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俺と巨神兵

※凍て花×黒バスパロです。


家庭科の授業で、帰りが少し遅くなった時のことだった。和尚にも分けてあげようと思って多めに作ったマフィンの袋を抱えて、俺は校門を抜けようとしていた。
言ったところでどうにもならないけど、この学校の正門って中等部から遠いんだよな…。高等部校舎の前にあるから、特に中等部の生徒は通りずらいと感じる人もいるみたいだ。

「……ん?」

校門前についてみると、何やら人だかりが出来ていて、ざわざわと騒がしかった。

(なんだろう…)

ここで、好奇心に任せてしまったのがいけなかったんだと後に俺は後悔する。
人混みの間をするりと抜けて、じょじょにその先頭へと近づいていく。そして俺は、平穏な日常の輪を断ち切ってしまう第一歩を踏み出してしまった。

「……………」

巨神兵がいた。
正確には倒れていた。
いや、そんなことはこの際どうでもいい。デッカ!何コレ本当に人間!?人間だとしても同じ黄色人種じゃないよね、絶対。だって見た感じ2m余裕で超えてんもん。こんな日本人いるわけないもん。
どうしよう。俺、今めっちゃくちゃ小人の気分。っていうか、え、この巨神兵なんで校門前で倒れてんの?復活が早すぎたの?
大混乱中の俺の脳内だったが、とりあえずみんなが校門前で思わず立ち止まってしまった理由はわかった。倒れているものの大きさが規格外過ぎて、声をかけることを躊躇っていることも。もちろん一般ピーポーの俺も例に漏れず、通り過ぎて通行することもできなければ、この巨神兵に話しかける勇気もなかった。
いや、だって、話しかけた瞬間口からあの破壊光線出されたらどうすんの。あんなの数で勝る王蟲ぐらいしか勝てない。っていうか、巨神兵って映画の中では腐ってたから全体像とかよくわかんなかったけど、完全体だとどれくらいでかいんだろう。もし巨神兵が東京都あたりに現れたら…なんて、脳内で勝手に巨神兵を首都に召喚して大混乱を起こす人々を、俺は頭の中で描いていた。

「な、なあ…あんたどうかしたのか…?」

俺の脳内で巨神兵にデイダラボッチがキャメルクラッチをしかけようとしていた時、現実ではウルトラマン並のヒーローが登場していた。あの巨神兵に声かけたよ…すげぇ…あんた勇者だよ。名前知らないけど。
取り合えず生徒A君が声をかけると、巨神兵が微かに身じろぎした。

「…の……る…」
「え?なんて?」
「お菓子の…匂いがする……」

その瞬間、俺は一切の身じろぎはおろか、その場から動くことすらできなくなった。
周りでは集まった生徒たちが「お菓子…?」「あ、ほんとだ。甘いにおいする」と、きょろきょろあたりを見回していた。
そして、全員の視線が、俺が抱えているマフィンの袋に集まるまで、時間はかからなかった。
ヤ バ イ…!
何で顎で巨神兵のいる方指してんの生徒B…!隣の生徒Cは何でさわやかな笑顔で親指立ててんの!?なんか「生きろ」って心のテレパシーで言われた気がするんだけど!!
このまま動かないと、全員の目が殺気立ちそうな気がしたので、俺は仕方なく巨神兵へと接近した。

「あ、の……」
「ん〜?」
「マ、マフィンありますけど食べま」
「食べる」

ヒィッ!言い終わる前に袋掴んできやがった。力強っ!てか、手もデケェぇぇえ…!
おびえる俺になど目もくれず、巨神兵はむくりと起きあがると、バリバリとさっきラッピングしたばかりの袋を破って、中のマフィンを食べ始めた。食うの早っ!!

「ちょーうまい。何コレ、手作り?」
「あ、えっと…今日家庭科の調理実習で…」
「ふーん。そんなのあんだー。じゃあ、アンタが作ったの?」
「まあ…」

同じ班の男子はふざけて全然協力してくんなかったし…。女子は焼き上がったマフィンにどんなデコレーションつけるかの相談に忙しくて、肝心のマフィンをいつまでたっても作ろうとしないし…。痺れを切らして作ったよ、マフィン。班の奴らちゃっかり自分の評価にしてたけどな!!

「ふーん…ねぇ、いくつ?初等部?」
「今年14歳におなりだ巨神兵」
「巨神兵?」
「…………!」

しまった。怒りでつい心のあだ名が…。
やばい…口からかめはめ波吐かれるかも…。でも、俺が無言でいると、巨神兵は興味を失ったのか、また一人でぼそぼそと話しだした。

「ふーん。中等部かぁ…ならまさ子ちんも許してくれるかなー」
「?」
「うん。この子にきーめた」

俺の脳内では電気鼠がモンスターボールの中から勢いよく飛び出してくる映像が流れ始めていた。
俺の相棒…ヒトカゲだったな…育てすぎて何回も反抗期むかえたけど…。
そんなことを考えていたら、いきなり俺の体が宙に浮かんだ。……えっ?

