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俺と部室

※凍て花×黒バスパロです。


「んー今日もいい天気…」

洗濯物の向こうに広がる真っ青な空に優人は満足げに笑った。
風もあるし、今日はよく乾くだろう。

「優人くーん。アジもう網から上げちゃっていいー?」
「今俺が行くからまってて和尚ー」

お寺の朝は早い。和尚を始め、お弟子さんたちは、優人が起きる前にはもう活動を始めている。冬などは、太陽が昇るより早く起きて境内の掃除をしているのだ。
優人も、お弟子さんたちほどではないが、大体5時くらいには起き出して朝食を作る手伝いをする。野菜中心のお弟子さんたちに対して、優人の朝食は食べ盛りを考慮して、魚や肉が付く。本日の朝食はアジだ。

「いただきます」
「いただきます」

優人が朝食をとる時は、かならず和尚と一緒だ。これは、優人の両親が決めたきまりでもある。

「そういえば優人くん今日は部活あるの?」
「うん。まあ、俺は雑用するだけだけど」
「そうかい。まあ、頑張りすぎない程度にね」
「和尚は頑張ってね」
「え〜オショーさんはもう若くないしーお休みしたいお年頃なんですぅ」
「おっさんのアヒル口とかしょっぱすぎて洗濯バサミでひっぱりたくなるだけだよ」

優人の辛口コメントに、和尚は頭を垂れた。年に数回しか会ってないはずなのに、着々と彼の兄達に似て毒舌になっていくのはなんでだろうか…。

「あ、これ和尚のお昼ご飯ね。悪いんだけど、俺に合わせてお弁当になっちゃうんだけど、嫌なら適当に買って食べて」
「いいや。ありがたく食べさせてもらうよ。筍を中心とした五月らしいお弁当だね。これはお昼が楽しみだ」
「ちゃんと、お昼に、食べてね」
「…………」
「そこで黙んな」

そんな会話をしている間にも時間は流れ、つけていたテレビからおは朝占いの音楽が聞こえ始めた。

「げっ、もうこんな時間…!」
「こらこら、喉につっかえるよ?」

和尚がそう注意するが、優人は慌ててご飯をかきこみ始めた。対して、時間に余裕のある和尚は、のんびりと今日の占いの結果をみている。

「おや、優人くんの牡牛座は今日3位だね。新たな友好関係が築ける日、だって。ラッキーアイテムは木彫りの熊のキーホルダー」
「そんなピンポイントなラッキーアイテムもってるか!!」
「私が持ってるよ!」

あんたかよ。優人がそう心の中でつっこんでいる間に、和尚は茶箪笥の中からそのキーホルダーをとりだして、優人のスクールバックにとりつけた。

「よし!これで開運間違いなし!」
「東洋の占い師が言っていいセリフじゃないよね、ソレ」
「いやいや、当たったら儲けもんでしょう」
「っていうか、その木彫り鮭が熊の喉元仕留めてんだけど」
「自然界の法則が覆された瞬間だよね」
「いるか!自然界にこんな馬鹿デカイ鮭!!」
「まあまあ、貰っておきなさい。北海道に行ったお土産に買ってきたんだけど、結局君のご両親しか貰ってくれなくってねぇ…結構余ってるんだよ」

お前のお土産センスはどうなってんだ、と優人は心の中でつっこんだ。というか、母さんと父さん貰ったってことはどっかに付けてるんだろか……。

「って、こんなことしてる場合じゃない!行ってきます!!」
「いってらっしゃーい」

お気に入りのスニーカーをはいて、今日も元気に飛び出していった優人の姿が見えなくなるまで、和尚は手を振っていた。

 

 

「おはようございます、雅…監督」
「ああ…おはよう、優人。さっそくで悪いが、これがマネージャーの主な仕事だ。水分補給は大切だから、ドリンクは休憩時間に必ず合わせて作ってくれ。あとは部室の掃除や、出来ればあの馬鹿達がロッカーにためてる衣類も洗濯してやってほしい。後は試合のスコアとかの付け方とかなんだが…」
「あ、それは信兄に教えて貰ったんで分かります」
「そうか。その紙を見て、他に分からないことがあったら聞きに来い」
「はい。ありがとうございます」

