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・夢叶さん≫信「拍手ありがとうございます、夢叶さん」
「あ、蓮さん。お疲れ様でーす」
「おーお疲れ」
スタジオの隅で雑誌読みながら待機していた蓮さんを発見して、俺は声をかけた。
八神蓮、今話題沸騰中の実力派若手俳優。最近では、ドラマや映画だけじゃなく、CMや雑誌の撮影なんかにも積極的で、こうして休憩中に話す機会も増えた。
「どーよ?信との共同生活は」
「最初は結構不安だったんですけど、全然ストレスも感じなくって、むしろ快適ッス!」
何ヶ月一緒に暮らすかもわからない不安を抱えた状態で誰かと暮らすなんて、多少なりともストレスになるだろうと覚悟していたのに、俺の覚悟はあっさり思い過ごしに変わり、今では信さんとの共同生活に楽しさを覚えていた。
「今日のお昼のお弁当もすっごくうまくて!冷めてんのにおいしい弁当ってなかなかないッスよ!」
「あーまあ、家事の経験だけは長ぇからな、アイツ」
「でも、掃除は下手ッスよね。信さん」
「アイツのしてることは掃除じゃねぇ、立体空間パズルだ。もしくはジェンガ」
たしかに…アレはどこまで物が積めるか限界に挑戦しているようにも感じる…。信さん、他の家事は完璧なのに、なぜか掃除だけは苦手なんスよね…。
でも、それ以外のことではホントに世話になってると自分でも思う。俺がいつ帰ってきても、おいしいご飯用意してくれているし、時間が合う限り、一緒に食ってくれる。制服のシャツやネクタイがいつもシワなくパリッとしてるのは、信さんが丁寧にアイロンをかけてくれているからだし、部活やモデルの仕事で忙しい俺が勉強で遅れないように、教科書のポイントとなる所を教えてくれる。
親切で時々厳しいけど、とてもいい人だ。
「ほんと、いい人紹介してくれてありがとうございました。でも、なんであの時信さんを紹介してくれたんスか?」
ずっと前から引っかかっていたことを、この機会に俺は聞いてみることにした。
蓮さんは読んでいた雑誌を閉じて、俺と目を合わせると、ぽつりと言った。
「お前を初めて見た時、似てると思ったからだ」
「似てるって……信さんに?」
蓮さんは頷く。それに俺は軽く眉を寄せた。
…誰が見ても、俺と信さんは似ていないと思う。俺はよく喋る方だけど、信さんはどちらかというと聞き上手だし、大勢でわいわいいるよりかは、親しい少数のひとたちとのんびりするのを好むタイプだ。
嗜好にしたって、信さんはバスケはもうストバスとかのお遊びに留めてるし、甘い物は俺も結構好きだけど、信さんほどではないし…。っていうか、信さんはちょっと食べすぎだと思う。この間蓮さんから送られてきたケーキも、ほとんど信さんが平らげちゃったし…。糖尿病になんないんッスかね?
「……えーっと…ざっと考えてみたんスけど、俺と信さんの共通点が見当たらないっていうか…」
「お前、わりと何でもすぐ出来ちまうタイプだろ」
ズバッといきなり切りこんできた蓮さんの言葉に、心臓が跳ねた。
「やったことのないものでも、人の見てりゃすぐに要領つかんで出来ちまうし、むしろなんで周りが出来ないのかわかんなーいとか思ってるいやみ〜ぃな奴だろ、お前」
「…………」
「信もソレだよ。お前と同じ、いや信の場合はお前より一段階上だな」
お前、勉強はソコソコだろ。
また言い当てられて、俺はちょっと視線をはずした。蓮さんに笑われた。
「あいつはな、おそらくなろうと思えばなんにでもなれちまう。軍人、医者、パイロット、弁護士、警察官、政治家、デザイナー、歌手、シェフ、経営者、スポーツ選手その他色々……オペの仕方だろうが、魚のさばき方だろうが、アイツはすぐ覚える。一度見ればすぐできる。…お前もそうだろ?」
「えっと…医者とかは俺頭良くないんでムリっすけど…魚ぐらいなら楽勝ッス…」
「フン。嫌味な野郎め」
「ヒドッ!!」
蓮さんって実は結構口悪いッスよね!?
