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俺と文化祭(二日目・中編)

蓮、夏のプロデュースによって、見事優等生のような外見に変身した黄瀬は、鏡の前で興奮していた。

「すげー…自分言うのもなんですけど、なんか俺じゃないみたいッス!」
「オイ、外ではあんまはしゃぐなよ。俺らが取り繕えるのは外見だけだ。そんな公園デビューしたての子犬みたいにはしゃいでたら勘付く奴だって出てくる」
「ひどっ!」
「まあ、俺達も出来る限りフォローするけどね」
「信ー準備できたさ?」
「ああ、うん。黄瀬君も完璧だよ、ホラ」
「おお!大変身さね黄瀬君」
「ところで……六花、は?」

先程から姿どころか声も聞こえない六花について千博が尋ねると、神田とラビは揃って目をそらした。

「いやぁ…それが……黄瀬君の着替えが終わるまで待ち切れなかったみたいで…」
「文だけ残して一人先に行きやがったんだよ、アイツ」
「文って……今何時代や…」

神田が見せた六花が残したと思われる手紙には、達筆な筆遣いで『時は金なり』とだけ書いてあった。
もはやこれを手紙と分類していいのかさえ謎だ。

「まあ、アイツが行きそうな所なんて見当つくけどな……」




バスケ部の催し物は正午からということもあり、氷室はそれまでクラスの手伝いをすることになっていた。

「お待たせしたした。スコーンと紅茶のセットになります」
「わぁ、おいしそう!」
「あ、ありがとうございます!」
「ごゆっくりどうぞ」

お客の前で一礼してから、氷室はぐるりと教室内を見渡した。
一般客への公開は今日からだ。生徒に限らず、私服の人達もちらほら見える。

「タツヤ、あと15分ぐらいしたら僕ら休憩入っていいそうです」
「ああ、わたったよ。ありがとう、アレン」
「いえ」

アレンはにっこりと笑って、お客さんのオーダーを取りに向かった。
さすが、大道芸で世界各国を渡り歩いてきただけあってか、接客が堂に入っている。
そんなアレンを見て氷室が思い出すのは、今朝の優人との会話。どうやら今日、昨日話題に出た『六花さん』という女性がやってくるらしいのだ。

『氷室さんが接客をしている時に、「もの凄い美女がいか焼き食いながらタッチ歌ってた」とか「すごい美人な女の人が仮面ライダーのお面買って、それをドヤ顔でつけてた」とか、それに類似する噂耳にしたら確実に来るから』

と、優人は言っていたが………見てみたいような、見てみたくないような…。

「おい、中庭でハットリくんのお面つけたものすんげぇ美女が横手焼きそば食いながらキューティーハニー熱唱してたぞ!!」
「あ、私も見た!ゆりゆららららゆるゆり大事件歌いながら焼き鳥食べてたわ!!」

あ、来てるねこれ。確実に。
ちらりとアレンの方を見てみれば、幸か不幸か接客に追われてそれどころではないようだ。

「すんませーん。2−Bってこの教室であってますか?」
「あ、はい。いらっしゃ―――」

そこにいたのは、ハットリくんの面を首に下げた美しい女性だった。
長身のため、教室の扉に頭がぶつからないように前屈みになっているが、そのたびにチラチラ見える豊満な胸が、男子高校生的に大変よろしくない。
現に、教室にいる男の過半数がガン見状態だ。どこを…とは、いわずもがな。

「あれ…もしかして、アンタ優人が言ってた『氷室さん』って子?」
「は…はい。氷室辰也と言います。……六花さん…ですか?」
「あ、優人から聞いてんのか?そ、あたしが六花。……ふーん。話に聞く以上に綺麗な顔してんな、お前」

すっと頬に手をあてられ、妖艶に微笑まれる。
アメリカでの暮らしで、こう言ったことには慣れていた氷室でも、思わずドキリとしてしまった。

「ククク……時間があったらゆっくり話してぇけど、今日はアレンに会いに来たからなぁ…アイツ、休憩いつ?」
「あ…さっき15分くらいしたら休憩入っていいと言われたんで……もう、大丈夫だと思います」
「へぇ」

とたんに、あくどい笑みを浮かべた六花は、首から下げていたハットリくんお面を顔に装着すると、ゆっくりとアレンに近づいていく。
今もお客さんのオーダーを取っているアレンは、六花が来たことにすら気づいていない。
周りのクラスメイトやお客さんは、六花の発する異様なオーラに気づいてか、その面妖ななりを見てか、次々と道を開けていく。
やがて、教室中が奇妙な空気になっていることにアレンも気づいたのか、オーダーの手を止めてふと目線を上げて――――――凍りついた。

「アーレンくーん…あそびましょう…」

と、ともだちだぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!
氷室は心の中で絶叫した。だが、内心そう叫んだのは氷室だけではないだろう。
現に教室の何人かは手を掲げ、あのともだちのシンボルマークとも言えるべきポーズをしていた。
今にもトモダチコールをしそうな勢いだ。もう脳内では20century boyがフルコーラス状態になっている。

「な、なんで……あなたがいるんですか……」

アレンは真っ青になりながら、一歩下がる。
すると六花はアレンとの距離を縮めるために一歩出る。その表情はお面でわからない。

「へぇ、お面付けてもあたしだってわかんのか。なに?愛?」
「そんな奇妙奇天烈なお面つけて全力でふざける女性なんて知人の中で一人しかいないからですよ…!!」
「ホントは背広やネクタイから揃えたかったんだけどさーいくら男装に評定のあるあたしでも男用の背広を着こなすのはムズイから今回はキャリアウーマン風で」
「知るかってんだ知るかってんだ知るかってんだーーーーーーっ!!ちょっ、あんたどこ触ってんですか!!」

普段女性に対して物腰柔らかな態度のアレンが、女性にキレるという珍事に氷室はぽかんと口を開けた。

「むろちーん。どうしたのー?」
「あ、ああ…敦…どうして俺のクラスに?」
「そろそろ部室行って着替えないとまずいから呼びに来たー。俺らの出し物午後イチなんだから遅れるとマズイでしょー。ところで……アレだれ?」
「ほら、昨日優人が言ってた六花さんだよ…」

紫原は一瞬目を見開いて六花を凝視した。

「へぇ…けっこう年上じゃん。しかも女子にしては大きいね。室ちんくらいあるんじゃね?」
「うん…それに、今は仮面で隠れてるけど、かなりの美人だったよ…」

そんな外見的魅力が色々吹っ飛ぶほど破天荒な性格の人だったけど。
あ、アレンがお姫様だっこされた。

「う、うわぁぁぁあああああ!!な、何してくれてんですか!!降ろしてくださいっ!!」
「嫌だね。あたしは最初っからお前をオーダーするために来てんだから。あ、もちろんテイクアウトな」
「なっ!」

アレンが抗議の声を上げる前に、六花はアレンの耳元で何かを囁く。
すると、アレンはみるみる顔を赤くし、結局何も言えずに俯いてしまった。
六花はそれに満足そうに笑うと、アレンを抱えたまますたすたと歩いていく。そして、教室の入り口近くに立ったままだった氷室に気づくと、仮面を押し上げて笑いかけた。

「悪いな、騒がせて。もう退散するからよ」
「あ、いえ……」
「ねーアンタってアレンの彼女?」
「敦……!」

誰もが聞けずにいたことを紫原がさらっと言ってしまった瞬間、緊張が走った。
しかし、六花はそんなことを微塵も気にせずからから笑う。

「いや、彼女じゃねぇよ」
「えー付き合ってもないのにそんだけアレンに付きまとってるわけ?うわー…」
「んーそりゃ…」
「六花さん」

良く響く声が、三人の間に漂っていた雰囲気をリセットした。
見れば、優人が少し呆れたように笑いながら、廊下に立っていた。

「はい。これ俺の店で売ってる和菓子と煎餅。よかったら食べて。あと、これ文化祭の地図。何も書いてない教室は空き教室だから」

大きめの紙袋と地図を渡された六花は、苦笑した。

「かなわねぇな…お見通しってわけか」
「第三者からしか見えないこともあるってこと。それと、アレン。逃げ続けるのはアレンの自由だけど、後悔だけはしないでね」
「……………」
「はは、いいダチもったなアレン。じゃ、あたしら行くわ」

そう言って、立ち去ろうとした直前、六花は思い出したように振り向いた。

「ああ、そうだ。そこのデッカイ奴の質問に答えてなかったな。確かにあたしはアレンと付き合ってない。彼女でもない立場のあたしがアレンを縛っている光景は、お前にはさぞ不思議に見えるだろう。けどな、しょうがねぇんだよ。体がそう動いちまうんだから」

あたしはコイツに心底惚れてんだから。
そう言って、アレンを見つめて笑う六花の顔は、今日見た中で一番美しく、艶めいていた。

「ま、お前も本気で惚れる相手が現れれば嫌でもわかるさ」
「……ふーん」
「それにな、少年。世の中には『食べ頃』ってものが存在してんだよ。青臭さを残した今もまあ、悪くねェが。あたしはやっぱもう少し熟れて色香を放っている方が」
「色々台無しだよ六花さん」

