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たったひとつのわがまま(kmt:風柱だけど要素0だし死ネタ有り。捏造特盛につき閲覧注意)

輪廻転生、生まれ変わり、魂の循環──。
きっとあたしは、また戻ってくる。
死ぬのは孤独かもしれないけれど
長い長い昼寝みたいなもんだろう

あゝ数え歌を口にすれば
ただ強くなりたかったと

ちぐはぐな内臓と
摩訶不思議な呼吸

冷たい風がまぶたを撫でた。


自分の呼吸のオリジナルが水の呼吸なので
育手にも「雨も氷も雪も、水で出来ているものは全て自らの手に戻ってくる」「水は土を通り、海に流れ、空へ昇り、再び地面に舞い降りてくる」と耳にタコができるくらい言われてきた。
だから
死ぬ、という場面に直面しても
ちっとも怖くはなかった。

音柱の宇髄さんが上弦との戦いで一線を退き
急遽祭り上げられたあたしという新しい柱
まあそれは応急処置みたいなもんで
あたしは柱合会議に出たことがないまま
柱としての振る舞いがよく分からないまま
あの日を迎え、今を迎え。
驚くことに
はじまりも雨で、おわりも雨だった。

「──っぅ、」

肺の痛みに不快感。
耐えながら目を開けると、ベッドの横には
あの日の戦いで生き残ったのであろう、銀髪の男が座っていた。

「……しな、ず、がわ」

男の名前を呼ぶと、頭に包帯を巻いた男──不死川実弥という──は、瞳孔を開いてあたしに身を近付けてきた。

「おま……っ、目ぇ覚ましたのか!?」

なんとか。と口にしようとしたけれど
顎が奇声を上げて軋んで、視界が滲む。
よかった。と、か細い声が聞こえた。

「あァ……無理すんな。待ってろ、今蝶屋敷の奴を呼んでくらァ」

そう言うと、不死川はバタバタと席を立ち部屋から出ていった。
刹那、体全体がギシギシと唸り始める。
かはっ、喉が情けない空気を吐き出した。
上体すらも起こせない
瞬きするだけで激痛まみれ
よく生きてんな。
自分の運か、あるいは偶然か。
胸中複雑。


不死川が連れてきた蝶屋敷の、2つ結びの女の子。
全身あちこち診られ触れられてる間
あたしの腕に阿呆ほど刺さってる点滴が目に入った。

「……お前が一番重体だァ」

あたしのこころを代弁するように、不死川が目を伏せた。
その先にあるはずの右手と右足の感覚がなくて
失ったんだなと、なんとなく察した。

「……意識は戻りましたが、予断を許さない状況です」

女の子の声。
まあそりゃそうだろう。
自分でもなんでこの状態で生きてんだと
自分の中に満ちる生命力に呆れ返って苦笑いした(実際は出来なかったけど)。

「私達も絶え間なくお傍につきますが、不死川様も無理しないでくださいね」

「あァ、ありがとな」

小走りで駆ける音、扉が閉まる音。
ややあって、椅子が軋む音。

「とりあえず寝ろォ。俺のことは気にすんなァ。……」

不死川の唇がなんとかかんとかと動いたような気がした。
聞き取れなかったのはあたしの耳と目と脳がいきなり機能停止して、ブラックアウトしたからだ。


目を覚ますと、雨が降っていた。
前回の目覚めよりも全身に走る痛みが酷かった。
おまけに頭痛も、寒気もする。
誤魔化そうと身体を捩ろうとした時、ベッドの縁に重みを感じた。
なんとか首を動かすと、不死川があたしのベッドに突っ伏して寝ていたのが見えた。

