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明けない夜はないのです

紀伊聖夜さんの薄さんをお借りしました!
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昨夜、薄がふらりと出ていく所を眠気眼で律は見た。

ごしごし目を擦る。

船を下りたのは、見間違う事はない愛おしい人−薄だった。

その姿を一生懸命追いかけるも、薄の影は暗闇に溶けてしまった。

遠く離れてしまった背中に寂しくて、そのままとぼとぼ歩いた。

「朝まで帰って来る…よな?」

今はこの国の停留所にいても、今日の昼には船は出発する。

「もし、帰って来なかったら…それだけは……嫌だ。」

律はそれだけ呟いて、夜の町を走った。

勝手な自由行動は輪を乱す行動だ。

船長にバレたら、罰を受けるかもしれないし皆に迷惑をかけるかもしれない。

何だかんだで規律を守る、律らしくない行動だった。


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行く宛てもなく探していると、明かりの点いてる場所が見えた。

むせ返るような酒の香りも、香水や香炉の香りが混ざる場所も、とても好ましいとは言えない。

そのざわめきも、普段なら避けて通る物だろう。

それでもその店通りを通る。

もしかしたら薄は居ないかもしれないし、船に帰ってるかもしれない。

それでもそこに居る可能性があるなら、と足を進める

そこにはなんとも趣味の悪い店しかなく、下品な色味で染まっていた。

女は春を売り、道端では薬を売っている。

覚悟はしていたが人の心が澱んだ空気を感じながら、薄を探す律が何かに躓きそうになった。

律は軽く体制を立て直すと、足を引っ掛けた男をじっと睨む。

「何のようだ?この道、通りてぇだけなんだが。」

「いや、兄ちゃん見ない顔だし、ちょっと挨拶しようと思ってなぁ。」

ニヤリと笑った黄ばんだ歯は、何本か抜けていて汚く感じた。

そしてこういう奴が頭がイカれている事を経験上知っている。

「面白い髪色…おや?肌も白くて、顔も悪くないじゃないか。」

ブツブツ一人呟いている男に、眉間にシワが寄る。

「俺はアンタと仲良くする気ねぇし、時間もねぇんだけど。」

「…うっせぇなぁ、お前に無くても俺にはあんだよ!」

男がワインの瓶を投げてくる。

近くの女がキャア!と悲鳴を上げたの聞きながら、律はそれをさらりと避けた。

「お生憎、金持ちの玩具になるつもりも、お前の商品になるつもりもねぇんだよ。」

「話が分かってんじゃねぇか!」

「…黙れクズ。アル中で薬中でダルマが俺に勝てるとでも?」

こうやって言えば男が殴りかかって来るのは、分かっていた。

それをひらりと交わし受け止めた後に放り投げる。

男の身体は円を描き、地面にたたき付けられた。

男が立ち上がる前に首筋に小刀を立てる。

それが余りにも鮮やかだったからか、それとも恐怖からか、男の体は動かなかった。

小刀は肌を傷付け、血がぽたりと地面に落ちた。

「いくらお前でも分かるよな?ここ、頸動脈っての。ここ切ると死ねる訳。死にたくないなら素直に答えろ。茶金の髪の奴、見なかったか?」

男が小さく見てないと言った。

それに嘘はない。

「そうか。ありがとうな。」

律が無表情に立ち上がる。

男も立ち上がろうとするが、身体が動かない。

「小1時間くらいは動けねぇよ、バァカ。」

律は男に舌を出しながら、観客達のざわつく人混みから逃げ、仕方がなく船で待つ事にした。
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