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愛を込めて

紀伊聖夜さん宅の薄さんをお借りしました!
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愛を込めて


律は一人だけの救護室で、ひっそりと指を動かしていた。

手元にあるブランケットは薄宛てで、完成間近である。

本来女性がやる事であるそれは、ものすごく恥ずかしく、誰も来ない時間の救護室や自分の部屋で作業は内密に進められていた。

ふと“好きな人を想いながらマフラーを編んで”という何かの本の一文を思い出して、何度も頬を赤らめる。

“違うとしたら自分が男で妖怪って事だ”…なんて考えながら、最後の仕上げをして、余った毛糸をちょんと切った。

「どうせだったら可愛い女のが良いよな…俺じゃなくて。」

一般的な解答に苦笑する。

律は可愛くもなければ女でもない。

当然ふくよかな胸もなければ、柔らかそうな尻もない。

“せめてもう少し可愛い言い方が出来たら、少しは心を動かして貰えるかもしれねぇのに”なんて甘い幻想。

“それでも、一瞬でもこっちを見て貰えるとしたら…。”と考えて、これまで過ぎった思考に舌打ちをした。

「…あー…クソッ……。」

否が応でも種族とか性別だとか関係なく、薄だから好きなのだと再確認をさせられる。

勢い良く机に突っ伏して、うなだれた。

「…渡すにしても…必要ねぇかもなコレ。」

そんな事を言いながらも、その体制のまま悩内で言うべき言葉を考える。

もしまた何も考えずに言ったなら、ついて出るのは良からぬ台詞だろう。

最悪の場合、そのまま勢いで海に投げる可能性だって否定出来ない。

薄以外の人間に何を言われても気にしない癖に、薄に対して臆病でいる、らしくない自分に溜息を吐いた。

ブランケットに視線をやると、そっと抱きしめてみる。

始めて作った割には中々上手くいった方だろう。

「温い。」

そう呟いたとほぼ同時に、桃色の塊が救護室のドアにぶつかる勢いで飛んできた。

それは蝙蝠姿のセシルだ。

急いでブランケットを机の下に隠す。

律は溜息を吐きながらセシルに文句の一つでも言ってやろうと思ったのだが、律が口を開く前にセシルが口を開いた。

「ススキさん変な所で寝てるっ!!ものおき!!モノオキ!!目の前でばたんQ!!」

パタパタ八の字に飛ぶそれを呆れた顔で見る。

「あーはいはい。分かったから騒ぐな。行ってくりゃ良いんだろ。」

「うん宜しくっ!!ゴメンねsorry!!」

受理されたのが分かると、そのまま何処かに飛んで行く。

完全に居なくなったのを見届けると、机の下から先程のブランケットを取り出し、言い聞かせるように言った。

「…今ならコレ、有無を言わさず押し付けられる…よな?」

絶好のチャンスだと、足早に廊下を歩く。

「もし起きてたら…。」

先程考えていた台詞をもう一度頭の中で練習する。

「そしたら言ってくれるか?優しい笑顔でいつものように“ありがとう”って…。」

無意識に出た言葉に顔を赤らめる。

幸いその顔は誰にも見られずに、物置に着いた。
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サンザシは散る

歌奈
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「結婚に結び付かない関係なんて、新しい恋が始まっちゃえば、“こんな事あった”なんて思い出に変わるわよ。」

リリスが言ってた言葉を思い出した。

それでも『今』は好きで、その『今』がずっと続けば良い…と思っていたのは、ずっと前の話。

現在は新しい恋愛が始まるのが怖くて、一人で歩いてる時の空いてる右手が寂しくて、つい思い出を振り返ってしまう。

誰かと付き合ういう事は、“行動に制限される事”。

恋人が居ない状態は、身軽で自由。

…その筈なのに。

(自由ってこんなに、満たされないモノだったかしら。)

強気に家を飛び出した自分は、何処に行ってしまったの?


「空いてしまった右手も、もう聞けない名前を呼ぶ声も、もう遠い昔のようだわ。」

頬を伝うそれは見ない振りをして、街中を歩く。

嗚呼、今は次を考えられないけれど、もし次があるならどうか。

(どうか今度は素直になれますように。)


サンザシは散る
(たった一つの恋だった)

2013*10*17

小さな魔法


夕立は急にやってくる。

機嫌の悪くなった空の色は灰色から、どんよりとした黒に変わった。

靂は自身が電気タイプなのも忘れ、不安そうに家のリビングで空を見上げる。

遠くの方でゴロゴロ鳴っていたのは知っているが、それが近付いてくるとは考えたく無かったのだ。

しかし願いは虚しく閃光が走る。

続けて来たのは、ドーン!!という何かに雷が撃たれた音だ。

閃光と音の感覚から、まだ近くには来ていない。

それでももう次期此方にやって来る事が解り、雷がなる度にその小さな体を跳びはねさせたり、縮こまらせたりした。

あまりにも酷い怯えように、葉月がそっと近寄る。

「大丈夫か?」

髪の毛を優しく撫でると、靂が縋るように足元にしがみ着いてきた。

怖くて怖くて仕方がない靂の瞳には、大粒の涙が溜まっている。

葉月はそんな靂の頭をくしゃくしゃに撫でながら、ひょいっと軽々持ち上げ、ソファに連れて行って膝に載せた。

外に目をやると、ザァァアアア…と音を立てて本格的に降り出す。

雷が鳴る度に跳びはねる靂に、葉月は苦笑した。

時計をちらりと見ると、今は午後三時だ。

大体仕事時間のバラバラな仲間達は、出かけるか寝ているかで今はこの部屋にはいない。

「れーき。見てみろ!これなーんだ?」

小さな子供をあやすように、敢えて高いテンションで本を出す。

「…絵本?」

キョトンとした顔で見つめる靂に葉月は笑う。

「そう、絵本だ。読んでやる。話が終わった頃には雨が止むだろうしな。」

「本当?」

恐る恐る聞いてくる靂に、葉月は「俺が嘘を吐く事はそんなにないだろう?」と笑って、朗読を始める。

「むかーし、昔ある所に…」

小さな魔法
(話の後には空に掛かる虹)