結局優人に「さっさとどっか行け!」と犬のように追い払われ、六花達は退散した。

「はぁ〜もうあの二人は…大丈夫?氷室さん。変に絡まれたりしなかった?」
「大丈夫だよ、優人」
「んー確かに美人だけど、それ以上に変人だよねー」
「まあね……でも俺六花さん結構好きだよ。大物っていうか、器がデカイっていうか、あの人がいるだけで安心感があるんだよね」

ま、確かにむっくんの言うとおり変人で変態だけど、と優人はケラケラ笑う。

「あの人は…あの人なりにアレンを待っててくれてるんじゃないかな。なにせ、アレンにとっては初恋だし、年も結構離れてるし、色々自分の気持ちに戸惑うことも多いと思う……。六花さん、アレンをああやってからかって遊ぶことはあっても、強引に関係を迫ったりとかは一度もないんだよね」

二人を見ていてじれったい、と思うことはある。
当事者の六花なら、尚更だろう。けれど、六花は何も言わない。六花なら簡単にアレンを言いくるめて納得させることが出来るだろう。だが、それでは意味がない。
アレンが自分で必死に考えて、自分の中にある感情に答えを出して、それを六花に伝えなければ。
だから、六花は何も言わない。ただただアレンを見守ることに徹する。その心の成長を止めないように。

「……一途だなぁって、六花さんを見てると思うよ。俺はあんな余裕そうに立ち回るとか絶対無理」
「それは、優人も本気で恋している相手がいるってことかい?」

少しからかう口調で聞いてきた氷室の問いかけを、優人はへらりと笑って流す。

「いや、ただの想像。っていうか一般論?やっぱ、惚れた相手には側にいて欲しいし、気持ちに応えて欲しいもんじゃない?俺は「見守る」なんて遠くからじゃなくて、すぐ側にいて全力で守りたい」
((この男前……っっ!!!))

優人の男らしい恋愛論に、思わず心の中でシンクロした紫原と氷室だった。




―――そして、正午。ついに陽泉バスケ部の出し物が始まった。

「んじゃまぁ、いこっかい」
「テメェら!!がんがん稼いで部費を潤すぞ!!」
「「おーーーーーーーー!!」」

高らかに雄たけびを上げたバスケ部のメンバーたちは、実に古今東西様々な衣装に身を包んでいた。

「ぶくくく…っ…何度見ても岡村のコスプレ笑えるわ、ハマりすぎて」
「ほっとけ!」
「………優人は逆にハマりすぎて笑えねーアル」
「うっさい!」

白いずきんをかぶり僧侶の格好をした岡村は弁慶のコスプレを、下駄に着物、顔に薄い布をかけた優人は牛若丸のコスプレだ。
一方福井と劉は中華風の服に身を包み劉備と関羽のコスプレを、紫原と氷室は西洋の甲冑を模した衣装を纏い、アーサー王とランスロットのコスプレだ。

「……納得いかないアル。なぜ福井が劉備アルか。名に「劉」が付いているワタシの方が相応しいアル」
「あぁ?」
「えー?たしか関羽の身長って2m以上でしょー?福ちん全然足りてねーじゃん」
「オメーもうっせぇよ紫原!!」
「うーん。それを言うなら、俺的には氷室さんはランスロットよりもディルムッドのコスプレしてほしかったなぁ…丁度泣き黒子もあるし。氷室さんが出す『試練』にも合ってると思うんだよね」
「あのさぁ、優人…どっちにしろ俺、部下に女取られて滅びの道辿っていく上司の役になるんだけど…」
「いいじゃん。俺なんか逃亡中に女捨てて、逃亡先で新しく妻をめとってあまつ子供まで作っちゃうような最低男の役だよ?」
「えー、別にあの時代の倫理観には反してねーし、それに―――」
「ごちゃごちゃ言っとらんでさっさと行くぞお前ら!!!」
「おっしゃぁ!!稼ぐぞテメェらーーーーー!!」
「「おおーーーーーーーーーーーー!!」」

青空に突き上げられる男たちの拳、それと同時に校内とグラウンドにはアナウンスが響き渡る。

『只今よりバスケ部による「古今東西名将バトル」を開催します!さぁ、名将から豪華賞品を勝ち取るのは一体誰だ!?参加する方は高等部第一体育館までお越しください!!』

「おっと、わしらはもうバラけんといかん。行くか、優人」
「はーい」
「俺達はどこに行こうか、敦」
「ん〜グラウンド行きたいなー今あそこで野球部がオニ盛り焼きそば売ってるんだってー」
「おい、自分の仕事忘れんじゃねーぞ紫原!お前の商品が一番高ぇんだからな!!」
「わかってるしー」
「二組とも屋外にいるなら、私と福井は校舎内にいるアル」
「了解です。じゃあ、移動するときは各自インカムで!」

そうしてスタメンメンバーが四方八方に散り散りになると、他のバスケ部員たちも各々与えられた役割の為に散っていった。スタメンと同じように変装したものは体育館から去り、陽泉バスケ部のジャージに身を包んだ生徒達は体育館に残った。
やがて、体育館には参加者や、とりあえず説明を聞きに来た者たちが集まってきた。

「ようこそお越しくださいました!ただいまよりルール説明をさせていただきます!!先程の放送にもあった通り、これは古今東西の名将に変装したバスケ部員たちに参加者が挑み、名将たちが出す『試練』に勝てば豪華賞品が得られるというものです!『試練』は名将によってそれぞれ違い、また出される商品も違います!商品はこちらの通りです!!」

司会の声と共に照明が落とされ、スクリーンに文字が映される。

岡村健一/弁慶:特選和牛バーベキューセット
観野優人/牛若丸:ペアで行く2泊3日の温泉旅行券
福井健介/劉備:学食無料券一年分+有名スポーツメーカー特製バッシュ
劉偉/関羽:行列のできる某有名ケーキ屋のスイパラ招待券
紫原敦/アーサー王:超豪華!リゾートホテル宿泊券
氷室辰也/ランスロット:某有名化粧品メーカーのコスメキット

想像以上の豪華賞品に、会場はどよめき、その後少しずつ興奮に染まっていった。

「なお、この他にも足軽や歩兵、騎兵、砲兵などもおり、挑めば『試練』を与えてきます。階級が高いほど商品が豪華になるので、皆さま是非ランクの高い名将を倒して豪華賞品をゲットして下さい!」

体育館に参加者たちの雄叫びが響き渡った。



「……お、どうやら体育館での説明は一通り終わったらしいのぉ、優人」

体育館の方向から微かに聞こえてきた叫びに岡村は、ニヤリと笑って隣の優人に話しかけた。
しかし、いつまでたっても優人の返答は帰ってこない。

「優人…?」

シカトは傷つくんじゃが…と、自分の斜め下を見るが、そこに優人はいなかった。
慌てて自分の後ろ、前、左右を確認するが、やはりいない。

「どこじゃーーー!優人ーーーーーー!!」
「こっ、ここです!!岡村先輩!!」

岡村のいる位置から3メートルくらい後ろの人並みの中でぴょこぴょこ飛び出ている手を見つけ、岡村は慌ててその手を掴んだ。

「す、すまん優人。歩くのが早すぎたか?」
「い、いえ…ラグビー部の人達が俺の前にウォールマリアの如く立ちはだかって…それが突破できずにあんなことに…」
「そ、そうか…」

改めてあたりを見渡し、岡村は溜め息をついた。
確かにこれだけ人が多いと、小柄な優人は歩きにくいだろう。気配りが足りなかった自分が悪い。

「すまんな、優人。気づかんで」
「いえ、大丈……わっ!」

急に視界が開けたと思った時には、今まで見上げていた人々の頭が、自分よりもはるか下にあった。
岡村が、優人を肩に乗せてくれたのだ。がっしりとした体格の岡村は、人一人を肩に乗せているというのに、悠々と人混みの中を進んでいく。

「お、岡村先輩!そんなことしなくても俺大丈夫ですから!」
「お前の『試練』は体力勝負じゃろが。こんな所で体力消耗してどうする」
「でも、これじゃ岡村先輩が……」
「お前一人担いだところでワシはびくともせん」
「……辛くなったら言ってくださいね。すぐおりますし、肩もみぐらいなら出来ますから」
「ああ、そん時は頼む」

そう言って頭をぽんぽんと叩くと、少し照れくさそうにはにかむ優人を見て、ああ可愛い後輩を持てて幸せだなぁ、と岡村は思う。普段可愛くない後輩と辛辣な同輩に暴言を吐かれていると尚更。

「まだ挑戦者は来んじゃろうし、少し出店を回ってみるか。優人、何か食いたい物はあるか?」
「え、いいんですか!?じゃあ、あそこのクレープ屋寄りたいです!」
「よしきた!」

岡村がスピードを上げると、上に乗っていた優人が楽しそうに笑う。
その仲の良い弁慶と牛若丸のほほえましい光景に、大量の人間がカメラを向けいていた事に、二人は気づいていなかった。


おまけ→
▼追記

俺と文化祭(二日目・前編)

