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・夢叶さん≫優人「拍手ありがとうございます、夢叶さん」
・高校の学祭を思い出しました〜の方≫信「拍手ありがとうございます、お客様」
※黒バス混合の番外編のような感じです
神田×アリア要素強いです。
ひらひらと舞い落ちる白い花弁を見上げながら、アリアは笑った。
やはり、留学先を日本にして良かった。この美しい桜を見るだけでも、来た価値があったというものだろう。
クラスメイトも気さくでユニークな人たちが多く、初めての留学で何かと不自由なアリアに色々と優しくしてくれて、こうして無事に進級することができた。
去年の今頃は、毎日肩に力を入れっぱなしで、空を見上げる余裕なんてちっともなかったのだが、今はこうして空を見上げて一息つけぐらいにはこの学校の生活に慣れてきた。
……ほんとうに、この一年でここを去らなければならいなのが惜しいくらいだ。
「アリア」
「あら、焔。こんにちは」
「こんな所で何をしておるのだ?早く食べんと昼休みが終わってしまうぞ」
そう言う焔も昼休憩をもらったのか、手には緑茶のペットボトルと購買のパンが見えていた。
「今日は天気も良いですし、外で食べようと思って場所を探していたら、こんな素敵な場所を見つけたんです」
「桜か……好きなのか?」
「はい。イギリスにも咲いてはいますが、やはり日本の桜は格別です」
「ほう、英国にも桜の木はあるのか」
「はい。でも日本の桜より開花はちょっと早いですね。あと、曇りの日が多いのでこんな青空の下で咲き誇っている桜を見るのは日本に来てからです」
「それはもったいないな。英国は雨の多い国と聞くが、やはりそうなのか?」
「そうですねぇ。雨はすごく多いです。そのせいか食べ物とかもナマモノより冷凍したものが多いんですよ」
日本とイギリスの文化の違いを話題にして盛り上がっていると、焔の鼻の先にひとひらの花びらが乗った。
「……む」
「ふふふ。まるで雪みたいによく降りますねぇ」
「そうだな……アリア、一つ桜にまつわるジンクスのようなものを教えよう」
「あら、なんですか?」
「こうやって落ちてくる桜の花びらをつかまえることができると、その人は幸せになれる…と、主が言っておった」
「優人ですか」
「うむ。主だ」
主は博識なのだとちょっと鼻を高くして言う焔に、アリアは小さく吹き出した。まったく、彼は相変わらずあの小さな主様をリスペクトしてやまないらしい。
アリアは試しに目の前に落ちてきた花びらに手を伸ばしてみたが、ひらりと身をかわして掌の上を滑るように逃げてしまった。…意外と難しい。
「…焔は優人から聞いてやってみましたか?」
「いや、我はやっておらん。我は今の生活に満足しておるし、幸せは今手にしている分で十分だ。このうえ幸せを求めるのは傲慢だろう」
「あなたはたまにお坊さんよりも悟ったようなことをおっしゃいますね」
こういうところが、優人に「焔は欲がなさすぎる」と言われるゆえんなのだろう。
自分にはとてもまねできないとアリアは苦笑する。この花びらをつかまえるだけで幸せになれるのならば、私は何度でも手を伸ばすだろう。
「まあ、お主も暇な時にでもやってみるとよい」
「はい、ありがとうございます」
そう言い残し、焔は昼飯を食べに警備室へと行ってしまった。
残ったアリアは、先ほど買った紅茶と朝作ったサンドイッチ弁当を木の根元に置いて、落ちてくる桜の花びらを見上げながら、手を伸ばした。
「ほっ…はっ!……てやぁっ!」
されど、桜の花びらはアリアをあざ笑うように手の間をすり抜けて行く。
「むむむ…」
睨みつけても桜はアリアの手の中には落ちてきてくれない。
そこでアリアはふと気付いた。そうだ、なにも手じゃなくてもいいじゃないか。つかまえられればいいのだから…――――。
『それでねーその時のむっくんの顔がおっかしくってねー』
「ふふ、そっかぁ…」
ほとんど毎日行っている近状報告。優人の報告は、最近「むっくん」と「ひむろさん」の話題ばかりだ。バスケ部のマネージャーとして、関わっていく中で、特に仲良くなれたのがその二人ということらしい。