優人は監督から渡されたマネージャーの仕事一覧にざっと目を通して、その中で最優先にすべきものを考える。

(休憩は練習が始まってから一時間後か…今作っちゃったらぬるくなっちゃうよね。粉タイプだから、水だけ冷やしておこう。その間に部室の掃除かな〜っていっても、前までマネージャーいたんだし、そこまで汚れては…)

そう思いながら部室を開けた優人の期待は、見事に裏切られた。
くさい。これは強烈だ。なんか酸っぱい臭いまでまじってる。床は食べカスやら、読み終えた雑誌やらが散乱して足の踏み場もない状態。しかも部員の私物があちこち適当に置かれているせいで、部屋全体がごちゃっとした感じになっている。ストレートにいってしまえば、物凄く汚い。

(あ…甘く見ていた…)

とりあえず、臭いに酔いそうだったので、部室の扉を閉めて優人は深呼吸をした。

「あ゛ー…ここまで男くさい部屋久しぶりに見たな……」

早めに来てみてよかったと、優人は溜息をついた。あと三十分は部員たちはこないだろう。その間に、この部室だけでも掃除しておかなければ。気合を入れた優人は、袖を二の腕までまくり、持ってきた三角巾で口を覆って、再び部室の中へと足を踏み入れた。

 

 

――――20分後。この日、一番最初に部室を訪れたのは主将の岡村だった。ドアノブを捻って、あの独特の男くさい臭いが漂ってこないことに、おや?と重いながらも、ドアを開けた。

「な…なんじゃこりゃ…」

思わずその場に肩からかけていたバックを落としてしまった。あの視覚的にも嗅覚的にも男くさいとしかいいようのなかった部室が嘘のように片付けられてる。床など、今ままでゴミや雑誌に埋もれてほとんど見えなかったのに、今はチリ一つ落ちていない。ウチの部室の床はこんな色していたのか。思わず岡村は床を触ってしまった。

「っちーす。おはよ…うおっ!なんじゃこりゃ!!」
「どうなってるアルか…これ…」

岡村に引き続きやってきた福井と劉も、昨日とは別室のように違う部室に、一度ドアの前でとまってしまった。

「……部屋間違ってねぇよな?」
「わしもそう思って、ロッカー確かめたんじゃが、ちゃんと名前があるんじゃ、ホレ」
「あ、ホントだ。俺のもある。ここ俺らの部室だったんだな」
「雑誌も全部本棚に収まっているアル!しかも番号順!!」
「あ!コレ、俺が探しても見つかんなかった号!!一体どこにあったんだ!?」

まるで初めて来た友達の部屋を散策するように、福井と劉があちこち見渡していると、また新たに部員がやってきた。

「おはようございま……what!?」
「どーしたの?室ちん……うわ、何コレ」
「おお、氷室に紫原」
「おはようございます、主将。…一体何があったんですか?」
「わしにも分からん。来たらこうなっとったんじゃ…」

氷室も感心しながら部室をマジマジと見渡した。

「すごい……本当に綺麗に片付いてるよ……あ、窓辺に花まで添えてある」
「この部室に花瓶なんてあったアルか…」
「よく今まで割られずに生き残ったな…」
「あっ、俺のお菓子ぜんぶこのカゴのなかに入れてくれてるー何でわかったんだろ?」

そりゃわかるだろ、と誰もが心の中でつっこんだが、口には出さないでやった。

「すごい。しかも箱のお菓子と袋のお菓子にちゃんと分けられてるや」
「よかったな、敦」
「うん。…でも、なんでレジャーシート敷かれてんだろ?」
「お前がいつも菓子をぽろぽろ零すからじゃろが」
「よくわかってんなぁ……ところでこのカゴなんだ?」

