クリスマスが終わった。
去年のクリスマスは浮ついても沈んでもいない、ありきたりかつフツーかつ凡庸で平和なもので、唯一誇れるものと言えばトシが持ってきたあのケーキだった。あれはこないだ食べたチーズケーキより美味しかった、正直リピーターになりそう。さすが長年の付き合いというか幼なじみ、あたしの胃袋の好みを分かってるじゃないか!褒めてつかわす。へへん。
結局あの後ケーキを食べて、だらだらして、ふたりでWiiをやって、冬休みの数学の宿題をちょこっと教えてもらって、外で雪だるまを作ってそれで終了。
思い返せば子どもみたいなクリスマスだったけど(子どもでももう少し有意義に過ごすかな?)、それでもロンリークリスマス回避!やったねあたし!
…なんてことをあたしの友達に言ったら、ひがみと嫉みばっかりのコメントを頂くのは想像に難くないので言わないことにする。
あたし達、ただの幼なじみ、
なのになあ。
でもその中途半端な関係をブッ壊したくて、どうしようも出来なくて、告白なんざ以っての外で以っての外で、だけど他の女に取られたくない!なんて気持ちだけ焦ってばっかり。
進んで戻って、現在地点は0。
女子か!と言うツッコミに、今なら
女子だ!
とツッコミ返すことが出来そうだ。
一定距離を保つ健全なお付き合いとはまさにこのことであった!
(いや、まだ付き合ってないんだけど)
そんなこんなで、またカップル達歓喜のイベントが到来する。
それは新学期が始まって少し経ったある日のことだった。
テスト期間も近いことがあり、学校全体がピリピリしていた。
ああ、憂鬱だ。
そんな中、家庭科の移動教室で廊下を歩いていると、たまたまトシと総悟に会った。
「あっ、トシと総悟だ」
「おう」
「久しぶりですねィ。あけおめことよろ」
「ことよろ!あんまりこっち側に来ないからねー」
「クラスが離れて土方さんが寂しがってますぜィ」
「えっ?」
トシと目が合う。
どっきーん。ただ今脈拍急上昇。だって自分の気持ちを認めてから初めて会うんだもん!認めちゃうと案外素直に出てくる感情、戸惑いながらYシャツからちらりと覗く鎖骨に目をやるけど、すぐに視線を外す(変態かっ!)。
トシは棒付きの飴を舐めていた。珍しいね飴舐めてんの、そう言おうとしたけど、トシに遮られた。
「お前、何か俺に渡すもんねーのかよ」
「…は?」
トシは至って真面目な顔をしていた。だけどあたしは言葉の意味が分からなくて疑問符ばっかり。トシに渡すもの?もしや返すもの?はたまた借りたもの?
なんだろ、皆目検討つきませんが、何かあったっけ。いくら考えても分かんなかった。
「大変申し訳ありませんが貴方様に貢ぐものなんて、下賎な身分の私は何も持ち合わせていません」
「なんだその口調」
「そーいうプレイが好きなんですかィ、土方さん」
「どんなプレイだ。テメーは少し黙っとけ」
「まあ!土方さんったら、私のことは遊びだったのですね!」
「意味分かんねーこと言ってんじゃねーよ!」
ごほん、と咳ばらいを一つしてトシは言葉を続けた。
「来週の火曜日、部活が終わるまで待ってろ」
そう言われて疑問符さらに増殖、状況理解不能。
総悟がニヤニヤしてる(気がした)ので、とりあえずローキックをかましてやった。
(来週の火曜日、なにかあったっけ?)
あたしの誕生日は8月、トシの誕生日は5月、今は2月(ちなみにテスト期間は来週の15日から17日まで)
今日は7日で、その一週間後と言えば…
言えば?
…アレ?
「ばっ…」
事実に気付いた時、授業中にも関わらず声をあげてしまった。
もちろん、みんなに注目されるよね。ついでに先生も見てるよね。
「…ば、って、もしかしてお前、俺のこと馬鹿にしたいの?それともバスケットがしたいです銀八先生、ってか?」
呆れた顔で古典の先生(銀八先生)があたしを見つめる。
…てへっ。
…で。
今日が7日、その一週間後ってことはつまり14日、2月14日が何を意味するかってのは恋愛に疎いあたしでも分かる。
バレンタインデーじゃん!
もしかして渡すもの、ってのはバレンタインのチョコなのか?アレ、あたしトシの彼女でもなんでもないけどなんであたし?
あっ、もしかして、クリスマスケーキのお返しにチョコくれってことなのか!?確かに去年のクリスマスはわざわざホールケーキを買ってきてくれたし。じゃあ別に手作りじゃなくてもいいじゃーん。お返しとかなんでもいいじゃん。なんならチョコじゃなくてもいいじゃん。マヨネーズ一本とかでいいじゃん。ねえ。
あたしとトシはただの幼なじみなんだし、気を遣うこともない。張り切ることもない。そうそう。
…とか言っといて家に帰って一番最初にやったことは、台所の棚の奥底に眠っているお菓子作りの本を探すことだった。
女子通り越して乙女じゃん、これ。
【実は
このおはなしの続きだったりする。
何年振り\(^o^)/←
トシが今わたしの中でアツい!
そして後編に続くのでありました。】