「──し、な」

中途半端に呼ばれたのに、聞き耳を立てていたかのように
不死川はガバッと勢いよく起き上がった。
悪ィ寝てた、そう言った彼の頬にシーツのあとが残っている。

「具合はどうだァ」

「……よく、はない」

「……だろうなァ。お前が一番重体で、もう目が覚めないって言われたくらいだからよォ」

前にも聞いた台詞だった。
他に無事だったのは?というあたしの問いに
彼は躊躇いながら冨岡と俺だけだ、そう言った。

「──そっ、か」

涙は出なかった。
きっとあたしも、もうすぐだ。

「ね、」

「なんだよォ」

「……あたしの、ものは、ぜんぶ処分し──」

「っ、おい!」

あたしの言葉を遮った不死川の瞳孔が、きっと見据えている。

「なに死ぬこと前提で話してんだ!弱気になるな!目ぇ覚ましたから、これからよくなるに決まってるだろ!」

怒鳴り声にも近いその声に、だけどあたしは心穏やかだった。
気にせず、肺を動かして、言葉を続ける。

「たしか、反物が、どこかに……」

「やめろ!」

バタバタと複数、部屋に誰か入ってくる音が聞こえた。
不死川!と、聞いたことのある男の声が遠くで響いている。

ああ、冨岡。よかった。
声になったか、ならなかったか。
寝ているのに身体がぐらぐらして、ぶつりと意識が途絶えた。


嘔吐にも似た、生温い何かを吐き出す。
そばにいた誰かが、あたしの名前を呼んで
泣いてもいないのに視界が真っ白で
左手に、微かな熱を感じた。

きっと、その手を握っているのは
見えないけれど不死川だと思ったから。
耳鳴りが響く脳を精一杯叱咤して
喉から声を振り絞る。

「あめ、を、椀に」

つよくなりたかったなあ。
つよくなりたかったなあ。

あめのおとが、きこえる。


たったひとつのわがまま


(雨は好き。いいことも悪いことも、全部さらってくれるから)

(雨は嫌いだ。雨なのに傘をささないアイツが、綺麗だねって笑うから)
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恋人ごっこで夜を着こなせ(キ学:数学教師 ぬるい裏 R15くらい)