『あと、この間レギュラーのみんなで一緒に食事しながら文化祭の出し物決めたんだー』
「あーそっか。もうそんな時期なのか…じゃあ、俺の学校もそろそろだなぁ…」
新設校である誠凛高校は、昨年は大きな学校行事を行うことができず、文化祭も体育祭も今年が初めてだった。今の二年生が一年生のときに樹立させた生徒会も軌道に乗ってきて、二年目ということで、教員たちの方にも若干余裕が出てきたから通った企画である。
(…ほんと、相田さんは生徒会をよくサポートしてくれてるよ…)
生徒会副会長でありながら、バスケ部のカントクもこなしている女子生徒を思い出し、自然と笑みがこぼれた。
企画自体を立ち上げたのは会長らしいが、可決にいたるまでの細々とした企画書を完成させたのは、彼女の功績が大きい。
『信兄の学校は今年が初めてだよね?なんか、副会長さんがすっごい才媛だとか』
「うん。正直、何人かの先生は、面倒だからやりたくないって顔してたけど…あそこまで練られた企画書だされちゃね。許可を出さざるを得ないって感じだったな」
生徒会と教員を交えた会議も何度か開かれ、それに参加した信は、企画書の問題点や穴を指摘したが、それに即座によどみなく答えられたのは、相田リコ一人だった。
「そうだな…今週の金曜にLHRがあるから、そこでクラスの出し物決めることになるかな…」
『そっか。頑張ってね、信兄』
「ふふ、優人もね。おそらく土日のどっちかはユウと一緒に見にいけると思うから」
『わかったー。じゃあね、おやすみ』
「うん。おやすみ」
通信を切ると、信はふぅっと息を吐いて、ソファーに体を預けた。さて、ウチのクラスは一体どんな出し物に決まるやら…。なかなか個性派ぞろいの生徒たちを頭に思い浮かべると、意味もなく笑えてきた。
――――…そして、金曜日。
LHRは、信の予想通り、文化祭の出し物を決めることとなった。
もともと文化祭に乗り気でなかった担任は、進行を副担任の信に丸投げし、職員室に戻ってしまった。今頃コーヒーでも飲んでるに違いない。
「ほら、チャイム鳴ったよー席付いてー。今日のLHRは文化祭の出し物決めるんだからー」
文化祭と聞いて、生徒たちが一気に浮き足立つのが信にはわかった。教員の中には未だに渋い顔をしている者もいるが、やはり生徒たちには楽しいイベントだ。
「んじゃあ、進行は学級委員長に任せていいかな?」
「はい」
委員長が教卓に出てくるのを見て、信は黒板横の教員用のデスクに移動する。
「んじゃあ、先生はここでさっきの英語の小テストの採点してますから。あとよろしくー」
「え〜ちょっとセンセー放置ですかー?」
「このクラスにはしっかり者の委員長さんがいますから。先生は安心して任せられまーす」
「放任主義ッスか!それ教師としてどうなんスか!?」
「ギャハハハハ!!」
さっそくお調子者の何人かが騒ぎだしたが、信はしれっと受け流した。
「先生には他にもやることがあるの。特に今回の小テストで赤点取っちゃった誰かさん達に、どういう補習をさせようか考えなくちゃいけないからねー」
笑っていたお調子者たちが、いっせいに青ざめた。どうやらみんな、その誰かさん達に心当たりがあるらしい。対して、後ろの方の席にいる火神の顔はちょっと誇らしげだ。なにせ、前日に信を廊下で引きとめて、分からない所をちゃんと教わっていたのだ。その甲斐あってか、火神の今回の小テストの成績は、非常に良かった。
「小学校じゃないんだから、一からコレやりましょうアレやりましょうって教師に言われなくったってわかるし、やられたらウザいって思うでしょ。このクラスの子たちなら、この程度のこと決めるのに、教師は必要ないよ。だから、先生は特に口出しはしません。もちろんアドバイスを求めるなら、それには答えます」
「ハイ。じゃあ、先生の期待を裏切らないようにちゃっちゃと決めるぞーお前ら」
絶妙なタイミングで委員長が手を叩き、話が軌道へと乗った。
それを確認して、再び信は、紙面に赤ペンを走らせる。
耳に入ってくるのは「やきそば!」「喫茶店!」など、出し物に関する色んな意見だ。
―――…それからしばらくして、採点が終わっていない紙も残すところあと残りわずかとなった頃。
「……先生、ちょっといいですか?」
「ん?なに?」