福井が指さしたのは、部室の中央にどーんと置かれた大きなカゴ。

「…?なんか紙が置いてあるね」

カゴの下にしかれていた紙をとって見てみると、そこには短い言葉が書かれていた。

『洗濯ものがあったら、このカゴに入れてください。タオルなどには、できれば自分の名前を書いていただけると嬉しいです』

そして、カゴの中にはしっかりと二本の油性ペンが用意されていた。

「……敦、君はすごい子をつれてきたね…」
「えー?」

さっそくレジャーシートの上でお菓子を食べている紫原は、不思議そうに首をかしげただけだった。
その後、続々とやってきた部員たちも、まず部室に驚き、興奮気味に部室を探索していた。そして、興奮が冷めたものから順に、洗濯物をカゴへと入れていった。


そして、部活が始まり、部室のことも頭から忘れて練習にはげみ、休憩時間に入った時、またも部員たちを驚かせる出来ごとが起こった。
いつのまにか、コートの外に、ドリンクと人数分のコップが用意されていたのだ。それには監督も驚いていた。どうやら監督も気づかなかったらしい。
その後も、部員たちが練習に戻った所を見計らって、ドリンクが補充されていたり、頼んだ洗濯が、一人一人きちんと畳まれて各ロッカーの中にしまわれていたりなど、不思議な現象が続いて、ついに、

「キャプテン!!この体育館絶対小人いますよ!!」
「………」

こんな噂まで立ってしまった。優人がマネになったのを知っているのは、監督をふくめ、居残っていたスタメンの選手だけだ。

「だって、これだけ色んなこと起きてんのに、全然姿見えないんスよ!?」
「さっき、田中がトイレ帰りに部室から出てくる小柄な黒い人影を見たって言ってました!!」
「まちがいないッスよ!小人いますよ小人!!」
「お前らの頭の中はどんだけネバーランドちっくになっとんじゃ!!福井!お前が黙ってろなんて言うからこんなことになってしまったじゃろが!!」
「ブハッ!あーははははははははははは!!!だ、だってよ…フツーここまで気づかれねぇとかありえなくね!?すげーよ、アイツ。忍者だ忍者」
「Oh!Ninja!?Woooooow!cool!!so,cool!!」
「ちょ、室ちん…!」

爆笑とまではいかないが、紫原や劉もぷるぷると肩を震わせている。誰か一人でもええからフォローしろ、と岡村が心の中で思っても、全員それどころではないようだった。しかし、ぽかんとしたままの部員たちをこのままにしておくわけにはいかない。

「あー…実は、昨日から新しいマネージャーが入ったんじゃ」
「えっ、マネが!?」
「ああ…おい、優人ーーーーー!どこにおるーーーー!!」
「ここっ!ここにいますっ!」

意外と近くから聞こえた声に、部員たちはびっくりしてあたりを見渡した。すると、紫原が見つけたらしく、ひょいっと優人を抱えて部員たちの前におろした。

「おお、優人。いたのか」
「劉の後ろではねてた」
「紹介遅れたが、これが新しいウチのマネージャーの……」
「すげーーーーっ!人形みてぇ!!」
「キャプテン!この子どこのホビット族ですか!?」

ブフォ!っと、また福井が吹き出して、後ろを向いて笑いだした。紫原と劉も限界が近いらしく、顔を真っ赤にして頬を膨らませ、吹き出すのを必死に耐えている。氷室は相変わらずキラキラした目で優人を見ているだけだ。
そうしている間にも、スタメンをのぞいた部員たちは、優人を取り囲んではしゃいだ。

