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白雪姫の憂鬱(銀魂3Z:沖田/やたら長い…)

ああ、なんでこんなことになったんだろう
私は地味に学園生活を送りたかっただけ、なのに…






事の始まりは約一ヶ月前のこと。

その日のLHRは秋に行われる銀魂高校の文化祭の出し物についての話し合いが行われていて、私ははぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるクラスメートをぼんやりと見つめていた。
外は秋だと思わせない陽射しがカンカンと照っていて眩しいくらい。全ての窓は全開にも関わらずぬるい風しか入ってこなくて私はぱたぱたと首元に掌で風を送り込んでいる最中だった。


『(みんな元気だなぁ…)』


こんな暑さにも負けずに騒げるみんなが羨ましいな、と思いながら何気なく教卓に目をやる。そこには志村さん(お姉さんの方)が立っていてその後ろに備えつけてある黒板には大きく“演劇 白雪姫”と書いてあった。
どうやら私がぼんやりとしている間に演劇をやることが決まったらしい。




そこまでは良かった。


問題はその題字の隣にある主役 白雪姫、の下に書いてある文字だった。
見覚えのある漢字の羅列を見てあたしの顔からみるみる血の気が引いていく。


『…っええぇぇぇ!!?』


がたん!と椅子から立ち上がりすっとんきょうな声を上げるとクラスメートの視線が私に向けられるのは仕方のないことで、でもそんなことを気にしている暇もなかった。


「あら、どうしたの?」


ふわりと笑みを浮かべて志村さんが微笑む。いやちょっと待って下さい!私白雪姫に立候補した覚えがないんですけど、どうして白雪姫の字の下に私の名前が書いてあるんですか!?(無意識の内に挙げてたとか)(いやいや、それはない)


「え?だって貴女が立候補してるって…」


志村さんの言葉を遮るように、突然目の前にぬっと人影が現れた。いきなりの出来事に思わず後退りする
さらさらの茶髪、真ん丸な瞳、その人物の名前を呼ぶ前に独特の口調が聞こえてきた。


「あんたがやりたそうな顔してたから王子役の俺が推薦してやったんでィ、ありがたく思いなァ」


目の前にいる人物、沖田総悟君はさらりとそう言ってのけた。え、ちょ、待ってさっぱり理解出来ないんですけど
もう一度黒板に視線を移す。白雪姫の隣には王子と書いてあってその下には沖田君の名前が書かれていた。


「…それともなんでィ、王子役が俺じゃ不満だってのかよ?」


その言葉に沖田君を見るとあからさまに不機嫌な顔になっていた。私は首が千切れるくらいにぶんぶんと横に振る。すると彼の表情はパッと笑顔に戻った。


「ま、そんな訳で本番までよろしく頼むぜィ」


ひらり、楽しそうに手を振る沖田君に対して未だにこの状況が飲み込めない私。反論するにも声が出ない。むしろここで反論したって意味がないのかもしれない

力なく私は椅子に座り込んだ。


沖田君は下級生にも同級生にも人気で下級生に至ってはファンクラブがあったりする程、で。
地味な生活を送っていた私にとって彼は一生関わることのないクラスメートだと思ってた、もちろん彼も地味で普通な私のことなんて興味ないと思ってた、  のに。





数日後、志村さんから手渡された手作りの台本をパラパラと捲っていた私の目に衝撃的なものが映った。
それは白雪姫と言う物語上避けられない展開な訳でありまして、




“王子、目を閉じて眠る白雪姫に目覚めの口付けをする”





…なんですとォォ!?!?