「はーっ、飲んだぁ。もう食えんし飲めんーっ」

「そんな泥酔してる所なんざ、生徒には見せらんねぇなァ」

「そーいう実弥ちゃんだって足元フラフラだし」

「そりゃテメェの見間違いだ」

「強がっちゃってーっ。んで、宇髄さんから聞いたいい感じのラブホってどこなのよっ」

「地図だとここら辺っぽいけど……あ、あった。ここじゃね?」

「うわ、めちゃきれーい!やば!早く入ろっ」

「あ、おい!転ぶだろっ」

「んへへー。平気へいきー。おじゃましまっす」

「……」

「……」

「……」

「……ラブホのエントランスってなんかつい小声になっちゃうよね。なんでだと思う?」

「誰も喋ってねぇからだろ」

「あっ、部屋どれにするー?」

「なんでもォ。こだわりねぇわ」

「んじゃこれ!」

「おー」

「ねっ、貸し出しのやつ何借りてく?」

「お前が使いたいものでいい」

「んーーー。じゃこれとこれ!高くて普段使えないやーつ」

「いいんじゃね」

「やだー。実弥ちゃんと同じ髪の匂いになっちゃう」

「……いいだろ別にィ」

「あとなんか必要なものあるー?」

「剃刀。使うだろ?お前も」

「なるほっ。さすがぁ」

「部屋は……5階だってよ」

「はいはーい。エレベーターのボタンおしまーすっ」

「おう」

「……エレベーターから誰か降りてこないかって心配にならん?」

「ならねぇよ。つか行きと帰りで違うエレベーターだろ普通は」

「うーわっ、物知り!ラブホマスター!」

「訳わかんねぇ。ほら乗れ」

「うぃす!5階のボタンを押してぇっと」

「……」

「……ん、」

「……」

「……ぷぁ。ちょっと不死川先生、ここまだ部屋じゃありませぇん」

「うるせぇ」

「ん!ちょっ……」

「……ふ、」

「ぁ、ちょっと。もう5階ですけどっ」

「……ほら、行くぞ」

「はあー?なにそれ急に冷たくされたらわたし悲しいわっ」

「ここで始めるわけにもいかねぇだろうがァ。捕まりてぇのかテメェは」

「その時は実弥ちゃんも道連れよん」

「捕まりたくねぇからとっとと入るぞ」

「へーい」

「うお、結構広いな」

「さっすが宇髄さんオススメ!綺麗だし最高っ」

「先払いだけど、宿泊でいいよな?」

「うぃ!財布財布……」

「……やべ。俺細かい金ねぇわ。後で半分な」

「了解しました不死川先生っ」

「……こんなところで先生呼びすんなァ」

「ん……」

「……」

「……、っ。」

「……は、」

「……せんせ、」

「だから、先生呼びすんなっつったろォ。テメェも先生呼びしてやろうか」

「それは無理ー!先生なんて呼ばれる前に逃げろー!」

「……」

「うわ、実弥ちゃん!見て!部屋も広くて綺麗でおっしゃれーっ」

「マジか。思った以上じゃねぇか」

「すご!お風呂場丸見えだぁ」

「よかったじゃねぇか。じっくり見てやんよ」

「きゃー、へんたーい!かくれろかくれろーっ」

「ったく、風呂どうすんだァ」

「はいるーっ」

「じゃ溜めてくるから待っとけェ」

「実弥ちゃんありがとっ」

「残念ながらちっとも可愛くねぇから」

「んが!ひーどい!もういいもん拗ねてやるーっ!」

「どーぞご勝手にィ」

「……」

「……」

「部屋の明るさはぁ……えーと……これくらいでいっか。充電器……はっ、今のうちに充電しとこーっと。ケータイケータイ」

「……」

「充電完了ー。よしよし、ひとまずおっけー。んで、ゴムがあって、大人のおもちゃがあって」

「なにしてんだァ」

「ね!実弥ちゃん、大人のおもちゃ」

「使って欲しいんかァ」

「やっぱり男子はこーいうのを使いたいんですか」

「男にもよるんじゃね?」

「実弥ちゃんは使いたいの?」

「さぁなァ」

「あ、誤魔化し……ん、」

「……っ、」

「……ねえ」

「……んだよ」

「……手、握って」

「……おう」


恋人ごっこで夜を着こなせ


1枚1枚脱がして行く彼の手つきが
なんだかやさしくて、くすぐったくて。
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その風をまちわびるF(kmt:風柱)

灰吹きから蛇が出る
とはよく言ったもんだ。
こんなこと、多分
後にも先にもありえないってば!


「おい、大丈夫か」

「は、はい……」

緊張、緊張、また緊張。
風柱様とひょんなことから町に買い出しに来ているのだけど
どっと吹き出す汗と、鳴り止まない鼓動と、ちょっとした暑さで
買い物途中ですっかり体力ゼロ。
外に縁台と野天傘がある甘味処で休憩している最中、だった。

「ちょっとアンタ、大丈夫かい?」

風柱様の腿を枕替わりにして(本当に本当に本当に申し訳ない)(申し訳なさすぎて口から正体不明の何かが生まれ出そう)くたばっているわたしの顔を甘味処の店員さんが覗き込んだ。
手には氷嚢と手ぬぐいをそれぞれ持っている。