「うわ、ちっちぇ〜!目くりくりしてんじゃん!」
「可愛いなー!」
「頭丸っこいなぁ、お前…」

そう言いながら部員の一人が優人の頭をなでようとしたとき。その腕を強い力で掴まれた。
ビックリして優人を見ると、地の底から這い出して来たような声で彼は言った。

「滅びの山の山頂から突き落してやろうか…」

頭を撫でていた部員は、氷漬けにされたように固まった。
優人を見て頭から花を飛ばしていた部員たちも、真冬の最中に放りだされたような顔をしている。

「ソイツに「チビ」は禁句アル」
「まあ、中等部の2年だし、そんなもんだろ」
「ようやく笑いおさまったんか、福井」
「いやーホビット族は傑作だわ。あ、ちなみに男だからな、ソイツ」
「えぇぇぇぇぇええ!?なんですか、ソレ!?」
「詐欺だ!!」
「やかましい!人のこと小人扱いしやがって!お前らが目線を下にさげないだけだ!!」
「すまんすまん。改めて紹介すんな、ウチの新しいマネになった奴だ」
「観野優人です。足技が得意です。よろしくお願いします」
「なんか名前と挨拶の間に物騒な言葉が聞こえたんだけど!?」

どうも見た目と性格の相違に部員たちは困惑しているようだ。まあ、気持ちは分からなくもない、とスタメンのメンバーは思った。黙って立っていたら、本当にお人形さんだ。

「すごいっしょー俺が連れてきたんだ」
「紫原が!?」
「拉致ったの間違いだろ!あの時俺がどんだけ怖かったと…!」
「高いとこきらい?」
「急に地面から2m浮いた状態で高速移動されたら誰だって怖いわ!」

しかも紫原はあの時俵担ぎだ。おんぶや抱っこに比べてかなり不安定な状態での移動だった。

「ごめんごめーん。それよりさぁ、あんときも思ったんだけど、優人って甘い匂いするよねー」
「甘い…?線香とか畳の匂いじゃなくて?」
「んーん。甘いー今日もなんか持ってる?」
「……駄菓子屋さんで買ったチョコと練り飴ならバックの中に入ってたと思うけど…いる?」
「欲しー。ちょーだい」
「んー」
「……順応性高っっけぇな、お前……」

早くも紫原の性格に慣れ始めている優人に、他の部員は舌を巻いた。
優人はもはや、紫原のような性格には慣れっこだ。大きい子供の面倒を見ていると思えばいい。自分の保護者は40を超えているのにこんな感じではないか。アレに比べれば可愛い方だ。サイズとしては可愛くないが。

「はい、チョコと飴」
「わーい。ありがとー優人」
「いーえ。あ、みなさんもいりますか?」
「いや、わしらはええよ…」

そういうと、紫原と優人は二人そろって練り飴をねりはじめた。その身長差約50cm。そこまで体格差がありながら、水あめを真剣に練る姿は同じというのが、ほほえましい。

「ねりあめって、めんどくさいけど楽しいよねー」
「ねー」
「主将…俺、あの子のことフェアリーって呼ぶ」
「……心の中だけにしとけ……」

かくして、スタメンを始め、部員全員に認められた優人は、正式にこのバスケ部のマネージャーとなった。しかし、基本的に部員たちが練習をこなしている間に仕事をしているため、一部の部員たちの間で、小人さんや妖精さんなどという心のあだ名が定着してしまったことを、優人は知らない。



+++++++
おまけ

元チームメイトの赤司に新しいマネのことを電話で報告しました。

紫原「赤ちん聞いてー」
赤司『なんだい、敦』
紫原「ウチに新しいマネージャーが入ったー」
赤司『へぇ、もう見つかったのかい?どんな人なんだ?』
紫原「んーとねー小人さん」
赤司『…………』
紫原「俺らが練習している間に部室を綺麗にしてくれたり、飲み物用意してくれんだー。これでもう、盗撮とかも無いともう」
赤司『……敦…大丈夫か?(頭的な意味で)』
紫原「うん。大丈夫ー(盗撮的な意味で)」

 

氷室がアメリカの師匠に今日のことを電話で報告しました。

氷室「アレックス!今日俺は忍者を見たよ!!」
アレックス『なんだって!?それは本当か!?』
氷室「ああ!新しく入ったマネージャーがそうなんだ!忍者は秋田にいたんだよ!!」
アレックス『Ohー!!Ninja!!日本人でも滅多に合うことが出来ない絶滅危惧の種族に会えるなんてスパーラッキーじゃねぇかタツヤ!!』
氷室「俺、今度影分身の術教えてもらえるようがんばるよ!アレックス!!」
アレックス『おう!あたしも応援してるぞ!タツヤ!!』