声にならない声で台本を見ていると前の空席(高杉君の席)に人の気配が。顔を上げるとそこにいたのは我が物顔で座るのは沖田君だった。
笑顔で「よォ」だなんて言うから硬直  そう言えば私は沖田君とまともに喋ったことがなくて


「見ましたかィ、ラストのページ」


ピンポイントでその話題を振られ、んぐ と息が詰まった。そんな私の表情を読み取ったのか私の机に頬杖をつきながら沖田君は言葉を続ける。


「安心しなせェ、チューはするフリでいいらしいぜィ」


あ、フリでいいんだ、とほっと胸を撫でおろす。
さすがに沖田君と演技だと言えキスをするのは後が怖い。過激なファンの子に殺されかねないし(うあ、考えたくない)


「まァ、俺があんたの初チューを奪ってもいいけどなァ」

『は、っ!?』

「あり、もしかしてチューの経験もないのかィ?今時珍しいねェ」


沖田君はニマリ、と不気味な笑みを浮かべなから席を立つ。立ち去る際に私の頭をくしゃりと撫でてこう言った。



可愛い奴、と。






そんなこんなであっという間に文化祭当日を迎えてしまった。

あーもう嫌だ、こんなに憂鬱な朝は初めてで学校に向かう足も鉛のように重たくてこのままどこかに逃走したかった(そんなの出来ないけど)
もそもそと文化祭運営委員会手作りの校門に架かっているアーチを潜る。教室への道を歩いていると嫌でも聞こえてくる沖田王子の話題。私は足早にその中を潜り抜けていった。


「ねぇ聞いた!?Z組の沖田君白雪姫の王子役だって!」

「白雪姫役誰?あーん、超羨ましいっ!」


…胃が痛い。



そしていよいよその時がやってきた。沖田君が準主役と言うこともあって会場は女の子で溢れかえっていてその様子を舞台袖で見ていて本当に泣きそうになる。誰か代わってくれないかなぁ100円あげるから、そんなことを思いながら刻々と近付いてくる例のシーン。

私は舞台の真ん中、手作りの棺の中で瞳を閉じながらこの瞬間が早く過ぎ去ってくれることを願った。
シクシクと小人達の泣きじゃくる声に混じる一つの台詞に耳をそばだてる。


「ああ美しい白雪姫よ、どうか私の永遠を溶かす愛の口付けで目覚めておくれ…」


上から聞き慣れた声が降ってくると同時に顔にかかる沖田君の髪の毛がくすぐったい。



と、その時。

唇に今までない柔らかな感触を感じてどきりとした。練習でも味わったことのない柔らかなそれ。
驚いて思わず目を開けるとそこにあったのは目を閉じている綺麗な沖田君の顔。…って、


『ん…む!?』


上手く息が出来ないのは私の唇が沖田君の唇で塞がっているからで、あまりの息苦しさに顔を背けようとしても沖田君はそれを許してはくれなかった。この状況を理解した私の脳内は次第に混乱と動揺で真っ白になっていく。
ぎゃああぁぁ!!!と観客席から聞こえる女の子達の悲鳴が遠く置き去りにされているようで

ちゅ、と音をたてて沖田君の唇が離れる。訳も分からず息もたえだえに彼を見つめると沖田君は意地悪く笑ってこう言った。


「…あんたの初チュー、確かに貰いやしたぜィ」


そして私の手を引き無理矢理立たせると近くにあったスタンドマイクの場所まで私を引っ張っていき、マイクのスイッチが入っていることを確認するとそこに向かってとんでもないことを言い出した。




「と言う訳で、白雪姫は俺のモンでィ。お前ら手ェ出したら男女問わずぶっ殺す」



「総悟、ナイスだよく言った!」「やるじゃない沖田君!」「最高!」「感動した!」などと真っ先に感嘆の声を上げたのが3Zの面々だと言うことに気付き、3Zみんながグルになって沖田君の告白を後押ししたんだとこの時初めて知った。(みんな知ってたの!?)(え、新手のいじめ?)