作成日:2010-04-03
手直し:2011-10-04

人の趣向と葉月の苦難



人の趣向

葉月の苦難



午後の日差しが暖かい。

穏やかな陽の当たる席で、ひなたぼっこしながら茶を啜る一時は至福の時間だ。

平凡とは実に良い事だと思う。

この何もアクシデントがない世の中が、ずっと続けば良いと願いながら、俺はまた一口茶を口に含んだ。

途端に背後からドーンッという爆発音が聞こえる。

「また雨音か…。全く。うちの奴らは一日のうちに何度面倒を起こせば気が済むんだ…?」

俺は溜息を吐く。

勿論、奴らが嫌いな訳じゃない。

ただ、昨日起きた出来事を、思い返すと…少しばかりな。

ほんの1日出掛けただけで、靂は悪徳商法に500万の壷を買わされそうになるし、雨音は科学物質を混ぜ、一部屋破壊。

唄は相変わらず変な物をもってきたり、彼方此方をリボンだらけにするし、星はそれに便乗し、炬は素知らぬ振りで逃げる…という、何とも収集の付かない状態になっていた。

じゃあ誰が片付けるのかと問われたら、全ての場所を片付けるのにリーダーの俺が収集されるのは必然な訳で…。

…ダメだ、憂鬱だな。

もう一度ため息が出る前に、気持ちを落ち着かせようと煎茶を啜った。

次の瞬間、突拍子もない唄の声と共に、扉がバーンと勢い良く開いた。

「と!言うわけで、眼鏡集めて来た!!」

「…は?」

全く話がついていけない。

「“という訳で”ってどういう訳でだ。またどうせくだらない事を考えついたんだろう、お前は。」

俺があえて唄の事は見ずに突っ込むと、唄が何やら袋を机に置いた。

「どうでもよくないよ。今時の流行りに乗っちゃおうかな?って思って!」

元気良く言う唄は、何やら楽しそうだ。

こういう時は真剣に悪ふざけをする事が多い。

俺は嫌な予感で頬を引き攣らせながら、「で?」と手短に聞いてやると、奴は得意そうに笑って袋の中身を広げた。

「じゃーん!!今眼鏡もオシャレに取り入れる時代だからねっ!いろいろ買ってきてみたんだ!!」

眼鏡が机の上を占領する。

俺は出来るだけ思考を読まれないように、その色とりどりの眼鏡をぼんやりと見つめる。

丸眼鏡、四角い眼鏡、フレーム無し、フレーム有り、鼻めが…。

ん?

「おい、唄!!よくよく見ればパーティグッツとか、水中用ゴーグルとか、虫眼鏡が二つ無理矢理くっつけてんのとか、有り得ないもんがあるんだがっ!!」

唄がピースをする。

「作っちゃった!いけるいける!!オシャレ眼鏡!!」

「いや、どう考えても虫眼鏡重いだろ!!片方が手の平サイズだぞ?!後、どっからこんなもん入手してきたんだよ!!?」

突っ込み所が満載の中身に耐え切れず俺が叫ぶ。

そんな俺の心からの叫びを唄は聞かず、

「仮面舞踏会ー!」

なんて喜んでいる。

てか、プロレスのマスクとかも入ってんじゃねーか!!

収集がつかない…。

俺は諦めて、唄の持っている仮面をひょいっと取ってから、プロレスマスクを被せる。

唄はテンションの高いまま、今度は靂の方へと向かっていった。

「頼むから散らかすなよ…。」

俺は心からそう願いつつ、肩を落とした。

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作成日:2010-03-30
手直し:2011-10-04
(まだよろず屋をやってた頃のみんなの話)

参月の雨


ざぁぁああああ…。

“嗚呼、雨が降ってきた”


参月の雨



季節の変わり目。

降りしきる雨。

翼は何処か虚ろな瞳でそれを見つめる。

連日降っては止み、降っては止みを繰り返すそれに、うんざりとしている者は後を絶たない。

無論、翼も恵みの雨とも言われるそれを、少し疎ましく思っていた。

が、それは所詮心理の側面に過ぎない。

閉じた部屋には湿気を含んだ風も入りもせず、ただ憂鬱な部屋に憂鬱な空気を篭らせていた。

強いて言うならば、ただ、何処か纏わり付くような喪失感とシンクロして、焦燥感へと変わっているだけだ。

彼女はベッドに横たわり、からっぽの体で無表情の人形のように沈んだ。

「…帰る場所……か。」

絞り出した言葉は、やっと形になった。

しかし語りかける人も居なければ、言葉など泡のように消えるだけだ。

それでも絞り出すかのような小さな声で「助けて」とだけ呟いた。

それが愚かな行為だと思っていても、あの日、強制的に此方の世界に連れて来られた悲しみは癒えない。

こんな世界の彩りを変えてくれる人を求め、体を縮めて何度目か分からない涙を、静かに流した。

++++++

ラール君に会ってからは、そんな事も無くなったので、出会う前、つまりは過去話です。

言葉の通じない場所にいきなり飛ばされた彼女は、異国の国でホームシックです。戻る方法も分からないし、どうすればいいのか分からない彼女の目に映るそれが、この時の翼の全てなんじゃないかな?と思って書いたのですが、如何でしょうか?

作成日:2010-03-28
手直し:2011-10-04
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