信たちが長旅を終えてようやく寺に着くと、柳元が笑顔で出迎えてくれた。

「やあ、遠路はるばるよく来てくれたね。歓迎するよ」
「お世話になります、柳元さん」
「毎回すんません。お世話になりますー」
「あはは。私は全然構わないよ。無駄に部屋も敷地も余ってるしねぇ」
「あ、今俺んちで居候してる黄瀬涼太くんです」
「はじめまして」
「やあ、噂はかねがね…初めまして。この寺で住職をしている柳元と申します」

にこにこ笑いながら手を握ってくれる柳元を見て、黄瀬は失礼ながらも坊主らしくない人だなぁと思った。
黄瀬の中のお坊さんのと言えば、厳格で怖そうな人を想像していた。

「蓮たちはもう来てますか?」
「蓮君と千博君はもう来てるよ。六花ちゃんももうすぐ着くだろう。樹達は少し遅れて午後くらいに着くって言ってたね」
「そういや優人の姿が見えねぇけど、どこにいるんさ?」

信たちが来たというのに、いっこうに姿を見せない優人を不思議に思ったラビが尋ねた。

「ああ、優人くんは学校に泊ってるんだよ。ほら、今年はクラスの出し物の他に部活の出し物もあるから忙しいみたいでね」
「ああー…そーいや俺らも去年までヒーヒー言いながら準備してたっけ…」
「……寮の自分の部屋で寝ることさえ出来なかったからな…」
「そーそー大体剣道場か教室でアリアも一緒になって三人で雑魚寝だったよなー」

まだ一年前のことなのに、二人はずいぶん昔のことのように感じた。
睡眠時間を削って必死に準備をし、曜日や時間の感覚すら忘れるほど夢中になっていた日々。

「荒センがスポドリの差し入れした時あったよな」
「二年時な。ユウとアリア、ポカリ派かアクエリ派かで喧嘩になったよな。そんで雅ちゃんに竹刀でぶたれて説教されてさー」
「お前だって後夜祭の後、無断でキャンプファイヤーと花火やって荒センにシメられてただろうが!」
「いや、アレ絶対連帯責任だったから!!他の寮生も途中から混じってたし…ってか、アリアもキャンプファイヤーの火でマシュマロ炙ってたし、ユウとアレンに至っては肉焼こうとしてただろ!!」

しかも、先生が駆けつけてくるなり、ラビを置いて皆蜘蛛の子を散らすように逃げていったのだ。何でああいう時だけ息が合う。

「あははは!なんやかんやで青春しとるな〜お前らも。ええなー花火とキャンプファイヤー…俺らもやればよかったな」
「ふざけんな。クラスが総合優勝した時、お前と一緒にプールに飛びこまされて先生たちの大目玉食らったのは誰だと思ってんだ!!」
「ホントは…ホントは鴨川に飛びこみたかったんやもん!!それを学校のプールで我慢したんやで!?めっちゃ譲歩やん!!」
「俺を巻き込むなって言ってるんだよ!!」
「あ、海常は文化祭でキャンプファイヤーやるらしいッスよ!」
「ホンマ!?よっしゃ信!海常の文化祭行った時は一緒にオクラホマミキサー踊ろう!!」
「今年24になる男二人がフォークダンスって…そもそも、後夜祭は一般客は参加できないだろ」
「信さん、海常の制服貸しますか?」
「ん?黄瀬君も何言ってるのかな?」
「いや、信さん童顔だから制服着ちゃえば多分紛れこめ…いひゃい!!」
「ん?何だって?どの口がそんなこと言ってるのかな?」

学生時代の思い出話に花を咲かせる面々を、和尚は目を細めて優しく見守っていた。

「ふふふ…それぞれが楽しい学生時代を送ったようだねぇ…」

樹、君の息子達は、とてもいい友人に恵まれてるよ。





雀の声と共に窓から朝日が差し込んできて、ゆっくりと目蓋を開けた。
一瞬、見なれない部屋にアレ?って思ったけれど、すぐに警備室の仮眠部屋だってことに気づいて、起きあがった。昨日、夜回り当番だった焔の所に泊めてもらってたんだった。
他の人達はもう起きているらしく、隣の布団はきちんと畳まれて部屋の隅に置かれていた。
俺も、一回伸び上って気持ちを入れ替えると、布団を畳むことにした。

「主、まだ寝てて大丈夫だぞ?」

仮眠室を出て、監視カメラの映像が送られるモニタールームに入ると、そこではモーニングコーヒーを飲んでいる焔がいた。

「んーいっつもこの時間に起きてるから…でも、朝になっても鐘の音が聞こえないのって変な感じ」
「ははは。そうか、主はいつも寺の鐘を目覚ましにしておるのか。…眠気覚ましにコーヒーでも飲むか?」
「うん。お願い」

焔がコーヒーを用意してくれる間、俺は一度警備室を出て、外の水道で顔を洗ってくることにした。
この警備室は、学生寮と校門の丁度間にある建物で、結構中も広い。俺一人ぐらい増えても寝る場所に困らないくらいだ。
本当は、焔に悪いしむっくんの所(寮生の人数と体格の関係でむっくんは一人部屋だ。贅沢)にでも泊めてもらおうかとも考えたけれど……お菓子とそのゴミに占領された部屋を見て、俺は即座に回れ右をした。アレンと氷室さんは同室なので、俺まで入ったら流石に狭い。
それで結局、焔の厚意に甘える形になってしまった。
……絶対学期末にむっくんの部屋掃除手伝わされるな……。

「ミルクと砂糖一つずつで良かったか?」
「うん。ありがとう」

モニタールームに戻ると、焔がコーヒーの入ったマグカップを渡してくれた。
焔が淹れるコーヒーはいつもどおり美味しかった。

「焔はこの後も仕事?」
「いや、朝番は別の者だ。我は昼からだな」
「コーヒー飲んじゃってるけど、仮眠は取らないの?」
「たかが一晩ぐらいの徹夜で堪えるような鍛え方はしとらん。それに、昨日は三人だったから交替しながら仮眠も取れた。今から中途半端に寝るくらいなら起きていた方が良い」
「大変だねぇ」
「ま、今年は楽な方だ。神田達も卒業したことだしな」
「あー…凄かったよね。去年と一昨年」

直接参加したわけではないけれど、一昨年と去年、帰りが遅くなった俺は、焔に送ってもらうことになって、待っている間ずっとこのモニタールームにいた。つまり、ユウ兄達がしでかしたことの一部始終を見ていた。
一昨年は、キャンプファイヤーと花火。計画はラビ。実行はユウ兄とアリアさん。その上アレンやリナリーまで巻き込んで、瞬く間にキャンプファイヤーを作ったのだ。その鮮やかで迅速な行動は、秀吉の一夜城を思わせた。ホント、遊ぶことに関してはいつでも全力投球だったな、あの人達は。
最初は火を囲んで、アリアさんが剣舞を見せてくれたり、アレンと一緒に大道芸を披露してくれたりしていたんだけど、賑やかな声を聞きつけた他の寮生たちも混じって、ダンスや花火など好き勝手やりはじめて、次第にそれがエスカレート。最終的にはギリシャの花火戦争を思わせるような乱痴気騒ぎにまで発展して、先生と焔達警備員が出動する事態になった。

そして、去年はなんと、寮を脱走してチャリで海まで爆走(片道2時間)。星を見ながらコンビニで買ったジュースやお菓子で乾杯して、一晩中どんちゃん騒ぎをした後、朝日を拝んでから寮へと帰ってきた(ユウ兄とラビは、アリアさんを交代で後ろに乗せての走行だったらしい。どこにそんな体力あるんだ)。
しかも、立案したのはラビだけれど、細かな脱走経路などを練ったのはアリアさんで、一昨年に比べてより綿密かつ計画的犯行だったため、気づいた人はほとんどいない。
なにせ、寮から校門までの防犯カメラの位置を調べ、さらには警備員の巡回時間・経路までも把握し、監視の目をすべて掻い潜っての脱走だった。
ぶっちゃけ俺も、焔に聞くまでわからなかった。ただ、焔の話では、あの時モニターの隅にほんの少しだけユウ兄の黒髪が見えたというのだ。それを捕らえた瞬間、焔は猛然とモニタールームから走り去り、取り残された去年の俺は、訳が分からず口をぽかーんと空けたまま焔を見送るだけだった。
焔はその後、チャリに乗り込む三人組に追いついたらしいが、アリアさんの方が一枚上手だった。なんと、あの人はあらかじめ校庭の方に打ち上げ花火を設置し、時間差でそれが打ち上がるように細工していたらしい。その音と光に焔が気を取られている間に、ユウ兄達はまんまと逃走。他の警備員や先生も、その騒ぎに目が向き、ユウ兄達の脱走には気づかなかった。

「まったくあの悪ガキ共には手を焼かされたわ……」
「見てる分には楽しいんだけどねー。一昨年のアリアさんの踊り綺麗だったなー」
「おいおい、主………頼むから、神田のああいう所だけは真似んでくれ」
「えーどーしよっかな…あでっ」

ふざけて言ってたら、焔におでこを弾かれた。

「いてて…それよりさ、焔。起きてるんだったら久しぶりに組手してくれない?最近自主トレばっかだからちょっと不安なんだよね」
「ああ、別に構わん。来い、主」

やった!と思わず声を上げた俺に、焔はクスリと笑った。


 