【眠れなくて一発書きした久々沖田夢。かなり長くてごめんなさいorz あまりに長くてはしょった部分多すぎて中途半端になってしもた…

ちなみに沖田は最初からヒロインのことがすきだったり。】

今目の前にいる、あなただった(銀魂:銀時…後編)

一音一音、確かめるように彼の名前を呼び続けた。

あたしがずっとずっと探していたのは間違いなくこの人で、やっと逢いたかった人と再会出来た そんな喜びか安堵感か驚きか分からないけれどあたしの涙はしばらく途切れることはなかった。






「っ……あんまり名前連呼すんじゃねーよ、恥ずかしい、だろーが…」


どれくらい泣いてただろうか。ふと、銀時の声がさっきよりもか細いことに気付きあたしは顔を上げる。
そうだ、銀時はさっきあたしを庇って斬られて──って!


『ぎ、銀時!あ、あんた大丈夫なの!?──』


我に返ったあたしの言葉に銀時はぽかんとした表情になったけれどすぐに昔と変わらないあっけらかんとした雰囲気に戻ると、なーにこんなの唾つけときゃ治るさ、とかアホなことを言い出してあたしの手を取り言葉を続けた。


「そんなことはどーだっていいんだよ、オラ、行くぞ」

『え、…どこに?』


その問いに銀時は短く「コンビニ」と答える。何でこんな時にコンビニ?と聞き返すと予想もしなかった言葉が返ってきた。


「馬鹿、決まってんだろ?約束果たすためだっつーの、」


約束…?
ついさっき蘇った記憶の中からそれはあっさりと見付かった。
そうだ、攘夷戦争の前に銀時に『帰ってきたらあたしのすきなアイス買ってね』なんて、叶うか分からない約束をしてたんだっけ、


「さっきもコンビニで…お前が好きだったアイス買ってきたんだけどよ、天人と闘りあった時に…」


ほら、と指差した方向に視線を向けると先程銀時が落としたコンビニ袋。その中から顔を覗かせているのは確かにあたしのすきなアイスだった。(他にもいちご牛乳とか入ってるのは銀時が自分で飲むためだな、きっと)(まだすきなんだ、いちご牛乳)


『は、…もしかして今買いに行こうとしてるの!?』

「ったりめーだろーが、今買わないでいつ買うって『馬鹿じゃないの!!?』


あたしは言い終わっていない銀時の言葉を遮って力一杯叫んだ。夜の空気がきーんと震える
思い切り息を吸うとあたしの目から涙がまたポロポロと溢れてきた。


『約束なんか…後でもいいじゃん!このままだと銀時が死んじゃうよ…っ!…』




だからお願い、

もう貴方と離れたくないんだよ。




嗚咽で何も言えなくなったあたしの頭を銀時の掌がそっと撫でる。


「…悪ィ、」


上から申し訳なさそうな声が降ってくる。あたしは首をぶんぶんと横に振り、涙を拭いて銀時を見上げた。涙で滲んで見える銀時は昔と変わらなくて、ああ、あの日もこうしてあたしを励ましてくれたんだと思った。
不思議だなぁ。あれからもう数年も経っていると言うのにあたしにとっては昨日の出来事のような気がして、


「……また、お前を…」

『、え?』


小さい声で呟かれたその言葉を上手く聞き取ることが出来なくて聞き返す。あたしの疑問には答えず銀時は何でもねーよと言って自嘲気味に笑った。
何が言いたかったのか気になる、そう言うより早く銀時の口が開く。


「あ じゃあ、俺の一生のお願い、今ここで使っていいか?」

『…は?』

「いいじゃねーか、夕方の一生のお願いは無効なんだしよ」


何か企んでいるのだろうか、この銀髪の天パは。そんなことを考えつつあたしは肯定の仕草をする。すると銀時はあからさまな笑顔を浮かべた(うわ、嫌な予感)