「あァ、悪ぃな」

受け取った風柱様が、氷嚢を額に、手ぬぐいを首元に当ててくれた。
冷てぇぞ、と前置きされてあてがわれた手ぬぐいは予想より冷たく、しかし一瞬にして温くなった。

「今日は暑いからね、仕方ないさ」

「いや、俺が歩かせちまったから」

「そんなぁ……実弥さんは何も悪くないです……」

かろうじて吐き出した声は自分でも分かるくらい元気がなく、喧騒に紛れて消えた。

「わたしがあれもこれもと悩んでしまったので……」

「いいから、もう喋るなァ」

「ふぁい……」

ふわり、柔らかな風が頬に当たる。
風柱様が店員さんに借りた団扇でわたしを扇いでくれているのだ。
風柱様が鬼狩りの時に刀を振るっていた時の風とは違う、優しくて心地よい風。
そんなこと柱にさせてはいけない!と、普段のわたしなら全力で拒否するのだけど
どうにもこうにも、暑さで茹だった脳味噌のせいで上手く思考回路が働かないのだ。
あと、単純に拒否する気力も体力もない。
ゆえに、横になって色々されるがままになっている。

「回復するまで休んでいきなよ。好男子の旦那がついてるんだ、安心して横になっていられるだろ」

「ご配慮ありがとうございます」

「何かあったら呼んでおくれよ」

誰そ彼時がやってきて
わたしとあなたがいて。

「……すみません」

「だァから、謝るなって」

上から降ってくる風柱様のお言葉はとても優しくて、顔向けできない。

「とりあえず体調が整うまで休んどけェ。俺のことは気にすんなァ」

なんとか返事をしようと思ったけど、ぐわんと目眩がしたので
応答代わりにうんうんと首を縦に振った。


悲鳴が聞こえたのは、橙が濃くなり始めた頃。
確かに耳に届いた、きゃあという女の人の声。

「……!」

「今のは……?」

「ここから……近いな。河の方か」

全快、とまではいかないけれど。
氷嚢と手ぬぐいを避け、上体を起こす。
目眩や吐き気といった症状もなさそうだ。

だから、行かなければと思った。

「様子、見てきます」

「はァ!?」

お前正気か、と瞳孔を開いて言う風柱様に
間髪入れずはいと返事をする。

「多分、今の悲鳴を聞き取れたのはわたし達だけでございます。もしかしたら例の変質者かもしれません。近ければ間に合うかも」

「おい待てェ、んなもん警察に任せればいいだろが」

「その間に取り返しのつかないことになってしまいます」

「いや、それはそうかもだけどよ……って、おい!」

立ち上がり、声のした方向に向かおうとするわたしの手首を風柱様が掴んで止めた。

「テメェ、死にてぇのか!?」

「死なない程度になんとかやります。これでも元隠ですので」

「元隠だからって出来ることとそうじゃねぇことがあるだろうが!」

振りほどこうとするけれど、風柱様の手のひらからは
決して振りほどかれまいと力がめきめきと伝わってくる。
ではどうすれば!とつい声を荒らげてしまった。
風柱様の瞳が揺れる。

「……俺が行く」

それは、予想外の言葉だった。

「えっ」

「……喧嘩慣れしてねぇお前よりも、俺が行った方がいいだろ」

「風柱様にそんなこと!」

「馬鹿野郎、柱だからやるんだァ!」

その一言に、ハッとした。

そう、柱は──風柱様は、鬼狩りの最中
いつでもわたし達隠や、一般の方々を守ってくれていた。
その背中は揺らぐことなく、大きく、うち靡(なび)く羽織の後ろ姿に
どれだけたすけられたことだろう。

風柱様、と口にする前に
掴んでいた手のひらが解かれ、チッと小さく舌打ちが聞こえた。

「いいか、ここにいろォ。すぐ戻る」

「でも」

「俺に任せろ」

そう言い、風柱様は
わたしの頬をするりと撫で
何も言わず駆け出して行った。

「……へ?」

その場に残され、されたことに汗まみれ。

(な、え……今のって……なにが起こったの!?)