その頃、寺では後から来た六花も含めて、黄瀬の変装準備に取り掛かっていた。
六花という女性は、夏が言った通り妖艶な美女で、初対面で微笑まれた時は、モデルで普通の男子高校生よりも美女に免疫があったはずの黄瀬でも、思わずドキリとしてしまった。

「あたしは夏に賛成。大人しそうな優等生タイプが良いと思うわ。モデルのキセリョって、いかにも元気なクラスの人気者タイプだろ?だからその真逆を突けば逆にバレねぇと思うんだけど…蓮ちゃんはどーよ?」
「異議なし。メイクはやるとしても控えめに超ナチュナルで。アクセも極力付けずにシンプルに。ズラも黒か、もしくは暗めの茶で」
「なーなー伊達眼鏡つけへん?縁なしか、もしくは銀フレーム」
「ああ、いいなソレ。けど誰かメガネ持って来たか?あたしグラサンしか持ってねぇけど」
「グwラwサwンwwww」
「おいwww人がせっかく優等生に仕上げてんのにグラサンとかwwwww」
「だってそれしかねぇもんwwwww」
「台無しwwww違和感ハンパねぇッスよwwww」
「ちょっと…真面目にやってよね……」

ずっと席をはずして両親と連絡を取っていた信が、呆れたように部屋の前に立っていた。

「黄瀬君連れて歩くの俺らなんだから、ちゃんと隣歩ける変装にしてよね…」
「お、信じゃん。おっひさー」
「彩音さん達いつぐらいに着く言うとった?」
「んー…正午過ぎちゃうらしいよ。だから、俺たちだけで先に行ってていいってさ。…って、六花…何…?近いんだけど…」
「いやー…相変わらず綺麗な顔してんなーって」

そう言って六花は、挨拶とでも言うように信の尻を撫でた。瞬間、信の笑顔が固まった。
黄瀬は青くなり、蓮は呆れ、夏は笑った。

「……六花、同じこと弟たちにやったら、いくらお前でもぶっ殺すよ?」
「あー?やんねぇよ。だって、お前の尻が一番あたし好みだし。いやーお前の小尻と腰、ホントいい形してるわ」
「激しく嬉しくないんだけど。あとセクハラって言葉知ってる?」
「ちなみに、ユウはうなじで、優人は足がすっげー好み。あと、最近ユウちゃんに出来た知り合いの子の指が超ストライクど真ん中でさー」
「あははっ、聞いてねぇよんなこと」
(あああああああああああ!!信さんの口調が!!口調がっっ…!!)

笑顔を浮かべてるけど笑顔じゃない。黄瀬はもうこの部屋から逃げ出したかった。
黄瀬の知る限り、夏だってここまで信を怒らせることはなかった。それなのに、六花は平然と信の堪忍袋の緒をぶちぶちと引き千切っていくのだ。

「りっちゃんそこら辺にしときー。それ以上やったら、いくらりっちゃんでもただじゃ済まんで」

六花の行動を諌めたのは、夏だった。
意外な人物が止めに入ってきたことに、黄瀬は目を丸めた。てっきり六花の尻馬に乗って、一緒に信をからかうと思っていたのだ。

「へぇ?そりゃどういう意味でだ?信があたしに何か仕掛けてくるのか?それともお前らがなんか仕掛けてくんのか?」
「わかっとる癖に人が悪いなぁ、りっちゃん。―――両方に決まっとるやろ」

すっと鋭利に光った夏の眼光に、黄瀬は思わず背筋が冷たくなった。いつもの、のらくらとした雰囲気を消し去った夏は、黄瀬の瞳にとても冷酷な人間として映ったのだ。
黄瀬がその場に立ちすくんでしまっても、六花はただ肩を竦めて笑っただけで、恐怖や危機感を感じた様子はなかった。

「ったく、お前ら兄弟をからかうと、周りまでうっさくなって仕方がねぇ」
「あっはっは。人望あっついからなぁ。ま、俺らマブタチ以外が信をからかうのが面白くないっていうのもあんねんけど」
「それが本音かよ。あと、マブタチってもう死語だろ。ひっさしぶりに聞いたぞその単語」
「俺らズッ友やで!!信!!」
「うん。絶対ヤダ」
「手痛い!」

また信といつもの掛け合いを始めた夏に、先程の冷たさは感じなくなっていた。
ほっとバレないように息を吐くと、いつの間に背後にいたのか、千博にぽんぽんと頭を撫でられた。どうやら先程の緊迫感に巻き込まれた黄瀬を気遣ってくれているらしい。

「信……それより、六花に…頼みたいことがあったんじゃ…ないのか…?」
「ああそうだ。今度俺のいる学校の文化祭でコイツらと一緒に歌うことになったからさ、機材と…出来れば音響に詳しい人貸して欲しいんだけど」
「おーいいぜ。バーじゃたまにライブやるし、そんくらいお手のモンだ。しっかしよく承諾したなーお前が」
「俺も最初聞いた時は驚いたわ」
「つか、なんで断らなかったんだよ。お前だったら絶対に断っただろ」
「………土下座」
「は?」
「女子高生に…教え子に土下座されそうになった……」
「「……………………」」

その場は、しばらく微妙な雰囲気に包まれた。


続き→
▼追記

格付けチェック

格付けチェック

うちの子たちと黒バス・Dグレキャラで格付けチェック

チーム分けはあみだで

火神・ラビチーム
緑間・アレンチーム
青峰・優人チーム
黒子・アリアチーム
黄瀬・神田チーム
赤司・六花チーム
紫原・信チーム

となりました。
若干一組、明らかに超一流チームのチート臭が漂っていますが、私が仕組んだんじゃありませんあみだです。っていうかなんであみだで決めたのにコイツら一緒になったの。すべてに勝つ人は運命すらもお手のものですか。そうですか。

火「ハァイ!靴ひもは右足から結ぶ方の火神だ!…です!!」
ラ「二人合わせてタイガー&ラッビーさ!!」
火「……なあ、ラビ…さん。コレやる必要あったのか?です」
神「おい、お前ら。コレ新春お笑い大会じゃねぇんだぞ」
黄「うわぁぁぁん!黒子っちとなりたかったッスー!!」
黒「それは無理です。このあみだは人数の関係上、黒バスキャラとDグレ+オリキャラに分かれてのあみだなので、僕と君が一緒のチームになることはあり得ません」
黄「黒子っちメタい!!」
神「始まる前からキャンキャンうっせぇな…お前モデルなんだから良いもん食ってんだろ。間違えんじゃねぇぞ」
黄「そう言う神田さんはどうなんスか!!」
神「はぁ?俺は一般家庭の出身だぞ。高級品なんざとんと無縁の生活だ」
六「いや、ユウちゃん……お前、何の為にあたしが飯食わしてやったと思ってんのよ?」
優「っていうか悪かったな!!庶民の味で!!」
信「あっはっはー…間違えたら指さして笑ってあげようねー優人」
紫「えー優人の作る飯うまいから俺好きだけどー?」
優「むっくん明日のデザート一品追加!」
紫「やった〜!」
アレ「ずるいです優人!!僕だって常日頃から優人の作るご飯はおいしいと思ってます!!」
優「アレンは食い過ぎなんだよ!!」
アリ「あらあら……すいませんね、緑間さん黒子さん。私とアレン…今の生活に落ちつくまで結構なジリ貧生活を続ける旅芸人だったもので…こういうバラエティーでは、あまりお力になることが出来ないと思います…」
黒「気にしないでください。僕も庶民なのでそこまで戦力にはなりませんし。いざという時は一緒にお茶の間から消えましょう」
アリ「あら、潔い方ですね」
緑「……なんとか俺の運勢とラッキーアイテムの補正で生き残ってみせます」
優「っていうか、俺のパートナーまだスタジオにいないんだけど!!あの人今どこいんの!?」
黄「そういえば青峰っち見かけないッスね」
赤「大輝なら楽屋で寝てたぞ」
優「はぁ!?後5分で収録始まるってのになにしてんだあの人は――――!!」
ラ「遅れたら罰ゲームにしねぇ?装着するアイマスクいっちばん変なのにするさwwwww」
アリ「あら、ラビったら悪い顔ですこと」
神「おい、こういうのはどうだ――――ごにょごにょ…」
ラ「ユウ…お前天才か…!」
アリ「ふふふ。ではそのように、手を回しておきます。赤司さん、司会者さんちょっとこちらへ」


六「……三人寄れば文殊の知恵とは言うけどよ……悪人が三人寄るとただの悪だくみだな」
黄「あの三人がチームになんなくてホントよかったッス…」
優「こえぇぇぇ…!」
信「あはは、まあ優人を困らせたんだから自業自得?」
紫「ご愁傷様ー峰ちん」


高「ちなみに司会は高尾和成と!」
夏「雨宮夏と!」
リ「リナリー・リーの三人でお送りします!」


高「はいはーい!じゃあさっそく格付けチェック初めていきまっす!」
夏「第一問目はワインや!片方は一本80万の超高級ワイン。もう一方はスーパーで特売されとった一本998円のワイン」
リ「これは、各チームの代表者1名に答えてもらいます。ちなみに、未成年チームはまだお酒が飲めないので、高級オレンジジュースと市販のオレンジジュースを飲み比べてもらいます!」
高「ちなみに各チームの代表はこちら!」