「じゃあ…あの、」

『…』

「…、抱き締めていいか?」

『な、』


抗議の声を上げる前にあたしの身体はすっぽりと銀時の両腕の中に収まっていた
一瞬頭が真っ白になって今この状況が理解出来なくて、でも安心出来るのはなんでだろう。

銀時の荒い息があたしの首筋をくすぐる。彼を早く手当しなきゃと言う焦りともう少しこのままでいたいと言う想いがややこしく絡まりあってあたしの全身は石のように硬直、


何か言おうとする唇に反して出ない声に戸惑いながら銀時の温もりに身体を委ねようとした時、だった。


「…よかった、」

『…?』

「お前が、生きてて…よかった…」


ぎゅう、と銀時の腕に力が入る。肩が小刻みに震えているのがかすかに分かった
出かかった言葉を飲み込み、黙って抱き締め返す。空っぽだったこころが満たされる気がした。






あたしもだよ、銀時。




また、お前を失いたくない、と(ずっとずっと探してくれてたのは貴方も同じで)



叶わない約束が叶った瞬間
生きていてよかった、とこころからそう思えた。



今目の前にいる、あなただったの後編。完結。甘々で締め括った…つもり。

ここまで読んで下さりありがとうございました!感想などあればお気軽にどぞ

今目の前にいる、あなただった(銀魂:銀時…前編)

泣きたくなる程に頭の中は空っぽ、だった。


目を覚ましたところは知らないおばあちゃんの家で話を聞いたら近くの川端で血塗れのあたしが倒れていて放っておくことも出来ず自宅で看病していた、と言う事実だった
そして自分の記憶がないことを話すと笑って「記憶が戻るまでここにいるがいいよ、」そう言ってくれた。

そんな優しかったおばあちゃんが亡くなってひとりぼっちになったあたしは上京することを決意する。江戸に越してきたのは半年前でその時から病院に通院しつつ自分の記憶を探していた、毎日のように見る夢を手がかりに
そして今日、夢と同じ銀髪の貴方があたしの目の前に現れた と言う訳。


今までの敬意を話し終わり、何の反応もない目の前の男の人に視線を当てると下唇を噛み締めて何かを我慢している姿に申し訳なさとやるせなさにたちまち胸が苦しくなる
言わなければよかった、と後悔した。




「…マジかよ、」


短い沈黙を破って銀髪の彼が呟く。あたしはもう一度、『ごめんなさい、』と頭を垂れた。

夢の中で出てきた銀髪の人とこの人は同一人物なのだろうか  あたしの中で最大級の疑問が膨らむ反面それを言い出せる雰囲気ではなくて、
でも、この人はあたしのことを少なくとも知っている

だから思い切って聞いてみることにした。


『…あの、貴方は…あたしをご存じなんですか?』

「…ああ、」


暗闇で目と目が合う。複雑な表情をしながら彼はボソボソと言葉を紡いだ。


「…よーく知ってるさ、あんたの、こと……」


ぎこちない笑顔、それを見た刹那に軽く頭痛がしてあたしは顔をしかめる。ああ、今の表情どこかで見たことがある、と そう感じた。
生憎どこで見たのかは思い出せないけど、


「…っ、とにかく詳しい話が聞きてェんだけどよ、俺の家に来てくんねーか?」


男の人はコンビニの袋を持ち直しながら立ち上がり、それから「大丈夫だ、何もしねーから」そう言い手を差しのべてくれる
少しだけ戸惑ったけれどきっと悪い人じゃない、そう考えてその手を掴もうとした、その時だった。




「──っ、人間ごときが俺に何をしたァァ!!!」

「!?」

『!』


あたしが声のした方に顔を向けたのと目の前に何か白い壁が現れたのはほぼ同時だった。
ばっ、と何かが斬れる音の後に聞こえたのは血が噴き出る独特の音で、状況を瞬時に理解したあたしの目が大きく見開かれる。


『…っ、あ、ああ…っ!』


ばたたっ、と言う音と地面に滴る鮮血。その主は誰だか考えなくても分かった。だって手を差しのべてくれた人があたしの身体の真ん前にいなかったから

どさり、とさっきまで彼が持っていたコンビニの袋が地面に落ち、中身がバラバラに散る。


「人間がぁ…この俺にぃ…何をしたって言ってんだああぁぁぁ!!!!!」


声を荒げて叫んでいるのはさっきあたしの頭を掴んでいたあの天人で、その姿は映画か何かに出てくる化物を彷彿とさせていた
天人は刀を振り上げてはがむしゃらに振り回し始める。男の人は天人の太刀筋を見切っているのかその全てを木刀で防いでいた。

