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◇私が思う魔術理論・概要バトン◇
・ジンさん≫ラビ「あぁ〜…周りも当人達もパニックになりそうさね…」
・ジンさん≫ラビ「あぁ〜…産まれたのが女の子だったら言うかもしれないさぁ…」
―――…寒さも一層厳しくなった一月末の応接室。
校舎がそんなに新しくない並中は、職員室以外にエアコンがないため、応接室にはストーブが置いてある。
あまり室内の温度が高くなり過ぎないように気をつけながら、今日も優人は雲雀の書類の決算を手伝っていた。
「ふー…年末ほどじゃないですけど、やっぱり多いですね…」
「2月にはバレンタインがあるからね…浮かれて風紀を乱す連中も多くなるから気を引き締めてよ」
「はいはい。うーん…でも、女の子から頑張って作って来たチョコレートを没収するのは心が痛むなぁ…」
「くだらない。お菓子会社の陰謀にわざわざ乗って何が楽しいんだか…」
「女の人が自分から告白しやすいからじゃないですか?チョコ渡すだけで気持ち伝わるわけだし。まあ、外国だと大抵男の人が渡しますけど」
おかげで教団でバレンタインを過ごすと、男からのチョコがわんさか届くわ、馴染のエクソシストや神将達から「チョコくれチョコくれ」と催促されてうるさいわで、優人にとってバレンタインはとても憂鬱な日なのだ。
ちなみに男から送られてきたバレンタインチョコは、青龍に食べてもらうか、焔に焼却処分してもらうかのどちらかだ。以前、チョコと一緒に髪の毛の束を送ってこられて以来、優人は怖くて包装が開けられない。
「やっぱり、バレンタイン当日は学校にチョコ持ち込み禁止ですか?」
「当然。包装紙やラッピングのリボンなんかを廊下に捨てたり、食い散らかして校舎を汚す馬鹿がいるからね」
「うーん…確かにマナーが悪いのはいけないけど…」
「ちょっと、ほだされて没収出来ない何て言ったら咬―――」
「優人!ちょっと匿ってくれ!!」
荒々しい音を立てて応接室の扉が開かれると、必死の形相の青龍がそこにはいた。
突然の同胞の訪問に、焔も隠形を解いて顕現した。
「青龍?如何した?」
「青龍…ここは駆け込み寺じゃないんだけど…」
心配する焔に対し、優人の対応は淡白だった。
自分の背後で雲雀が苛立っているのがひしひしと感じられるのだ。正直、これ以上機嫌が下がる前にさっさと出ていってほしい。
「で?何なの?」
「いや…天后が鏡の前に何十分も陣取っててよ…肌がどうだの乾燥がどうだのブツブツつぶやいてて…洗面所使えなくてつい……」
“おい、何十分見てたってその顔は変わんねーんだぞ”
「っていったら、鬼みてぇな顔で攻撃してきて…」
「怒らない方がおかしいだろ」
本当にこの青龍という神将は女心のわからない男だ。
少し六合を見習ってほしい。
「まったく…あのねぇ、この季節は空気も乾燥していて肌も―――」
「優人ぉぉおおおお!!助けてくれよぉぉおお!!」
「あーーっ!もう!お前もか朱雀!!」
ああ、背後で雲雀さんの持っていた鉛筆が音を立てて折れたのが分かる。もうヤバイ。機嫌は最悪だ。
「なんでか知んねぇけど天后がイラついててよぅ…『あんまイライラしてっと肌ガサガサになっちまうぜ』って言ったら本気で攻撃してきて…」
「素直なのは朱雀のいい所だけどさぁ…もうちょっと、女性には気をつかおうよ…」
優人の口からはもう溜息しか出てこない。
14歳の子供にも分かる事が、何故何千年という時を超えて生きてきた神様には分からないのか。謎だ。
すると、朱雀に続いて続々と神将達が応接室にやってきた。
「おーくわばらくわばら。怒った天后はおっかないわ」
「まったく…一体何をしたんだ青龍」
「まあ、大方予想はつきますけどね…」
「白虎、太裳、六合…一体どうしたのだ?」
続々と姿を見せた同胞たちに焔は目を丸くする。
それに答えたのは眉をハの字にさげて苦笑した六合だった。
「いえ、先程天后が異郷に返ってきたのですが、恐ろしい形相で辺りに殺気を撒き散らしているもんですから…」
「下手に刺激したらえらいことになるゆーて、後は女衆にまかせて男共は非難してきたんや」
「あ、雲雀。突然大勢で押し掛けてすいません。お詫びと言っては何ですが、並盛堂の栗ようかん買ってきましたよ」
「………仕方ないね。優人、お茶用意して。休憩にするよ」
「あ、はい」
どうやら栗ようかんで機嫌を持ち直したらしい。
優人と焔はいきなり増えてしまった人数分のお茶と栗ようかんを切る作業に取り掛かった。
「はい、雲雀さん。緑茶と栗ようかんです」
「ん」
ずずず…と、緑茶をすする雲雀。妙に様になっているのは何故だろうか。
人数分の栗ようかんと緑茶を配り終えたところで、優人もソファーに座ってお茶をすすった。
「そういえば、アパートの方は大丈夫なの?」
「ああ、あちらは玄武がいますので。心配には及びません」
結界を得意とする玄武がいれば、泥棒も空き巣も入れないだろう。
