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天の原

※短いです



「ラビーファインダーの人から胃薬貰って来たよー」
「……おー…」

弱々しい声で片手を出してきたラビに、優人は苦笑しながら胃薬を渡した。
今回二人は中国での任務を言い渡され、無事明日には本部へ帰還する手筈だったのだが…。

「出店で売ってた饅頭が当たって腹痛とか笑い話以外のなにものでもないよね」
「気づいてたんなら俺にも忠告してほしかったさぁぁあああああ!!」

優人も同じものを食べたのだが、舌が記憶する饅頭の味と別次元の味がしたため、一口食べて青龍にあげてしまった。
その時かなりの空腹状態だったラビは、あまり味わいもせず、一口でその饅頭を食べたため、味の異変に気づかなかったようだ。
ちなみに、甘味に関しては鋼鉄の胃袋を持つ青龍はケロリとしていて、今も中国のデザートを食べつくすため、街に繰り出している。

「うぅ…気持ち悪い…」

宿に帰ってすぐこの状態になってしまったため、ラビは本場の美味しい中華料理を食べられないまま、ずっとこの調子だ。
額にはうっすらと脂汗が滲んで、顔色もあまりよくない。
優人は焔に指示して、濡れたタオルを持ってきてほしいと頼むと、ラビの髪をぽふぽふと撫でた。

「……コムイさんに連絡とって、帰還を明日の昼までに延ばしてもらったから、今晩中に体調整えて、明日いっぱい食べよ」

どっちが年上なんだかわかんねぇな…コレじゃ…。ラビは心の中で苦笑しながら、優人の頭をくしゃりと撫で返した。
すると、今まで雲に隠れていた月が急に顔を出し、部屋の中が明るくなった。

「あ…今日満月だったんだ」
「ホントだ。部屋の中が明るくなったわけさ…」
「なんか不思議だよね、月って。今こうして見てる月が、俺の故郷や教団で見ていた月と同じだなんて、全然思えない。月って見る場所によって違って見える」
「確かに教団で見る月とはちょっと違うさね」
「だよね……………………月餅食いたい」

結局食い気に走る優人に、ラビは腹痛なのにもかかわらず、横隔膜が痙攣をおこすまで笑ってしまった。

天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でしかも
(夜空を仰いで遠くにみつけた月は、昔春日の三笠山で見ていた月と同じなんだよね)



++++++
百人一首を題材に書いてみました。
歌の下の現代語訳はかなり意訳して書いてあるので、これを授業課題の参考に使ったりしたらだめですよ(笑)
他にも歌に合わせて書きたい話があるので、いずれまた書いてみたいと思います。

リクエスト小説更新(読破後推奨)

夢叶さんのリクエスト小説UPしました。今回メインの視点を、戦争には何らかかわりのなかった第三者のオリキャラにしてみました。
戦争について何も知らない人間からの視点だからこそ、先入観なしに終戦後の彼らの日常を見れるのじゃないかと思って投入してみましたが、いかがだったでしょうか?

優人は終焉を止める時に、自らの願いと引き換えに、どの世界にも属さない無属性であることを条件に、願いを受け入れられました。
けれど、優人の魔力は、成長とともに安定さと威力が増していくタイプだったので、何かこの力を使って出来ないかとずっと考えていたんだと思います。
その結果、魔術を使って世界を渡り、旅していくことを決意しました。
そんな優人にとって予想外だったのは、アレンが一緒について行くと言い出したことだったでしょう。
正直、もう完成された世界の中に新たな人間を組み込むのは至難の業ですが、優人のように無所属になるのは案外簡単で、今の優人なら造作もない行為でした。
アレンは全然引き下がる様子もないし、最終的には、もともとアレンはこの世界に属していた人間だったため、一度無所属になっても、旅を終えた時は、抜けていたパズルのピースを元に戻すようにすっぽりまたこの世界に組み込むことが出来るだろうと判断して、旅の同行を許すことになりました。
……相変わらず、押しに弱いですこの子(笑)。