深まる誤解

拍手レス

・ジンさん≫神田「やめろ。あいつらを召喚すんじゃねぇ」

優人「ちょっとユウ兄お客様に向かって…いいじゃん。アリアさんたちがいたって」

神田「ふざけんな!アリアがいるっつーことは、六花もぜってーいんだろ!!」

優人「あー…『お姉さんもいーれーてー!』とか言ってきそう…」

神田「そんなことになってみろ、俺とお前が過労で死ぬ!!」

優人「断言したよ。えー…でもさ、破守と春告げの他のメンバーもいるってことでしょ?なら、その作品のツッコミの人たちも」

神田「いねぇよ(真顔)」

優人「破守にツッコミは…?」

神田「いねぇよ(真顔)」

優人「春告げにも…?」

神田「いねぇよ(真顔)」

優人「ごめんなさい来ないでくださいホント勘弁してください…!!」

※ちなみに焔は陽泉の警備兼用務員のお兄さん。優人と同じ村に暮らしてる。帰りが遅くなる時は送ってくれるよ!自転車で!!

・奏流さん≫ラビ「うん。何か俺も黒髪の子には親近感覚えた。あと、緑の子はユウにちょっと近い何かを感じるさ…天然系というか…普段まともなツッコミなのに、たまにとんでもない方向のボケかましてきそうな予感…」

高尾「ハイ正解ー。もー真ちゃんってば占いに関しては譲れない一線があるみたいでさー」

ラビ「あ、ユウも蕎麦に関しては譲れない一線があるんさ!!他の料理壊滅的なのになぜか蕎麦作りだけはプロ級の腕前なんさ!!」

高尾「ブッハ!やっぱおもしれーわラビさん達!!」

ラビ「え、何。俺もこみ?俺もこみなの?」



俺と電波

※凍て花×黒バスパロです。

春から夏へと変わるため、もうすぐ鬱陶しい梅雨の季節を迎えようとしていた時のこと。神田はいつものように仏頂面で、街灯がつき始めた黄昏時の町を歩いていた。隣では、ラビが愉快そうに笑っている。

「ったく、何で俺がこんな面倒なことを…大体、こういうのは警察の仕事だろ」
「まーまー、家賃が安くなると思えば、見回りなんて安いもんだろ?」

事の発端は、神田が住むアパートの大家だった。その大家は、町内会の役員も務めているらしく、会議か何かで、ここ最近、この近辺に夕暮れ時を狙ったスリが多発していると聞いたらしい。
主にターゲットとなるのは、買い物に行く主婦層から、下校途中の学生たちとのこと。周りの奥様連中から、怖くて夕方以降外に出ることが出来ないと不満の声が上がるのも時間の問題だった。
かといって、町内会の役員に見回りさせても、若者の足におじさん連中がついていけるわけがない。それに、万一武器などを所持していた場合の危険性を考えると、誰も見回りをしたがらなかった。
そこで、大家は自分のアパートに住む神田の存在を思い出した。剣道で何度も全国大会優勝を果たし、腕っ節は十分。スポーツマンとなれば、足も速いだろう。強い人間が見回りをしているとスリの犯人に知れれば、警戒して身を潜めてくれるかもしれない。
そして大家は家賃の割引を条件に、神田に見回りを頼んだのだ。

「チッ!人の足元見やがって…」

神田は、持ってきた竹刀で、苛立たしそうに自分の肩を叩く。
奨学金でなんとかやりくりしている苦学生の神田にとって、家賃の割引を出されてはやらないわけにはいかない。ただでさえ、上の兄に一緒に暮らした方がいいとしつこく誘われているのだ。

