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律の過去話。

【律の過去話。】


体の弱い母が反対を押し切って、愛した夫の忘れ形見であるお腹の子を産み落としたがその時に死去。

生まれた時に既に、色違い故に不吉な子として差別を受ける。

処罰で殺されそうになった所を律の祖母がどけざをし、「一人娘の忘れ形見なのです、お命だけは」と頼み込む。

元々律の祖母が村から少し離れた位置に住んでいた事もあり、長(この時は祖母の親友ではない)の許しを得て律の命は助かる。

「正しく生きる良い子になりますように」と、母が生前付けたものをそのまま名前に。

それから月日が経ち、律はすくすく育った。

やはり色違い故に幼い頃から虐めは受けていたが、祖母に伝える事も出来ず強がりで弱い所を見せられない子になる。(祖母は虐められている事は知っているが、律が触れたがらないのでそんなに追求はしなかった)

薬学や文字を学びながら日々を生活。

時折祖母と薬売りとして街に出掛けるようになる。

祖母はいつか律が里を追い出されるだろうと仮定し、一人でも生きられるよう、様々な知識を与えた。

この頃にはお小遣で既に本を買うように。

色違いに生まれてしまった事を恨み、一度だけ祖母に「どうして殺してくれなかったんだ!」と、八つ当たりをしてしまった事があるが、すごく酷い事を言ったと後悔し、同時に己を必要としてくれる人の居る温かさを知る。

それ以来「自分は一人ではない」事を悟り、同時に母や祖母が命をかけて自分を守ってくれていた事を知り、己を大切にしようと誓う。

いじめっ子から逃げつつも平凡な毎日はずっと続くかのように思われたが、それからしばらくして、祖母が崖から転落して死去。

色違いである律への風当たりはますます強くなった。
幸いこの時の長が律の祖母の親友であったが為、追い出される事は無かった。

長に可愛がられながらも、祖母の後を継ぎ、週1くらいで薬売りをする事にした。(※参考文章)

淋しさはありつつも生活が慣れてきた頃、長が寿命で死去。

庇い立てをしてくれる人も居ないし、人間の歳にして13歳くらいだったので一人立ちする決意をする。

新長が用意してくれた家に荷物を移動。

覚の里より遥かに人里に近いそこは、人里に下りるには便利だった。

人間相手に薬を売るのは、相手の心境が分かるので楽だし、人間には妖怪とバレない限り虐められなかったので、安心して仕事が出来た。

また賭事を覚え、相手の心が読めるのでイカサマも分かり、イカサマを暴いて稼いだり、イカサマして稼いだりしていた。

そうやって町を変え村を変え生きてきたのである。

お陰でお金には困った事はない。

時には人間の友達も出来た。

しかし人間の体は脆く、安易に斬られて亡くなったり、律よりも短い寿命故に早く亡くなったりした。(※参考文章)

「人間はすぐに死んでしまう。…俺は独りで生きて独りで死ぬべきなんだ。」そう言って、人に関わろうとせず、ただぼんやりと薬を売り、本を読む毎日。

そんな日がいつまで続くのだろうかと思っていたある日、船長の龍二さんに会う。

真っ直ぐな心を見て、この人に付いて行こうと決める。

そうすれば生き場所を見付けられるような気がしたからだ。

そして現在。

今まで生きていた季節の中、最も人と触れ合い、人を愛おしく感じる季節を生きている。

走馬灯


雨がしとしと降る。

外は暗く、淀んでいる。

律は布団に横たわる私の隣に座り、哀しみを堪えるような顔をしていた。

彼には分かるのだろうか?

私の命がもう少しで尽きる事も、もう自分一人で起き上がるだけの力もない事も。

「律は…いつまでも変わらないな。」

私は小さく笑って、しわしわになった自分の手で律の頬を撫でる。

「当然だろ。だって俺は…。」

震える手が見える。

分かっているよ、律。

君は妖怪で私は人。

出来るなら、私も妖怪であれば良かった。

そうしたら君の友として、まだ共に生きていられたのに。

私は人としては長生きで孫の姿も見る事も出来たが、一人残る君の事が心配で堪らないよ。

だって君は素直じゃないし、きっとこれからだって自ら苦難を増やすような事をするんだろう?