火神
緑間
青峰
アリア
神田
六花


青「……酒飲めんの、テツの担任と着物の女ぐらいじゃねぇか…」
アリ「いえ、私もですよ。イギリスでは18歳から飲酒オッケーなので」
火「へぇーアメリカじゃ州ごとに違ったけど、イギリスはそうじゃねぇんだな」
信「……っていうか、飲めるって言っても俺下戸だし、俺もオレンジジュースがいいなぁ…」
六「おいおい。新米教師の給料じゃ飲めねぇ酒がせっかく飲めんだから、ここは飲んどけよ」


リ「ちなみに高級ワインの提供者は、キルケ・ウィリックさんです。屋敷にある一番安いワインなら無償提供してくれるとのことでした…」
神「はぁ!?」
緑「一本80万のワインが一番安いワインとはどういうことなのだよ…」
信「あはは…さすが世界屈指の大富豪……ウィリック家」
六「良いモン飲んでんなァ…」
神「お前だって酒なら普段から良いもん飲んでんじゃねぇか」
六「あたしは日本酒専門」



夏「はいはい。さっさと始めんでーほら皆アイマスクしぃや」
青「って、オイ!なんで俺のアイマスクだけピンクなんだよ!!」
火「うわww目wwwwwめっちゃキランキランwwwwwwwwwww」
緑「よかったな青峰wwwいつも三白眼で子供に脅えられてたお前もwwwこれで子供達を…ッ笑顔に…フヒィwwwwwww」
青「どう考えても失笑と嘲笑いの類だろコレ!!」
信「遅刻してきた罰ゲームだってさ…ププッwww」
神「おいwwwソレ付けてこっちくんなwwwwww視界の暴力だろコレwwwww」
アリ「ちょっwwwそれ付けて機敏な動きしないで…っwww怖いですよwwww」


黒「僕の元光がとんでもないことにwwww」
優「ユウ兄達の罰ゲームえげつねぇぇぇwwwwww」
ラ「うんwww提案者だけど…これはちょっとやりすぎたさwwwブホォwwwww」
紫「190のガングロがwwwピンクのキラキラおめめwwwwwww」
黄「俺、もうやめるwww青峰っちに憧れるのは…もうやめるwwww」
赤「ッ…wwwww」
アレ「赤司www笑いたい時はwww笑っていいんですよwwwww」


スタジオに残されたパートナー達も大爆笑


高「はい。スタジオに残ったみなさんにだけ先に正解を発表しちゃいまーす!今回の正解は―――Aです!!」
夏「さぁ!回答者達は見事正解して一流選手の面目を保てるのかー!?」


火神・ラビチーム 回答:火神
火『全ッ然わかんねぇんだけど…どっちも同じ味に感じたしよ……』
ラ「…………」←めっちゃ不安
火『うーん……悩んだって仕方ねぇ!ここは俺の勘でBに行くぜ!!』
リ「火神君、自信満々でBの部屋に―――――!!」
ラ「あぁぁああぁぁ!!一発目からかよぉおぉおおおおお!!」←消えるかもしれない
アレ「どんまいですwラビww」


緑間・アレンチーム 回答:緑間
緑『Aなのだよ。口の中に入れた瞬間に広がる香りが全然違う』
アレ「いよっしゃぁぁぁああああ!!流石です!緑間!!」
紫「っていうか、そっちのチームの不安分子って間違いなくアレンでしょー」


『おい、緑間!お前A選んだのかよ!?』
『火神か…馬鹿め。正解はこっちなのだよ』
『マジかよ…俺全然分かんなかったぜ…クソッ!コーラとかなら分かったかもしんねぇのに…!』
『コーラに高級もなにもないだろうが!!』



青峰・優人チーム 回答:青峰
青『わかんねーから勘でB』
優「…………………」←絶望
赤「……まだ一問目だ。そう落ち込むな」←あまりの落ち込みように思わずフォロー
黒「そうですよ。これから踏みとどまればいいんです」
紫「優人〜ほら、チュッパあげるー」
優「……うん。ありがと…みんな…」

『げっ…こっち火神しかいねーってことは、緑間あっちかよ!!』
『人の顔見て「げっ」とは何だ青峰ェ!!』
『うっせぇ!!どーせお前わかんねーから勘で選んだんだろ!!』
『そう言うお前はどうなんだよ!!』

『……どんぐりの背比べか……』

『『うるせぇ緑間!!』』


黒子・アリアチーム 回答:アリア
アリ『う〜ん…ワインはあまり飲まないんですけど…おそらくAだと思います。Aの方が香りも芳醇でしたし…それに比べるとBの方は香りもあまりせず、味もすごくあっさりしていたように思います…。おそらく正解はAです』
黒「よしっ!」←思わずガッツポーズ
ラ「酒関係強いからなー…アリア…」
優「そうなの!?」
ラ「自分から飲むことはあんまねぇけど、勧められたらすっげぇ飲む。もう姉御並。しかも、ただ単に酒豪ってだけじゃなく、すっげぇ利き酒なんさ」
紫「ふ〜ん…じゃあアレンも?」
アレ「いえ…僕は昔、ししょ…後見人の酒菓子盗み食いしたのがバレて酷い目にあったのがトラウマになってまして…以来、お酒は嗅ぐのも遠慮したいです…」
紫「あららー」


『………!緑間さん!!よかったぁ……部屋に入って誰も居なかったらどうしようかと思いました…』
『…おそらくAで間違いないと思っていましたが、あなたが入ってきて確信に変わりました。残念だったな、青峰、火神』
『まだわかんねーだろうが!!』
『っていうかアリアさん今18ってことは酒飲み始めたの最近のはずだろ!?』
『あ、いえ……イギリスの法律では、お酒飲めるのは18歳からなんですけど…両親が同意すれば、5歳児でも家でならお酒を飲むことは合法とされてまして……』←実は日本に留学する前に何回か飲んだこと有
『『はぁぁぁ!?』』
『……その法律は俺も初耳です』
『まあ、成長への影響もありますし、私は極力飲まないようにしてきましたが……』



黄瀬・神田チーム 回答:神田
神『……Aだ。っていうか、Bのオレンジジュース……あれ、おそらくポ○ジュースだろ』
赤「……司会者」
高「確かに不正解のオレンジジュースはポ○ジュースだけど……え…何でわかったの神田さん…」
優「あー……俺んち、父さんがポ○ジュース好きで…今でも実家の冷蔵庫には必ず入ってるんです…」
黄「慣れ親しんだ味だから分かったってことッスか……」


Aの部屋
『……こっちは緑間とアリアか…ならもうほぼ確定だな』←ひと安心
『あら、ユウもこちらを選びましたか』←余裕
『お疲れ様です』←余裕

Bの部屋
『『………………』』←不安しかない

再びAの部屋
『ちなみに決めてはなんでしたか?』
『酒の方は知らねぇが、ジュースは簡単だったぞ。ストレートジュースと濃縮還元ジュースだったしな』
『やはり気づいていましたか。おい、聞こえたか青峰、火神。お前らはその違いすら気づけなかったということなのだよ』

『『「のうしゅくかんげん」ってなんだ?』』

『………………』
『………………』
『えーっと…濃縮還元というのはですね…』
『教えなくていいのだよアリアさん。というか、あいつらの頭ではおそらく理解できません』


紫原・信チーム 回答:信
信『……A…です………っていうか、気の利いたコメントとか今無理…』
黄「信さん顔が真っ青!!」
優「信兄…おそらく勿体ない精神でグラスにそそがれたの全部飲んじゃってる…」
黒「かなりお酒弱かったんですね…観野先生…」
夏「………チューハイ2缶も飲めん奴がなにしとんねん…ワインは意外と度数高い言うたやろが」
紫「うわー…正解してくれたのは嬉しいけど、この後大丈夫か不安〜」


ガチャ…
『あら、信いらっしゃ……あああああああ!!真っ青!!』
『馬鹿兄貴…!酒全然飲めねぇくせに何やってんだよ!!』
『ごめ…だって、一度口付けた物は責任持って全部飲んじゃいたくて………』
『その精神はすごく立派ですけれども!!』

『オイ、先生大丈夫なのかよ!?』
『火神!そっちにバケツはないか!?』
『バ、バケツ…!?ソファーとテーブルしかねぇよ!!』
『メ、メディーーーーック!メディーーーーーーック!!』


赤司・六花チーム 回答:六花
六『A。香りも味も段違いだ。一問目だから小手調べってことなんだろうが…まあ、余裕だな』
赤「流石、あの若さで経営者として名を馳せているだけのことはあるね」←満足そうな笑み
ラ「まあ、ここはぜってー外さねぇよなぁ…」
優「ものすっごいウワバミだしね、六花さん」
黄「っていうかこのチーム強すぎッスよ…赤司っち日本でも有名な名家の御曹司だし…」
アレ「六花もたしか実家は有名資産家ですよ」
紫「すげー」