作業中使用したイメージBGM

RADWIMPS≫「君と羊と青」「億万笑者」「ララバイ」
榎本くるみ≫「冒険彗星」
志方あきこ≫「Se L'aura Spira」
ボカロ系≫「ラストラスト」「Thanks Giving Days」「Artemis」

雨上がりの夏空のように

 物心がついた頃には、両親が家にいることが稀になっていた。幼稚園に上がる頃には、マイホームを手に入れるためにと二人ともさらに多忙になった。
 二人が忙しい理由は理解していたし、別段反抗的な態度を取った覚えはない。けれど、割り切れるほど出来た子供じゃなかった。
 一人の寂しさを紛らわすために、俺は本へ逃げた。父さんの部屋にあった本は流石に難しくて読むことは出来なかったけれど、図書館から借りてきた絵本をよく俺は読んで日々を過ごしていた。両親も俺が本を読む俺を見て、読書好きになったのだと思い、たくさんの本を買い与えてくれた。
 確かに本を読むのは好きだった。でも、それは俺にとって寂しさを紛らわすための手段だったのだけれど。
 そうして読書に明け暮れる日々を過ごした俺は、幼稚園に入園する前にすでに小学校2、3年の漢字くらいなら大抵読めるし、意味も分かるようになってしまっていた。
 それが、同年代の子との間に思わぬ壁を作るなんて、入園してる時は思いもしなかった。

「かくれんぼするやつこのゆびとまれー!」

 園児でもすでにリーダー格というやつはいるもので、その子が何かしようと指を出せば、他の子がその指にわらわらと群がった。
 一つの花に群がるちょうちょみたいだ。なんて、あまり同年代の子と過ごしたことのない俺はぼんやりとその光景を眺めていた。我ながら、可愛くない子供だったと思う。

「おい、おまえ!」
「え、俺?」
「そうや!おまえもこい!!」

 一人でいる俺を気にかけてくれたのか、それともみんなが集まるなか俺だけそっぽを向いていたのがお気に召さなかったのか……その上から物を言うような態度で、後者だろうと薄々察した俺は、その誘いを断った。

「俺は、いいよ」
「なんでだよ!みんなあつまってんだからおまえも入れや!!」
「いまは自由時間でしょ。べつに団体行動をとるひつようはないと思うけれど」

 すると、俺の言葉を聞いていた子たちが、一斉にきょとんとした顔になった。

「だんたいこーどーってなに?」
「え?」
「じゆーじかんってなにするじかんなの?ねぇ」

 その時すでに本にどっぷりつかっていた俺は、同い年の子との間に隔たりが出来ていた。自分が本にどっぷりつかるあまりとんでもない頭でっかち人間になっているなんて、この時の俺はまだ気づけなかった。
 ただ、人の言った言葉で分からない単語をつぎつぎと質問してくる子たちが鬱陶しくて、俺は適当にあしらってしまった。

「なんでもないよ。俺のことは気にせずにあそんでて」

 一人っ子で大人に囲まれて過ごした。そのため、同年代の子とのコミュニケーション能力は皆無に等しかった。両親はもちろん、まわりの大人の人達は、俺の言っていることが分からないなんてこと全くなかったため、おなじ組の子が俺の言葉を理解できないのが不思議でしかなかった。やがて、同い年の子と会話することが苦痛になりはじめ、同じ組の子たちも、全然噛み合わない会話に飽きて、あまり俺に話しかけてこなくなった。
こうして、俺はみごとに入園デビューを失敗させたのだった。

「信、幼稚園はどう?楽しい?」

 多忙な両親だったけれど、二人はなるべく時間をとって俺と一緒に食事をしてくれたりした。特に父さんは、自分の方が都合がつきやすいからと、母さんには仕事を優先させて、なるべく俺と一緒にいてくれた。