そして誰も傷付かないように、一人孤独に生きようと決意をしたりするんだろう??

私が落ち込んで居る時には、破天荒な事をして私を笑わせたり困らせたりして、嫌な事を忘れさせようとしてくれたり、時には親身になって話を聞いてくれたりする君の優しさ。

不器用だけど気が付いていたよ。

だからどうか

「…幸せに」

幸せになって欲しい。

君と共に歩き、愛し合える人に出会えますように。

自分の頬を伝っているのが何かを理解する前に、全ての力が抜けた。

今でも思い出せるよ。

嗚呼沢山の記憶が巡り巡って……。


走馬灯


それは晴れた日の昼下がりだった。

木陰で休む誰かの、綺麗な小豆色の髪が揺らめいているのが見える。

その人物に悪戯をしたくなった私は、その心のままにそっと彼の傍に近寄った。

しかしそれは失敗に終わる。

寝ていたと思っていた彼は、後一尺程度の所で目を覚ましたようだ。

「やめとけ、小僧。お前がこれからやろうとしている事など、全ておみとおしなんだよ。」

嘲るように口の端が上がるのを見る。

「俺の合羽を引っぺがそうと考えていただろう。それから俺の大切そうな物があったら奪って、困らせるつもりだったんだろ?そして今。自分の行うつもりだった行為を当てられて驚いている…違うか?」

…何一つ違わない。

なんでこんなに当てられるのだろう?

私は好奇心と共に怖くなった。

「怖くなったならとっとと逃げろよ。…それと、もう二度と来るな。俺は煩い奴は嫌いなんだよ。」

手の平でひらひら、“あっち行け”をする。

そう口で言う癖に何処か寂しそうな背中を見ていると、気になってしまって傍まで行ってしまった。

「お兄ちゃん、妖怪なの?」

恐る恐る聞いてみる。

「…そうだと言ったら?お前の頭からガブリと食べちまうぞ??」

手の平を広げて、獣の爪のようなポーズを取る。

私は小さい悲鳴を上げ逃げ出した。

けれどその次の日も、そのまた次の日も、彼の元に会いに行き、やがて覚の律とは友達になっていた。

それは私が嫁を貰った後も続き、出会った頃の姿と変わらぬ彼を見て、羨ましくも切ない感情を抱え続けた。

もう今となっては遠い過去の話だ。

全てが白に消えて逝く。

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Spare Key


紀伊聖夜さん宅の薄さんと、前川さん宅のトルテさんと、ミウさん宅のかんろさんと、クロキさん宅の龍二さんをお借りしました!
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今日も陽気に空は晴れ。

暦的には秋だと言うのに、まだまだ元気な太陽ははしゃいでいる。

律はそんな炎天下の甲板で、誰にも解らないようにこっそり、荷物で見張り台からは死角になる位置に座った。

此処なら日陰なだけでなく、視力の良い律にはほんの少し覗けば、見張り台にいる薄の髪が風で揺れるのを確認する事が出来る。

偶然に知った場所ではあるが、つい最近のお気に入りの場所だ。

律は首から下げている部屋の鍵を出す。

美しい光沢のある一対の鍵。

それは互いに打つかって、しゃらんと音を発てる。

「……合鍵…か。」

船上した際に船長、龍二に、「大切な奴が出来たら渡せ。」と言われたのを思い出す。

その含みのある物言いに、逆らう訳にもいかないので「…予備という事で受け取っておきます。」なんて言っておいた。

その時は誰かを愛する事なんて無いと、思って居た。

だからこそ腑に落ちないと思いながら受け取り、「船を出る時に二つ揃った状況で返せば良い」と、言い聞かせた。

「かんろはトルテさんに渡したんだよな。」

トルテの事を話すかんろは、心なしか頬が上気しているように感じる。

本当に好きなんだな、と、律はぼんやりと思った。

二人の話を楽しみにしているのは、かんろの幸せそうな様子を見て嬉しいからだ、と、本人にはけして言わないだろう。

そんな律にだって渡したい人が居る。

それは言わずもがな、見張り台に居る彼である。

それでもそれを渡せずに眺めるのは、

「代わりなんていないアンタに対になって欲しいと願うから。」

口にした台詞に切なげに笑って、鍵をしまった。

Spare Key
(いつか渡せる日が来るのなら)
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その一瞬は永久になる