Aの部屋
『おー…大体予想通りの顔ぶれだが…信どったの?』
『この馬鹿グラスに注がれてんの全部飲んじまったんだよ…』
『先程夏さんが診察してくれたので大丈夫だと思います』
『水飲んでしばらく横になっていれば回復するとのことです』
『ふーん……で、なんで信に膝枕してんのがユウちゃんなの?普通アリアじゃね?』
『信はこの方が喜ぶかと思いまして』
『お前マジふざけんなよ…』
『ははーん…でも何だかんだで了承してるってことは、たとえ兄貴でもアリアの膝を貸すのは嫌だったってことかぁ?ユウちゃん』
『コイツの膝の耐久度で信の頭の重さに耐えられるわけがない』
『やけに素直に了承したと思ったらそんな失礼千万なこと考えていやがりましたか…。大体あなた人のこととやかく言える立場ですか!高校の時あなたに膝枕してもらいましたけど、ものすっごく硬かったですよ!!』
『うるせぇ、人様の膝使わせてもらっといて態度デケェんだよ!!』
『元はと言えばすべてあなたが元凶でしょうが!!』

((今コイツらすっげぇ爆弾落とした……))

高校の時、神田が渾身の力で放った野球ボール(硬球)がアリアの頭に直撃して、脳震盪を起こして倒れてしまったので、神田はアリアが起きるまで膝を貸していた。

 

続かない!

俺と文化祭(一日目)

梅雨が中休みをもらってる頃、陽泉の生徒たちは文化祭に向けて忙しなく働いていた。

「おいゴルァ!!買い出し言ってきた奴ちょっとこっち来い!!なんでこんな高級小豆買って来やがった!!」
「だ、だって高級ってことはそれだけ味がいいってことだろ!?ならそれで客呼び込めるんじゃ…」
「そ、そうそう!!ウチのクラスは味で勝負ってことで…」
「あぁん!?原料の値が張る分、商品の値段も高くなんだろうがボケェ!!一個300円のおはぎなんて誰が買ってくれんだ!!大体インスタントコーヒーと、豆から厳選して焙煎したコーヒーとの違いもわからねぇような曖昧な味覚機能しか搭載してねぇお前らが味だのなんだの言うこと自体ちゃんちゃらおかしいんだよ!!わかったらとっとと買った店行って安い小豆と取り替えてもらって来い!!!」
「「はひぃっ!!!」」


「……俺、今優人のバックに神田先輩のスタンド見えたんだけど…」
「奇遇じゃな、福井。わしもじゃ」


「タツヤ―――!!姉さんからスコーンのレシピと美味しい紅茶の淹れ方マニュアル届きました―――!!」
「ありがとう、アレン。じゃあ、レシピは調理係の女子に渡して、俺らはさっそく紅茶の淹れ方勉強しようか」
「はい!あと姉さんから接客に対するアドバイスなんですけど…」
「ん?なんだい?」
「『人に頭を下げてると思うんじゃありません。金に頭を下げてると思いなさい』だそうです!!これならどんな腹立つ客が来てもなんとかやり過ごすことが出来るそうです!!」
「Oh………」


「アレンのねーちゃんってマジなんなの…?」
「アレン曰く、美人で優しくて強くて賢くて料理上手な自慢の姉らしいアル」
「そんな人間ぜってー存在しねーし…どんだけフィルターかかった目で見てんの…」


「みんな――――!!衣装出来たからサイズチェックお願い!!」
「おお、すまんな優人。お前もクラスの出し物で忙しいのに…」
「いえ、焔もたまに様子見て手伝ってくれましたし…」
「え!?あの人裁縫出来んのか!?」
「裁縫どころか家事全般出来るよ、焔は。もうどこに婿入りしたって恥ずかしくないぐらい」
「……見かけによらず、器用なんだね…」
「ところで、きつい所とかありませんか?」
「優人ーなんかこれチクチクすんだけど」
「ん?…ああ、今は刺繍の部分が肌に触れてるからね…本番はこの上着の下に一枚着ることになるから大丈夫だよ」
「わかったー」

怒涛の準備期間も瞬く間に過ぎて、文化祭当日。
夏の近づきを感じさせるような澄み切った高い青空の下、開催を告げる花火が上がった。

「いらっしゃいませー……って、むっくんに氷室さん。二人とも今は休憩?」
「そう。バスケ部のみんながいるクラスを回ってるんだけど、さっき廊下で偶然敦と会ってね。優人のクラスのお茶菓子食べに行くって言うから、一緒に来たんだ」
「俺んとこはフリマだからそんな人いらねーし、俺の当番午後からなんだよねー」
「それより…すごいな、優人のクラス…」
「ねーめっちゃクオリティ高ぇーじゃん」

机も椅子も教室からは綺麗に消え去り、床一面に敷き詰められた緋毛氈。教室の隅に立てられた赤い日傘。そして、店員は全員が着物姿。まるで野立を思わせるような雰囲気の喫茶店だった。

「ふふふ。でも実はあんまりお金はかかってないんだよー。緋毛氈は茶道部が使わなくなったお古貸してもらって、日傘は俺が寺の蔵から引っ張り出してきたヤツ。着物も古着屋さんから安布買ってきて作ったモンだし……その分、茶菓子や抹茶にお金回したから、今日はどんどん食べてってね!!」
「うん。食べる!」

優人の言葉の裏に、じゃんじゃん金落としていってね!!という意味合いが含まれていることを察した氷室は、苦笑いしながら二人のやり取りを見ていた。

「俺もいただくよ。えっと…席はどうすればいいかな?」
「ここは、明確に席とか作ってないんです。お客さんに座布団渡して、後は各自好きな場所に座ってもらうようにしてあるんです」
「ふーん。なんか花見の席みたいだね。あ、あそこ空いてるよ〜室ちん」

適当な場所を見つけて座ると、優人は紫原にお品書きを渡した。
さっそくお品書きに目を落とした紫原は、ゆるむ頬を抑えられなかった。おはぎにまんじゅう、煎餅などといった定番の和菓子から、練り切りやきんとんといった茶席ならではの上生菓子。洋菓子とコラボした抹茶のムースや抹茶を練り込んだフォンダンショコラ。
全て優人が監修をつとめたというから、味は当然保証付きだ。

「優人くーん!さっき上がったコレどうするの?」
「ああ、ソイツははんごろしね。次に来るヤツはみなごろしでお願い」
「はーい」
「「!?」」

料理とはかけ離れた殺伐とした用語に、二人は思わず顔を上げた。

「……優人…厨房で一体何が起こってるんだ…?」
「え?………………ああ!ごめんごめん!はんごろしっていうのは、おはぎのあんをつぶあんの状態にするってこと!みなごろしはこしあんのこと!」
「びびったー…厨房で気に入らない客にリンチかけてんのかと思った…」
「あはは、そんなわけないじゃない」

二人は同時によかったーと溜め息を吐く。

「やるなら正々堂々タイマンでいくよ、俺は」

全然安心できるもんじゃなかった。

「……なに昼間っから周りの空気凍らせてんのよ、アンタは」
「やっほー優人」

変な空気を一掃するように、登場して早々優人の頭に軽くチョップを入れる少女と、少し気の弱そうな少年。

「圭菜、翠。来たんだ」
「うん。圭菜は大道具担当で、俺は音響担当だったから、当日はほとんどやることないんだ」
「あ、むっくん氷室さん、コイツら俺の幼馴染で圭菜と翠って言います」
「初めまして、二人のことはよく優人から聞いています」
「は、はじめまして。優人の従兄弟で、水谷藍って言います…あ、翠はあだ名で、で、出来ればあだ名で呼んで欲しいです……お、女の子みたいな名前なので…」
「はじめまして。よかったら、一緒にどうかな?敦もかまわないよな?」
「んー?いいんじゃねー?」
「えぇっ!?」
「では、お言葉に甘えて」
「ちょ、ちょっと圭菜…!マズイよ…!!この人達、女子の中で凄く人気があるんだよ!?」
「はぁ?それが何よ」
「だ、だから…こんな人たちとご一緒なんかしたら、他の女子から妬まれるかもだし…」
「なんで人と付き合うのに他人の目をいちいち気にしなきゃならないのよ。だいたい誘ってきたのはあっちじゃない」
「で、でも…」
「あぁもう!うじうじ鬱陶しい!!この場であたしを敵に回すのと、他の女子敵に回すのどっちが怖いのよ!?」
「ひぇぇえっ!!圭菜ですっっ!!」
「ならさっさと座る!!」
「はいっ!」

座布団も敷かぬままその場に正座した翠を、氷室は唖然として見ていた。また優人とはずいぶんタイプの違う子たちだ。
優人は、そんな幼馴染達のやり取りを、半目になって見ていた。

「……圭菜、あんまり翠を怖がらせないでよ…ただでさえビビリなんだから…」
「根性がなってないのよ、根性が」
「はぁ……翠も、圭菜が大声あげたぐらいでいちいちビビらない」
「はい……」
「はい。じゃあお品書き。これ見て食いたいもん注文してね」
「あ、優人〜注文いいー?」
「どうぞー」