「うん。楽しいよ」

 忙しい両親に変な負担をかけてはいけないと、この時すでに子供らしい素直さをどこかに置いて来た俺は、そう聞かれるたびに「楽しい」と答えていた。

「そっか…友達は出来た?」
「うん。たくさんできたよ」
「そっか。……よかったね」

 父さんは俺の友達のことについて深く聞いてくるなんてことしなかった。もしかしたら妙に察しの良い父さんは気づいていたかもしれないけれど、俺は誤魔化し通すことを選んだ。

 

 そうして、ほとんど義務的に毎日幼稚園へ通うようになっていたある日、先生がみんなに言った。

「今日はみんなに好きな本を紹介してもらいます!その紙に本の名前とどんなお話なのかを書いて、お友達に紹介しましょう!」

 正直、俺にとっては嬉しい作業だった。大好きな本ならいっぱいある。もしかしたら、自分と同じ本が好きだっていう子がいるかもしれない。そしたら、友達になれるかも…。
 そんな風に少なからず期待をしながら、俺はせっせと紙に好きな本について書いた。そして、グループごとに分かれて、自分の好きな本を紹介していた時。

「うっそだぁ!!」

 俺の発表を聞いていた一人が、部屋中に聞こえる声でそういった。その大声に、他のグループで発表してた子たちも、俺たちのグループを、俺とその子を見ていた。その子は、以前俺がかくれんぼするのを断った子だった。

「ウソって…なにが?」
「そんな本よめるわけないやん!おまえ、かっこつけたくてウソついてんだろ!!」

 その時俺が選んだ本は、挿絵があまり入っておらず、漢字も所々混じった同い年の子たちがあまり読まなそうな本だった。けれど、俺はこの本の主人公の冒険の話が大好きで、かっこよくて、それを知ってもらおうと選んだ。そして、読んでいないと、嘘つきと言われて、流石に腹が立った。

「ちゃんと読んだよ」
「ウソや!!信はウソツキだ!!ウソツキウソツキ!!おまえのはなし、いっつもなにいってるかわからんねん!!喋り方やってへんやし!!」

 その子の騒ぎに便乗して、他の子たちもざわざわとしはじめたため、先生も介入してきた。

「どうしたの。いまは発表の時間よ?」
「だって先生!信がよんでもいない本をよんだって言ってんだもん!!」
「信くんが…?」

 先生はつくえに乗っていた俺の紙を見て、一瞬眉をひそめると、怖い顔で言った。

「信くん。ウソの発表はダメよ。この本は、もっと大きくなってからじゃないと読めないわよ」
「え……?」

 きっと、嘘つき呼ばわりするその子を、叱ってくれるんだとばかり思っていた俺は、なぜ怒りの矛先が向けられたのかわからなかった。

「ほーら、信は嘘つきや!!みんな信とは口きかん方がええで!!こいつ、嘘ばっかりいうから!!」

 リーダー格の子といつも一人でいる俺とでは、どちらの言っていることを信じるかなんて、わかっていた。わかりきっていた。
 きっと、みんな俺の言うことなんか信じてくれない。先生だって、俺のことを疑ってる。向けられる冷たい視線から逃げるように、俺はうつむいた。

(どうしてこうなったんだろう……)

 ただ、俺は自分が好きな本を同じように好きな人がいるんじゃないかって思って紹介したのに、なんでこうなったんだろう。泣きたい。こいつの前で涙を見せなくない。でも、胸を締め付ける悲しさに負けて、涙がせり上がってきた時だった。

「先生、信くんはうそなんかついてへんよ」

 静かに、けれどよく響く声で誰かがそう言った。俺は驚いて顔を上げると、いつの間にか俺の隣に、一人の男の子が立っていた。黒髪の綺麗な子だった。
 呆然と俺がみてると、その子は俺ににこっと笑いかけた。

