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あなたがこの世界に残したもの(銀魂:沖神)

不思議だなァ。
大事な人がこの世界から消えちまっただけで辺りの景色が死んだように白黒で見えるなんて、ろくでもねェドラマの中だけの表現だと思ってたのに。
その時は『そんなことあるもんかィ、大袈裟だなァ』なんて馬鹿にしてたんだ。世界はこんなにも鮮やか過ぎて眩しいくらいだ、と。


ごうごうと目の前のボイラーが動いている。その間誰も何も喋らなかった。いつもは無駄にやかましい近藤さんも山崎も、俺の隣でボーッと突っ立ってるマヨラー男も、何も言わなかった。だだっ広い部屋にぽつんと置かれた俺達は、ただ黙って何かを待っていた。

ぼんやりと思い出すのは生きていた頃の姉上の顔ばかりだった。俺の瞼に焼き付いている姉上の表情は笑顔ばかりで、ひとつひとつこころから溢れ出す度に焦りのようなものを感じた。無情に泣き叫びたい衝動にかられるが、ぐっと歯をくいしばって堪える。


そーちゃん と、懐かしい声が聞こえた気がして顔を上げる。けれどそこにはあの笑顔はなく、ボイラーの音だけが響いているだけだった。
やりきれなくなって、フラリと部屋の外に出ようとすると、いつもより低い近藤さんの声が俺を引き止めた。


「どこ行くんだ、総悟」

「……ちょっと、外に」


そうか、とさっきよりも小さな声が返ってくる。俺は視線を伏せたまま静かに部屋を出た。廊下はひやりと寒く、俺は宛てもなく歩き始める。なんだか成仏出来ねェ幽霊みたいだなァ、と自嘲した笑みを浮かべながら。




薄暗い雲からぽつりぽつりと冷たい水滴が落ちている。躊躇いもせず外に出るとみるみる服は濡れて重たくなった。気にせず歩いていくと木々の中にある小さな空間に、壊れかけのブランコを見つけた。雨に打たれていてひどくちっぽけに見えるそれ、鎖は錆び付いていて座る所は雨風にさらされ続けて古ぼけている。
俺はブランコに力なく座ってぼんやりと空を仰いだ。葬儀場から伸びる煙突からうっすらと灰色の煙が昇っている。ああ、あれが姉上を焼いた煙なのだろうか、とぽっかり空いたこころで思った。

ぴたぴたと雨が俺の顔を打ち付ける。うっとおしくて俯くと姉上とおんなじ色の髪の毛が目に入った。その刹那、俺の姿が姉上の姿とリンクしてドキリと心臓が高鳴った。


「あ ね──、…」


宙に手を伸ばして止める。そうだ、もう姉上はいないんだ。なのにその死を受け入れられない自分がいて、ひょっとしたらそこの木の裏から現れてあの笑顔で俺を出迎えてくれて、またそーちゃんって柔らかな声で呼んでくれるんだ、なんてガキくせェ期待を抱いてるんだ。
でも分かってるんだ。もう、姉上はここにはいないんだってことを。

じゃあ俺はどうすればいいんだよ、


「……っ、ぅ」


気付けば俺は泣いていた。葬式の時だって涙が出なかったくせに何で今更出るんだよ、畜生。
もう頬を伝うのが雨だか涙だか分かんねェや、でもいいや。いいよね、姉上。






「こんな所で何してるネ、サド王子」


不意に聞こえた声にハッとする。ゆっくりと上を向くと俺の宿敵のチャイナが怪訝そうな顔つきで俺を見ていた。


「お前んとこのゴリラが探してたアル。」


見慣れない黒い着物に身を包んだチャイナはそう言うと手に持っていた紫色の傘を傾け、すっかりびしょ濡れになった俺の身体を傘の中に入れた。


「…何かあったアルか?」

「何でもねーやィ」


チャイナから顔を背けると、俺の視線を追うように傘の位置はそのままで身体を動かしてきた。再び飛び込んでくる黒い着物。


「ほら、早く行くアル。みんながお前を探してるヨ」

「……ああ、」


俺は立ち上がりチャイナを見下ろした。ふたつの視線がカチリと合う。するとこいつはは俺の顔をまじまじと見つめ、少し間を置くと「…もしかして、泣いてたアルか?」と静かに訊ねてきた。


「…だったら何だってんだィ」

「……別に…」


チャイナは視線をあちらこちらに泳がせ、への字に曲がった口で何かを言おうとする。ぱらぱらと傘を叩く心地よい音、良く考えりゃあ相合い傘じゃねェか、コレ。


「…あのヨ、」

「…なんでィ」

「…私、こーいう時に何て言えば良いのか分かんねーけどヨ、…その、──うわっ!?」


チャイナの言葉を最後まで聞く余裕なんざなかった。俺はチャイナの身体を引っ張り、何も考えずに抱き締めた。
かしゃん、と音をたてて傘が落ちる。雨がまた服に浸透して冷たくて、でもそんなのどうでもよかった。


「ちょ!い、いきなり何するアルか…っ!」

「…なァ、」

「…な、何…っ、痛!は、離せ!痛いアル!」


俺は暴れるチャイナを力一杯抱き締めた。チャイナの体温はあったかくて、まるで姉上のようで、安心出来た。
少しの体温も逃がさないように腕に力を込めると、それに比例してひとつの思いが沸き上がる。そうして、知らない内に俺の弱さが口に出ていた。


「…お前は……」

「…な、何…」



「お前は、俺より先に死なねーでくれィ…」




だって、もう一人じゃ生きていけそうにないから。



その刹那、強ばっていたチャイナの身体が和らぐ。


「……バーカ、私は夜兔族ネ。そんな簡単に死ぬ訳ないだろーがヨ」


何でもないようなその一言が、やけに重たく感じた。



【突発的おっかぐ。甘くもなく悲しくもなくびみょーなカンジ。
手直しするやも。】
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