一連の行動は早くてもう目では追えないくらいで、びゅんと言う風切り音とそれを受ける音だけが辺りに響く。


「俺を誰だと思ってんだあぁぁ!!!」

「知らねーよ…っ、黙って寝とけ!」


天人の一瞬の隙をついて木刀が横一閃に空を切り裂く。その木刀に天人の持っていた刀が弾かれて宙に舞い、死体の中にからんと小気味いい音をたてて落ちた。丸腰になった天人は慌てふためいて、男の人はそんな天人の腹を思い切り蹴り飛ばした。


「ぐわああっ!!」


天人は数メートル吹っ飛び、泡を吹きながら何も言わずに気絶する。それを見た彼の膝が安心したかのようにがくりと折れた
あたしはハッとして彼の正面に回る。胸元が斬られたのか赤く滲んでいて、


『あ…っ、だ、大丈夫ですか!?』


すぐに止血しなきゃ、と思い立ったは良いけれどこんな場所に包帯なんてある訳がない。
やむを得ず自分の着物の裾を噛み千切って包帯代わりにした。それでも溢れてくる血にただ動揺するばかりで、


『は、早く手当しないと…!』


そう言って身を起こして立つあたしの掌を男の人がぎゅっと握り締める
今にも泣きそうな歪んだ顔で、彼は口を開いた。


「っ…俺のことは気にすんな、

…それより、お前は…大丈夫か?」

『…!』



どうして、
どうしてこんな時にあたしのことを気遣うの
今は貴方の方が重症で
早く手当しなきゃ
死なせたくないの

誰を?
貴方を

   、どうして?


『なんで…なんで初対面のあたしを心配してくれるんですか…?』


その問いに男の人は立ち上がり、あたしの肩に手を置いてやんわりと笑って言った。


「…あの時言っただろ?






俺がお前を守る、って」








その刹那、
脳裏にいつか見た映像が発光するかのようにフラッシュバックした。

そうだ、あの時もこうやって銀髪の人に支えられて戦争に行く勇気をもらったんだ


初めて生きて帰りたいと思った
死にたくない、と。
みんなのため、そして貴方のためだけに。


『──…ぎ、ぎん…』


唇が勝手に動き貴方の名を口ずさむ。この名前を呼ぶのも久々だった。


『ぎ…銀、時…銀時ぃ……っ!』


確かめるように何回も何回も名前を呼ぶ。その度にあたしの瞳からは涙が零れて銀時はそれをあの懐かしい体温で落とさないように拭ってくれた
そっと、音もなく。


「…なァ、全部、思い出せ…たのか…?」

『わ、かんないけど…銀時のことは思い出せるよ。
それから戦争のことも、みんなのことも』

「…そーか…」


そう言った銀時の表情は今までのとは違いどこか晴れやかに見えた。



【長くなりそうなのでぶつ切り。ちなみにずっとずっと逢いたかったのはの続き。
後編に続く(笑)】

ずっとずっと逢いたかったのは(銀魂:銀時※グロ有り、閲覧注意!)

「大人しく死んじゃえ」


ニタニタと笑いながら天人は突き刺している刀を横に薙いだ。目の前にいた男の身体はいとも簡単に斬り裂かれ足元に作っていた血の海の中に崩れ落ちる
その瞬間大量の血液が回りに飛び散り、あたしの衣服にも顔にも身体にも容赦なくべっとりと付着した。


『、───っ!』


あちこちにばら蒔かれた赤い斑点を見たあたしの足は急に力を失い、逃げたいと思う意思とは反対にその場に座り込んでしまう。血だまりの中にある白目を剥いた男の顔がすぐ傍にあって足どころが身体全体が壊れてしまったかのように震え出した

嫌だ!怖い、怖い怖い怖い!