先程からずっとお品書きを見ていた紫原は、氷室よりも一足早く注文を決めたようだ。

「えっとねーとりあえず、おはぎと大福と練り切りと抹茶ババロアと煎餅〜」
「はーい。氷室さんも決まりましたか?」
「うーん…少し悩んでるんだ…俺のクラスでも甘い物中心に出してるから、ここで食べ過ぎてしまうと午後に胸やけ起こしそうでね…」

確かに、アレンや紫原のようなお菓子大好きの大食漢は別として、甘いにおいが漂う空間にそう何時間もいたら普通の高校生男子なら参ってしまうだろう。特に陽泉の文化祭は3日も続くのだ。

「じゃあ、水もの菓子ならいいんじゃないかな?」
「水もの菓子?」
「えっと、くずきりとか寒天やゼリーとかですね。見た目も涼やかですし、のど越しもつるっとしててあまり甘い物が得意じゃない方にもおススメです」
「じゃあ、これと煎餅をいただくよ。あと、お茶はたててもらえるのかな?」
「はい。お客さんからの要望があれば」
「じゃあ、お願いしていいかな?」
「かしこまりました」

注文を取り終えた優人はさっそく厨房へと伝えに行った。
その様子をみながら、翠はどこかほっとしたように息をついた。

「よかった…優人。このクラスに馴染んでるみたいで…」
「ん?優人はそんなに人見知りする方じゃないだろう?」
「あ……えっと……」
「バスケ部のマネやってるせいで、クラスでハブられてるんじゃないかって心配してたのよ、翠は」
「!」

「圭菜っ」と、咎めるように翠が名を呼ぶが、圭菜はそれを無視していう。

「中等部にすらファンがいるほどの人気のメンバーの周りをうろついてるとなれば、そりゃいくら男とは言え、邪魔だと思う女子は少なからず出て来るでしょうよ」
「……優人は…俺たちと居ることでいじめに遭っているのかい?」
「さあね。あたしアイツとクラス違うし」

氷室は奥歯をかみしめた。
気づけなかった…。笑っているその影で、優人に辛い思いをさせているかもしれない可能性に。

「あの……そんなに深刻に考えなくても、大丈夫だと思います」

おずおずと、翠は氷室に話しかけた。

「もし仮にいじめに遭っていたとしても、それでもバスケ部のマネージャーでいようとしているのは、優人の意思です。バスケ部が人気だとわかっていても引き受けて、今もこうしてバスケ部に所属してるってことは、おそらく、優人自身がマネージャーを辞めたくないと思っているからだと思います」
「!」
「僕は優人の従兄弟で…昔から一緒にいるからよくわかるんです。優人は他人に指図されたぐらいで、自分の意思を曲げるようなことはしないって」
「……だが…やっぱり俺たちのせいでいじめに遭うのは…」
「へっちゃらですよ。優人は他人になに言われようと。武力行使に出たって、大抵の人は優人に敵わないだろうし……それに、いざとなれば焔も僕もいるしね」

氷室は首をかしげた。
初対面でのビビリ具合や体つきから見て、翠はあまり戦闘向きではないような気がするのだが…。人は見かけによらないということだろうか?
なにせ、あの華奢で愛らしい容姿の優人も、一蹴りでバインダーを真っ二つに割るような足技の持ち主だ。

「あと……圭菜があんなツンツンしてるのも、気にしないでください」

コソコソと、小声でささやかれた言葉に首をかしげると、翠はちょっと困った顔をした。

「最近優人が一緒にいても、紫原さんや氷室さんのことばっかり話すから拗ねてるだけなんです」

そう言って、眉をハの字に下げて笑う顔は、優人によく似ていた。
しかし、ということは圭菜はもしかして…。

「……ちょっと、さっきからなにコソコソ話してるのよ」
「え、えっと…なんでもない」
「圭菜は優人のことが好きなのかい?」
「ゴフッ!」

圭菜はお冷を吹き出した。

「な、な、な、なんであたしがあんな女男をっ!!」
「うわー顔真っ赤ー」
「うるさいっ!!翠!あんた何変なこと吹きこんでんのよ!?」
「わーーーー!!ごめんなさい!!」

目は口ほどにものを言うとかいうけど、この子の場合は口や目よりも顔が物語ってるなー…と、真っ赤になった圭菜の顔を紫原は面白そうに見ていた。あまりに真っ赤でりんごあめみたいだ。

「べっ、べつっ、別に私は!あ、あ、あんな…!優人のことなんか…!!」
「俺がどうかした?」
「ひきゃぁ!?」

突然背後から聞こえた声に、圭菜は肩を跳ね上げた。

「と、突然現れんじゃないわよ!バカ!!」
「は……?っていうか、顔赤いけど大丈夫?熱あるんじゃないの?」
「ない!」
「えー?信用ならないなぁ…小五の時38度の熱がありながら運動会に参加した前科のあるヤツの言葉なんて……」
「あ、あの時は………っ…!?」
「うーん…若干熱い…か?」

ひんやりと仄かに冷たい優人の手が、圭菜の額にあてられる。

「っていうか、俺さっき手洗ったから、今手冷たいんだよね」
「じゃあ、早くこの手どかせ!熱なんかないからっ!」
「うーん……」

未だに圭菜のことを疑っている優人は納得していないようだった。
優人は額にあてていた手をそのまま上に持っていき、圭菜の前髪をかき上げた。
そして、無防備になった圭菜の額に、自分の額を当てた。

「……うーん…たしかに熱はないみたいだけど…顔色悪いんだし、あんまり無茶しない方が……って圭菜……?おーい……聞いてるー?…けーい…?」

――――…刹那。


ゴッツ!!!

思わず周りが振り向くほどデカイ音を立てて、圭菜と優人の額がぶつかり合った。

「っ〜〜〜〜〜ぃってぇ!!!なにしやがんだバカ圭菜!!」


涙目になりながら額を抑える優人に対し、圭菜は真っ赤になってぷるぷると震えていた。

「馬鹿はどっちよ!!この…っ!バカッ!!」
「はぁ!?」
「そんなに言うならお望み通り帰ってやるわよ!!」
「は!?いや、別に熱なかったんだし…っていうか、オイ!お冷だけ飲んで注文ナシかよ!!せめて金落としてけ!!」
「え、そこなの?」

思わず翠が突っ込んだ。
氷室と紫原は、まざまざと見せつけられたラブコメに、唖然としていた。

「すげー…俺、デコこっつんをリアルにやるやつヤツ初めて見た…」
「しかも他意なくやってる所が凄いな…」
「へ?熱があるか確認するために普通やらない?」
「……優人のそう言う所は、ホント信さん似だよね…」
「……?まあいいや。ハイ、遅くなっちゃったけど注文の品です」

目の前に並べられた可愛らしい和菓子の数々に、紫原の意識は自然とそちらへそれた。

「すげ〜うまそー…これ全部手作りなわけ?」
「うん。材料は焔のツテで農高の人達から安く買い取ってきてもらった」
「ああ…確か薬草の講師として呼ばれたことがあるんだよね?」
「そうそう」

紫原はさっそく練り切りに手をつけた。今の季節を意識してか、蓮の花に見立てた練り切りは、花弁の先がほんのり薄桃色に色づいていて、見た目も綺麗だった。だが、やはり素人である生徒が作った物。若干花弁が歪んでいたりするのはご愛敬だ。

「ん〜〜〜おいしー…でも、こーゆー茶菓子って、みんなちっちゃいのが残念だよね〜〜」
「茶菓子はお茶の前に出される軽い食べ物だからね。一口か二口で食べられるくらいのサイズが基本なんだよ」

むっくんだと、全部一口サイズになっちゃうけど、と優人は苦笑した。

「でも、季節感が味わえてすごく楽しいよ。やっぱり日本の菓子はいいな」
「うん。俺も目で楽しむことが出来る和菓子はすごいと思う。ちなみに、氷室さんの寒天ゼリーはもうすぐ来る七夕をイメージしたものなんだ」
「七夕を……?」

はて、と氷室は首をひねった。薄い水色のゼリーの中に浮かぶのは、白い鳥。
七夕といえば、織姫と彦星ぐらいしか浮かばない氷室はなぜこれが七夕を表すのかわからなかった。

「あ……この鳥もしかしてカササギ?」
「そう」
「カササギ…?」
「えっと…織姫と彦星を会わせてあげるために、カササギは天の川に翼を広げて橋渡しをしてくれるという伝説があるんだ」
「へぇ!それは知らなかったな」

このゼリーの中に閉じ込められたカササギは、まさに翼を広げて、橋渡しをしているということなのだろう。織姫と彦星の一年に一度の逢瀬を果たす為に。

「なんだかロマンチックだね。食べるのが勿体ないよ」
「そう言ってもらえると、こっち嬉しいよ」
「室ちん食わねーの?なら俺が……ってッ!」
「こら、欲しいなら自分で注文しな。むっくん」

氷室の菓子に伸ばしていた手を叩かれた紫原は、口を尖らして優人を睨んだ。
いくら座っているとはいえ、それでも普通の人より頭一つ分以上高い紫原に睨みつけられるというのはかなりの迫力だが、優人はもう慣れっこなのか、どこ吹く風でお茶を立てていた。

