スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

その一瞬は永久になる

霜月いびるさん宅の姫咲さんと、ミウさん宅のかんろさんと、実波海都さん宅の勒さん、お借りしました!
++++++

本だらけの律の部屋。

それは食堂に本を少しづつ移動しているとは言え、まだまだ山積みにされている。

寝る為と本を読むだけに用意された、宝部屋。

しかしつい最近、本以外にもう一つ、確かに宝物が増えている。


++++++


部屋の一角。

本棚と窓の間のそこだけやけに綺麗に本が無く、写真が数枚飾られている。

飾れない写真も大切そうにブリキの缶に入れて仕舞ってあるのは、それこそ誰にも内緒だ。

律は部屋に鍵を閉め、写真を眺める。

右に姫咲が穏やかに微笑んで、左にかんろが薄く笑っている。

真ん中にいる律は一人だけ、緊張したようにぎこちなく笑っていて、それが何処か可笑しかった。

「姐御にはごまかしが利かねぇし、かんろはかんろだし。」

あの日の事が写真を見ると、鮮明に思い出せる。

姫咲に好きな人が居る事が悟られてしまったり、かんろにからかわれたり、律にとって、かなり濃密な日だった。

口元が緩む感覚を感じながら、生まれて初めて撮ってもらった写真を見て、胸がじんわりと温かくなる。

二枚目には写真を撮っていた勒が映り、姫咲が抜けた三人で写っているのだが、それもまた平和そのものだ。

「勒兄、くっつき過ぎだっての。かんろも楽しそう。俺、一人慌てた顔してるし。」

思い出してクスクス笑う。

かつて、祖母や長以外と、こんなに温かい時間を共にした事があるだろうか?

里を出た後も、人になる事の出来ない妖怪の律はやはり異端で、妖怪だと晒した後にこのように温かく接してもらえる事は、今まで無かった。

「怖いくらい、幸せだな、今。」

ぽたりと床を濡らす何かが落ちた。

それが涙だと言う事に気が付くのに、時間はかからなかった。

乱暴に裾で拭う。

幸せすぎて泣けると言うのは不思議だ、なんて頭の隅で律は思った。


その一瞬は永久になる
(支えてくれる仲間の温かさを知る)

続きを読む

それでもアンタが好きだから

紀伊聖夜さん宅の薄さんをちょっとお借りしました。
++++++

救護室。

俺はちらっと時計見た。

空は青く、海は藍。

雲の様子から見て、何と無く“雨は降らねぇな”、なんて考えてたんだが、生憎俺に気象予報なんて出来る筈もない。

「…飯の時間。薄はいつも通りに見張り台に居るのかねぇ。」

そこまで口に出してはっとする。

無意識って怖ぇ…。

周りを勢い良く見回しても、幸いからかいそうな奴所か、人一人居ない。

俺はお昼時という時間にほんの少し感謝して、誰に聞かれた訳でもねぇのに独り言で、精一杯否定した。

「いや、断じて俺が会いたい訳じゃない…断じて。」

だが、別に薄から“会いたい”なんて言われた事なんてねぇし、俺が事実、勝手に通ってるだけなんだよな…。

自分で考えて、ちょっと凹んだ。

やっぱり俺が一方的に会いたいんだろうか…。

…。

……。

………うっせーよ!

分かってんだよ…俺が会いたいんだよっ!!

クソ!!

女々しい自分に腹がたつ。

おあいにくさま、ジメジメしてんのは、真っ平ゴメンなんだよっ!!