「っていうか、なんで信と一緒に住まないんさ?信さん家事得意だし、その方がラクじゃね?」

面白半分で神田の見回りについてきたラビは、前々から疑問に思っていたことを口にした。

「うぜぇんだよ、アイツ」
「……いつになったら反抗期終わるんさ?ユウ…」
「優人がいんならまだいい…だがな、あいつと二人暮らしなんかしてみろ…あの異常な愛情が全部俺にくんだぞ……想像するだけでうんざりする…」
「あー…まあ、ブラコンだもんなぁ、信……重度の」

確かに、あまり人とのスキンシップを好まない神田には重いかもしれない。そう考えると、ラビも納得できた。

「そーいや、優人は東京(こっち)こないんさ?」
「ああ。向こうの暮らしが合ってたみたいだな」

今でも定期的に旬の野菜が送られてきて、神田としては大変助かっている。この間送られてきたたけのこで作った天ぷらは久しぶりに食べたごちそうだ。

「ふーん。なんか部活やってんの?」
「バスケ部のマネやることになったつってたな。高等部の」
「何で高等部?」
「ちょうど空きが合って、そこの部員の奴に勧誘されたんだと。メールで『今日、巨人に会いました』って来た時は何事かと思ったがな」
「………なんて返したんさ?」
「『首の後ろを狙え』」
「おい」

まともな返しはしないと思ったが、これほどか。中学生にして、踵落としで薪割りが出来てしまうような鋼鉄の足を持つ優人にそんなアドバイスして死人でも出たらどうするんだ。

「大丈夫だろ。ただの巨人なら」
「巨人って名詞の前に『ただの』って付く方がおかしいから。つーか俺が前貸した漫画ネタちょいちょい入れないで欲しいさ」
「うるせぇ。貸してきたのお前だろ」

これ以上は何を言っても蛙の面に水だろうな、とラビは話題を潔くシフトチェンジする。

「ところで、そのスリの犯人ってなんか外見で特徴とかあるんさ?」
「ああ、緑の帽子を深めに被って、デケェサングラスにマスクって決まりすぎた格好だと」
「…形から入るタイプか…犯人…」
「人相書きも、顔なんか全然わかんねぇのに典型的過ぎて失笑もんだったぞ。……ちょうど真正面から向かってくるヤツみてぇに…」
「うわー…ホントに典型的な…ってアレ犯人じゃねぇ!?」
「かもな」
「いやいや、かもなっていうか、100パー犯人さ!普通あんな格好しねーって!」
「重度の花粉症の奴だっただどうすんだよ」
「その発想はなかった」
「ドロボーーーーーーーッ!!待てコラァァアアアアアア!!」
「って、ほら!なんか被害者っぽい人も後ろから追いかけてくるし!犯人だってアレ!」

見回りはじめて2週間目でようやく現れたか、と神田は顔色一つ変えず竹刀を一振りした。
ヒュッと風を切る音と共に、すっと神田の双眸が細まった。

「巻き込まれたくなかったら離れてろ、兎」
「へいへーい。俺は外野で見物してるさ」

巻き込まれずに見物できる場所へ移動すると、目の前にまで迫ったきた犯人が、道の真ん中に立つ神田に向かって、鈍色に光るナイフを振り回して突進してきた。

「そこをどけーーーーーーっ!!」

犯人が神田の間合いに入った直後、ナイフが宙を舞った。呆気にとられるより早く、犯人の喉元に神田の鋭い突きが叩き込まれ、喉に走った激痛に、犯人はその場をのたうち回る羽目になった。

「ほい。凶器と盗品確保さ」
「おい、ラビ。そのバックの持ち主の手掛かり探せ」
「へいへい…ったく、人使いが荒いさ…」
「す…すんません、そのバック!!」
「あ?」

息切れを起こしながらやってきたのは、先程犯人の後ろから必死に追いかけてきた被害者と思われる少年だった。

「それ…ちょっと……返して…ください……」
「だとよ、ラビ」
「いや、学生証の顔と全然違うさ。こいつのバックじゃない」
「何?」
「いや…それ、ダチので……アイツ、とられた瞬間……表情一つ変えず『行け、高尾!』とか……俺に命令してくるし…」

