんは何で知り合いなんスか?」
「なんでって…この人俺のクラスの担任の教師だし…」
「ちなみに火神君の住んでる場所、俺の部屋の右隣だよ。今まで一度も会ったりとかなかった?」
「えぇぇぇ!?マジッスか!?全然知らなかった…俺、大抵撮影やロードワークで朝早くでちゃうし、信さんが教師だとは聞いていたッスけど、勤め先までは聞いてなかったし…」
「あー…言ってなかったね…新設校だしまだ知名度そんなにないかなって思って…」
それに、神奈川の海常高校に通っている黄瀬とは縁はないだろうと思い、特に詳しく話さなかった。
「じゃあ、俺からも質問ね。他校の君たち二人が知り合ったのはどうして?」
「なんでって…先生、黄瀬はキセキの世代の一人だぜ?」
「あーバスケ、か…」
「そうッス。火神っちとは、バスケの練習試合で交流があるんスわ」
「つーか先生、動画サイトにアップされてたキセキの世代の試合動画見たんだろ?」
「いや…アップされてるのは見たけど、画質悪くてセルフエコノミー状態で……はっきり顔は認識できなかったんだよね…」
なんとか特徴的な髪色で、選手を区別できたが、顔を一人一人認識することは不可能だった。
黒子がわかったのは、信が彼の出身校を知っていて、それに雰囲気や背格好から恐らくそうだろうと判断したにすぎない。
「そっかー…あの黄色い子が黄瀬君かぁ…」
「いやー俺は入部したのも遅かったし、他の4人に比べたらまだまだッスわ」
「つか、先生も中学の頃バスケ部だったんだろ?」
「えっ、マジっすか!?」
「いや、俺らのバスケを君たちのバスケと比べられても困るから」
あんな常軌を逸したパスやシュートをする子たちと比べられたらたまらない。こっちは平凡なバスケしかしてこなかったのだから。
火神はチョコケーキをぺろりと平らげ、信の淹れた紅茶をすすってほっと息をついた。
「っつーか、先生と黄瀬は俺が来るまで何を争ってたんだ?」
「ちょっ、蒸し返さないで火神君!!」
信がそう言ってもあとの祭り。黄瀬は目を輝かせて信に迫った。
「そうだったッス!信さんの彼女さんの話!!」
「え、先生彼女いんの?」
「いや、もう長いことフリー。黄瀬君が言ってんのは高校時代の元カノ」
「いいじゃないッスか。教えてくださいよ信さん。こーゆー話題話せる人俺の周りにいないし」
中学時代は女の子の桃井とたまに恋バナに花を咲かせていたが、高校に入ってから、恋バナを話せる人間など、周りにいなくなってしまった。
「えー…っていうか、あの子を彼女にした覚えないんだけど…なんか向こうがその気になっちゃってて」
「あー…結構いるッスよねー。そーゆーカンチガイ女」
モデルをするほど整った容姿の黄瀬の周りにも、信に寄りついてきたようなタイプの女性はいたようだ。いや、黄瀬のことだから、信などよりもっと厄介な女性に会ったりもしているだろう。
これ以上黙秘を貫くより、喋ってしまった方が黄瀬も大人しくなるだろうと判断した信は、ぽつぽつと自分の苦い青春時代の思い出を語りだした。
「最初…たしかにあの子から告白されたんだけどさ、その頃俺は誰とも付き合う気なくて、その場でちゃんと断ったんだけど、じゃあ友達でも良いからって必死にすがられてさ…」
「あーダメッスよーそれ女の子の方絶対諦めてないッスから」
「そうなのか?」
二個目のケーキを頬張る火神は不思議そうに首をかしげた。今までずっとバスケ一筋だった彼は、恋愛方面に関してかなり疎かった。
「告白して断られてもせめて友達に…って言ってくるコは、打算的なタイプの可能性が高いんス。とりあえず友達っていう安定のポジションを確保しておいて、ゆくゆくは恋人の座に収まろうって寸法なんスわ」
「うん。まさに黄瀬君の言うとおり。でも、当時の俺は恋愛なんてしたことなかったし、まあ友達ならいっか、でOKしちゃったんだよねー。そしたらあれよあれよという間に俺とその子が付き合ってるなんて噂が立っちゃって、友人との時間や家族との時間も少なくなって……」
夏たちと話してても、必ず彼女が割り込んできて、話を強引に変えてしまう。そして、いつの間にか夏たちを会話の輪から押し出して、気づけば信は孤立していた。
「当時の俺の最優先順位は、まだ幼かった弟たちで、次が友人だった。だから、ある日あの子から来た遊びの誘いを、俺は蹴った。その日は久々に家族で出かける日だったから…」
普段、家になかなか帰ることのない両親たちが、必死に同じ日に休みを入れてくれた。
休みの日ぐらいゆっくりしたいという気持ちもあっただろうに、息子たちを楽しませようと、その日は家族で旅行に行くことになっていた。
「日帰りで行ける評判のいい温泉旅館があるみたいなのよ」
「水がきれいで、近くにお蕎麦屋さんがたくさんあるみたいだから、ユウも楽しめるよ」
そう言って、何週間も前から計画を立ててくれた両親の好意を、信は無駄には出来なかった。
「いやーそしたら電話でめちゃくちゃ怒られて、休み明けて学校行ったらいきなり「別れよう」って言われた」
「はぁ?意味わかんねぇその女。だって先生と付き合ってねーじゃん」
「こーゆー女もいるんスよ、火神っち。ちょっと優しくしただけで、自分だけが特別とか思いこむんス」
「うん…。あとで恋愛方面に詳しい友人から黄瀬君と同じこと言われたよ…」
恋愛方面に詳しい友人とは、もちろん夏のことで、あの時は色々と世話になってしまった。
「俺も今の火神君みたいに軽く混乱してさ、ストレートに「そもそも俺らって付き合ってたっけ?」って言っちゃって………平手もらいました……」
「「う、うわぁぁぁああああ……」」
苦々しい青春の思い出を告白した口直しに、信は甘いミルクティーを口に含んだ。
まったく、なんで教え子の前でこんな恋愛の失敗談を喋らなければならないのか。
「外見はあんな感じだったんスか?どっちかっていうと和風美人な…」
「んーそうだったかも…っていうか、俺外見じゃなくて、中身重視なんだよねー」
「ああ、分かるッス…所詮は顔に釣られてよってきたんだろ?って思っちゃいますからねーこっちは」
「いや、きっかけは顔でもいいんだけどさ…例えば付き合って数ヶ月経っても、好きな所はって聞いて、顔、とか優しいとことか言われると、あれ?この子ちゃんと俺のこと見てんのかなって…」
「………なんか、お前ら見てると、ほどほどにモテんのがいいんだなって思えてくるわ」
火神が、しみじみとした声でそう言った。普段女性に囲まれているのを見たりすると、嫌味かと思えてくるが、こういう恋愛の苦い思い出を聞いていると、周りに女性が多い分、苦労も多いということがわかる。
「ホンット女の子にモテるっていうのも大変なんスよー?男と違って取り扱いは要注意だし」
「……なんかお前が言うとムカツクから不思議だよな」
「なんでっ!?火神っち!!」
信は、きゃんきゃんさわぐ黄瀬と火神のやり取りを、頬杖をつきながら眺めて微笑を零した。
彼らもこれから、昔の自分のように悩んだり苦しんだりしながらも、楽しみや喜びを得ていくのだろう。そう思うと、彼らが少しだけ眩しいように信には感じた。
・fate面白いですよね!〜の方≫アリア「返信が遅くなってしまって申し訳ありません!拍手ありがとうございます、お客様」