「……昔な、あいつがまだ大学生だった頃、ちょっと知り合いの秘書が体調不良で休んじまって、代わりにあいつにその仕事させたことあんだよ。そしたらあいつ、一週間で秘書の資格取りやがった」
「……は…」
「町中で逃走中のひったくりに出くわしてそいつを取り押さえたこともあったな。柔道なんか習ったこともねぇのに。「見たことあるから出来た」って、あいつは何でもないようにさらって言ってたよ」
すっと、背中をやけに冷たい風が撫でた。
俺も、今まで人の動きをコピーして真似ることはよくしていた。でも、信さんは多分俺よりも、コピーできる範囲が広い。それはおそらく、信さん自身のポテンシャルが俺より高いから。
「お前見た時、一目で信と同種だと思ったよ。だから、こそお前を信に託した」
「……どうしてスか?同族嫌悪で終わるかもしれないのに…」
「それはねぇよ。信は基本年下には甘いヤツだし、あいつは自分のことでキレたことはない。…少なくとも、俺の前ではな…」
「蓮さーん!お願いしまーす!」
タイミング悪く蓮さんに声がかかってしまった。蓮さんはスポットライトの方へと歩いて行く途中、一度だけ俺の方を振り向いた。
「…コッチの世界はお前の想像以上に魔物が多い。まだまだ青い芽のお前にはちょっと添え木が必要だ。……潰されんなよ」
*
―――…黄瀬はマンションのエレベーターの中でぼんやりとしていた。
今日は確か信さんの方が早く帰ってくるから、きっともう夕食を用意して待っててくれている…。そう考える一方、心には蓮の言葉が、魚の小骨のように引っかかったままで、いまいち気持ちがすっきりしなかった。
「お、黄瀬じゃん」
エレベーターを降りたところで、階段を使ってきたらしい火神と鉢合わせした。
「火神っち!今帰りッスか?ずいぶん遅いッスね」
「黒子たちとマジバ寄ってから帰ってきたんだよ。今週、マジバのシェイクとチーズバーガー100円なんだぜ」
「マジで!?」
明日あたり、先輩たちを誘って寄ろうかな…と考えていると、数歩前を歩いていた火神の足が止まった。
「火神っち?どうし…っ!?」
火神の隣に立った瞬間、鼻に入ってきた異臭に、黄瀬は素早く鼻を手で覆った。横を見ると、火神も眉間に深い皺を刻みながら鼻をつまんでいる。
「……なんだよこの臭い…」
「…なんか…汗のにおいと…歯医者のにおいと、病院のにおいが混じってるような…」
「『混ぜるな危険!』って感じのにおいだったよな…」
二人は鼻を押さえながらおそるおそる足を進める。
すると、信の部屋のドアの前で力なく座りこんでる人影があった。火神たちの気配に気づいたのか、座っていた者は、膝の間に埋めていた顔をのろのろと上げた。
「なっ…夏!?」
「おー…タイガーやないの…おばんですー」
「いや、おばんですってか、何でアンタがここに…!!」
「知り合いッスか!?火神っち!!」
「先生の学生時代のダチだよ!つーか、臭っ!!顔白っ!!大丈夫かアンタ!?」
「あははー…タイガーが、さんにんにぶんれつしてみえるわ…なんやこれ」
「しししし信さーん!信さーん!!あけてぇぇぇえ!!」
ご友人の方が色々ヤバイッスーーーー!!
