スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

それぞれの思い


前川さん宅の蛍花さんをお借りしました!
++++++

簓は蝉時雨が降り注ぐ森の、一番高い樹に居座っていた。

それは周りの樹から飛び抜けて大きな樹で、森を一眸(イチボウ)出来る唯一の樹だ。

何の変哲もない他よりちょっとだけ高い樹だが、彼女にとって、理由は分からずとも何故か足を運んでしまう場所だった。

夏の熱気を森の木々は和らげ、風は幾分涼しい。

心地好い風に吹かれながら、ただ青い空に浮かぶ白い雲が、静かに流れて消え逝く様を見つめる。

「儚い…?哀しい…??」

誰かが“雲は儚いモノ”だと言ったが、口にしてみても分からない。

「雲…もふもふしてそう。…美味しそう。」

そのままぼんやりと見つめ続けていれば、時間だけがさらさら流れていった。

頭上に昇った太陽を簓がまだ、微睡(マドロ)んだ瞳で見ている。

そんな中、その瞳がしっかり開いたのは、人の声がしたからだ。

「女の…子?」

ちらりと木の上から下を除く。

灰の髪の少女はちょこんと地べたに座り、誰かに向かって話していた。

興味がない…と言えば嘘になる。

少しづつ、少しづつ、樹から下りて行くと、彼女が花に話しているのだと分かった。

「あのね、今日はね、いい事があったんだよ。」

花に話している彼女の表情は、心なしか穏やかに見える。

花なんてすぐに枯れてしまうモノの象徴だ。

簓はまるで友達相手のように話す、彼女が不思議で堪らなかった。

「お花と…話してるの?」

思わず口に出してしまった、純粋な好奇心。

二人の目と目が合う。

少女が驚いているように見えた為、簓は樹の下に軽やかに下りると、深くお辞儀をした。

「全部は聞いてない。えっと…でもごめんなさい。私、簓って言うの。貴方のお名前は?」

下げていた頭を上げ、伺うようにじっと、簓の青い瞳が彼女を見つめる。

「私は…蛍花だよ。蛍に花と書いて、蛍花って読むの。」

「蛍花…。うん。綺麗な…お名前だね。」

教えてもらった名前を口に出し、うんうんと頷く。

彼女の髪が風邪に揺れる。

蛍花を見ていると、その白い肌は雪のようで、夏の暑さに溶けてしまいそうだ…と感じた。

「…隣、座っていい?」

伺うように、そっと言う。

「…うん!」



それぞれの思い
(彼女と居れば“儚さ”を好む意味も知れそうな気がした)

空虚


+++++++

暗転した世界。

漆黒の闇の中、ただ独り歩く。

とは言え、其処には何もなく、本当に歩いているのか、それとも留まって居るのかというのは、本人さえも分からなくなるくらい、静寂に包まれた空間だった。

やけにくっきりと映し出されている彼女は、怯えながら進む。

彼女には、分かっているのだ、この後の展開が。

ずっと真っ暗の中歩かされて…その後は大量の手に首を絞められる。

今宵も何ら代わり映えの無いラインナップだった。

いつものように締め上げられ、骸骨の女と目が合う。(と、言っても目は既に腐り落ち、存在しないのだが、不思議と簓は目が合ってると認識している)

そして彼女は薄ら笑って、何かを言うのだ。

ほら、今日だって彼女の口元に目が行く。

「貴方は××××××××。」

それは何処か懐かしい声音で…。


++++++


「………朝?」

窓に目をやる。

外では小鳥の、ちゅんちゅんという囀りだけが、聞こえた。

まだ空は明けきっていない。

簓はぼんやりとそのまま天井を見て、いつものように思い出せない夢を思い出そうとした。

空虚
(また夢の中では見る度に思い出し、現実では何も思い出せずに、毎夜悪夢を見続ける)
前の記事へ 次の記事へ