「なんでウソついてないってわかんだよ!夏!!」

 夏……雨宮夏くんか。
 そう、これが長きにわたる腐れ縁の始まり。俺と夏の出会い。第一印象でよく覚えているのは、夏の髪。今では見る影もないが、当時の夏は綺麗な黒髪をしていた。お日さまを受けてきらきら光るそれは、宝石のようだった。
 夏とは、会話自体しなかったものの、同じ組の子ということで、顔と名前ぐらいは覚えていた。俺を嘘つき呼ばわりしたリーダー格の子とは違うタイプの人気者で、いつも周りに人がいた。
 リーダー格の子は、俺に味方するのが許せないのか、顔を真っ赤にして怒っていた。

「おまえそんなヤツの味方すんのか!?」
「味方もなにも…ウソついとらんヤツをウソツキ呼ばわりはひどいやろ」
「だからなんでウソついてないってわかるんだよ!!」
「やって、俺もアニキにその本よんでもらったもん」

 ざわっと教室がまた騒がしくなった。俺と違い人気者だった夏の言葉を疑うものなんて、この中にはいなかった。
 驚いた俺はもう言葉もなく棒立ち状態だった。夏は俺の発表した文を読んで「やっぱりな」と笑った。

「俺の知ってるはなしと同じ。せやから信くんはウソなんかついてへんよ。そもそも、ウソつくひつようもない」
「なんでだよ!!かっこつけたくてウソついたかもしれんのに!!」

 地団太を踏んでなお俺がウソをつくと言い張るその子にむかって、夏はさらりと言った。

「ウソつかなくても信くんじゅうぶんかっこええもん。ウソつくひつようない」

 認めたくないけど。本当に嫌だけど。………この時の夏の言葉は、嬉しかった。何年たっても覚えているほど。

「先生も、ちゃんと信くんの発表用紙読んでよ。本のタイトルだけで判断せんで、ちゃんと中身読んだってよ。信くんウソなんか一つも書いてへんよ」

 一方的に俺を責めて、しかもそれを子供の夏に指摘された先生はバツが悪くなってうつむいてしまった。
 リーダー格の子はまだ何か叫んでいたけれど、もう夏は耳を貸そうとしなかった。ただ、俺の発表用紙を読んで少し笑うと、その用紙を俺に返した。

「はい」
「…あ…」

 用紙を受け取って、お礼を言わなきゃと焦る俺に夏は言った。

「……虹の橋渡って、悪い竜をやっつけに行くところ………そこ、俺も好き」
「………!」

 同じだ。素直に嬉しかった。俺と同じこと考えて読んでたんだって。

「……ありがと」

 だから、嬉しくて笑ってお礼を言ったら、夏は目をまん丸に見開いた。それから目をキラキラさせて、一気にまくしたてた。

「ほんま信くんはきれいやなぁ。肌白いし、目もぱっちりしとるし」
「は?」
「さっき笑った時女の子みたいに可愛かったわ!なぁ、もう一回笑って?」

 夏は俺の最大の地雷に勢いよく両足を乗っけやがった。うちは父さんの家系が代々女系だったせいかたまに生まれる男は総じて中性的な面立ちの男が多い。そのせいで、観野家の男にとって、容姿の話題は最大のタブーだった。

「……雨宮くんだっけ?」
「ん?そや、雨宮夏って言うん…」

 それ以上夏は言わずに固まった。俺は、そんな夏にリクエスト通りにっこりと笑いかけてやった。

「そっか…じゃあ、君は今日『ホンネ』と『タテマエ』の使い分けを覚えて帰ろうね」

 無事に、幼稚園の門をくぐれたらの話だけど。
 ―――…そうして、俺と夏の出逢いの日は、俺が初めて本気で人を殴った記念日にもなったのだった。

 

雨上がりの夏空のように
(あの頃から、からりと笑うヤツだった)