そう叫びながらインターホンを連打していると、ただならぬ事が起こっていると思った信が、中から飛び出してきた。
そして、火神に肩を貸してもらってなんとか立っている夏を見つけた途端、憤怒の形相で怒鳴った。
「またかこのロクデナシ!!」
「しぃーん…なんかくわして…」
「その前にまず風呂だ!!ご近所さんに異臭騒ぎで通報されたらどうしてくれんだこの馬鹿!!火神君!悪いけどその馬鹿風呂場に突っ込んでくれる!?」
「お、おう…」
「黄瀬君はこの馬鹿の服洗濯機に突っ込んで!絶対自分の服と一緒に洗っちゃダメだよ。臭いうつるからね!」
「りょ、了解ッス」
信の飛ばした指示通りに各自テキパキと動いた。
火神と黄瀬が言われたことをやり終えてリビングに来た時には、信は増えた人数分の料理を作っている最中だった。
「あ、二人ともありがとう。ごめんねー巻き込んじゃって。火神君もよかったらご飯食べてって」
「んじゃあ、もらう。…それより、あの人なんであんなところで力尽きてたんだ?」
「あいつの職場って、研究中は忙しくて自分のアパートに帰る暇もないんだよ。だから研究室に寝泊まりしながら研究続けることが多いの。で、研究に一段落つくとアパートに帰れるわけだけど……何日もほったらかしにしたアパートに食料があると思う?コンビニ弁当買うにも、あの姿で店入れないでしょ?」
「……じゃあ、まさか…」
「そのまさかだよ。あいつは毎回俺んとこに飯たかりに来るの。しかも、俺の部屋にたどり着く前に力尽きて倒れてることがほとんど。…一回、同じ階に住んでるOLさんが先に見つけちゃってちょっとした騒動になったんだよ…あの社会人になっても自分の健康管理すら満足にできない馬鹿のせいで!」
ダン!!と、まな板の上に降ろされた包丁が、魚の頭と胴体を真っ二つに割った。
「ああ!!ちくしょう!!半年以上間隔が空いてたから油断してた!!アイツの中に生活能力なんて小指の爪ほども残ってないって知ってたはずなのに!!!」
ダン!ダン!と包丁で次々と食材を切っていく信の口調は、火神と黄瀬が今まで聞いたことがないほど荒いものになっていた。
特に学校での信を見ている火神には、どれだけ被っていた猫の皮が厚かったのかがわかった。
オイ、誰だよこの明らかに堅気じゃねぇ刃物の扱いしてる奴。
「はぁ〜っ。さっぱりしたわぁ…今日の晩飯なに?」
「風呂からパンツ一丁で出てくんなっていっつも言ってんだろうが!!」
「いだっ!!」
的確なローキックが夏のむこう脛を捕らえた。
先生って、夏にはわりと暴力的だよな…。信が調理した料理をテーブルに並べながら、火神は足を押さえうずくまる夏を眺めていた。
「せ、せやかて俺の服クローゼットのいつもの場所になかったし…!!」
「半年も同じ場所に置いておくわけないだろ…ったく、持ってくるからバスタオルでも巻いておけ!!」
包丁をまな板に置くと、信は肩を怒らせながら夏の服を取りにキッチンを出ていった。
夏は蹴られた足の痛みが治まると、結局パンツ一丁の格好のまま、冷蔵庫の中を開けて、中の物を物色し始めた。
「おい、夏…先生戻ってくるまでにタオル巻いとかねーとまた先生に蹴りいれられるぞ」
「え〜せやかて、あっついんやもん…」
「湯冷めしたらどうすんだよ。ったく、これでも羽織っとけ」
火神はそう言って、自分のスポーツバックの中からジャージを取り出して夏に投げた。今日はたいして着てないから、汗臭くもないだろう。
「お〜おおきに、タイガー」
「火神っち、信さんの友人の方とも知り合いなんスか?」
信の調理を引き継いで、アジにパン粉をつけていた黄瀬は、不思議そうに首をかしげた。今日はアジのフライだ。
「夏は一回俺らの学校に見学に来たことあんだよ。そんで誠凛の練習にまじってミニゲームやったんだ」
「えっ!バスケ出来て、信さんとも知り合いって…ってことはもしかして蓮さんとも知り合い!?」
「せやせや。れーちゃんとも知り合い。あと一人千博ってのもおって、学生の頃はその4人でずーっとつるんどったんよ」
夏は冷蔵庫から冷えた牛乳を取り出し、勝手にコップについでいる。そんな勝手な振る舞いも、気心知れた友人の家だからこそ出来るのだろう。
「そういや、自己紹介してへんな。初めましてー信の親友の雨宮夏っていいますー。今はお薬作るお仕事しとります」