何かと理由を付けて会いに行くのが、何が悪い!!と、悪いが開き直らせてもらう。

「薄の野郎、自分の事より仲間の事を大切にしやがるから、見張り台に居るのを今日も無理矢理連れ出す。うしっ!」

本日の目標を言うかのように高らかに呟いた。

「待ってろよ、薄!!」

とりあえず、他の救護係が帰って来んのを待って、今日も交換で飯を食いに行く事にする事に決めた。

真っ直ぐと向かう先は、当然薄だ…なんて、誰にもぜってぇ言ってやんねぇ。



それでも
アンタが好きだから

今日もこっそり迎えに行く
続きを読む

月蝕恋歌

紀伊聖夜さん宅の薄さんをお借りしました!
++++++

小さな部屋にあるのは本棚と机。

ベッドなどなく、ただ窓から漏れた月明かりが、調度美しく照らすヶ所に、白い敷布団が置いてある。

元々物置部屋だったこの場所は、扉以外の場所を天井までの本棚で囲われている。

物置部屋だった為、底抜けしないような設計になっているのが、律にとっては好ましかった。

今や足元は本だらけで、足の踏み場もない。

そこに住む住人は、今宵は本を開いた侭、ただぼんやりと天井を見上げ、床に転がっていた。

薄へと向かう思い。

この思いを、何と例えば良いのだろうか、と考える。

苦しくて胸が締め付けられるようなこの感情の行き先は、ただ一カ所にしか行き着かなかった。

最初はそれこそ、怪我をしても全く救護室に来ない薄が、ただ単純に気になっただけだったのが、今ではこんなにも、律の心を振り回すモノになっている。

あの茶金の髪を解いて結ぶ仕種も、優しい声音も、面倒臭がりでも真面目に仕事する所も、知れば知る程、愛おしさと胸の痛みが増すだけだった。

(俺はこんなにも好きだ。だけどアイツは…薄は俺の事を、何とも思っていない。)

分かってはいるのだ。

真剣に考えてくれる、その一言を聞けただけでも有り難いと、思うべきだと言う事も。

ましてや自分は、変わった毛色の所為で里を追い出された妖怪。

同じ覚に恋をするなら分かるが、追放された同胞の行方など知らないし、他の種族の妖怪や人間になど、恋をしても不毛な事くらい分かっていた。

今までそんな自分は恋などしてはならないと、制御し、人を遠ざけ、慎ましく生きてきたつもりだった。

…そのつもりだったのだ。

それが簡単に恋に落ち、勝手に望み、勝手に思い、勝手に幸せを願う。

ただでさえ不毛なのに、男を好きになるなんて、救いようもない。

最早、願う幸せは、果たして誰の為の幸せか。

相手の為を思っている…と言いながら、己の幸せを願っているのかもしれない、と考えて、律は自重気味に笑った。

「自分勝手、自己中、我儘…。俺、最低だな。」

読みかけの本に栞を挟んでぱたりと閉じた。

どうせ昨日から頁は進んでいない。

真剣に読まないのは、作り手に失礼だ…と言い訳をし、布団の中で丸くなる。

そのままぼんやりと、宙を見ていた。

無に近い脳みそで、ふと、何処か遠い国の神話を思い出す。

太陽と月を追う二匹の狼の話だ。

二匹はそれぞれ、太陽と月を覆ってしまおうと追いかける為、朝や夜は来、やがては月食や日食を起こすという。

「月…か。」

あの茶金の髪を思い出し、呟く。

追いかけても追いかけても、辿り着きそうにない…という点では、とても類似しているような気がした。

その腕を掴んでも、決して距離が縮まる事はなく、彼に己の言葉が、心に届いているのか、それすらも分からなくて、もどかしい。

苦しくて、苦しくて、藻掻く自分を、覚の本能が「全て勝手に見てしまえよ」と嘲笑う。

それでも暴かないのは、彼が彼を愛している故だった。

律が様々なニンゲンらしい感情に、戸惑いを感じているのは確かだ。

「…船に、乗らなければ良かったか?」

苦笑気味に自分に問い掛け、首を振って、瞳を閉じた。

聞かないようにしていても、聞こえる程の強い“声”は、今日も彼からは聞こえない。

まだ投げられた目が見えない賽を思いながら、そのまま眠りに付いた。


月蝕恋歌
(気が付けば月に蝕まれている)