顔にぶわっと熱が集まる。
頬に触れるけど、異なる熱はもう見つからない。
ひえ、と喉から空気が漏れた。

(いや、わたしの具合を確かめるためだ。絶対そう。他意はない……はず!うん、そう。だから照れるな!照れちゃダメだ、絶対だめ)

冷静になれ!
自分に言い聞かせ、両頬を手のひらで叩く。

(そもそもわたしが不甲斐ないから迷惑かけてるんだし、浮ついてる場合じゃない。自分が未熟なことを恥じなきゃ)

ふうと長い息を吐き、それから吸う。
空を見上げて、気合いを入れた。

「よし!わたしも実弥さんを追って──」

この時、わたしは
自分のことばかり考えていて
周りのことなんか、全く見えていなかった。

「、!?」

視界に入る黒い影、首に走る鈍い痛み。
周りの人達がわたしを見て驚き、叫ぶ。

「お、おい!」

「きゃーっ!」

「来るなっ!近付いたらこの女を殺す!」

「えっ!?」

目線を下にすると、ぎらりと鈍く光る包丁の刃が見える。
なに、と疑問を口にする前に両手を拘束された。

「痛っ!……え、なになに!?」

「見つかった……おしまいだ……こいつを殺して俺も死ぬ」

こいつを殺して。
物騒な単語に、背筋が凍る。

「ちょっとあなた!例の変質者ですかっ」

「畜生……油断した……」

「あのっ、人の話聞いてます?」

下手に動こうとすると突き立てられた包丁の刃が肉に食いこんで痛い。
どうやら話の通じる相手じゃなさそうだ。

「おい、あんた!よさないか!」

「こんなことしたって何にもならないよ!」

周りの野次馬の群れから、変質者を宥める声が掛けられるけれど
やっぱりこの人には届いてないみたいだ。
ごくり、唾を飲む。

「死ぬ……こいつを殺して……俺も……!」

刃が肉にめり込む。
そこからどろりと血が漏れ首筋を伝って、心臓が跳ねた。

この人、本当にわたしを殺す気だ。
助けてと叫びたいのに、声が出ない。

ふと、風柱様の優しい笑顔が脳裏に浮かんだ。
ああ、風柱様。ご迷惑ばかりおかけしてすみません──。
ごうごうと唸る風に、目を瞑った。

「テメェェ何してんだアアァ!!!」

鈍い音、離れる痛み、響く金切り声。
大丈夫か!
聞き慣れた声に、はい!と、反射的に返事をした。
目を開けると、風柱様が心配そうにわたしの顔を見つめていた。

「大丈夫じゃねぇだろ馬鹿!お前、血が出てるだろうが!」

「えっ……あっ、風柱様」

「おい!誰か手を貸してくれ!」

わらわらと男性達がわたし達に駆け寄る。
状況を把握しようと思った瞬間、足から力が抜け
その場にぺたんと座りこんでしまった。

「あ……れ。すみません、足に力が、」

「無理すんなァ。あんな状況で動揺しねぇわけがねェ。俺に掴まれるか?」

「は、はい……」

途端、ぶるぶると身体全体が震え始めた。
上手く呼吸も出来ない。
じわりと目に涙が溜まって、視界が滲む。

「……すまねェ」


噛み締めたくちびる


暖かい風が、震える身体をそっと包み込んだ。

名前を呼んだ話の続き。
え?ご都合展開??いいんだよっ
やっぱピンチの時に助けに来てもらいたいじゃんっ
おんなのこはあんがいゆめみがち

助けに行かなきゃ!って思った理由
やっぱ元鬼殺隊の一員だからね
正義の味方って訳じゃないけれど
困ってる人を見過ごすことが出来なかったんだと思う

サネミチャン、多分助ける時に呼吸使ってると思う笑】

その風をまちわびるE(kmt:風柱)