瞳から溢れる涙も拭わずに震えている自分の肩をぎゅっと抱きしめる
上からは殺気立った声が降ってきて、でもあたしはどうすることも出来なかった。


「おのれ天人!!」

「我等の星に根付く汚らわしい生物め!同志を殺した罪、貴様らの命で償ってもらおう!!」


すらり、と鞘から刀が抜かれる音
これからここで斬り合いが始まるのかと考えたら益々気が狂いそうになった。


「ふーん、たかが人間ごときが俺達に歯向かおうってのぉ?」

「上等、天人に逆らって生きて帰れると思うなよ」

「いくぞォォ!!」

「かかれェェ!!!」


ガギン 刀と刀が交じりあう鈍い音。もうこのまま空気になって消え去りたかった
情けないことに身体が言うことをきかず(こんな時に限って!)あたしはただ戦いの様子を耳だけを頼りに窺っていた。

ぶしゃり、と何かが斬れる音に鼓膜が割れそうな断末魔、誰かの笑い声に、血が噴き出す音。


どっちが優勢だとか劣勢だとか、もう知る術はなかった。





それが数分なのか数時間なのか、はたまた数秒の出来事なのかは知らない。気が付けば辺りは不気味な程の静寂に包まれていた
意を決してそっと顔を上げる。あたしの目に飛び込んできたのは惨劇としか言い様のない光景だった。




無造作に転がる人間の死体、原型を留めているものもあれば身体のパーツや着物の切れ端、肉片やらなにやらがあちこちに散らばっていて正直何人死んだか分からない程で。
壁、地面、あたしの身体、そしてあの白い花も鮮血で真っ赤に濡れていた。一面に漂う血生ぐさい臭いに目眩がして意識を手放しそうになる

死体の中心に立つ天人達は返り血を浴びていたが何ともなさそうで、あたしの視線に気付くとこちらに歩を進めてきた。


「ごめんねぇ、大丈夫だった?」


言いながらバシャバシャと血の上を歩いてくる天人、道を塞ぐ人間の死体をまるで石ころのように蹴りとばして悠然とあたしの目の前に立った。


「さぁ、俺達に付いてきてくれるかなぁ?
もちろん、君に拒否権なんてないことくらい分かるよねぇ」


すっ、と差し出されたグロテスクな掌
あたしも馬鹿じゃない。この掌を拒んだ後の人生がどうなることくらい簡単に想像できる  けど、生憎この手を易々と握ってしまうような性格でもなくて、


「?」

「…どうしたのぉ?」


すっとぼける天人の声を撥ね除けるように喉から声を絞り出す。


『だ、れが…




…誰があんた達と一緒に行くか…っ』


精一杯の抵抗、天人をギロリと睨んで言ってやる。あたしの行動に一瞬戸惑った天人は面食らった顔をしたけどすぐにまた笑った。


「…ヒヒッ、よく言うよ、人間のくせして!」


凄い力で頭を掴まれる。大体刀を持ってる男でさえこいつらに勝てなかったんだし女のあたしが勝てるわけないじゃん、なんて脳が冷静に分析をする。だからと言ってこいつらに媚を売ってまで生きたくない、とあたしの心が勝手に結論を出していた


何故だろう 身体の中がざわざわするのは、


『殺すなら…殺しなさいよ…!
あんた達にいいように使われるなら、死んだ方がいいわ…っ』


その言葉を聞いた天人の表情がみるみる無表情に変化していく。さっきまでの態度はどこへやら、刀を握り直すと切っ先をあたしに向けてきた
月光が鈍く刀を走る。


「…あっそう。じゃあもういいや、死んで」




ヒュン、と空を切る音

あれ、なんだろ
この感覚、どこかで────






はいはーい、ちょっとどいてぇェェ!!!!!!!!!!






