Ａlba

あなたはいつも、とても忙しそうだった。

毎朝おんなじバスに乗り、せわしなく回る景色を一緒に見ながら、目的地までのちょっとした道のりをふたり無音で過ごした。
そんなあなたはある時は何かの雑誌を見てたり、参考書を開いてたり、朝ごはんを食べてたり、寝癖を気にしてたり、音楽を耳につめてたり偶然会った友達と話したりして、
そうして決まった場所で降りていく。

すっかり見慣れた後ろ姿　きれいな紫と黄色のエナメルバッグ
無造作にはねたふわふわの髪の毛
いつも追いかけたくて、でも出来なかった。


足元にお気をつけてお降り下さい
他に降りる方はいらっしゃいませんか
では発車します
ごちゅういください、。






出会ったのは、多分私が高校生になってから
それまではあなたのことなんて全然知らなくて、あなたも私のことなんて知らなくて。
同じ世界にいるのにふたりは違う世界にいた。

気付いたのは、バス通学に慣れてきたころ
通学バスの中で毎朝見かける、あなたのからだ。


『(　　あ、あの人、またいる)』


がたがたと揺れるバスの中、あなたは眠たそうに手すりにもたれかかっていた。
朝の通勤時刻　バスが一緒になることはちっとも不思議ではないけれど、
沢山の人がいる中で、いつの間にかあなたの姿だけを覚えていた。

あなたは私より後のバス停で乗ってきて、私より先に降りてしまう
そんな些細なことが、なんだか寂しくて。


『(…海南の人かぁ)』


ぴかり、と鈍く光るエナメルバッグには、聞き覚えのある高校名がカッコいい字体で印刷されている。
その下に刺繍でぽつりと書いてある、初めて見る名前。


『(清田…信、長？)』

『(あの人の名前かなぁ…)』

『(…そっか、)』


それが、あなたに一歩近付けた日でもあった。




はじめて喋ったのは、それから数日後のこと。

その日は土曜日で、いつもは混むバスなのに人が少ない珍しい朝で。
私はひとり分の席にぽつりと座っていながら、私の学校の新聞部が作った号外を読んでいた。

そこには大きく、“湘北高校バスケ部、強豪陵南高校を破りインターハイ出場決定！！”と言う見出しが印刷されていて、
その下にある写真に写っている、満面の笑みを浮かべた背番号10番の男の人。

思わずくすり、と微笑んだ。


『(花ちゃん、可愛い)』


白黒写真で髪の毛の色は分からなかったけど、この笑顔は私の幼馴染みの花ちゃんに間違いない。
風の噂でバスケ部に入ったってのを聞いてたから驚きはなくて、でもちょっぴりびっくり　した。


『(今度、花ちゃんにお祝いケーキでも作ってあげようかな)』


と、思いながらそれを鞄にしまおうとした　　その時だった。


「…ああっ！！」


隣から聞こえたその声に、びくりと身体を震わす。
恐る恐る顔を上げると、そこにいたのは目をまんまるくして私を見つめている清田君だった。

何が起こったか分からなくて、ただ戸惑うだけで。


「それ、そいつ！湘北バスケ部の赤毛ザル！！」


え、と思わず
声を上げてしまった。


『は、花ちゃんのこと、知ってるんですか！？』

「知ってるもなんも、こいつ桜木だろ！？
つーかなんでこいつが学校新聞の一面なんだよ！！あり得ねーし！！！」


一瞬だけ、バスの中の視線が私達に集まった。
その中心部にいる清田君は悔しそうに顔を歪めて、私の方を見る。(要するに、今みんなの視線は私に集まってるってことで)(は、恥ずかしい！)


「おい、お前っ！」

『はっ、はい！』


勢いよく言われて、勢いよく返事をしてしまった。
それがいけなかったのか、バスの運転手さんが「学生さん、もう少し静かにして下さい」と私達に呼びかける。

でも、清田君はお構いなしに言葉を続けた。


「こんなドシロートよりもなぁ、この海南大附属バスケ部１年！ゴールデンルーキー清田信長様の方が上手くてカッコよくてサイコーなんだよ！
いいか、俺の顔をよーく覚えとけよっ！！」


私は清田君の言葉を飲み込むようにゆっくり瞬きして、それから小さく『……分…かり、ました』と言った。
よしよし、と、たちまち清田君の表情が明るくなる。

あ、笑顔、可愛い。


『…あの、』

「なんだよ？」


もう少しだけ近付きたいと思ったのは、きっと　　。


『バスケット、頑張って下さいね。
ずっとずっと、応援してますから』




ときめいて、ふたり分の鼓動




次の瞬間、照れ臭そうにして俯いてしまった清田君を見て、笑ってしまった。

これが恋だと確信したのは、きっとこの時。



【久々のドリィム更新でスマソ…今ナウでスラダンブームなのさ！終わり方微妙でごめんなさい…orz

ころころ表情が変わる清田がすき！】