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世界を、愛していたかと問われると、分からない。世界に愛されていたかもどうかも。一瞬、そうほんの一瞬。幸せを夢みた事がある。普通の家、両親がいて兄がいて姉がいて、自分もそこにいてもいいと、肯定されるのを、夢見ていいのかもしれないと。

けれど結局世の中は残酷で、僕の命は悲しいくらい呆気なく散った。宝石だと間違われた野党に、お腹のコアを傷つけられたらしい。

死体になりそうな僕を何度か蹴った野党は、金目になるものがない事を調べて飽きたのか、その場を去った。

ふっと目を閉じた瞬間、声が聞こえた。

「やりそびれた事はないかい?……私はしっかり聞こえたよ。君の声が」

声はもう出ない。けれどそっとひんやりとしたモノが抱きしめた。

「君を私の箱庭へ案内しよう。なぁに、心配ないさ。そこはみんな幸せな世界。君の望む通りの配役で楽しく好きなように生きていけばいい。君はギニョールらしく、夢の住人でいてくれればいいのだから」

言っている意味は分からなかった。

けれど僕は最期の微睡みの中で、しっかり感じる。痛みもない、苦しさもない。ただただ安らかな安堵を。

「一ニ三(ウタカネ)様」

赤い髪の毛の、赤いフードを被った少女が彼女を呼び止める。

「なんだい?更衣(ワタヌキ)」

不思議そうに小首を傾げる。

「少女趣味なのはご存知ですが、其方の少女にもお姫様だっこですか?」

ムスッとしたモノいいに、思わず一ニ三が笑う。

「何がおかしいのですか!」

「いや、なに。ヤキモチ妬かれるとは思ってもなくてね」

そういう一ニ三に更衣は余計に顔を湯気が出そうな程、赤くして怒る。

「そんな訳ありません!!」

一ニ三はああそう?といつものように流した。

「さて。この子の新しい名前はどうしようか」

更衣がほてほてと後ろを付いて歩く。その更衣をひょいっと持ち方を変えて、二人を抱っこする形をとりながら、一ニ三は、うん、と声を出した。

「金の髪が美しいから、君は砂金(イサガネ)だ。どうか死後の世界では幸せに」

そういうと、風が吹いたと同時に三人は消えた。残ったのは、フルビアだったモノ、ただ独りだった。