セレネとヘリオスの者が世界の記述を集め、エオスの者が本にする。
そうして作り上げた図書館は膨大な量で、探し物一つするにも大変だ。
ヘリオスのトップのクラエスはそんな本の山に飽きて本棚にもたれ掛かると、大きな欠伸を一つした。
「全く、クラエス様は。暇そうにするなら手伝って下さい。先日の宝物の関連の書物を探したいって言ったのは貴方でしょう?」
飽きれたように言うローレンツに、子供のように唇を尖らせる。
「そんな事言われてもさぁ。」
正直お世辞にも可愛いとは言えない。
そんなクラエスを無視をしつつ本を漁っていると、暇そうな口ぶりで上司は言った。
「ねぇ、ローレンツ。恋とかしないの?」
「へ…!?」
いきなりの問いに素っ頓狂な声を漏らした。
危うく本を落としそうになったが、この上司が暇そうにしている時に深い意味がある事を呟く事は少ない。
今日のこの発言も恐らくそうだと、すぐに理解出来た。
「僕は恋愛よりも研究一本の人生を歩んできましたので、面白い話は全く期待出来ませんよ。」
そう冷静に言って本をめくっては戻す。
「ふーん。つまらない。」
すぐに興味は失せたらしく、またクラエスは欠伸をした。
「…そもそも何故俺達は異端なんだと思う?」
「さぁ?白羊の中の黒羊は悪目立ちするってだけの話でしょう。」
ローレンツの答えに、クラエスはクスッと笑って天井を見る。
「でも今僕達が住むのは黒羊の群れだよ?共存する手立てを探さなくても、このまま生きて逝けば良いと思わない??」
クラエスの顔を見る。
今度は幾分真面目な表情をしていて、ローレンツと目が合えばにこりと笑った。
「…それが出来ないと感じているから、僕達は故郷に帰る手立てを探しているのでしょう?」
手に持っていた本を戻し、呆れたように呟く。
そもそも見た目が若いクラエスだが、一体幾年生きてきているのか予想も付かない。
他に意図があると仮定して考えていると、ふと遠くの方から声がする。
「ローレンツー。」
振り向けば意気揚々としたクラエスが、笑顔で大きく手を振っていた。
「ちょ…クラエス様っ!」
「いやぁ、ローレンツは考え事をすると視野が狭くなって良いね!じゃあ調べ物よっろしくー。」
「そんな殺生なっ!!」
引き止めようと伸ばした手は行き場を失い、ぱっと消えてしまった上司に肩を落とす。
彼のあまりはっきりと注意が出来ない温厚な性格は、良い所でもあり悪い所でもある。
図書館をぐるっと見渡すと、あまりに膨大な情報量に溜息を吐いた。
「…やるか。」
溜息を吐いて肩を落としているだけでは仕方がない、と作業を再開した。
桃源郷は見当たらない
2013*04*04