+++++++
殴り合い(一方的)から始まる友情。

拍手レス

・秋鈴さん≫アリア「拍手ありがとうございます、秋鈴さん。そうですねぇ…あの時一番ドンパチ騒音を立てていたのは紛れもなく元帥の方々でしたし、先生も殺しがいのある…失礼、活きのいい者の方を選ぶだろうと思いまして…」

フィア「でも、アレンとかリナリー選ばれてたらどうしたの?」

アリア「その場合は交渉に入って、コムイさんやリンクさんや…最悪、ユウやラビもオプションとして付けるかわりに諦めてもらうつもりでした」

ロキ「お前の最優先順位が如実にわかるな」

アリア「そもそもの原因はコムイさんですし、リンクさんは…アレンに危害さえくわえなければねぇ…?えぇ…親しくするつもりですよ…?表面的に」

フィア「アリア…最近全然アレンと喋れてないもんね…」

アリア「ええ。まったくですよ。引越しの時だって私がアレンに話しかけようとするたびに気をそらしたり、話してる途中で横やり入れてきたり……どうしてくれやがりましょうか…」

ロキ「オイ、怒りで敬語が変になってんぞ」

黒の教団の七不思議:三色風呂の怪

あの日の夕暮時。風呂に入りに大浴場を訪れた神田とラビは浴槽を見て呆然とした。

「……なんだこれ…」

浴槽の湯が、紫、黄色、白の三色に変色していた。


黒の教団の七不思議:三色風呂の怪

 

「あれ、そんな所でつっ立ってどうしたのユウ兄」

どうやら先に優人が来ていたようだ。もう体を洗い終えたようで、ちょうど三色不思議風呂に入ろうとしていた。見ると、焔や白虎など、神将たちの姿もちらほらある。

「ゆ、優人…今日は浴槽につかるのやめた方がいいさ…」
「なんで?」
「だって湯の色やベーってコレ!!白とか黄色はまだしも紫って!!」
「ああ…なるほど…でも、心配しなくても大丈夫だよ。コムイさんの実験的な何かじゃないから、コレ」
「え?」

優人は苦笑しながら、湯を少しすくってみせた。すると、優人の手のひらにのったのは、

「三色すみれか…」
「うん。今日イノセンスの実験で発芽させたんだけど…思った以上に増殖しちゃって…枯らすだけでももったいないし、湯船に浮かべていいですか?ってコムイさんに言ったら、いいよーって」

そういえば、今日はやけに風呂に花の香りが充満している…。てっきりシャンプーか何かの匂いだと思っていたが、この匂いだったのかと神田は納得した。

「だが…やはり、主のイノセンスで発芽させたせいか、変な特徴を持っておってな…」

焔も湯船を見て苦笑した。

「それで湯が三色すみれ色になっちまったってわけさね…」
「でもまあ無害やし、ええ香りやし、別にええやろ?」
「まあ…無害ならな…」

誤解が解けたところで、神田とラビも体を洗ってさっさと湯船に入ることにした。




「ふぃーいい匂いさー。これって女湯にも浮かべてんの?」

湯船を漂うすみれをすくいながら、ラビが尋ねた。

「うん。天一と天后が欲しいっていうからおすそ分けしたよ。ただ、量が少ないからこっちよりは薄い色になってると思う。こっちは白虎と朱雀が調子乗って大量に入れたから」
「うん。こっち湯の色まじでヴィオラだもんな」

最初に見たときは本当に何事かと思った。

「うーん。きもちぃー…あ、ユウ兄髪にすみれくっついてる」
「チッ!湯船につけるとくっついちまうんだよ」
「あ、俺髪留め持ってるよ。ちょっと結えとく?」
「ああ」
「騰蛇ー石鹸かしてくんねー?玄武が忘れちまったんだってー」
「桶の中にあるから勝手に使ってくれて構わんぞ」

