スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス104

「………アンタの話ってのは、なんなんだ、雷神タラニス」
「なァに。あの死に急ぎで堅物野郎の我が御霊を驚かせてやろう、ってだけだ。……うまくいきゃ、彼の魔神の魔眼の効果を相殺できる」
「!」
「あそこの似非ドルイドの補助でも、即死を回避はできてもデメリットがでかいそうじゃねぇか。それに、賢老の一打と違って魔神の即死は恒常効果だ。恒常的に防げないと、結局あまり意味はないだろう?」
「なんと、そんな手があるのか?」
タラニスの提案には、ダグザも驚いたようにタラニスを見た。だがすぐにダグザにはその方法が思い至ったのか、その顔が渋い色を浮かべる。ダグザが渋い顔をするだけの事はあるのか、ニヤニヤと笑っていたタラニスも、すぅ、とその笑みを消す。
「…ま、正直な話、リスキーなことに違いはない。お前らがオレに文字通り“命を預ける”気があるなら、の話だけどな」
「…………。マスター!ちょっといいか!」
「?何ー?」
「お主、迷いもせんのか」
タラニスの顔を見上げていたクー・フーリンは、少しの間タラニスの顔を見つめたのち、小さく息を吐き出すと藤丸を呼んだ。その行動が、マスターである藤丸に許可を取るためなのだとすぐに察したダグザは、また意外そうにそう言った。
クー・フーリンは、にやっ、と笑ってみせる。
「何、遅すぎる反抗期ってやつだ」
「は…………。ガッハッハ!これは敵わんな!!」
「?どうした…んです?」
真剣な空気が一転、はっはっはと笑いあう三者に呼び出された藤丸はキョトンとした様子を浮かべる。藤丸を呼んだ用がある程度予想できていたのか、他のサーヴァント陣もついてきていた。
クー・フーリンは笑ったまま、だが真剣な眼差しで藤丸に向き直った。
「あぁマスター、戦闘補助組の方で作戦について一個提案がある。同席してくれ」
「…!分かった」


―――


策略と、思惑と、願いとが入り交じって混沌を為す。

その先に待つものは、果たして。


―――


――そうして、決戦の時が来た。
日付が変わった直後頃、日が昇るよりもはるか前に起き出していた凪子は、淡く月が夜空に輝く中、一際高い木の上にいた。何か茶でも淹れたのか、湯気のたつカップを片手に、ぼんやりと遠くを見つめている。
「見張りにしては気が抜けすぎているな」
「まぁ見張りはしてないからねぇ。元気?」
「貴様程度に暇するほどには」
「なんだそりゃ」
キィン、と澄んだ音をさせて、すぐ隣にルーが姿を見せた。浮遊しているのかバランスをとって立っているのかは分からないが、木の枝に腰かけている凪子の隣に立ち、そんな他愛のない言葉を交わしながらルーは凪子の視線の先を見た。
「…貴様、折り合いはついたのか?」
「何の?」
「貴様の役割との、だ。なんだかんだと、気にはしているんだろう、貴様。ここ数日、妙に殊勝な時があったからな」
「…あー、まぁ、そうね。することもないから考えてはみていたけど、まぁ、やっぱり私にはよう分からんな」
星の代弁者。
ルーが指摘した、凪子の本質。それを指摘された時には目先の問題を優先し保留としていたが、それを全く考えていない、という訳ではなかったようだ。
凪子はルーの指摘に、くあぁ、と呑気に欠伸を伸ばす。ルーはそんな凪子に特に諌めるようなことは言わずに肩を竦めると、ふわり、とそのままその場に同じように腰を下ろした。
「2000年、分からずに困らなかったのならば、別によいのではないか」
「存外適当な時あるよね、ルー」
「何、他者に己ほど厳格ではやってられんからな。それが同族でもなければ尚更だ、私が口を出す領域ではあるまいよ」
「…………なぁ、ルー〜」
「なんだ」
今日のルーは機嫌でもよいのか、何か思うところでもあるのか、凪子の間延びした、雑な問い掛けにも怒りも見せずに対応している。凪子は膝についた手で頬杖をつきながら、じ、とそんなルーを見つめた。
「…………お前、疲れてない?」
「…?回復したから今日襲撃するわけだが?」
「そうじゃなくて、気持ち的に、さ。生きるのに疲れたな〜もう飽きたわ〜みたいな?」
「なんだそれは…」
「私も経験あるからさぁ。違うなら別にいいけど」
「…………………」
「違わなくても別にいいんだけど」
「………なんだ、それは」
凪子の問いに一度は口を閉ざしたルーだったが、続いた凪子の言葉にきょとんとした表情を浮かべたのち、ぷっ、と小さく吹き出した。
くっくと声をあげて笑うルーに、何気なく言葉を発したつもりだった凪子が逆にキョトンとしてしまう。ルーはひとしきり笑うと、凪子と同じように頬杖をついて凪子の方を見た。その顔は今までになく穏やかに笑んでいる。
「…貴様は私が死んでもよいと?」
「人聞きの悪い聞き方をなさるゥ。別に、もう疲れたなら無理して生きなくてもよくね?とは思うだけさ。だから、もしも本当に死にたいのだとしても、私は悪いとも悪くないとも言わないよってお話だ。少なくとも、どんだけ疲れていたとしても職務放棄してエスケープできるタイプではないしね、お前」
「ふ、己の役割を放棄しないのは当然のことだ。死にたがりを止めもしない、というのは、なかなかに貴様らしい言葉なのかもしれないな。だが、そうであるならばなぜわざわざ私にそんなことを問うた?」
ルーの問いに、凪子はず、と茶をすすった。
<<prev next>>