「………えっ?」
「うっわ、軽っ。わたあめじゃん。ちゃんと食べてる?」
「………えっ?」
「じゃあ、しゅっぱつしんこー」
「………えっ?」

次の瞬間、俺は千の風になったかと思いました。
ぎゃぁぁああああああああああ!!
高ぇぇぇえええええええええ!!速ぇぇぇえええええええええ!!怖ぇぇぇえええええええ!!
なんで地面があんな遠くにあんの!?俺この速度でココから落ちたら死ぬ!?死ぬよね!?

「お、おろ、お、お、おろ」
「おろ?」
「おろっ、おろしっ、おろしてぇぇぇえええ!!」
「えー?あと少しでつくし、だめー」
「みぎゃーーーー!」

それから俺は、心の中で必死に念仏を唱えてやり過ごした。

 

 

「遅ぇぞ紫原………って…肩になに引っ付けてんだお前…」
「敦、今までどこに行ってたんだい?」
「あ、室ちーん。俺、この子に決めたー」
「ごめん、敦…順を追って説明してくれるかな…。でも、とりあえず、その子を下ろしてあげたほうがいいね…おびえてるよ?」
「一体何したんじゃ紫原」
「俺なんもしてねーし。ここまで運んできただけだし」

また体が宙に浮く感覚を覚えて目を開けると、足が地面についていた。やった…!ただいま地上!おかえり現実!

「なんじゃい。ずいぶんちっこいのぉ」
「それで、お前はなんで紫原に連れてこられたアルか?」

振り向いたらそこは、巨人の国でした。

「ぎゃぁぁああああ!!巨神兵リターンズぅぅううううう!!」

増えてるー!なんかめっちゃ巨神兵増えてるー!何この巨人!どうすればいいの!?戦えばいいの!?弱点は首の後ろ!?そこ攻撃すれば倒せる!?

「……おい、本当に何したんじゃ、紫原」
「だから何もしてねーし。しつこいとそのアゴ捻り潰すよ?」
「なんでアゴ!?」
「えっと…とりあえず、君の名前を教えてくれるかな?」

巨神兵たちにかわって、人当たりの良さそうなお兄さんがしゃがんで俺に声をかけてくれた。あ…この人もデカイけど、あっちの3人ほど威圧感はない…。

「観野優人…中等部の2年です。その…校門前にそこの巨…紫色の人が倒れてて、マフィンあげたらなぜかココまで運ばれてきました。あの…ここどこですか…?」
「ここは高等部の体育館だよ。見ての通り俺たちはバスケ部の部員で、君を連れてきた紫の人は、紫原敦、俺は氷室辰也。ちなみにさっき君に声をかけたのは、主将の岡村先輩と留学生の劉、向こうにいるのが福井先輩だ」
「………留学生をのぞいて日本人ですか?」
「俺は帰国子女だけど…日本人だよ」

若者の日本人離れが起きている…。確かに日本人の平均身長は年々高くなってるって聞くけど…流石にここの人達は規格外過ぎるだろ。

「ホントになんで連れてきたんだよ、紫原」

さっきの氷室先輩の紹介で言われていた福井先輩が、俺を連れてきた理由を尋ねてくれた。そうだよ、俺親切心でマフィン与えただけだったのに、何でこんな巨人の国に拉致されなくちゃいけないの。

「んー。この子なら大丈夫かなって」
「何がだよ!?」
「この部のマネージャー」
「「……………………………は?」」

俺と巨神兵のチームメイトたちの声が重なった。

「だって、この部のマネージャーこの間まさ子ちんに強制退部させられちゃったじゃーん。代わりに一年がマネの仕事こなしてるけど、正直前ほど機能してないし」
「そう言ったってしょーかねぇだろうよ。前のマネは写真部に金で買われてたんだぜ?」
「だから、中等部なら平気じゃん。写真部と関わることないし、あの時間帯に帰ろうとしてたってことは特定の部活には所属してないんだろうし」
「バッカ!中等部にも写真部はあんだろ!!」
「…………そうなの?」
「……部活勧誘であったかな…そんなの…」
「えー?」
「一体何がしたいアルかお前…」

えーっと、話を要約すると、この巨神兵は俺を高等部のバスケ部のマネージャーにしたいってこと?

「敦…なんでこの子をマネージャーにしようと思ったんだい?」
「この子の作ったマフィン超美味かったから」
「それが理由かよ!?」

上級生なんてこと忘れて俺は思わずつっこんだ。しかも即答したよ今。今までのゆるい喋り方から一変して超ハキハキ喋ったよ。

「結局食いもんか…」
「そんな理由でマネにできるわけないじゃろうが」
「え〜?いいじゃん。この子にしようよ〜」
「うーん…でも敦、今でも高等部の女子生徒からマネージャー希望の入部届けが届いているんだよ?それを差し置いてこの子を選んだら、上級生と下級生の女の子同士の間に軋轢が生じるんじゃないかな?」

………爽やかな笑顔で、なんか聞き捨てならないことイワレタヨ?今。
上級生と下級生の?………女の子同士………?