「そういえば、抹茶って薄茶?濃茶?」
「薄茶。さすがに濃茶は高くてね……手が出せなかった」
「薄茶って言うのはなんだい?」
「抹茶って言うのは、主に濃茶と薄茶の二種類に分けられるんだ。濃茶と薄茶でその茶会に出される茶菓子も違うし、作法も違ってくるよ」
「そういえば…俺、抹茶を頼んでおいてなんだけど、こういう茶会の作法を全然知らないんだ…」
「そんなの全然かまわないよ。今回は訪れたお客さんに抹茶を味わってもらえればいいと思ってるし」
「それに形式通りにやってたら目茶苦茶時間かかるよ室ちーん」
「そうなのか?」
「うん。たしか丸一日かけたりする時もあるって赤ちんが言ってたー」
「そうそう。それに結構決まりごとも多いから、俺はこうやって形式にこだわらずのんびり飲む方が好きだなぁ。……よし、できた。どうぞ、氷室さん」

すっと、目の前に出された茶器を手に取り、氷室は一気に中の抹茶をあおった。
そして、ゆっくり茶器を口から離し、膝へ置くと、一言。

「………………にがい…」

その感想に、紫原はゲラゲラ笑い、優人と翠は苦笑した。

「室ちん、お菓子の抹茶味みたいな味がすると思ったんでしょー?」
「………うん。全然違った。なにこれ苦い」
「濃茶になるともっと苦いよ。俺も中学に上がるまでは抹茶苦手だったなぁ。ちなみに、薄茶は「たてる」、濃茶は「ねる」と言います」
「僕も抹茶は苦手だなぁ。氷室さんはまだいい方だよ。僕なんか、最初あまりの苦さに吹き出したし…」

口直しと言わんばかりに、氷室は無言で煎餅を口に詰めた。

「っていうか、優人って茶道習ってんだー?」
「うん。お寺だからさ、色んな檀家さんがいて、その中に茶道と華道の先生がいたんだよ」
「へぇー」
「二人ともよく俺に構ってくれて、たまにお寺に顔出してくれた時に色々教えてくれてねー」

お冷を飲んでようやく落ち着いた氷室は、ふうっと息をついた。

「初めて飲んだから、味には驚いたけど……ありがとう、優人。ごちそうさま」
「ふふ。お粗末さまでした。そういえばさ、アレンの様子はどんな感じ?最近忙しくて会ってないけど…」
「普段と変わらないよ。あ…でも、なんか妙にイキイキしてたな…『今年は気兼ねなく文化祭を楽しめて嬉しいです!』とか言ってたし…」

それに対し、優人と翠は重い溜息を吐いた。

「やっぱり六花さんに言ってないんだね…アレンさん」
「あーあ…俺、もうどうなっても知らない」
「六花って誰?」
「アレンさんのことが好きな人です」
「そんで、アレンが好きな人でもある」

氷室と紫原は驚きに目を丸めた。なんだか今日は人の恋話をよく聞く日だ。

「アレンって好きな人がいたのかい!?全然聞いたことなかったな…」
「ああ、アレン自身は六花さんのこと好きじゃないって否定してるんで。でも、アレはもう落とされてるよねぇ…六花さんに」
「うん…。意地張って否定してるようにしか見えないよね」
「六花さんも、もうちょっとアレンにちょっかいかけるの抑えればいいのに…面白がってかまうから、アレンもますます意固地になるんだよ…」
「……結局どんな人なの?」

紫原の問いかけに、優人と翠は顔を見合わせて、同じような困り顔を作った。

「六花さんを一言で表すのは難しいです…」
「うん。でも、強いて言うなら「すごい人」かな…」
「はぁ〜?」
「会えばわかるよ。特に氷室さんはアレンと同じクラスなんだから、会う確率高いだろうし」

それを、運が良いと言うのか、それとも悪いと言うのかはわからないけど。そんな意味深な言葉を残し、優人はその話を打ち切った。

「……まあ、アレンの話も気になるけれど、俺達は二日目から始まる部活の方の催しにも集中しないとな」
「あー…アレマジでだるいんだけど…」
「俺はちょっと楽しみ。ああいうイベントってわくわくする」
「そういえば…結局バスケ部って何をやるの?」

優人と氷室はにんまりと笑って言った。

「「それは明日のお楽しみ」」

 



おまけ→
▼追記

ティーンズ達のライン

黒バス本編に収まりきらなかったDグレキャラ+ウチの子達のライン
いつもより大分キャラ崩壊



アレン:助けてください


ラビ:いきなりどうしたw
ラビ:つーかお前秋田だろww東京の俺にどうしろとwww

アレン:緊急事態なんです。っていうか、ラビだけですか?

神田:おれもいる
リナリー:私もいるよ。どうしたのアレン君
ラビ:おっ、リナリーおひさー
リナリー:久しぶり!二人とも卒業してから全然会えないね
ラビ:あ、でも今度そっちの文化祭に行くからそん時会えるさ!
リナリー:ホント!?楽しみにしてるね!

アレン:あの、そろそろ本題に入っていいですか?

ラビ:あっ……ww
リナリー:ごめんアレン君。久しぶりでつい…
神田:で、けっきょくなにがあったんだよもやし

アレン:田んぼにはまりました

ラビ:ファ―――――――――wwwwwwwwwww
神田:おwまwえw
リナリー:wwまたwwwwwwwww

アレン:しかも両足
アレン:動かせない
アレン:詰みました

神田:wwwwwwwwwwwwwww
ラビ:おい…wユウがこんなに草はやすって相当だぞwwwwwwww
リナリー:アレン君今どこいるのwwww

アレン:寮の近くのコンビニです
アレン:唐揚げ棒食べたくなって…

リナリー:あそこ街灯ないから夜行ったらダメって言ったじゃないwwww
ラビ:リナリー助けに行ってやれるさ?
リナリー:そうしたいのは山々だけど…今ちょうど女子寮点呼中なの

アレン:つんだ

神田:そこのコンビニ、たしか、むらのちかくだろ
神田:おれらじゃなく、ゆうとたよれよ

アレン:いやだ
神田:は?

アレン:この間はまって助けてもらった時、まるでゴミを見るような目つきで僕のこと見ていたんです
アレン:あんなの二回も見たらもう僕立ち直れない…

ラビ:自業www自得wwwww
リナリー:もう焔呼んで助けに来てもらいなよwww

アレン:抜けた

ラビ:お

アレン:靴から足が
アレン:僕のスニーカーが泥の中にどんどん埋もれて行く
アレン:しかもすっぽ抜けた拍子にレジ袋手放しちゃって飛び出した唐揚げ棒がフライングアウェイ
アレン:落ちた唐揚げ棒をいま野良猫がくわえて走り去って行きました

ラビ:wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
神田:はらwwwwwいてぇwwwwwwwww
リナリー:ごめ…www同室の子にすごく不審な目で見られてるからいったん落ちるwwww

アレン:僕の唐揚げ棒ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!

神田:おまえ、いちねんのときものらねこにべんとうのからあげうばわれてなかったかwwwww
ラビ:完全にカモにされてるさwwwwwww


アリア:もういやですしにたい


神田:おい…おい……www
ラビ:今度は姉の方がwwww
神田:一体何があったんだよwwww


アリア:テムズ川に落ちました

ラビ:ファ―――――――――――wwwwwwwwww
神田:ファ―――――――――――wwwwwwwwww

アリア:つい30分まえのことです
アリア:本屋で読みたかった新刊を買って、お気に入りのカフェで買ったカフェオレを片手にテムズ川近くのベンチで読書をしていました
アリア:そこに、犬を連れたご老人が通りかかりました
アリア:そのまま何事もなく通り過ぎるかと思った時、犬の悲鳴が聞こえ、何事かと思って本から目を放しました
アリア:すると、犬が川に落ちて必死にもがいているのが見えました
アリア:このままじゃ溺れ死んでしまう…そう思った瞬間、体が動いていました
アリア:私はテムズ川へと飛び込んだのです


アリア:……あなたにはわかりますか?
アリア:私が飛び込んだ瞬間
アリア:私が目にしたもの
アリア:悠然と、私の横を泳いで岸へと向かう一匹の犬の姿
アリア:あの時の私の気持ちがあなた達にはわかりますか…!?

ラビ:どんwwwwwwwまいwwwwwwwwwwww
神田:wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
ラビ:ユウがwwww息してないwwwwwwwwww

アリア:もう嫌です…ドブ臭いし、生臭い…
アリア:寮に帰ったら、いじめにあったと思ったコムイさんとロキにめっちゃくちゃ心配されました…


アリア:真相話した瞬間爆笑されましたけど

神田:だろーなwwwwwwwwwwwwwwww
ラビ:アリアはいじめられたんさ…運命に…
神田:wwwwwwwwwwwwwwwwwww
ラビ:wwwwwwwwwwwwwwwwwwww

アリア:あなたたち夏休みあった時覚えててくださいよ




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いまだにガラケーの私がライン風にやるなんで無謀な試みだったよ!
なんかもう神田爆笑し過ぎてもはや別人ですね!!



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