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君の街まで飛ぶための歌

その頃ぼくはまだ飛べやしなかった。でも確かに翼はあった。

そう、確かに、ここに。

でもぼくは飛び方を知らない。
ふたつの羽はきしきしぎこちなく動くだけで、
透明で、薄く揺れる、冷たい空気の中に触れる術を知らない。


無機質な鉄の塊が宙を泳ぐ
空はあんなにも遠くて、ぼくの細くて短い足は地面をしっかりと掴んで離さない
思い切り跳びはねても、すっと また元の位置に戻る。
ああ
こんなんじゃない
飛びたいんだ
ぼくは飛びたいんだ、


歩く影が午後2時を指す




ぼくは絶望を覚えた。


どんなに泣きわめいても叫んでも
所謂其れ、運命共同体のようにくっついてはがれやしない錆びて劣化した羽
こんなのいらない、必要ない と数え切れない程にこの瞬間を怨んだ

でもどうにもならなかった

そんなの、ぼくが一番知ってた、のに。


ぼくを見て笑う、笑う
誰かの声
耳元で四六時中再生されている、気がする
名前も知らない誰かの笑い声
笑う、笑う、笑う。
なぜ飛べないのよ、と
生きてる意味あんの、と
それが朝も昼も夜も次の朝も昼も夜も続いた。
ぼくは、もう、体内に埋め込まれていた時間感覚すらおかしくなっていった



発狂。



ぼくは夕闇の中を走った
走った
走った
逃げ出したんだ
どこから?
今の現実から
そう、
ぼくは飛びたかった
そして誰かに逢いたかった
だれに?
ぼくを救ってくれる神様に

心細くて寂しくて震えて泣きそうで怖くて悲しくて絶望して
それでも違う、他の世界に飛んでみたかったんだ


頼りない翼を懸命に動かす
そしてその時新たな感情が生まれた
けれどそれを上手く言語にすることが出来ない。
とにかく無我夢中で頭が真っ白になってフワリとして気持ち良くて
足がしっかりと地面についていないような気がし て  、




「  。あ、」



間抜けな声をあげたのはぼく自身だった。
眼下に落ちる、見覚えのある景色
まるで世界が小さくなったみたいだ
ツクリモノのように役に立たなかった羽は、規則正しい上下運動を行い、今こうしてぼくをどこかに運んでいる

身体がぶるりと震えたのは、寒いからじゃない。
夢見てた世界が、今ここにある。


「や、った…やったあああああ!!!!!!」


全身で叫んだ
存在を確かめた
まだぼくは生きている
きーんと強い風を切る音さえも心地好かった。
近付く冬の足音がしんしんと降り注ぐ
見慣れた街が染まって、


「…い、あぶねーぞ!!おい!」


ぼくはその声にハッとする
そう、うっすらと誰かの声が聞こえた瞬間だった
がん!と何かが何かに当たった鈍い音
それと逆に鋭い痛みが身体中を襲う
それた多分一瞬の出来事で
何が起こったのか理解出来なかった


翼を支える骨に異変を感じた時はすでに遅かった
遠ざかる空
迫りくる地面
堕ちてる、と感づいたぼくの目の前には困った顔をした同じ生き物がいた
奴はそして、こう呟いた。


「困るなあ、ちゃんと交通法規を守ってくれなくちゃ。
ここは割り込み禁止の道路だぞ、まったく」


その意味を飲み込む前にぼくの意識はぶつりとブラックアウトした。




道路交通法違反により事故を起こした初心者の話



Song by:ASIAN KUNG-FU GENERATION
“君の街まで”
【ルールはちゃんと守りましょう】
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