安心した所で、優人は青龍と朱雀に説教を始めた。
「あのね、冬は空気が乾燥していて肌もカサカサになりやすいの。女性は特にそういうの気にする人が多いんだから、肌のことや顔のことを話題にされると嫌になるの」
「ふーん。そんなもんかぁ?」
「俺なんか年中この肌だぜ?」
「言っただろ。女性だ!じょ・せ・い!」
ガサガサになろうが荒れようが気にしない男の肌と一緒にされるのは心外だろう。特に、美容に気を遣う天后なら。
そこでふと優人が気になったのは、天后以外の女性十二神将達。
「ねぇ、天一達とかもやっぱりこの季節、肌荒れとか気にしてるんじゃない?」
「そうですねぇ…天一は顔はあまり…でも、やっぱり水仕事をすると手が荒れてしまって、少し痛そうでしたね…」
「太陰は大丈夫そうだったな。まあ、姿が子供ということも関係しているのかもしれないが…」
「天空はわからんなぁ…まあ、優人の部屋と異郷を行き来するぐらいやから、そこまで酷かないとは思うねんけど…」
「勾陳は?」
「うーん…勾陳は全然気にしねぇよな?」
「しませんねぇ…。小さな切り傷だって『唾付けとけば治るわ』っていって放置してしまいますし」
「おぉ、男前」
流石唯一の女性の闘将だけあって、ストイックだ。
「見かねた天后が自分の化粧水でたまにケアしてやってるぐらいだしな」
「でも、嫌がるんよ。ベタベタ塗られんの嫌やねん、勾陳」
「ふーん…やっぱりみんな大変なんだ……」
「そういう君も結構荒れてるじゃない」
最後の栗ようかんを口に運びながら、雲雀は優人の手を見て言う。
「あー…家事やってるとどうしても…」
「最近は肌荒れを防ぐ食器洗剤とか出てるじゃない」
「あーゆーのは普通の洗剤より高いんです」
節約して日々やり繰りしている優人には、普通の洗剤よりほんの数十円高いだけでも、手を出しにくい品物なのだ。
「さてと、休憩終わり。ほら、焔以外は帰った帰った」
「えー!?俺ら帰るとこねーよ!!」
「だったらネットカフェでも漫画喫茶でもどこでも行きやがれ」
「優人!ワイ今手持ち25円なんやけど!!」
「だったら近所の公園のベンチにでもいろ!!いいからこれ以上俺の仕事の邪魔するな!!焙んぞ!!」
焔と同じ煉獄の炎を扱える優人を本気で怒らすのはまずいと察した神将達は、すごすごと応接室を後にした。
しかし、先程の会話は優人の中にずっと残っていた。
(肌荒れ…か…)
―――…翌日。
「花さん、京子ちゃん、ちょっといい?」
昼休み、談笑していた花と京子に優人は声をかけていた。
「どうしたの?優人君」
「珍しいじゃない。大体ダメツナ達と一緒にいるのに」
「うん。あのさ…二人に聞きたいことがあって…」
「私達に?なに?」
優人は遠慮がちに喋った。
リナリーや女性神将と違って、どうも同い年の女の子には話しかけずらい。
「あの…さ、俺の住んでるアパートに若い女の人がいてさ…その人が最近、肌荒れとか手荒れとか気にしてて…」
嘘は言っていない。確かに天后達はあのアパートに住んでいる。
同じ部屋で一緒に暮してますとは言えるわけがない。
「その人にはすごくお世話になってるから力になりたいんだけど…その、女性が良く使うハンドクリームとか、顔にする……パックっていうの?そういうのとか俺全然知らないから、もしよければ、いいの教えてくれないかなぁ…と、思って……」
「……あんたのその気遣いを、クラスのお猿共も少し持ってればねぇ…」
「優人君ってすごく紳士だよね」
それは、普段から周りの女性神将に言われたり、本場の英国紳士にみっちり叩きこまれたからです。などとは口が裂けてもいえない。
「そうね…その人の肌にもよるでしょうけど…今、安くて使い心地もいいって評判のはコレね」
クラスの女子達が良く見ているモデル雑誌を優人の前に広げ、花は指差す。
「このクリームなら、概ねオッケーよ。大半の女子が太鼓判おしてるし。ハンドクリームなら保湿と保温両方できるコレなんかがあたしはおススメだけど」
「えっと…こういうのって、どこで買えるのかな…?」
「普通に薬局とかでも売ってるよ。学校の近くでなら、ドラック並盛に置いてあったと思うよ」
「へぇ…そうなんだ」
優人は雑誌を手に取り、その商品名を記憶する。
「っていうか、アンタは肌キレイねぇ…洗顔何使ってんの?」
「え?朝水でガーッて洗ってるだけだけど…」
「それでこの肌保ってるわけ!?ほんっと憎たらしいほど綺麗な肌しといて!!」
「花しゃんいひゃい!!」
「は、花!」
優人の頬をつねる花を、京子がなんとかなだめた。
優人にとってはとばっちりもいい所である。
「うぅ…でも、俺手はけっこう酷いよ?」
「うわ…ホント。ハンドクリームちゃんと使いなさいよ」
「うーん…食材触るからどうしても小まめに塗れないし、めんどくさくなっちゃって…」
「でも、これ相当しみるんじゃない?」
「そうだんだよねー。ぬか漬けを掻き回す時なんか痛くって…」
「所帯臭いわよ…アンタ…」
※追記に続く