なんだか、結構自己中な友達に振り回されてんな…。ラビは会ってすぐのこの少年に、既視感を覚えてしまった。とりあえず、水くらいおごってあげよう。なんか、自分見てるみたいでつらいし。

「ほい、水。とりあえず落ち着くさ」
「うわー!ありがとございます!」

すぐそこの自販機で買ったペットボトルを受け取るなり、少年は喉を鳴らしながらそれを一気に半分まで減らした。…余程走ってきたのだろう。少年を観察していたラビは、彼が来ている学生服に目を止めた。

「秀徳高校の生徒さんなんさね」
「そうっス。俺は高尾和成っていいます」
「へぇーじゃあ、頭良いんさね」
「いやぁ、俺はスポーツ推薦で入ったクチなんで」
「何をしているのだよ、高尾」

悠然と歩いてやってきたのは、高尾と同じ制服を着た、長身のメガネの少年だった。なぜか手には、マーフィー君人形らしきものがのっている。

「何をしているじゃねーよ!自分のバックとられたくせに、なんで悠然と歩いてくんだよ!!」
「馬鹿め。お前がコンビニに寄ろうなどと言い出したからこんなことになったのだよ。今日はおは朝占いの結果がよくなかったからさっさと帰りたいという俺の意見を散々無視して…」
「あーはいはい!俺が悪かった!俺が悪うございました!!」

その間に、神田はラビに目で合図を出した。ラビは、学生証の写真と照らし合わせて、神田に頷いた。

「確かに写真と一緒さね。でも、念のため名前と誕生日だけ言って、本人確認させてほしいさ」
「……緑間真太郎。誕生日は7月7日だ」
「はい。オッケー。このバックは君のものさね」
「真ちゃんからもお礼ちゃんと言えよー。この人達が犯人倒してくれたんだから」
「いや、俺はただ見てただけさ。犯人仕留めたのはこっち」

緑間は神田に視線を移すと、軽く頭を下げた。

「……ありがとうございました」
「別に。こっちも大家に頼まれて見回りしていただけだ」
「素直じゃないさねーユウ」
「うるせぇ馬鹿兎。馴れ馴れしく名前で呼ぶな。テメェもこいつみたいに地面と感動のご対面させてやろうか?あぁ?」
「すんませんっしたぁぁあ!!」

神田に竹刀を突きつけられ、ラビは即座に謝り倒した。犯人は、さっきから神田に頭を足で抑えつけられながら震えている。よほど、あの喉に決まった突きが効いたらしい。

「ブッハ!!ちょ、おにーさんら面白すぎ!!」
「こっちは笑い事じゃないんさぁぁああ!言っとくけど、コイツはやると言ったらやる子だからね!?マジで俺地面とディープキスしちゃうからね!?」
「お、俺エンダァァァアアッて、歌いますよ?…ブフッ!」
「いやぁぁああああ!!できればその音楽は結婚式で聞きたいさぁ!!」

完全にラビをからかう方向に高尾はシフトしたらしい。どうやら、ラビの反応が高尾のツボに入ったようだ。しかし、早く帰りたい緑間は、溜め息を一つ吐いて踵を返した。

「いつまで遊んでいる気なのだよ、高尾。行くぞ」
「あ、待てって真ちゃん。あ、そんじゃ、ホントにありがとうございましたー」
「チッ、おいラビ。俺らもこいつ警察に叩きだすぞ」
「うぅ…ひどいさ…」

お互いの相棒と会話をしながら、別々の方向へ4人は歩み始めた。しかし、この時むすばれた縁は、どうやらよほど頑丈だったようで、これから度々彼らは顔を合わせるはめになるのだった。

 

++++++++

設定的な

神田ユウ(19)…秀徳高校の近くのアパートに住んでいる苦学生。別に家が貧乏なわけではないが、自立するために、生活費はなんとか自分で工面している模様。優人はそれを知っているので、定期的に寺の畑でとれた野菜を送ってくれる。上の兄より下の弟への対応の方が、比較的友好。優人も、神田が観野家に来た当初からすぐに懐いた。そのため、信の怨みがましい目線をたびたび受ける羽目になる。

