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それだけでも明日から、また(銀魂:新通/微妙な…)

冷たい夕焼けの真下、ふたりぼっちのかくれんぼはあまりにもちっぽけでかわいかった。

きみ、のお陰で止まない雨はあがったんだよ 良く出来たふたつの耳にぽつり呟くと、「そんなことない」って笑いながら泣いた
もちゃもちゃともつれる影、夢だったらいいな なんて乙女のような考え、こころ。


森と呼べない木と木の隙間:走って、走って、きみをみつけたんだ。






それは、小雪がちらほらと舞い踊る寂しげな昼下がりのひとかけら。


「──…万事屋、さ…ん…?」


テレビの向こう、地面は凍結中。
冬の首都高を伸びる渋滞はさっきから解消されていないらしい。

留守番真っ最中の間にすとんと落ちた夢うつつ。
意識の表面近くで、聞こえたのは憧れの声。


『……っ、ぇ…あ、』


目を開けて声の主を探す。
まだ幸せな空気の中にいるんだと勘違い、霞んだ視界の向こうには見覚えのある姿が、ひとつ。


『…お、通……ちゃん?』


その名前を呼ぶと、貴女はふんわりと笑ったから。
だからこれは夢の途中だと思った、のに。


「ふふ、万事屋さんったら、寝ぼけてるんでしょー」


ちくり、と頬に走る小さな痛みにウソとホントがどんでん返し
おどろき、寄りかかっていたソファーから慌てて立ち上がり、からからと透明な声で女の子が、笑う。


「起こしちゃってごめんなさい。
今日はお願いごとがあってきたんだけど、新二君」


いや、僕の名前は新八です。と言えるからきっと脳は短い間である程度目覚めたのかもしれない。
けれどこの状況は、なんなんだろう。

夢じゃないのならこれは現実としか言い様がなくて、でも憧れの人がこんな所にいるのはあり得なくて、どっちがどっちだか分からなくなってうやむや、。してたら彼女が口を開いた。


