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神域第三大戦 カオス・ジェネシス105

「…………んー、まぁ。なんというかな」
凪子の言葉は歯切れが悪い。凪子自身、何か目的があってそうルーに言い出したわけではなかったのだろう。
凪子は、くるくる、とカップを揺らした。
「…や、ほんと、君自身のことだからどうでもいいんだけどさ」
「あぁ」
「どうでもいい、ん、だけど、ほら、何か誰かに話したいことがあれば聞こうかな、というか、アウトプットしたらなんか変わることもあるかもというか、なんだ、んもう!!」
「貴様なぁ」
うがーっ、と、呻いた凪子にルーはコロコロと楽しそうに笑う。今日のルーは本当に機嫌がいいらしい。
凪子はブスッ、とした顔でルーを振り返る。
「なんだい、気持ち悪いくらい寛容だな今日は」
「何、貴様が私のことでそうも思い詰めるような事態があるのかと興味深いだけだ。何せ、私の貴様に対する印象は、“威嚇をしてくる獣”だからな」
「…獣じみてたことは否定はせんけどな……」
「その獣が2000年も生きて、その果てにこうも変わるのかと思うと、面白くもなるだろう。貴様に槍を託すという判断は我ながら彗眼ものだ」
「…!……それは……“託してよかった”と思っている、ととっていいのかな?」
「あぁ」
ルーの返答に、凪子は眼を丸くした。まじまじ、とルーを見つめれば、ルーはそんな反応が帰ってくることを予想していたのか、満足げに笑っている。
凪子はそんな、らしからぬルーの姿に、ふい、と視線をそらした。
「………………なんだお前、今日はエラく素直だな」
「…そんなに普段の私は捻くれものか?」
「ひねくれている、というより、言葉遊びが巧みでのらりくらりとかわされる感じがする。このところは特にそう感じていた。………だから、そうした駆け引きをしないお前は、つまりそういうことなんだなという気がしてくる」
「そういうこと、というのは?」
「率先的、意図的にという訳ではないにしろ、お前はバロールを倒した後に、今日、死ぬつもりでいる、ということだ」
「…………………」
ルーは肯定はしなかった。だが、否定もしなかった。
凪子はそのルーの反応に、ぽりぽり、と頭をかいた。そう、まるで今日のルーは、死期を悟ったものが遺書をしたためているかのような、そんな穏やかな静けさを湛えているのだ。そう納得のいった凪子は、はぁ、とため息をついた。
「…お前は頑固だからな。そう覚悟を決めているなら、多分話を聞いたところで変わることはないんだろうな」
「結局、ああは言いつつも貴様は私を死なせたくないのか?」
「……なんていうかな。死に目に会いたくない……のかもしれん」
「預り知らんところで死なれるのは寂しい、のではなかったのか?」
「お前あん時意識不明だったはずじゃ、…〜〜あー………。ケースバイケース!!感情ってのは、常に1つではないのだよ!」
「凄まじい開き直りだな、事実ではあるが」
凪子の張り上げた声に、近くの木から驚いた鳥が飛び立つ。ルーは凪子の返答に呆れたように言葉を返したが、すぐに、またどこか楽しそうな笑みを浮かべた。
凪子はそんな風に楽しげなルーを恨めしげに睨む。
「…だけど、お前のそれはどこか…“死にたいから仕事終わらせて死ぬ”ではなくて、“仕方ないことだし特に未練もないから死ぬ”って感じに見えるぞ」
「…ま、ここまで弄り回した詫びだ、それくらいは答えよう。それは、否定しない」
「バロールに勝つことが、お前が死ぬことと同義だと?」
あっさりと希死念慮めいた思いを抱いていると明かしたルーに、凪子は怒るでもなく、ただ静かにそう問い返した。

預り知らないところで死なれるのは寂しい。とはいえ、できれば死に目に会いたくはない。だが、だからといって死を選ぶことを否定しない。
死なないで欲しい、それを知らせないで欲しい、だがだからといって死なせないということはできない。その感情は矛盾しているようで確かに同時に凪子の中に存在している。

諦めたように希死の念を語るルーに、その複雑な感情を凪子は爆発させることはしなかった。それはルーと同様に、どこか諦めであるようにも感じられた。
責めたい、けれど責められない。凪子は所詮、その立場なのだ。本来誰もが、誰かの選択の前には恐ろしく無力になる。そして凪子は、それでもどうかと叫べるほどの存在にはなれない。誰の、隣人にもなり得ないのだ。

恐ろしく静かに問い返してきた凪子に、ルーはその辺りの凪子の事情や思いを汲み取ったのだろう。ふっ、といたずらっぽい笑みを浮かべて見せる。
「と、いうよりかは、そうだな。確信めいた感覚があるのだ。あの魔神がわざわざ甦るなら、そうして二度目の死を迎えるのであれば、その時奴は私の命を掴んで離さないだろう、という確信が」
「…それは……殺した相手だから?」
「私が奴を殺すことは予言されていた。所謂、運命、というやつだった。私とタラニスが同位体であるように、私と奴はさながら運命共同体。だから妙な、理由のない確信がある。……奴には恐らく何か目的がある。だが、その根元的な目的は、“私の死”なのだろうという確信がな」
「………どちらかというと理論的なお前らしからぬ、随分と感情的な話なんだな」
「そうでもないぞ?だからこそ、ダグザ翁にもタラニスにも話してはいない。話しておくべきことだとは思っても、確証は私にもないからな」
「!……なら、なんで」
ルーは確実なことしか口にしない。それはダグザも言っていたことだ。ならばどうして自分には話したのか。
そう問いかける凪子に、ルーはゆっくりと凪子を見た。
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