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ねじれの位置に存在する男と女【庭球:跡部】

その時はいつも
なんだか夢を見ているような感覚だった


一言で言えば金
四字熟語で言えば豪華絢爛
日本語訳っぽく言えば
彼は私たちより贅沢しています。

さらに
彼はテニス部部長で
学校の生徒会長もやってて
加えて熱狂的なファンがつく程容姿端麗
勉強やらせりゃ常にトップクラス


最初
漫画から飛び出してきた主人公かと思った
有り得ないことが目の前にあって
ただ驚愕、した。


そうだ
わたしと彼は
住む世界が完全に違った
そんなの最初から分かっていた。

金持ちでも
運動神経抜群でも
なにかの中心人物でも
容姿端麗でも
成績がいいわけでも
ない
わたしは当たり障りのない
フツーの一般庶民だった

彼のことなんか何一つ知らなかったし
これからも知る予定なんてなかった




はず、
なのに。


わたしの人生はどこをどう間違ったのか
彼と関わってく道を選び
気付いた時にはすでに遅く
当事者のわたしを置き去りにしたまま
いつしか私たちは
彼氏彼女と呼ばれる関係にまで発展し
なんやかんやあって今に至る

色々ありすぎてここでは省略
(ファンからのいじめとかファンからのいじめとか)(テニス部のみんなには大分お世話になりました)


とにかく
ぼんやりとした夢から覚めることがないまま
わたしは彼と
数年の時を共に過ごした

いつか訪れるであろうその時が来ないように
心地好い夢から覚めないことを祈りつつ。




長い間積み上げてきたもの
あっという間に崩れ去ることを知った。



「俺はドイツに行く」


それはいつも行く高級喫茶店で
いつも飲む紅茶(銘柄は知らん)とベイクドチーズケーキをちびちびといただきながら
いつものように出口のない会話を
だらだらと楽しんでいた時だった。

日常の中にぽん、と放りこまれた
非現実的なその一文を
わたしの頭が理解するのに、少し時間がかかった。


「…へあ?」

「間抜けな声出すな」


目の前にいる、見慣れた顔に怒られた。


「ドイツかあ…遠いね」


なんでもないように言ったつもりだった。
いつも食べるベイクドチーズケーキはいつもと変わらない味がして、


「ふざけんじゃねぇよ」


また怒られた。

いつもなら


「遠慮しないで沢山食え」

とか

「テメーはいつも美味そうに食うよな」

とか笑って言うのに
今日の彼は、無表情だった。
無表情を崩さなかった。

蒼い瞳が、どっしりとわたしを見つめている。


「俺は真面目だ」


いや
わたしも真面目ですが


「ドイツに行って、もっと上を目指す」


上ってどこだろ
北?
寒そう!
寒がりのわたしにはマジ勘弁


「…多分、数十年は戻ってこない」


その頃わたしは25才か
なにやって生きてんだろうなあ


「…で、聞いてんのか、テメーは」

「はっ」

「は、じゃねーよ」


ぎろり、と睨むその冷たい視線が
いつもと変わらなくて
またわたしを、夢の世界に引き戻す。
ああ、きっとこれは夢だ

タチの悪い、悪夢。


「…お前は、」


ためらいがちに開いた口元は、少しだけ、ほんの少しだけ
震えてるような 気がした。


「  、。俺がいなくても、何とも思わないのか?」




ずきん

こころの奥が痛んだ。


いやだ
夢から覚めたくない
わたしはまだ
輪郭のぼやけた幸せに包まれていたい
この時がずっと続けばいい
いやだいやだ
、。

ぎしぎし軋むこころ
夢なのに、妙にリアルで。


だから
あなたが嫌いな言葉を

笑って言い放った。



「まあ、元々住む世界が違うしね、わたしとけいちゃんは」




ねじれの世界に生まれたふたり




「…そうかよ」


がたん、と椅子が揺れる音

それは
夢から覚めた瞬間だった

立ち上がって遠ざかる後ろ姿
追いかけずに
紅茶の中に発生した
小さな小さな波を

ただ
ただ
見つめていた。



【突発的べっさん夢
めづらしく続きますだ。】
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