霞色の着物が、降り注ぐ陽光を弾いてさらさらと輝く。
優しい微笑みと、ぎこちない距離と、重ならない二人の歩幅。

「おい、歩くの早ぇか?」

「大丈夫です、風ば……あ。いや、さ……実弥、さん」

言い慣れない名前を口にして、たどたどしさに変な汗が出る。

「おう」

わたしのことを気遣ってくれているのが分かるから、ただただ申し訳なくて。
ついて行くだけで精一杯だった。


昼下がり、夏の真ん中で。
こんな状況になっているのは、事情があった。


「変質者?」

そうなんです!と、鼻息を荒くしてわたしにずいっと近付く、文の配達員さん。
旅をしていた風柱様からの文をずっと届けてくれた人で、今はこうして世間話をする程度の仲になっていた。

「最近の話ですけど、ここいらに出没するって噂ですよ!なんでも刃物を持ってるみたいで、メッタ刺しにされたって話も聞きます」

「ええっ」

血溜まりを想像して背筋が凍る。
まさか鬼じゃないよね?
一抹の不安が脳裏をよぎる。

「その変質者ですが、昼夜問わず現れるらしくて。こんな仕事なんで、僕も気をつけてます。最近旦那さんも帰ってきたんですよね?奥さんもなるべく一人で出歩かない方が」

「お、おくさん」

違いますと口を開こうとした、その時。
後ろから風柱様の声が聞こえた。

「どーもォ」

「あっ、風柱様」

体格のいい風柱様を見たご近所さんは「あっ!どうもこんにちは」と一礼し、足早に去っていった。
小さくなる背中に、屋敷の主が一言。

「……誰だァ、アイツ」

歯に衣着せぬ物言いに、郵便の配達員さんですよと説明する。

「数年前からお世話になっているんです。風柱様からの文もあの方がずっと届けてくださいました」

「……ふぅん」

「あっ、これ。音柱様からの文でございます」

「宇髄から?」

手紙をまじまじと見つめながら、それより何の話をしてたんだと訊かれる。
ここで話すと長くなりそうだ。
とりあえず屋敷に戻りましょう。
提案する前に、風柱様が「ここだと日が当たるから中で話せェ」とおっしゃってくれた。

この時はまだ、あんなことになるなんて
ちっとも考えられなかった、のだ。


「変質者ァ?」

眉間に皺を寄せた風柱様の口から、割と大きめの舌打ちが出た。

「チッ、奉行所の奴ら何やってんだァ。んなめんどくせぇやつ、のさばらせてんじゃねぇよ」

「昼夜関係なしに現れるらしいので、追うのも一苦労なのではないでしょうか?」

「あー。成程なァ」

風柱様と一緒に、おはぎと抹茶を食べる。
風柱様は手についた餡子をぺろりと舐め、そのまま口を開いた。

「っと。そういや、宇髄が近日ここに来るらしい。アイツ、美味い飯用意しておけとかほざきやがって」

「あ、そうなんですね。では買い出しに行かないと」

「は?買い出しィ?」

んなの適当でいいんだよ!と言われたけど、適当でいいはずがない。

「はい。備蓄している食料が二人分しかないので、いつお越しになってもいいようにある程度は用意しておかないと。あっ、茶請けも買ってきます」

「だからァ、んなことしなくていいってェ」

「そんな訳にはいきません。わたしにとって風柱様も音柱様も、今でも尊ぶべきお相手です」

「尊ぶべきって……」

目を逸らしながら頭を掻く風柱様を横目に、空いたお皿と湯呑みを持って立ち上がる。

「では、行ってまいります」

すると横から勢いよく言葉が飛んできた。

「あっおい!テメェ、俺の話聞いてたか!?」

「えっ!?はい、聞いておりましたっ」

「だったら出掛けるんじゃねぇ!」

「ええっ!?なぜですか?」

「宇髄の野郎にはそこら辺の露でも舐めさせとけ!」

「そんな訳にはいきませんっ!」

あれ、このセリフさっき言ったな。
なんだか堂々巡り。
はあ、と風柱様が長いため息をついた。

「……変質者に襲われたらどうすんだァ」

ここでようやく腑に落ちた。
あ。
もしかして。

「心配……してくださるのですか?」

わたしの疑問にやや間を置いて「そうだよォ」と小さく返ってきた。
こころなしか、お顔が赤く火照っているようにも見える。
座り直し、深々と頭を垂れる。

「身に過ぎるお気遣い感謝致します。しかしわたしは女中の身。出来ることをやらないのは怠慢でございます。それに、風柱様のご厚意に甘えてしまってはこの屋敷に務めている意味がございません」