「ああ、だから研究とかなんとか信さんは言ってたんスね…初めまして、知ってるかもしれないッスけど、黄瀬涼太ッス」
「おう、信とれーちゃんから聞いとる。なんや大変な目にあっとるようやな。まあ、信がおったら最悪の事態にはならんから、気張り」
「……ッス…」
雑誌で見て知っている、ではなく、信と蓮から聞いたから知っていると言ってくれるのが、なんとなく嬉しかった。
「おら、さっさとそれ着ろ!」
部屋から戻ってきた信は、夏の顔面に向かって服を投げつけると、途中で放り出していた料理に再び取りかかった。
「ごめん。火神君、黄瀬君まかせちゃって…特に火神君はお客さんなのに」
「別にいい。メシもらうんだし、こんくらいはする」
「そうッスよ。信さんにはいつもお世話になってるんだし」
「……ホントごめんね」
二人とも、今時の若者にしては本当にいい子だと信は思う。あの悪友の世話をした後だと尚更。
「あとちょっとだし、火神君も黄瀬君も座ってて。あとは俺がやっちゃうから」
「おう」
「了解ッス」
火神と黄瀬が席に着くと、着替え終わった夏も席についた。
夏は信が調理に専念しているのを見ると、火神に向かって小声で話しかけてきた。
「タイガー、ほれこれテッちゃんが言っておった俺らの文化祭の時の写真とDVD」
「えっ、わざわざ持ってきてくれたのか!?」
「いや、俺も久しぶりに信の手料理食いたかったし、これはそのついでやついで」
「……サンキュ」
「ん。あとそのDVD見るには注意事項が一つあんねん」
「注意事項?」
首をかしげる火神に、夏はいたずらをするような子供の顔で笑っていた。
「おう。詳しくはケースに挟まっている紙を見てな」
「よくわかんねーけどわかった。…っていうか、前々から思ってたけどなんだよそのタイガーって」
「いや、俺関西人やし、阪神ファンやし…そしたらもうタイガーって呼ぶしかないやろ」
「意味わかんねぇよ!!」
「何々?何の話ッスか?」
「んー俺らの文化祭の時の写真とDVD。タイガーのお友達のテッちゃんが見たいゆーとったから持って来たんよ」
「夏、黄瀬は中学時代黒子と同じチームメイトだったから黒子のことは知ってるぜ?」
「あ、そうなん?」
「えっ!?信さんの!?なにそれ俺も見たい!!」
「バカッ!声デケェよ!!先生に聞こえちまうだろ!!」
「ははっ。知ったら没収確実やから気をつけてなー」
ついでに、その時は確実に夏の命も消えうせる。
「火神っち!俺にも見せて!!」
「やだよ!黒子が頼んだんだから俺らが先だっつーの!!」
「いいじゃないッスか!俺だって信さんの知り合いだし!!」
「他校のお前には関係ないだろうが!先生は誠凛の教師だぞ!!」
「別に信さんの学生時代の写真見るのに誠凛も海常も関係なくね!?」
ぎゃぁぎゃぁ、小声で言い争いを続ける火神と黄瀬を見ながら、夏は信に聞こえないようにテレビの音量を少し上げた。まあ、フライの油の音で、キッチンにいる信にはほとんど聞こえてないだろう。
そして、火神と黄瀬に目を戻すと、夏は目尻を下げた。
さっきから火神の言葉の裏には、先生は俺らの先生だ!という主張が見え隠れしているし、黄瀬は黄瀬で誠凛だけで独り占めするのはよくない!と、意地になっている。それに気づけないのは、二人の幼さゆえだろう。
(……ほんま…人気者やなぁ、信センセー…)
学生時代からの面倒見の良さは全然変わってないらしい。
きっとどの先生よりも生徒に献身的に尽くしているのだろう。だからこそ、こんなに生徒に好かれている。
「フライ揚がったよー。…何かずいぶん賑やかだったけど何話してたの?」
「いや?よう生徒に好かれる先生になったな、信」
「…は?」
片眉を器用に上げて怪訝な表情をする信に、夏はほんの少しだけ声に出して笑った。
・玲奈さん≫緑「返信が遅くなり大変申し訳ありませんでした。テニプリ…大丈夫でしたか…!?正直キャラ崩壊してないかドッキドキだったんですが…。でも、いままでに書いていなかったジャンルだったので面白かったです。拍手ありがとうございました」
・玲奈さん≫緑「こんばんは、玲奈さん。書かせて頂いたテニプリの小説をアップいたしました。キャラ崩壊していたらすいません。コミック読んで勉強しときます!暑い日が続いているので、玲奈さんもお気をつけて。それでは、拍手ありがとうございました」
「そういや越前、お前んち確か今日から親御さんいないんだって?」