藤井:(前略)3・11前の半年間、後の半年間の合計1年間の大手5紙の全社説を分析するという研究をしたのです。そのうち特に経済の社説八百数十本に着目して分析を行った。いろいろな社説の中に『脱公共事業、公共事業批判』というパターンに属するものがあるのですが、それは全経済社説中8.5%でした。震災前後で比較すると、震災前が約10%だったのに対し、震災後は6.7%に減った。さすがに3分の2くらいになったんですね。 この数字は各社でまちまちですが、一番高い数字を誇っているのが朝日新聞でした。震災前に公共事業を叩いている社説は20.2%だった。他の会社の2倍以上です。そして、震災後でもなお16.1% 朝日は5分の4程度までしか減らさなかったわけです。さらに恐ろしいのは日経です。日経の公共事業批判は平常時ではさして顕著ではないのですが、震災後にはなんと公共事業批判が『増加』して、堂々と第2位の、朝日に次ぐ公共事業批判を展開しているのです。これは要するに、震災後の復興事業が始まり、公共事業が拡大していくことに対する警戒心を反
映しているものと解釈することもできるでしょう。 改めて指摘するまでもありませんが、『コンクリートから人へ』で、人がたくさん死んだことは間違いない事実あるにもかかわらず、なわけです。恐ろしい話です。
中野:恐ろしいのは、公共事業批判でも地方整備局の廃止でもいいのですが、あの大震災があっても、これまで言い続けてきた意見を変えられなかったことです。新聞記者は所詮サラリーマンです。学者もプライドの高い人が多い。だから、なかなか意見を変えられないのは確かです。けれども、六百年に一度の震災が起きれば、大きな『事情の変更』があったのですから、これを機に意見が変わることがあって当然です。それを『変節』だと非難しないでしょう。でも、意見を変えない。
TPP賛成論が典型なんです。TPPは農業に打撃を与えると考えられている。だから、改革によって農業を再生すればTPPと両立するという話になっていたわけです。そんなことが可能か否かは別にして、少なくとも建前はそうだった。 ところが、日本有数の農業地帯である東北が震災した。東北の農業は、再生どころか原状回復の目処も立っていない。なのに、TPPの方針に変更はない。TPPに入る確率が高くなれば、東北の農業は復興する気力を失うに決まっています。巨額の借金をして復興した挙げ句、TPPのために経営環境が厳しくなって廃業に追い込まれる。そのような可能性があるのに、誰が復興のために頑張ろう、となりますか。TPP入る復興の大いなる妨げになるんです。
しかし、こういう議論はほとんど出なかった。まだ復興もほとんど進んでいない9月に、普通にTPPの議論が再開されて、相変わらず農業叩きが始まったのです。六百年に一度の大きな『事情の変更』があったのに考え方を変えないのは、バカか、官僚主義者か、あるいはその両方なんですね。つまり、バカな官僚(笑)