ラビ(19)…神田と同じ大学に通う文学部史学科の学生。神田と大分授業がかぶっており、試験前には面倒をみてくれる。神田とは中学生からの付き合い。祖父と世界各地を渡り歩いた後、日本に定住して本屋を開いた。客から言われたさまざまな本の内容をよどみなく答えることが出来る祖父は、通称ブックマンとよばれ、読書好きの客たちからは尊敬されている。ちなみに緑間もこの店の常連。ラビが知らないのは、よく店番をさぼっているから。

拍手レス

・ジンさん≫信「よくぞ聞いてくれました…!もうね、ユウは街で不良とか目つき悪い若者見かける度に喧嘩売って、その仲裁している間に、なんか優人に鼻息荒いおっさんが声かけて『おじさんと楽しいところ行かないかい?』とか言われて『楽しいとこ?動物園?』とか優人全然危機感ないし…!」

優人「……そんなことあったっけ?」

ユウ「知るか」

信「優人はまだ5歳だったからともかく、ユウは覚えててよ!!当時小4年だったろ!!っていうか、小学生のくせになんであんなにメンチの切り方美味かったの!?どこで覚えて来たんだよ!」

ユウ「ヒント、お袋」

優人「ユウ兄、それヒントじゃない。答え」

ユウ「つーか、優人はその後どうなったんだよ」

信「連れて行かれそうになったところを俺が奪い取ったよ…もー、ホント優人は昔から変なトラブルに巻き込まれて…」

ユウ「ああ、露出狂にでくわしたこともあったな」

信「えっ!?なにそれ聞いてない!!」

優人「なにそれ覚えてない」

ユウ「帰りにデラックス肉まん買ってやったら、次の日にはすぽーんと記憶抜け落ちてた。お前の脳味噌の構造わりと単純だぞ」

優人「ち、ちっちゃいときだったからだよ!きっと…!」

信「そんなことより!大丈夫だったの!?」

ユウ「俺が『ショボ…』って言って、優人が『俺の勝ち!』って言ったら泣いて逃げてったぞ。まあ、優人が競ってたのは、マフラーの長さなんだけどな」

優人「えー…やっぱり話聞いても思いだせない…」

信(やっぱ俺の物事を注意深く見る癖は、この子たちのせいだよな…)

拍手レス

・奏流さん≫優人「拍手ありがとうございます、奏流さん」

火神「マジでびびったぜ……つーか、学校と全然キャラ違ぇし」

信「えー?学校でもわりと素を出してるよ?ただ、一年生には刺激が強いからまだ出してないだけで、二年の子たちはみんな知ってるし」

火神「あー…だから、降旗とかが先生のこと褒めてた時、先輩らビミョーな顔してたのか……」

信「あははっ、去年ばっちりしごいたからなぁ…ところで火神君、そのビミョーな顔した先輩の名前をフルネームで言ってみようか」

火神「何する気だアンタ!」

信「やだなぁ、先生のやることなんて一つしかないでしょ?教育的指導だよ」

火神「何であんたが言うといちいち危なく聞こえんだ!?」

優人「誠凛高校の行く末が心配になってきたな…俺」



ジンさん≫信「拍手ありがとう、ジンさん。ああ、黒子君?確かに目立つ生徒ではないけど、真面目に授業聞いてくれるし、特に問題はないよ?まあ、俺の場合、弟たちの世話とか見ていたせいで、自然と注意深く観察する癖がついてるからかもしれないけれど…」

黒子「先生弟さんがいるんですね」

信「うん。いやーどっちもやんちゃっ子でね、目を離したすきに上の弟は中学生相手にメンチ切りに行くわ、末の弟はうっかり誘拐されそうになるわで大変だったよー」

黒子「………先生も大概ですけど、弟さんもわりと濃さそうですね」

信「うん?どういうこと?」

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