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「進路希望調査票?」
本日のLHRにて、担任から配布された紙に記された文字を信は声に出して読み上げた。
すると、隣の席の夏が不満をもらした。
「なんで入学して数ヶ月で進路希望提出しなきゃあかんねんよ〜。これやから進学校は〜」
「ほんとだよ。めんどくせぇ…」
「まあ……漠然と、でいいんじゃないか…?」
すでに調査票に書く気すら失せている夏と蓮をなだめるように、千博は言った。
クラスの大半の生徒も、まだ自分の進路など決めていないのか、級友とのお喋りに夢中だった。
真面目に筆記用具を持って紙と睨めっこしている人間など少数派だ。
その少数派に属する信は、大学資料を見ながらうなっていた。
「う〜ん…やっぱ俺は地元の大学かなぁ…」
「やっぱり優人が心配なん?」
「でも、信が大学入る頃には優人も小学校だ…なら、別にそこまで心配しなくても…」
「いや、俺が優人と離れるとか考えられない」
「………」
「もうお前大学言ったら心理学専攻しろ。そこでブラコンの心理に関する論文書け。賞取れっから」
蓮の辛辣な言葉も信の耳には入っていなかった。
大学入ったら教育学専攻して、そこで教員免許とって〜あわよくば優人の担任の先生になっちゃったりして〜と自分の夢を膨らませていた。
「よし!ワイも決めた!!」
いきなり威勢よくそう叫んだ夏は、さっそく白紙の調査票に書き始めた。
「第一希望!オ茶ノ水!!」
「書くな馬鹿!!無理に決まってるだろ!!」
「そうだ。無理だ無理。俺や信ならバレずに済むだろうが、お前なんて一発でバレるわ」
「そういう問題じゃないだろ蓮も!!第一志望に女子大書くこと自体が間違ってるんだよ!!」
もはや進路でも何でもない願望を書く紙になってしまった調査票。
蓮も悪乗りして書き出す始末。
「よし、なら俺は…第一志望、世界をまたにかける大女優」
「蓮!せめて大学名!!大学名書いて!!」
「何でだ。立派な進路だろ。ちーも漠然とでいいって言ってたじゃねぇか」
「漠然とし過ぎていて担任の先生大困惑だよ!!」
「っていうか、世界をまたにかけるというか、世界を尻に敷きそうで怖いわぁ、この子…」
「……誰も大女優には突っ込まないんだな……」
それでも不可能だと言いきれないのが蓮の恐ろしい所だ。
「もうええわ。進路なんか決まっとらんし、待て!次回!!で」
「連載するな。いつなの次回。っていうか、来るのか次回」
「馬鹿、だったらcoming soonにしろよ。その方が何かカッコイイだろ」
「どっちもかっこよくないよ。どこに行くつもりだよお前ら。もう、俺にはお前らの終わりが見えないんだけど」
「信…人生に終わりなんか無い…人生は挑戦の連続なんやで!!」
「そういう素敵な台詞はもっと別の、俺が感動できる場面で言ってくれ」
何回も書き直している間に、記入欄も大分灰色になってきた。
紙も皺だらけになり、夏と蓮は再びだらけ始めた。
「あ〜〜!決まんねぇよ…っていうか、決まるかよ。こんな今年16になる男がそんな人生設計出来っかよ」
「せやせや〜男は勢いがあればなんとかなるわ〜」
「お前らの場合、その台詞を3年生になっても言ってそうで俺は怖いよ…」
「………」
実際この2年後、千博はまったく同じ台詞を二人の口から聞くことになる。
だらだらと過ごしていると、意外と時間はあっという間に過ぎ、ついにチャイムが鳴ってしまった。
「お、終いや終い。さーってと、帰ろか」
「あー…頭使ったら甘いもん食いたくなった。ミセスドーナッツ行こうぜミセド」
「ごめん。どこで頭使ったの?」
「いいから行こうやー。ワイも腹減ったわ〜」
「あーもう、待ってよ!」
慌てて帰り支度をする信を置いて先に行く夏と蓮。
置いて行くと言っても、きっと先に店に行って、席取りをしてくれたりするのだろうけど。
千博は信の帰り支度が出来るのを待ちながら、ぼんやりと夕焼け色に色づいた校庭を眺めていた。
「……あの二人は、何だかんだ言って、信と一緒の大学に行くんだろうな…」
「ん?蓮と夏?」
千博は静かに首肯した。
丁度校門に向かってグランドを横切っていく二人の姿が見える。
どうやら、夏が余計なことを言って蓮を怒らせたらしい、何やら二人で追いかけっこのようなことをしている。
「あー…もう、あの二人は…蓮は体弱いんだから走って汗かいたりしたら風邪引くかもしれないのに…」
信の目にも二人の姿が映ったらしい。
呆れたような表情の信を見て千博は微笑を零した。
……結局あの二人は、口では何を言ったって、心では信に絶対的な信頼を寄せている。
蓮は、精神的支柱を信に全て預けきっている。だからこそ、信が揺るがない限り、彼も揺るぎはしない。
夏は、信の精神面を支えつつ、夏自身もまた信に支えられている。そこには親友という相互関係が成り立っているが、やはり本質的な主導権を握っているのは信だろう。
そんな二人が、信から離れて別の道を歩むという選択を取るとは、千博にはどうしても思えなかった。
「あの二人は、きっと何年経っても、別々の会社に就職しても、信の側にいると思う」
強い絆。そして、それは千博にとって、とても美しい友情に思えた。
ずっとこの三人が築いてきた友情は、きっとこの先も続いて行くのだろう。
「……ねぇ、ちー…」
「何だ?」
「ちーはもう、進路決まってるの?」
「……俺は…カメラマンになろうと思ってる…だから、高校を出たら、東京の方の専門学校に行こうと思ってる…」
「…そっか…」
少し寂しそうに笑う信は、それでも千博の夢を応援してくれる。
「東京ってことは、一人暮らし?」
「そうなるな…」
「落ち着いたら、連絡ちょうだいね」
「ああ」
「…って、まだ気が早いか…」
「それもそうだな…」
でも、それほど遠くもない未来なんだと、きっと信もこの時理解していただろう。
「……いこっか」
「ああ…」
歩んだ先、その行方
(この時、確かに俺達には未来があった。)
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・ジンさん≫優人「地獄に安寧を求める俺って…もはや現世に平穏は無いのか…」
性 別 | 女性 |
誕生日 | 8月24日 |
血液型 | A型 |