「……」

「こんな昼間から怪しい動きをしている人がいれば目につきます。それに、人気が少ない場所に行くわけではございませんので」

そう言い、顔を上げたその時。
肩をガシッと掴まれた。
予想外の出来事に身体が強ばる。

「……」

「風柱様?」

風柱様はそっぽを向いて何かを考えていたが、急にこちらを見ると瞳孔を開いたまま「俺も行く」と同行を希望する旨をわたしに伝えた。

「へっ!?そんな、風柱様はここで待っていてください」

「変質者がうろついてんだぞ、女ひとりで歩かせられっか!俺も行く。すぐ支度するからちょっと待ってろォ」

「あっえっ、しかし」

わたしが慌てている間に、風柱様は二人分の皿と湯呑みを持ち、立ち上がるとスタスタと台所に向かって行った。
わたしも慌てて立ち上がり、痺れはじめた足を引きずりながら風柱様を引き留めようとする。

「ああ、風柱様!わたしがやります」

「いいから、テメェは買い出しの準備でもしてろォ」

「そんな、わたしの仕事で」

「おい」

「はい!」

くるりと振り返った風柱様にぶつかりそうになったので、両足で踏ん張ってなんとか距離を保つことに成功する。
風柱様はわたしを無遠慮に見つめると、驚愕の一言を発した。

「お前、外では俺のことを旦那扱いしろ。名前で呼べェ」

「……えっ!?」

それはあまりにも突拍子もない提案だった。
なぜ、なんで、どうして!?
ぐるぐる混乱している頭をなんとか落ち着かせようとしていると、風柱様が言葉を続けた。

「夫婦って名乗ってた方が色々都合がいいんだよ。俺の名前は知ってるよなァ?」

「えっ、あっ。はい!でも」

「いいから呼んでみろ、ほら」

「ええっ!?」


さてこれは 願ってもない 密か事(みそかごと)


ぽつりと名前を呼んでみる。
薄く笑い、戸惑い、なぜなんて聞けずじまい。

距離が近付いた話の続き。
きっと玄関先の話聞こえてたんだろうなあ
ちゃんと自分の気持ち言えて偉いねえ
タイトルにちゃんと名前入ってるの
こだわり!

次の話に続くっ
ちゅうしてくれてもいいんだぞっ←
口調も公式設定もめちゃくちゃだけど
自己満でおっけい】

その風をまちわびるD(kmt:風柱)

宵闇の水鏡に映るのは、鬼か、それとも人か。


滅殺。
それだけが俺の全てだった。

慰めも、哀れみも、同情も、なにもかも
俺には必要なかった。
この怒りが燃え尽きるまで、刃を突き立て蹴散らすのみ。

傷は癒えても、心は癒えない。
きっとずっと、片隅に残る出来事。

思い出して、その度に
守れなくてごめん、と
届かない想いを呟いた

忘れたくても、離れてくれない。
願い事ぽとぽと、ただの世迷い言。

喉が渇いて、ひたすら叫んだ。
黒に浮かぶ笑顔に向けて。


──死なないで欲しい。
兄ちゃんを、守りたかった。

聞き覚えのある声が、鮮明に響いた。


「……っはぁ!」

双眸を見開くと、見慣れた天井が目に入った。
うるさく跳ねる心臓を、深呼吸で落ち着かせる。
ふぅと吐いた長い息が、夜の寝室を満たしていく。

(夢か、……)