目の前を、
何かが勢いよく通り過ぎた。


「ぐあっ!!」

『!?』


同時にあたしの頭を掴んでいた天人の手が離れる。え、何、何が起こったの!?
でも、この状況を理解するのにそう時間はいらなかった


あたしの前に立ちはだかる銀髪の、男の人を見て。




「よォ、また逢ったな」



顔だけをこっちに向けて微笑んできた男の人は間違いなく今日の(昨日?)夕方にこの場所でたまたま出逢ったあの人で、


『あ、…』


あたしが口を開こうとしたのを遮るようにさっきと違う天人が怒鳴り声を上げた。


「て、てめェ!何者だゴラァ!!」

「あ?…俺?」


ゆっくりと声のした方向に視線を向けると天人がわなわなと肩を震わせて怒っている
けれど男の人は動じず腰に差してある木刀の柄を握り、慣れた手付きでそれを抜き放った(…え、木刀?)


「見て分かるだろ、通行人Aだよ」


そう言い終わるが早いか、男の人は天人達をを木刀で殴りかかっていた
一分も経っていないだろう。彼はあっさりと全員のしてしまい一つ大きな息を吐くとあたしの元に戻ってきてよっこらしょ、と言いながらしゃがむ

彼が手に持っていたコンビニの白い袋には傷も血も何一つ付いてはいなかった。


「怪我はねーか?」


着物の袖であたしの頬に付いた血を優しく拭う。その人はあたしの肩が震えていることに気付くと手を止め、あたしを真っ直ぐ見つめてきた。


「…震えてんのか?」

『っ…』

「お前も女になっちまったんだな、昔はこのくらいでビビる奴でもなかったのによォ」


それには答えず、あたしは視線を静かに落としてはだけている胸元の裾を握り締めた。
小さく鼻をすすり、呟く。


『…めん…なさい、』

「…?」

『あ、あたし…






昔の記憶が、ないんです、』




あの時大切だった人の顔も、名前も、まるで始めからなかったかのように



曖昧だけどひとつだけ言えることはの続きっぽい話。
無駄に長くてすません…orz
ヒロイン記憶喪失。今更。次でラストになるかも、です。

どうぞ最後までお付き合い下さいませ┏o】

曖昧だけどひとつだけ言えることは(銀魂:…銀時)

脳の中か目の奥か分からないけれど、どこかで何かがバチっと発光した感覚に陥って一瞬だけ息が詰まって呼吸困難になる。けれど次の瞬間にはそれぞれ自分の役目を思い出したらしく心臓はどきんどきんと音をたてて動いていて肺は空気をひたひたと満たして、それからぐるぐると耳元で反響する声
その言葉の本意が知りたくてゴミ箱の後ろからそっとあの人の様子を確かめる。人混みの中に映える銀髪の髪がそよ風で揺れて綺麗だった、  あ。


『(あの人…)』


その先の思考を紡ごうとして遮られたのは目線の先にいた人物が自分の顔を掌で覆い、ふいと後ろを向いて足早に去っていったからだった
ごくり、と口内に溜まっていた唾を飲む。その小さな音がやけに煩く感じて細く息を吐きもう一度銀髪の男の人を探してみる

あたしの目に、もうその人の姿が映ることはなかった。




「生きてた、」


そう彼は言った。

それは聞き間違いでも空耳でもなく、そして彼は



『(泣いて…た)』






夢を見た。いつか見たのと同じ夢を。
夜が潜む夕暮れの橙色、真っ赤な鮮血の中に伸ばされた掌とすり抜けていく掌、どこかに落ちていくちっぽけなあたしの身体にあたしの名前を叫ぶ銀髪の人


「…──、───っ!!!」


そしてあたしも彼の名を叫ぶんだ。必死に、届け届けと祈りながら。


『 、!!───…







突然、脳裏でぶつん と切れる擬音がした。と同時にあたしの目が見開かれる
首筋に伝う汗を拭いながら辺りをキョロキョロと見渡してみればそこは荒んだ戦場ではなく自分の寝室で、ほっと安堵の溜息をついた。