「……男です」
「え?」
「俺は男です…っていうか、男子生徒の制服着ている時点でわかるでしょうが!!」
「……あ、ほんとアル。ズボンアル」
「わしらからはつむじしか見えんかったから、下はすっかり見落としてたわい」
「いやいやいや、ボーイッシュな女の子じゃね?スカートはきたくなくて、男子生徒の制服着てるとか」
「うるさい!この学生証が目に入らぬかーーーーーっ!!」

俺が付きだした学生証には、性別の所に、きっちりと「男」と記載されていた。

「………驚いた…本当に男の子だ……あっ、いや、敦に担がれてきたからその…小柄に見えて…顔も中性的だったから…」
「いいですよ…どーせ女顔で童顔であなたたちから見ればチビですから…」
「………その………本当にごめん…」

ちくしょう…さっきからなんなんだこの人達は。厄日か今日は。それとも今日のおは朝占いで最下位の上、今日はなるべく早く帰った方が吉、と言われたのにもかかわらず、こんな所で道草くっている俺に対するおは朝の呪いか。
心の中でやさぐれていると、いきなり誰かが背後からのしかかってきた。

「男の子なら問題ないよね〜。同じ男の写真盗撮したりしないだろうしー」
「ちょっ…重っ…!カビゴンかあんたは!!」
「ふふふー。のしかかりー」
「ぎゃぁぁあ!これ以上はホントムリ!!」
「こら、敦!」
「おい、一体何の騒ぎだ貴様ら!!」
「監督!」

どうやらこのバスケ部の監督さんが来たらしい。のしかかり攻撃を俺にかけていた紫色のカビゴンも、いったん攻撃の手を止めてくれた。体はがっちりホールドされたままだったけど。

「あ、まさ子ちーん。新しいマネの子連れてきたよ〜」
「は?新しいマネって………優人…?」
「雅子さん!」

カビゴンが言ってたまさ子ちんって、雅子さんのことだったのか!和尚の行きつけの居酒屋の常連さんで、俺が和尚を連れ戻しに行くとよく遭遇していた。しかも雅子さんは元ヤンで、母さんと律音伯母さんとも知り合い。

「お前監督と知り合いなのか!?」
「俺の母さんと保護者の知り合いデス」
「この学校に通っているとは柳元から聞いていたが…そういえば、彩音さんと律音さんは元気か?」
「超元気です」

今も月に二回くらいのペースでハイテンションな電話がかかってきます。そう言うと、相変わらずお元気そうで何よりだと苦笑を返された。

「しかし、マネージャーっていうのは一体どういうことだ?」
「それは、俺のことがっちり捕獲してるこの人に聞いてもらわないと…」
「ねーまさ子ちんいいでしょ?この子にしようよ、マネージャー」
「確かに優人なら信用できるが……」
「さっきから、盗撮とか盗みとか言ってますけど、そんなに前のマネージャーの人がひどかったんですか?」
「ああ、人気のあるバスケ部員の盗撮を始め、仕舞には私物まで盗んで売っていたんだ。だから、強制的に辞めてもらった」

そういえば、クラスの女の子が何人か高等部の人の写真持ってキャーキャー騒いでたけど…もしかしてあれも隠し撮りだったのかな。だとしたら、かなりの数ばらまかれたんだ…。

「はぁ…そういうことなら、警備兼マネージャーしてもいいですけど…」

雅子さんは、和尚が居酒屋に現れると、いつも俺に電話くれるし…。たまに焼き鳥おごってくれるし。その恩を返せるなら。

「やったー。よろしくねー」
「こんなちびっ子に警備任せて大丈夫アルか?」
「馬鹿、お前らより優人は数倍強いぞ」
「「え」」
「優人」

雅子さんは、持っていたバインダーを構え、俺に言った。

「蹴ってみろ」

俺の蹴りがバインダーの真ん中を直撃し、ボードは簡単に真っ二つに折れた。…ちょっと強すぎたかな…。予定では、くの字に曲げる程度にしようと思ったんだけど…。

「こいつの母親は元暴走族の総長で、今は刑事だ。長男も喧嘩では負けなしだし、次男は剣道で全国大会の常連。そんな化け物一家の末っ子だぞ、この子は。幼いころから護身術と喧嘩の戦法は叩き込まれている。余程腕に自信のある奴でもこの子を倒すのは難しいだろうな」

いまだ呆然とするバスケ部の人達に、俺は戸惑いながらも挨拶した。

「えーと……今日からよろしくおねがいします…?」

とりあえず、今日からマネとしてがんばります。


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衝動的に書き上げた作品。

設定的なもの→

▼追記
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