手のひらで顔を覆い、それから頭を掻きむしる。
あれから随分経ったのに、未だに夢に出てきやがる。
畜生、と誰にともなく呟く。
上体を起こし、壁の時計を見るともう朝が近付いていた。
このまま二度寝するには気分が乗らない。
喉でも潤そうと、布団から抜け出した。

「あっ」

台所に向かう道中、この家に住み込みで働いている女と出くわした。
俺が留守の間、ずっとこの家を守ってくれた奴だ。
そして今、不自由になった俺の身体の代わりをしてくれてる。
女は俺の顔を見るなり、驚いた表情でたたっと駆け寄ってきた。

「風柱様、お顔が真っ青でございます。お加減が優れないようですが、どこか痛みますか?」

いきなり言われたもんだから、「あァ?」と、つい語気を強めてしまった。
途端、強ばる表情。

「も、申し訳ございません!出過ぎた真似を」

「いや、違うんだァ……」

謝罪の言葉を遮り、頭を抱える。
俺の顔を、そっと覗き込む気配がした。

「違う……すまねぇ、お前が悪いわけじゃねぇんだ」

「いえ……。そんな……」

まだ暗い廊下の真ん中で、ひやりとした空気が足元を走る。
こんな時に独りじゃなくてよかった。
情けない気持ちで胸が軋む。
すると、漂う沈黙を彼女の言葉が破った。

「……夏の初めとはいえ、まだ夜は冷えます。湯たんぽと白湯を用意致しますので、風柱様は寝室でお待ちになって下さい」

そう言うと、俺を置いていこうとするから。
急に不安になって。

「あ、おい!」

俺は反射的に、女の寝巻きの袖を掴んでいた。
空中でぴんと張る布の感触が指に伝わる。

「えっ!?」

「あ!?」

振り返った顔は驚きに満ちている。
しまったと思った時には遅かった。

「悪ィ、掴むつもりは……」

「……」

「……」

「……風柱様?」

どうして離さないんだろう?
女から疑問符が浮かんでいるのが分かる。
分かるから、膨らんでいく気持ちを正直に伝えようと思った。

「……一緒に、いてくれ」

え。
狼狽したのが、見なくても声色で分かった。
恥ずかしいやら何やらで、目の前の女に視線を向けることが出来ない。
それでも、今は独りになりたくなかった。

「頼む……情けねぇが、独りでいるのが怖くてよ」

「風柱様……」

「……」

何を言ってるんだ俺は。
無言の空気に耐えきれず、前言撤回しようと思ったその時だった。
ぎゅ、と
柔らかな温もりに包まれたのが分かった。
何が起こったんだ、どうなってんだ。
薄闇の中で思考を巡らせていた時
温もりの主から声が漏れ聞こえた。

「昔、わたしがよく母にしてもらったことでございます。人の温もりって……なんだか、安心しますよね」

母にしてもらったこと。
瞳の奥に、雷にも似た衝撃が走った。

──実弥、こっちにおいで。
こわかったの?もう大丈夫。

忘れられない
忘れたくもない
母親の声が、聞こえた気がして。
息も出来ないくらい、ぐしゃぐしゃに胸が潰れた。
俺よりも一回り、二回りも小さいその姿に母親を重ね、無意識に抱きつく。

「お袋……」

涙が出そうになるのを、懸命に堪えた。


だれもいなくなったせかいで、


(震えているあなたを、どうしてひとりにすることができるだろうか)

はじめてふれた話の続き。
今更だけど捏造妄想もりもり(しかもFBと公式小説未履修)
いいんだよおぉぉ夢小説なんだからっっ←開き直り

それはそれとして、サネミチアの弱い姿を書きたかっただけ
そしてサネミチア視点も書きたかっただけ。
口調難しくないです??笑

子どもみたいに甘えてくれてもいいんだよ
弱いことは負けではないのだ】
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