スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス107

―――夜明けが近づいた、東雲の時。
薄明かりに大地が照らされる頃、とある森の入り口にその一行の姿はあった。
いくつかの戦闘用の礼装と思しき装飾を身に纏ったルー、右肩にかけていたものを広げマントとして羽織っているタラニス、棍棒を肩に担ぎ竪琴を腰に携えたダグザ。それぞれフードを被り顔を隠したクー・フーリンとマーリン、簡易通信機から姿を見せているロマニ、鎧を腰につけた子ギル。そして、槍を強く握りしめた凪子だ。藤丸とマシュ、ヘクトールは段取り通り待機している。
「……どうだ?」
凪子は先頭にいるルーの隣に立ってそう尋ねた。ルーは森の中の様子を伺っているのだ。
ふん、とルーは鼻を鳴らした。
「待っているな。深遠のも側に控えている」
「待っている、か…」
『待っている?こちらを待ち構えているなんて…彼の魔神は、待機中に目を開いたりしないのか?』
「しねぇよ」
驚いたロマニの言葉をばっさりとタラニスが切る。子ギルやクー・フーリンもその言葉に意外そうにタラニスを振り返り、その様子にルーも説明を促してくるものだから、余計なことを言うのではなかったとでも言いたげにタラニスは小さくため息をついた。
「奴の目蓋が他力で無ければ開けられないのは、何も魔眼の能力が強いから目蓋が重い、ってだけじゃねぇ。奴が自分の魔眼に縛りをかけてるからだ。戦闘が開始されてからでなければ奴は魔眼を開かない」
「おや、わざわざ甦ってまできたこんな時に縛りプレイをするのかい?」
「しば…?とにかく、縛りは守るさ。何せ、その縛りは誓約…“ゲッシュ”だからな」
『!成程、ゲッシュならば破らないか…しかし、神にもあるのか』
マーリンの問いかけをそれとなく流し続いたタラニスの言葉に、ロマニは納得したように何度か頷いた。
誓約。ゲッシュ。ケルト神話において各人に課せられる、「〇〇の場合は、けっして〇〇はしてならない」のような義務や誓いのことをさす。ゲッシュを厳守すれば神の祝福が得られるが、一度破れば禍が降りかかると考えられ、多くの英雄が複数のゲッシュを己に課していた。
神の恩恵を得られると語られるようなものを神が持つ、というのは言葉だけでは妙な響きである。要するにゲッシュとは、尊守することで超常的な効果を得られる呪いのようなものなのだろう。
納得の言葉にそちらの話は決着がついたようだ、と判断した凪子は、パン、と手を叩いた。
「よし、じゃあ私が先行して深遠のを引きずり出す。前哨戦なんぞ、なるべくない方がいいだろ」
「助力はいるか?」
「いらん。バロールにちょっかい出される前に離脱する」
「いいだろう。ダグザ翁、なにかあるか」
「いいや、特には」
「カルデアの、そちらは」
『問題ありません』
「OK、じゃあ、行こうか」
淡々と段取りを決め、確認を取り終えると、凪子は迷いなく森へと飛び込んでいった。
そんな二人のやり取りの様子を見ていたダグザが、ふぅむ、と声を漏らした。
「…ルーよ、お主いつの間にあやつとあれほど仲良くなったのだ?」
「は?何を言っている?」
「あらぁ自覚ないの。ならまぁ、よいがのう」
凪子とルーのスムーズなやり取りが気になったのだろう。だが肝心のルーは、心底解せぬといった表情でキョトンとした顔を見せるものだから、無自覚を察したダグザはあっさりとそれ以上の言及を避けた。そんな様子にタラニスは愉快そうに肩を揺らし、サーヴァント陣は反応に困り思わず顔を見合わせるしかない。
ルーは不気味そうにそんな面々を見ながら、コホン、と咳払いをした。
「…とにかく、何もなければ突入するぞ。これより先は死が隣にあると思え。…今回で決着をつける、行くぞ」
「応ともさ!では行くぞお前たち!」
凪子が飛び込んでから少しの間を開けて、ルーの一行も森へと足を踏み入れていった。


―――


先行して森に飛び込んだ凪子は、ある気配のする方向へ迷いなく、戸惑いなく森を駆け抜けていた。
森に入った瞬間から寒気を覚える気配を感じていた。間違いなくバロールのものだろう。この森はバロールの領域となっている、それだけである意味不利な状況だ。ならば立ち止まったところで意味はない、そう判断して駆け抜けているのだ。
「―!来た!」
そうして大分森に入り込んだろうところで、凪子は勢いよく迫ってきた気配に踵でブレーキを掛けた。相当の勢いで走っていたのか勢いはすぐには止まらず、凄まじい土煙を起こしながら地面を滑っていく。
そうして、ようやく動きが止まらんとしたちょうどその時、木々が揺らめく音がして、深遠のが勢いよく上空から飛び出してきた。
「ぬっ……!!」
落下の重力加速と体重、そのすべてを乗せて振り下ろされた拳を、要石に触れないようにして受け止める。受け流した衝撃が地面へと流れ、一瞬の間を置いて大きく地面が沈んだ。
凪子はそのまま凪子の腕を蹴って距離を取ろうとした深遠のの足を逆に掴み、そのままタオルでも振るかの如くの軽さで彼女を振り回し、地面へと叩きつけた。
「っ、」
「やぁ、数日ぶり。君の相手は私なのかな?」
「そう、だ。貴様、の、排除、最優先事項、だそうだ」
「だそうだってお前適当な。だがちょうどいい!」
「!?」
深遠のの目的が凪子の迎撃である、ということを確認した凪子は、にっ、と笑って鞄から取り出した宝石を地面に叩きつけた。瞬間、魔法陣がラグなしに展開する。
「じゃあバトルフィールドに行くとしようか!」「…!」
凪子の宣言を合図として魔法陣に刻まれた転移の魔術が発動し、二人の姿は瞬く間にかききえた。
続きを読む
<<prev next>>