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待ち合わせ

共演/恋人

薙月麗音さん宅エイトさん
×
我が家のアルシャ


待ち合わせ

配分元*ふり†ふら

静かに揺れる木々の下。

木に背を預けて座る乙女、アルシャが歌を口ずさむ。

手元には編みかけの黄色のスカーフ。

近くには編み糸の入ったカゴ。

夏仕様なのだろう。

風通しの良さそうなデザインと、麻のような糸で出来た涼しげなそれは、勿論大好きな彼の為に一生懸命に編んでいるらしい。

風は木々だけでなく彼女の桃色の柔らかな髪も、微かに揺らした。

美しい青空と初夏の日差しは彼女に害を及ぼす事なく、ただ雲と歌と時間を流す。

アルシャは後僅かで完成するそれを完成させるべく、手を動かしながらも、頭の片隅では愛しい彼、エイトを思い浮かべていた。

サラサラの黒い髪。

意志の強い、凛とした赤の瞳。

黄色のマフラー。

忍者のような出で立ちの、端正な顔立ちの青年。

…否、彼は本物の忍者なのだが。

様々な事を考えていると、時間というモノはあっと言う間に流れる。

「やっと完成しましたっ!頑張ったかいがありますね。」

夏に間に合った事を喜びながら、ぐーと一度背伸びをする。

カゴの中に完成したスカーフを大事そうに畳んで入れ、そのまま木に背を預けて休んでみる。

優しい風が吹き、虫の声がする。

気が付いたら青空の下、アルシャは意識を手放していた。

++++++

夕暮れ時。

オレンジの光の中、誰かが自分の名前を読んでいるのが分かる。

「アルシャ。」

大好きな優しい声。

すぐに分かる誰かは“誰か”じゃなくて、今一番会いたい彼の声だ。

「…うー?エイトさぁん…。」

寝ぼけて名前を呼ぶ。

「アルシャ、こんな所で寝ていると風邪をひくぞ?」

「…エイト…さん?」

今度はちゃんと目を開け、きょとんとした顔をした後、一度目を擦る。

夢の続きなら消える筈だ。

「帰るぞ、アルシャ。」

ぽやーと寝ぼけていると、ヒョイッと軽々体が浮いた。

お姫様抱っこというこの格好に、急にアルシャは顔が赤くなった。

今度はしっかり目を覚ます。

「エ、エイトさん!!」

「この方が速い。」

「それはそうですけどっ!あの…。」

“嬉しいけど恥ずかしいです”なんて言えないまま、エイトにギュッと抱き着いた。

ふっと目に入るのは黄色いマフラー。

スカーフを思いだし、カゴは何処かと探せば、エイトはちゃんとアルシャの荷物も持っていた。

「待って下さい、エイトさん!渡したい物があるんですっ!!」

そう言ってスルリと地面に下ろしてもらうと、カゴの中から黄色のスカーフを取り出す。

「えっと、これからの季節、暑くなるので…。」

そっと差し出し、ちらりと上目遣いで伺うと、エイトは優しく笑ってくれていた。

またカァッと顔が赤くなるのが分かる。

「月の色だな。」

そう言うと、今しているマフラーをエイトは大切そうに畳み、流れるような動作でスカーフを受け取って、首に巻く。

そんなエイトを見て、アルシャは嬉しそうにギュッとエイトを抱きしめ、笑った。

そしてキラキラした瞳で言うのだ。

「エイトさんはすごいです!待ち合わせなんてしてなくても、会いたいって思った時に来て下さるなんてっ!!」

fin
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月には花を僕には美酒を


綺麗な月夜。

縁側に五本目の熱燗と僕。

つまみは菊の花の和菓子を置いてる。

仲間内から大抵非難を受けるんだよねぇ。

でも、食べるのは僕じゃなくて、お月様なのに。

少しほろ酔いで燈していた蝋燭を消せば、何とも言えない静けさと、自分の影と月だけが全ての世界になる。

「ふふっ。」

機嫌が良くなってきちゃった。

だってこんなにお月様は綺麗なんだもの。

「かんぱぁーい。」

誰に言うでもなく、空に向けて盃を掲げる。

そのままぐぐいっと飲むと、柱に寄り掛かり、ぼんやりとした思考のまま、空を見上げた。

「なんであんなに清らかなんだろうなぁ。」

僕はふふふっと笑うと、また一本、熱燗を空にした。


月には花を僕には美酒を



2010*08*09
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無限に繰り返す罪の羅列と残虐な楽譜2