霜月いびるさん宅の姫咲さんと、ミウさん宅のかんろさんと、実波海都さん宅の勒さん、お借りしました!
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本だらけの律の部屋。

それは食堂に本を少しづつ移動しているとは言え、まだまだ山積みにされている。

寝る為と本を読むだけに用意された、宝部屋。

しかしつい最近、本以外にもう一つ、確かに宝物が増えている。


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部屋の一角。

本棚と窓の間のそこだけやけに綺麗に本が無く、写真が数枚飾られている。

飾れない写真も大切そうにブリキの缶に入れて仕舞ってあるのは、それこそ誰にも内緒だ。

律は部屋に鍵を閉め、写真を眺める。

右に姫咲が穏やかに微笑んで、左にかんろが薄く笑っている。

真ん中にいる律は一人だけ、緊張したようにぎこちなく笑っていて、それが何処か可笑しかった。

「姐御にはごまかしが利かねぇし、かんろはかんろだし。」

あの日の事が写真を見ると、鮮明に思い出せる。

姫咲に好きな人が居る事が悟られてしまったり、かんろにからかわれたり、律にとって、かなり濃密な日だった。

口元が緩む感覚を感じながら、生まれて初めて撮ってもらった写真を見て、胸がじんわりと温かくなる。

二枚目には写真を撮っていた勒が映り、姫咲が抜けた三人で写っているのだが、それもまた平和そのものだ。

「勒兄、くっつき過ぎだっての。かんろも楽しそう。俺、一人慌てた顔してるし。」

思い出してクスクス笑う。

かつて、祖母や長以外と、こんなに温かい時間を共にした事があるだろうか?

里を出た後も、人になる事の出来ない妖怪の律はやはり異端で、妖怪だと晒した後にこのように温かく接してもらえる事は、今まで無かった。

「怖いくらい、幸せだな、今。」

ぽたりと床を濡らす何かが落ちた。

それが涙だと言う事に気が付くのに、時間はかからなかった。

乱暴に裾で拭う。

幸せすぎて泣けると言うのは不思議だ、なんて頭の隅で律は思った。


その一瞬は永久になる
(支えてくれる仲間の温かさを知る)

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それでもアンタが好きだから

紀伊聖夜さん宅の薄さんをちょっとお借りしました。
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救護室。

俺はちらっと時計見た。

空は青く、海は藍。

雲の様子から見て、何と無く“雨は降らねぇな”、なんて考えてたんだが、生憎俺に気象予報なんて出来る筈もない。

「…飯の時間。薄はいつも通りに見張り台に居るのかねぇ。」

そこまで口に出してはっとする。

無意識って怖ぇ…。

周りを勢い良く見回しても、幸いからかいそうな奴所か、人一人居ない。

俺はお昼時という時間にほんの少し感謝して、誰に聞かれた訳でもねぇのに独り言で、精一杯否定した。

「いや、断じて俺が会いたい訳じゃない…断じて。」

だが、別に薄から“会いたい”なんて言われた事なんてねぇし、俺が事実、勝手に通ってるだけなんだよな…。

自分で考えて、ちょっと凹んだ。

やっぱり俺が一方的に会いたいんだろうか…。

…。

……。

………うっせーよ!

分かってんだよ…俺が会いたいんだよっ!!

クソ!!

女々しい自分に腹がたつ。

おあいにくさま、ジメジメしてんのは、真っ平ゴメンなんだよっ!!

何かと理由を付けて会いに行くのが、何が悪い!!と、悪いが開き直らせてもらう。

「薄の野郎、自分の事より仲間の事を大切にしやがるから、見張り台に居るのを今日も無理矢理連れ出す。うしっ!」

本日の目標を言うかのように高らかに呟いた。

「待ってろよ、薄!!」

とりあえず、他の救護係が帰って来んのを待って、今日も交換で飯を食いに行く事にする事に決めた。

真っ直ぐと向かう先は、当然薄だ…なんて、誰にもぜってぇ言ってやんねぇ。



それでも
アンタが好きだから

今日もこっそり迎えに行く
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