『ゆ、め…』


言いながらごろんと寝返りを打って障子の隙間から空を仰ぐ。空はすっかり真っ黒で星達が申し訳ない程度に瞬いていた
上体を起こしたその刹那、軽い頭痛と目眩がして顔をしかめる。風邪でもひいた…かな


『…』


夢の中であたしは誰の名前を叫んでいたのだろうか。さっきまで見ていた夢を巻き戻しして再生してみるけれど自分が叫んだ言葉も思い出せないどころが相手の顔すらぼやけていてイライラ、


『…っ、なんで…』


もう少しで全てを取り戻しそう、なのにいつまで経っても何も掴めないもどかしさに嫌気がさす
せめて夢に出てきたあの銀髪の人の顔さえ、名前さえ分かれば、



…銀髪…


そんな時、ふと思い出したのは夕方出逢ったあの銀髪の人だった。もしかしたら彼は何か知ってる、かもしれない。


『(あの人は「生きてた」って言った)』

『(あれはあたしのことなの?)』

『(…なんで、)』



『、泣いてたんだろう…』






急に、逢いたいと思った。

頭の中がぐちゃぐちゃで
誰かに何とかして欲しくて
でもあの人じゃなきゃ駄目な気がして
どうしても逢いたくて
きっとあの場所に行けば逢える  そう思って

気付けばあたしは夜の街を走っていた。





『っ、はぁ…』


夜だからかもしれないけれど足元にある白い花は少し小さく見える
息を整えながらぐるりと視線を一周させる。当たり前、と言ってしまえばそれまでだけどこんな真夜中に出歩く人がいるはずもなくあたしは壁に手をついてがくりと項垂れた。


『……いる訳、ない…か…』


誰にともなく、掠れた声で呟く。次第に何やってるんだろうと自己嫌悪の念がくつくつと沸き上がってきて泣きそうになったけど我慢する
もうここにいる理由もない、そう思って顔を上げた  その時だった。




「こんな所で女が何やってんだぁ?」


背後から聞こえた声に驚いて振り返るとそこにいたのは怪しい笑みを浮かべて刀を構える男達
もちろん全員初対面な訳で、あたしはぴきりと固まってしまった。(え、ちょ、嘘!)


「おお、よく見りゃいい女じゃねーか」


一人の男があたしを見て舌なめずりをしながらじりじり近付いてくる。ようやく我に返ったあたしはこの場から逃げようと試みたけれど男達はあたしを囲うようにして並んでいるし皆愛用の刀を腰に差してるし、それにあたしは女でこいつらは男で、

どうしようどうしよう!なんて後悔している暇もなく男の手があたしの顎を掴んで乱暴に上を向かされた。


「斬るには惜しいな、」

「遊郭にでも売って金にするか?」

「その前に俺らの相手でもしてもらおうか、姉ちゃん」


あたしの着物に手がかかる。叫ぼうにも恐怖で声が出なくて反射的にぎゅっと瞳を閉じた、直後のことだった。




「うぎゃああぁぁっ!!!」


耳をつんざくような悲鳴、次いであたしの顔にびしゃりと飛び散る生温い液体、驚いて目を開けると信じられない光景が飛び込んできた。





心臓を刀で貫かれている目の前の人間
驚愕の表情を浮かべる男達
刀を伝って滴る血液
それを楽しそうに眺めている、天人。



何が何だかさっぱり理解出来なかった。




ああ、これからどうなってしまうのか、
(そんなのあたしが一番知りたい!)



「ヒヒッ、ダメじゃぁん、それは俺達が先に見つけたんだからぁ」


そう言った天人の顔は暗くてよく見えなかったけど
不気味なくらいの笑顔で歪んでいたことだけは分かった。



主役は貴方なのか私なのか、それすらもの続きっぽい話。
区切りが悪いので…中途半端だけどごめんなさい!

今回銀さん要素ない…orz で、でも次は銀さん活躍するから!多分!←】
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