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ソメイヨシノは泣く

歌奈+唄の過去話


一族総出の宴。

今宵の主役は美しく舞う。

金の髪は舞と共に滑らかに動き、風に揺らいだ。

曲がピタリと止まり、女性が舞を終えると、拍手が起こった。

一度だけお辞儀をし舞台を降りると、彼女の周りを人が囲う。

彼女は作り笑顔で対応し、逃げるように酒の席から抜け出した。

月の出ていない夜、その身を潜めると、息をそっと吐き出す。

「…忌ま忌ましい奴らっ!!」

ダンッ!と音を発てて樹を殴れば、淡い花びらがゆらゆらと落ちる。

それが桜の華だと気が付いたのは、ひゅうっと強い風が吹いたからだった。

「ソコで何をしてるの?」

ちらりと横目で見れば、小さな小鳥が居る。

彼は愛らしいボーイソプラノで囀った。

それは良く知ったチルットだった。

「…唄。」

次の瞬間には彼は人の姿になり、くりくりとした黒の瞳で彼女を見つめる。

「門出祝いの主役なのに、行かなくて良いの?」

「アイツらは嫌いだから良いの。」

ふんっと鼻で笑う歌奈に、唄は「相変わらずだね。」と笑う。

歌奈はそんな従兄弟の頭をくしゃりと撫でた。

「…歌…奈?」

撫でられた唄はきょとんとした顔をする。

「元気でいなさいよ?」

その手を離し、苦笑気味に笑う。

歌奈はそのまま背を向け歩き出すと、「付いてきちゃ駄目よ?」と言った。

唄は少し不思議そうに首を傾げつつ、一度頷き、彼女を見送る。

途中、ぴたりと足を止めた。

くるりと此方を向いたのは分かるが、距離と月が隠れた空ではどんな表情かは解らない。

「お前は奇異の目で見ないから、意外に気に入っていたわ。」

まるで一生会えないかのような口ぶりに、「別に一生会えなくなる訳じゃないのに…。」と唄が不思議そうに言う。

彼は金の髪が見えなくなるまで、その場に佇んでいた。

…唄が大人達から“もう歌奈は帰って来ない”と聞いたのは次の日だった。



ソメイヨシノは泣く
(独立、の時)



あの時彼女がどんな表情をしていたのか、もう知る術は無い。


2010*11*05

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