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神域第三大戦 カオス・ジェネシス108

「―――ッ!?」
一瞬の暗転の後、打ち上げられたように二人の姿は宙へと飛び出した。深遠のは素早く辺りに視線を巡らせ、現状把握を図る。
開けた、燃え落ちた森。視界に入ったのは槍をもった男と、離れたところに大盾を構えた少女とその後ろに控えた少女。
「………誘、導…?」
「せぇやっっ!!」
「!」
深遠のが状況把握に要したのは一瞬の時だったが、凪子はその一瞬の隙をついて深遠のの腹を蹴り飛ばし、地面へと叩きつけた。
「…づっ………」
「ランサー!」
「よっしゃ、activate!」
深遠のが地面に衝突し、土煙が舞い起こる。鬱陶しそうに深遠のが顔を起こしたタイミングで凪子はヘクトールへ合図を送った。
「ッ!?」
ヘクトールはその合図を契機に、仕掛けてあったトラップを一息に発動させる。燃え落ちた木々の下に隠れたトラップが起動し、波紋が広がった。
「……!」
「今のはデバフとでも言うか、お前さんに魔力制御、肉体使役の妨害をかけた。ふむ、そんくらいの妨害なら要石の呪いは発動しないっぽいな」
見定めるようにそう言いながら、落下の勢いを殺しつつ凪子は地面へと降り立った。先ほど発動したものは妨害魔術のトラップであったことを告げつつ、凪子はパチン、と指を鳴らした。
面々を囲むように紋章が浮かび上がり、ドーム状の結界が展開された。トラップ同様、仕込んでおいた結界の術式だ。半透明に光るそれを見上げてようやく顔をしかめた深遠のに、凪子はにやにや、と笑って見せた。
「簡易な足を止めるトラップならもっといっぱい有るぞ、気を付けてな」
「…ちっ」
「さぁて、話に聞くところによればお前さんはバロールを殺しに行って返り討ちにあい、そうなったそうだなぁ。んじゃあ、まずは正気に戻ってもらうとしようか!」
「…………………」
「何、難しいことじゃない。私とお前でデスマッチというだけさ。そら行くぞ!」
凪子は相手の返答を待たずに地面を蹴った。記憶しているトラップを踏まないように器用に地面を蹴り、一息に深遠のと距離を詰めた。
深遠のは一瞬考え込む様子を見せたのち、すぐに顔をあげ、槍を突き出した凪子の攻撃を最低限の動きでかわした。
「…まぁ、いい。命令を、果たすだけ!」
「そうこなくてはな!」
入れ代わるように突き出された拳を同様に最低限の動きで交わしながら、凪子はにぃ、と口角をつり上げた。


―――――


 一方、ルーの一行はバロールの領域、その最奥に到達していた。鬱蒼と繁った木々で光は遮られた薄暗い森のなか、わずかな光を反射して輝く一本の巨木があった。
そしてその巨木の前には少しばかりの広場があり、他の場所よりかは太陽が差し込んでいるようだった。そしてその広場には―――胡座を組んで座す巨人の姿があった。座してはいるが、10メートルはあろうかという巨体であることが伺える。待ち構えているというルーの言葉通り、訪れを待っているのか、相手は目を伏せ動く気配を見せない。
「(…どうする)」
「(そうだ…な!?)」
ヒソ、と囁き声で会話し出方を相談しようとした矢先に、ルーが無防備に広場へとおどりでた。これにはダグザも目を丸くしたが、ちらり、と向けられたルーの視線に続いて飛び出そうとしたタラニスを引っ付かんで止めつつその場に留まった。
「(何を考えてんだ…!?)」
「(…まぁ仕方ない。戦闘が始まり次第、前衛が飛び出し後衛も動き出す、それでよいな?)」
「(…チッ、分かった)」
ダグザは一旦サーヴァントたちをまとめつつ、ルーへと視線を向けた。たんっ、と軽やかに着地したルーの足音に、目を伏せていた相手は楽しそうに口角をあげた。
「いや、よく来たな。またやって来ると思っていたぞ」
「そうか。楽しみにしてもらっていたところで悪いが、次はないぞ」
「ほう?なんだ、今日が決着か。まぁ、確かにそろそろ頃合いであろうな」
「頃合い…か。何の頃合いなのだろうな」
「色々な頃合いだともさ。あぁ楽しみだ、楽しみだぞルー!生き返ってきた甲斐があるというものだ」
二柱は存外穏やかに会話を交わしていた。生き返った甲斐がある、と言った巨人―バロールの言葉に、ルーはピクリと眉を潜めた。
「…その口振り……私と戦うことだけが目的ではないと思っていたのだが」
「ん?そうさな、違いはないぞ?俺が生き返りをよしとしたのは、確かにお前と戦うためさ。というより、お前が戦うところを見るため――という方が正しいかもしれないがな?」
「……………それは貴様を生き返らせたものの目的とは別か」
「なんだ、俺が“他力により甦った”と気付いていたか。いや、お前ほどが気付かないのは妙な話か」
「それを語れ、といったところでそれもまた無駄な話か」
「そうだな。別に隠すつもりはねぇんだが、それを明かしちまうと見れなさそうだからなァ」
「そうか。…………ならばよい、であるなら」
「しかし、今までと違って後顧の憂いはない、って顔をしているな、お前」
「…………何?」
戦前の対話は終わった、と判断したルーが立てて持っていた槍の穂先を構えるように下に向けたとき、しげしげとルーを見つめながら興味深そうにそう言ってきたバロールの言葉にルーは動きを止めた。
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