それぞれの思い


前川さん宅の蛍花さんをお借りしました!
++++++

簓は蝉時雨が降り注ぐ森の、一番高い樹に居座っていた。

それは周りの樹から飛び抜けて大きな樹で、森を一眸(イチボウ)出来る唯一の樹だ。

何の変哲もない他よりちょっとだけ高い樹だが、彼女にとって、理由は分からずとも何故か足を運んでしまう場所だった。

夏の熱気を森の木々は和らげ、風は幾分涼しい。

心地好い風に吹かれながら、ただ青い空に浮かぶ白い雲が、静かに流れて消え逝く様を見つめる。

「儚い…?哀しい…??」

誰かが“雲は儚いモノ”だと言ったが、口にしてみても分からない。

「雲…もふもふしてそう。…美味しそう。」

そのままぼんやりと見つめ続けていれば、時間だけがさらさら流れていった。

頭上に昇った太陽を簓がまだ、微睡(マドロ)んだ瞳で見ている。

そんな中、その瞳がしっかり開いたのは、人の声がしたからだ。

「女の…子?」

ちらりと木の上から下を除く。

灰の髪の少女はちょこんと地べたに座り、誰かに向かって話していた。

興味がない…と言えば嘘になる。

少しづつ、少しづつ、樹から下りて行くと、彼女が花に話しているのだと分かった。

「あのね、今日はね、いい事があったんだよ。」

花に話している彼女の表情は、心なしか穏やかに見える。

花なんてすぐに枯れてしまうモノの象徴だ。

簓はまるで友達相手のように話す、彼女が不思議で堪らなかった。

「お花と…話してるの?」

思わず口に出してしまった、純粋な好奇心。

二人の目と目が合う。

少女が驚いているように見えた為、簓は樹の下に軽やかに下りると、深くお辞儀をした。

「全部は聞いてない。えっと…でもごめんなさい。私、簓って言うの。貴方のお名前は?」

下げていた頭を上げ、伺うようにじっと、簓の青い瞳が彼女を見つめる。

「私は…蛍花だよ。蛍に花と書いて、蛍花って読むの。」

「蛍花…。うん。綺麗な…お名前だね。」

教えてもらった名前を口に出し、うんうんと頷く。

彼女の髪が風邪に揺れる。

蛍花を見ていると、その白い肌は雪のようで、夏の暑さに溶けてしまいそうだ…と感じた。

「…隣、座っていい?」

伺うように、そっと言う。

「…うん!」



それぞれの思い
(彼女と居れば“儚さ”を好む意味も知れそうな気がした)

拗ねた唇に

流さん宅姫愛さん
×
我が家のワーヒド


「よっ…と。」

いつものように窓から不法侵入を働き、ワーヒドは姫愛の部屋に入った。

不法侵入…と言いつつも、部屋の鍵が開いてるという事は、姫愛が開けておいてくれたに違いない。

それが嬉しくて、毎度空を飛んで来てしまう。

ワーヒドは愛しい彼に構ってもらおうと、姫愛に甘えに行こうとした。

…なのに、だ。

どう見ても忙しそうな彼の背中を見たら、なんだか行くに行けない。

「姫愛ぁ、来たよ。甘えに行って良い?」

一応確認。

もしかしたら“良いよ”の一言が来るかもしれない。

「今忙しい。」

淡い期待を乗せて言うが、机に向かう姫愛の目が此方に向く事はなかった。

「つれない。」

思わず、唇を少しだけ尖らす。

もう一個ある椅子の背もたれを前にして座り、脚をぶらつかせるワーヒドが目の端に映る。

そのふて腐れた顔を見て、小さく溜息を吐いた。

姫愛はゆっくり椅子を立ち上がる。

「ワーヒド。」

呼ばれて上を向いたワーヒドの唇と、姫愛の唇が重なる。

途端にワーヒドの顔が真っ赤になった。

感極まったのか、震えるように声を出す。

「ひ、姫愛ぁ。」

もう一回、そうお願いしようと姫愛を見る。

「後もう少しで終わるから。」

その言葉に嬉しそうにワーヒドは笑った。

「分かった。じゃあ、いい子で待てたらくれる?」



(キスなんて卑怯!)
(機嫌も治っちゃうじゃん。)
ふりる†ふらくたる
前の記事へ 次の記事へ