「…ところで、他の万事屋さんは?」


固有名詞を挙げなくても分かる、その言葉の奥。
今は僕ひとりだけど、依頼の内容は?と半ば形式的に訊ねたら、少しだけためらう口元。

まさかまた、脅迫文が送られてきたんじゃ?と、さっと抱いた疑問符は次の一言であっさりと解消された。


「…あのね、私とかくれんぼして欲しいんだ」





え。



その文章だけじゃ分からない、ぽっかりと開いた穴をしっかり埋めるように、はっきり言葉を紡いでいく。


「…実は、今日いきなり音楽番組の収録がなくなっちゃって、やることがなくて困っていたんだ。
その時、ふと、子どもの時によくやったかくれんぼがしたくなったの」


こんな、子どもっぽいわがままを聞いてくれるのはここしかないと思って と、どこか物憂げな表情で言った。


「ダメ、かな?」


兎のように悲しそうな、黒に濡れた瞳。
一瞬、言葉に詰まったけれど、彼女の些細な願いを聞いてあげようと思った。


『いいよ、僕ひとりしかいないけど、それでもいいなら』

「ホント?嬉しい…ありがとう」


きゅ、と違う体温に掌が包まれる。
いつもの自分なら周りが仰天するくらいに喜ぶのに、今日はなぜか、そんな気になれなかった。


なぜだろう。


彼女のめ、の奥にある、触れてはいけない何かが気になるからだろうか。
きっと彼女は真っ黒なもやもやを抱えてる。でも、それは僕が聞くことではない。きっと。

何も聞かず何も言わず、ただ行こう、と、そっと彼女の手首を握って歩き出した。




着いた所は子ども向けの遊具が待ちぼうけしてる小さな公園。
吐く息が白いのは、未だに雪がはらりと落ちてくるから。

肺に冷たい空気を詰め込み、凍えながら、大きな声で数を数える。


『いーち、にーい、さーん…』


そう言えば、この遊びをしたのは久し振りで。何だか照れくさくてちょっぴりわくわく、錯覚。
目を開けると静寂、相変わらず遊具達は寒さに震えている、らしい。

ブランコ、ベンチ、ゴミ箱の回り、ジャングルジム、木の裏、砂場、
だあれもいない公園の滑り台の下、彼女は膝を抱えて待っていた。


『あ、お通ちゃん、みっけ!』

「えー、早いよ新一君!」

『僕は新八です!』


他愛ないやり取りの後、役割交代。

響く、数字。
夕焼けこやけの赤とんぼ。
ふたつぶんの笑い声
走る心音
見付けて欲しくない、早く見付けたい、と誰かが願う
ぐるぐる、楽しいいたちごっこ

いつの間にか、満月。



どれくらいこんなことをしていただろう。
繰り返し繰り返し、本日何回目かの鬼。いい加減もう慣れた。


『…はーち、きゅーう、じゅう!』


さあ見付けてやるぞ、とこっそり意気込む。
隠れることの出来る場所は大体分かっている。丁寧に慎重に、探し始めた。


『(滑り台の下…はいない、ベンチの下もいないか、うーん…)』


キョロキョロと辺りを見渡す。と、目についたのは一本の木。
その裏からちらりと見えた、華やかな着物の柄に見覚えがあった。

音をたてないように、地面の落ち葉に気をつけながらそぉっと近付く。


『お通ちゃん、みっけた!』


くるりと正面に立ち、高らかに宣言する。
けれど彼女は俯いたまま、顔を上げなかった。


『あれ、…お通ちゃん?』


これまでと様子が明らかに違う。具合でも悪くなったのだろうか、と不安になった。
ぽかぽかと暖かかった体温が急に冷えていく。

肩に手をかけ、どうしたの?と聞いたのと同時に、彼女のふたつの腕が首に回って、ぎゅっ と、か弱い力で抱き締められた。


それは、本当に、突然のことで。
体勢が崩れるのを、ぐっとこらえた。


「……新八君、」




そう呟いた彼女の声は、震えていた。


顔は見えないけれど、泣いているらしい。耳をすませば蚊の鳴き声のような嗚咽が聞こえてくる。
何があったのか聞くべきか否か 困った脳の片隅で迷っていたら、近すぎる距離にいる彼女が、途切れ途切れに言葉を紡いでくれた。


「  あのね、私、もう…歌いたく、ない……」

『…え?』


それは、予想外の告白 で。
頭の中が真っ白になっていく感覚、焦りながら必死に誤魔化した。


「…自分の歌に、自信がなくなったのも、ある、けど…私の歌は、誰にも必要とされてない、気がして
そう思ったら、急に、怖くなって……気が付いたら、レコーディングスタジオを抜け出してた、の

ごめんね、私、嘘ついて、」


そう言って、わあと泣き出した。
自分にすがりついて涙するその姿は赤ん坊よりも儚くて、今にも消えそうだった。

ああ、さっき感じた違和感はこれだったのか と、高鳴るこころの真ん中でぼんやりと思う。
しかしそれが分かったからと言って、彼女が泣き止む訳でもない。


戸惑いながらも壊れないように、そっと抱き締め返す。
布越しに触れ合う異なる体温にどきりと、した。


『…大丈夫だよ』


ガラスよりもすきとおった空気に、ひとつの声。


『……僕は、君を、いつも必要としてる
だって僕は、君の歌に救われたから』


忘れないよ。
あの日もらった色々なモノ。

いつまでも胸にこびりついて離れないんだ。


「そんなこと…私の歌なんか、」


自嘲気味に笑う彼女をたしなめるように、腕に少しだけ力を込めた。


『君の歌に何度も励ましてもらった。勇気や元気ももらったんだ

だから、さ。
必要とされてない、なんて言わないで』


世界中の人間が君を見放したとしても、
僕はずっと、きみのことを必要としてるから。


「…ありがとう、」

『それはこっちの台詞だよ。いつもありがとう、お通ちゃん』

「……新八君、」

『何?』

「…もうちょっと、このままでいいですか?」



うん、と頷くと、安心したかのように彼女の身体から力が抜けた。




眠れない夜は、君の温もりを



こんなことしか僕には出来ないけど、



【もう何だかよく分からん新通(一応)
長くてごめんなさい…orz】
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