静寂。山奥の忘れられたような家。律はそこに、慣れたように足を踏み入れた。

家主のいない家に生気はなく、聞こえるのは外の虫の音と、軋む床の音。少しカビ臭い臭いが鼻をつく。

ふと、部屋の前で足を止める。もう何年も帰ってない。それでも迷わず彼は、思い出の扉を開くかのように部屋の扉を開けた。

そこには長年律が集めた、たくさんの本が並んでいる。時がずっと止まり呼吸を止めたような部屋に、窓という窓を開けて息を吹き込む。

静寂を壊すような生々しい空気の動き。部屋の主はそれを感じて目を細めると、ひらりと栞が落ちた事に気がついた。

「嗚呼、こりゃあ……」

自分の世話をムダにやいてくれたニンゲンを思い出す。本を読む楽しさを覚えた自分に、嬉しそうに微笑むシワシワの顔だ。

あの時は何が嬉しかったのか分からなかったが、今なら分かる事はたくさんある。

律は本を漁ると、その時の本を探して読み始めた。

彼にとって本は、時代に関係なく誰かと自分を結ぶものなのだ。


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12/魚座 静寂・栞・結ぶ