委員長が控えめに信に声をかけてきた。
「とりあえずみんなにざっと意見を出してもらったんですけれど、この中で、規則上許可できないものとかってありますかね?」
黒板はすでに白いチョークでびっしり埋まっており、ずいぶんバラエティーに富んだものになっていた。
「……お化け屋敷はやめた方がいいかもしれない。規則上問題はないんだけれど、もうすでに上がってきてるクラスの内、2つがお化け屋敷なんだよね。お化け屋敷やるとしたら黒幕必要でしょう?足りなくなる可能性があるし、最悪どこかのクラスにその出し物を諦めてもらう可能性もあるからあんまりおススメは出来ないな。あと、なぜか合コンとかキャバクラとか書いてあるけどそれはもちろん却下です」
っていうか、誰が意見しやがった。こんなもの。
「あとはなー…喫茶店もなぁ…」
「えー!?別に飲食店の許可は下りてるしいいじゃないですかー」
この意見を出したらしい女子生徒が不満そうに口を尖らせた。
女子生徒たちは喫茶店という意見が多いのか、不安そうな顔を浮かべている者が多い。
「いや、ダメってわけじゃなくて、喫茶店なら喫茶店のコンセプトを決めておかないと大変だよってこと。やっぱりどこのクラスも喫茶店やりたいって所は多いから、ただお茶とお菓子をお客さんに出します、ってだけじゃ多分他のクラスの出し物と被って、閑古鳥が鳴いちゃう可能性が高いかな」
「先生、ちなみに今喫茶店やりたいって言ってるクラスはいくつありますか?」
委員長の質問に、信は深々と溜息をついた。
「最初に4クラス出し物が決まって報告があったんだけれど、その4クラス全部が喫茶店だったよ」
「4クラス!?」
「競争率高っ!!無理に決まってんじゃん!!」
「いや、他のクラスと違いをつければいいだけだよ。例えば、売る物を和菓子とかに限定して和風喫茶にするとか」
信が例に挙げたのは、実際優人のクラスでやると決まった出し物だ。陽泉は中等部と高等部が合同のため、競争がこちらよりもかなり激しい。そのため、他のクラスとの差別化をするのに色々意見が出たらしかった。
「先生」
「ん?なに黒子君」
一部の生徒たちが、ぎょっとして振り向いた。どうやら、黒子の存在を今の今まで忘れていたらしい。
「参考までに、先生が学生時代にやってきた出し物とかを教えていただけませんか?」
「えっ」
「あ、そっか。先生もちょっと前まで俺らと同じ学生だったんだよな」
火神が何やら納得顔になっているが、信が高校生だったのは、もう6年以上前だ。しかも、信は夏のお目付け役として、必ずと言っていいほど夏と一括りにされて、一緒のクラスに押し込まれた。そのため、毎年あのイベント好きの男に付き合わされて、無茶をやらされてきたのだ。
「えー…先生のは正直あまり参考にならないと思うんだけれど…」
「先生の学生時代の話とか聞きたい聞きたい!!」
「先生一体文化祭でなにやってたの?」
トークが大好きな女子たちは、さっそく食いついて来た。こうなると、大抵の女性は話すまでなかなか食い下がらない。
しかたなく信はあまり参考にはならないであろう自分の学生時代の話をした。
「えーっと、先生の通ってた学校は、学年によって出し物が決まってて、一年はステージ上の出し物か飲食以外の模擬店。二年は飲食も含めた模擬店。三年は自由参加だったんだよね。それで、一年の時は劇をやったんだ」
脚本・監督を夏が務めあげたため、もの凄くカオスな仕上がりになっていた。まあそれでも、ギャグちっくに物語が進んでいくせいか、生徒たちにはウケていた。教員はほとんどが渋い顔していたが。
「二年の時は、各国の軍服着てコスプレして、来店してくれたお客様と一緒に写真を撮ったり、お客さんも軍服着て写真撮ったりしてたなぁ」
二年のクラスの中に軍オタの子が一人いたのだ。その子と打ち解けた夏は、よくその子と雑誌なども読んでおり、「文化祭で各国の軍服着て写真撮影とかやったらおもしろいんとちゃう?」と、クラスに提案したのだ。おもしろくねーよ。
それがきっかけで、夏以外にあまり友達が出来なかったその軍オタの子は、他のクラスメイトとも仲良くなれたのだが、強制的にコスプレに付き合わされた信はいい迷惑だった。…俺、受付係に立候補してたよね?