ざぁぁああああ…。

途端に降り出した雨に、二人は血を流す。

正確に言えば二人の血ではなく、返り血が…だ。

「あーあ。雨降って来ちゃったねぇ。」

もう動かない者の頭に足を乗せ、つまらなそうに旋律は呟いた。

「向かって来た癖にコイツら手応えなかったし。」

その頭をボールのようにぽーんと蹴る。

それは弧を描き、壁へ向かった。

ぐちゃりと耳障りな音を発てた後、そのままずるっと赤い線を壁に描く。

「…ちょっと楽しいかも。」

旋律は無邪気に笑って、また、その頭を壁へと蹴り飛ばす。

もう一筋、赤い線が増えた。

そんな旋律の背中と壁をジッと眺め、螺旋は小声で呟く。

「僕は…正しいんだよね…?」

その一言で、旋律の動きはピタリと止まった。

「なんで?当然でしょ?」

きょとんと不思議そうな顔をして、螺旋を一瞥。

「ボク達、そうじゃなきゃ、とっくの昔に殺されてるよ。」

そう言うともう一度、赤いゴム鞠と化したそれを見て、蹴る。

「それにね。」

「それに?」

此方に振り向き、何処か真剣な面持ちで居る旋律の言葉を、螺旋は待った。

旋律はにぃ…と笑う。

「スッゴく楽しいから止められない!」

螺旋も思わず笑った。

「ふふ。旋律らしい答えだね。」

「でしょ?」

誇らしげに笑う旋律と、微笑む螺旋。

そして不釣り合いなこの赤の空間と雨。

この雨は全ての罪を流す事無く、きっとまた新たな死体を生む事になるだろう。

誰も断罪を彼等に与えぬまま、彼等は雨が止むまで笑い続けた。

fin
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クダラナイと言ってるモノ程

黄佐×緑里


クダラナイと
言ってるモノ程



ぱーんっ!!

勢いの良い平手打ち。

「最低男っ!!」

頬を強く叩かれた後は、“嗚呼またか”と冷静に動く脳味噌。

「その最低男を好きになったのはアンタだろ?」

口元だけ歪ませ、心の見えない表情で笑んで見せた。

慣れた言葉を吐き出すと、女は泣きそうな顔でハイヒールをカツカツと言わせて駆けていく。

残念。

追いかけて欲しいんだろうけど、お生憎様。

俺にはそんな主義も優しさもない。

ましてやアンタに“愛”もない。

…まぁ、正確に言えばアンタ“ら”になるんだけど。

「にしても。あの女、しっかり叩いて行ったなぁ。自分でこの顔が好きだって近寄って来た癖に。」

硝子越しに映る自分の頬が赤い。

俺は自嘲気味に笑うと、頬も押さえずに歩く。

どうせまた、軽そうな女に話かければ、適当に引っ掛かるに違いない。

この顔サマサマって訳。

早速声をかけに行こうと思ったが、今日は残念ながら予想外のヤツから声がかかった。

「おい。」

白い髪、整った気の強そうな顔。

チームメイトの緑里だ。

怒りを含んだその表情は、何処か見下したような冷たい瞳を孕んでいた。

「あ?」

俺がけだるそうに言うと、濡れて冷たいハンカチが顔に当たる。

そのまま重力に従い、地面に落ちようとするそれを、落ちる前に反射的に手で受け取った。

キッと睨み、文句を言おうとしたら、先に緑里が口を開く。

「冷やせ。」

短い一言。

そのまま踵を返し、アイツは何も言わない。

「何だよ、アンタも俺の顔を気にすんのかよ?さっきの女の事も聞かねぇし。」

嘲笑うように笑いながら付いて行く。

するとピタリと止まり振り向いた。

「何の事だか分からないな。“冷やせ”というのは頭の事だ。貴方の行いなどどうでも良いからな。」

冷たい視線で一瞥すると、また緑里が歩き出す。

「…何だよ、それ。」

俺は今度こそ立ち止まり、遠退いて行く白髪を見つめた。

女にこんな事をされたのも、言われたのも初めてだ。

更に言うなら、こんなにも俺に興味の無い女も。

俺は適当な場所に座り、ハンカチを拡げて顔を覆う。

「どうでも良い…か。…くだらねぇ。それはこっちのセリフだっつーの。」

この意味の分からない感情を抑える為に呟く。

数日後。

気が付いたら彼女の言動を気にし、他の女の事がどうでも良くなった俺がいた。


fin

++++++
追記にアトガキ
2010*06*01/完成
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