各々自由にくつろぎ始め、白虎は上機嫌に歌い出した。

「ババンババンバンバン♪ハァービバノン♪」
「あぁせっかく良い香りなのに…ここに女の子の一人でもいたらなぁ…見渡す限り野郎ばっかさ…」
「阿呆、ラビ。こんなもん頭の中でちょちょっと脳内変換すれば混浴気分を味わえるもんや」
「いや、無理だって…周りどう見てもしっかり筋肉ついた男の子たちばっかりだから」

白虎はニヤリと笑った。

「ほんなら、優人と神田見てみぃ。湯船から見え隠れする肩のライン、湯気でうっすらと上気した頬、濡れた唇、黒い髪の下から見え隠れするうなじ、髪を撫でるたびにちらりと見えるほんのり桃色に染まった耳…!」
「あれ…それっぽく見えてきたかもしんない…!」
「せやr…」
「「ふざけんなぁぁああああああああああ!!!」」

この変態共がぁぁあああああ!!
神田と優人のダブルエルボーが二人の脳天に決まった。湯船につかっていて鳥肌が立ったのは初めてだ。

「おーい。誰か厨房行ってジェリーさんから寸胴と油借りてきてー」
「おい、焔。火ぃ出せ。こいつら五右衛門風呂で煮たててやる」
「嘘です冗談ですごめんなさい…!!」
「どっからどう見ても男の子ですよネ!!」

完全に目の据わっている優人と神田を見て、二人は慌てて弁解した。今の二人ならマジでやりかねない。

「おい…このすみれに変な効能とかねぇだろうな…?」
「えぇ?特にないと思うけれど…」
「おそらくこの二人が特殊なだけだろう。他の神将や人間は平気なようだ」

焔がさりげなく酷い結論をつけた。

「もー…せっかく良い香りになったんだから、香りを楽しもうよ…」
「冬はひのきだな」
「え、それどうゆうことユウ兄。作れって?俺に作れって?」
「こら、喧嘩するな」
「だって、焔…―――」

振り向いた瞬間、優人は言葉を失った。

「どうした?主」

神田とラビ、白虎も、ふっと顔を上げて焔を凝視した。

「ア、アバターのキャストの方ですか?」

焔の全身が、青紫色に変色していた。

「え、ちょっとどうしたの焔!!」
「ん?何がだ?」
「いや、何がだじゃねーさ!!マジでこの数分の間に別の惑星に行っちゃったのお前!!」
「何のことだ?」
「いいから自分の肌見ろ肌?」
「肌……?……………何だこの色は!」
「「気づくの遅ぇよ!!」」

優人は慌ててタオルで焔の肌を擦った。

「うわっ、タオルまで青紫色になった…!なんなのコレ!!」
「はて…我はずっと湯船につかっておって、特に何も食べた覚えはないのだが…」
「ほんなら、なんで…」
「ちょっと待つさ。ずっと湯船につかって…?」

全員がはっとヴィオラ色の湯を見て、次いで自分の手を見た。すると、つま先の方から徐々に紫色に変色し

ている。

「………全員湯船から撤退―――――ー!!」

 

――――…その後、焔のように全身がヴィオラ色になってしまった者が数名出たため、大浴場は一時閉鎖となった。
幸い量の少なかった女湯では被害者は出なかったが、このすみれを作り出してしまった優人と、それを過剰投入した朱雀と白虎は、神田や焔にこんこんと説教された。

以後、黒の教団ではしばらくの間奇妙な怪談話が蔓延した。
教団の風呂の湯船が三色に染まる時、湯の中から、湯と同じ色をした地底人が表れて教団を徘徊すると…。


+++++++
ちなみにヴィオラ色に染まった焔の肌はシャワーできれいに落とせました。
通学路にテルマエ・ロマエのポスターがあるんですが、ふっと顔を上げると毎回ルシウスの目と合う恐怖。観に来いと無言で睨まれている気がします。ローマ人怖い。

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