プラリネ
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太陽が昇り切らぬ朝。
隣の見ず知らずの他人を置いて、素知らぬふりでチェックアウトする。
いろんなモノを買って貰ったし、財布から現金も頂けたとなれば、もう此処には用事がない。
下品な話しだが、向こうもやる事が終わればそれで満足だろう…とプラリネは考えた。
「この時計や宝石、売ったらいくらになるんだろう。」
貰った金の腕時計は、指で摘めば小さくシャランと音を発てた。
美しい飾りの施された時計。
歩きながら一通り眺めた後、コートのポケットに入れ直す。
その瞳は何処か寂しそうに揺れた。
後ろを一度振り返る。
勿論、そこに追ってくる人影など無い。
プラリネはまた前を向き、歩き続けた。
「…本当は……願ってるのかも知れないな。…誰かに愛される事……否、」
俯いた顔と、長い睫に縁取られた瞳。
ふぅと息を吐き出せば、冬の訪れを知らせるかのように、白い息が吐き出された。
「ほんの一時。それだけの安息で、十分。…それ以上は、望まない。」
そう言うと朝もやの中、彼は立ち去った。
ミヤコワスレは去る
(また会う日、まで)
「また会う事はないけれど。」
ユーリ
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河原に一人、ぽつんと座る乙女。
彼女の手に持つ黄色い菊の華が揺れる。
「くだらない恋もしたものね。」
俯きながら強がりでポツリと呟いた言葉も、風に吹かれては虚しく消える。
途端に寂しい気持ちでいっぱいになった。
ユーリにすれば本気の恋。
けれど、…向こうからすれば、遊びの恋だったのかもしれない。
ユーリはまだまだ未成年。
一方向こうは成人男性。
思えば少し背伸びをした恋だった。
「…それでも好きだったんだから、仕方ないじゃない。」
やっとの事で呟いた言葉。
それが全ての形だったような気がする。
僅かな愛。
微かにももう感じない愛。
菊は朽ちる
(破れた恋を)
2010*11*18