「三年の時は自由参加だからクラスでは何もやらなかったんだけど、担任の先生に今年はステージ上の出し物が少ないからお前なんかやれとか無茶振りされて、友達とバンド組んでちょっとしたライブやったよ」
信が無茶振り去れた背景には、早々に大学の指定校推薦をもぎ取って、皆が受験に苦しむ前に、すでに安全圏にいたのが大きな要因である。任された当初は、適当にピアノでも弾いて時間稼げばいいかぐらいにしか考えていなかったのだが、それを耳に入れた夏が、千博と蓮も巻き込んでバンドにしてしまったのだ。
改めて振り返ってみても、信には参考にできるものはないように思えた。
「うーん…やっぱり6年以上前のことだし、自分たちで考えた方が……って、どうしたの?…みんな?」
気づけば、教室の大半の生徒が突っ伏して震えているという異様な光景が広がっていた。困惑して委員長を見ても、彼は肩をすくめて苦笑するだけだった。ますます意味が分からない。
「えーっと…みんなどうしたのかなー?」
「…っばい…」
「え?」
「ヤッバイ!!想像しただけであたし鼻血噴きそうになったんだけど!!観野先生の軍服姿とか!!」
「わかる!ヤバイよね!?」
「や…やばい…?」
「っていうか、先生!バンドやってたんなら俺らのバンドにゲストとして出演してください!!」
「先生の歌声聞いてみたーい!!」
「っていうか、先生写真とか録画とかないですか!?」
「え、いや、あっても多分実家の方だし無理かな…」
「っていうか、先生も参加してよ!そしたら絶対優勝狙えるって!!」
生徒たちと信がそんなやり取りをしている間、黒子は机の下で携帯をいじくり、メールを作成していた。
To:夏さん
>お忙しい所すいません。黒子です。
実はつい先ほど、観野先生がご自分の学生時代に、文化祭でどんな出し物を出したか話していたのですが、当時の写真や映像が残っていたら、送っていただけませんか?
「……おい、黒子……」
前の席に座っていた火神は、呆れたような目で黒子を見ていた。珍しく携帯をいじくっているかと思えば、こんなメールを書いていた。
バスケ部のメンバーの何人かは、以前、夏と千博が学校見学に来た時にアドレス交換を行っているので、連絡先を知っているのだ。
「だって気になりませんか?観野先生の学生時代」
「そりゃぁ…」
気になる。すごく気になる。
この隙がなく、いつも余裕そうに笑っている教師が、一体どんな学生時代を送ってきたのか。それは火神も非常に気になることだった。
「別にもらった写真を女子に売りさばいたりするわけじゃないんですから大丈夫ですよ。それに、夏さんに断られたら諦めます」
「それなら…まぁ…」
……いいのか?
火神が首をひねっている間に、騒がしくなった教室を静めるべく、信が手を打った。
「ほら、他の教室も授業やってるんだから静かに!先生も出し物に参加できるかどうかは、一応生徒会に伺ってみるけど、多分色のいい返事はもらえないと思うよ。あくまで生徒が主体だからね。それに、一部から贔屓だのずるいって声は必ず上がると思うし」
教師が力添えしていたから総合優勝を取った、なんてなったら、他の生徒からの不満は爆発するだろう。ただでさえ、文化祭に積極的ではない教員たちに生徒は不満を抱いているのだから。
「とりあえず、第一候補から第三候補まで決めないと。ほらほら、あと半分しか時間ないよ」
壁の時計を見て、生徒たちは慌てたようにまた文化祭の出し物の話に戻った。
信は、椅子にもたれかかって気づかれないように小さく溜め息をつく。
なんというか…いまどきの高校生ってパワフルだ…。