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第二の心の故郷(庭球:手塚)

なんとなく、帰りたくなった。



故郷を離れて3年と5ヶ月目

別に、まとまった休みが取れた訳でも
両親に「帰ってこい」って言われた訳でもない。


ただ、なんとなく、生まれ育った地が
なんとなく懐かしくなって
なんとなく、帰りたいと思った。


思い立ったら早かった。

営業の最中、電車のチケットを買いに
駅に立ち寄る。

平日の日中だからいつもよりは人が少ないけれど、
それでも地方出身のわたしにとっては
いつ見ても慣れない光景だった。


人の波に押されて、人の波を押し返して
ようやくチケット売り場にたどり着く。



フルサトまで、超特急で。



彼にメールしようと思ったのは、彼が地元で働いていて
あわよくば
車で迎えに来てもらおうと思ったから

と言うのもあるし

彼とわたしは旧友
と言うか
腐れ縁
と言うか
あんまり言いたくないけど
彼とわたしは
幼なじみ、だから

ちょいちょいメールのやり取りをするのは必然、で。


sub:No title
本文

明日、そっちに帰る。

--end--


女っ気ないメールだ。
仕事先の人達には、絶対に送らないような
そんなあっさりとしたメールだった。

でも
彼とメールする時は、いつもこんなカンジだった。


これでいい
これがいいんだ。


そう思うのは長年
一緒にいたからかどうかは分からないけれど。



返事は、数時間後に返ってきた。

その時わたしは
たくさんの人を運んで
すっかりくたびれた満員電車の中で、
家に着いた時のことをぼんやりと考えていた。

ポケットでケータイが震える。


sub:Re:No title
本文

分かった。

--end--


ふっ、と
口元に笑みがこぼれたのが分かった。

彼は相変わらず何も変わらなかった。
きっとこれからも、このまま変わらないのだろう。
そして、何も言わなくても
彼はきっと分かってくれる。

不確かな仮定だけど、そんなことを思った。



帰りに立ち寄ったコンビニ
の、
レジ前にある
特価品のコーナーには
お菓子やらカイロ、軍手やら
様々な物が乱雑に置いてあった。
それらの隙間に
不釣り合いのレターセットが1つあった。
なんてことない、猫のキャラクターのレターセットだった。

安かったから、かもしれない。
たまたま目に入っただけ、かもしれない。
誰かに手紙を書きたくなったから、かもしれない。
処分されるのが、可哀相だと思ったから、かもしれない。


理由はいつだって単純で、曖昧だ。


わたしは会計を迫る店員に、こう言った。


「これも下さい」


レターセットにプリントされてる猫のキャラクターが、笑った気がした。




帰郷当日、

家を出る間際に自宅に電話を入れると、電話に出た母親が呆れていた。

帰る当日に電話を入れたから、ではない。


『そんなの昨日、くにちゃんから聞いたわよ!』


なんでいきなり帰ってくるのよアンタは、こっちの気持ちも考えなさい

電話の向こうで母はぼやいていた。

でも
わたしは、
母の愚痴なんてどうでもよかった。


「国光から聞いたの?」


未だにわたしの家と、彼の間に親交があったことに驚いた。
そんなの、わたしが家を出た時から
とっくになくなっていたと思ってたから。


『そうよ!昨日、くにちゃんが手土産持って来てくれたのよ。アンタ、くにちゃんに感謝しなさいよね、今日迎えに行ってくれるみたいよ』

「…そう、」

『何時にこっちに来るか、くにちゃんに言った?』

「言ってない」

『なんで言わないのアンタ!くにちゃんを待たせるつもり?あの子だって忙しいのよ!』



その一言に対しての返答は、すぐに出ていた。

なんで言わないの、って?
そんなの、決まってる。


「国光は、ぜんぶ、分かってるから」




電車を待つホームで、電話をかけることにした。
数コール置いて、電話の主は電話に出た。


『もしもし』

「わたし」

『ああ』


久しぶりに聞く声は、やっぱり昔と変わらなかった。


「母さんに、今日帰るってこと…伝えてくれたんでしょ?」

『ああ』

「今から帰るね」

『そうか。気をつけて帰ってこい』

「わたしじゃなくて、電車に言って」

『そうだな』

「…国光」

『なんだ』


電車が到着するアナウンスが流れる。
言いかけた言葉を、ごくりと飲み込んだ。


「あ、…後で話す。電車が来たみたい」

『分かった』


短く挨拶を交わし、電話を切った。
同時に到着する、しばらくぶりの電車
ドアが開いて、すぐに乗り込んだ。



手紙を書こうと思った。

待ってる時間が暇だったこともあったし
折角レターセットを買ったんだから
とりあえず、使いたくなった。


でも
いざ書こうとしたら
沢山ある言葉の中から
どれを使えばいいのか、全く分からなかった。

レターセットの隅に増える、意味のない落書き
今にも動き出しそうな、下手くそな絵


フルサトを離れて3年
地元はどう変わっているのだろうか
そんなことを考えた時、怖くなった。


「(わたしの知ってる故郷じゃなかったら、どうしよう)」


そこにわたしの帰る場所はあるのだろうか?
みんな、わたしのことを忘れてはいないだろうか?
帰ってもいいのだろうか?

悪いことばかり考える。
だんだんと、家に帰るのが憂鬱になってきた。


鞄の中には住み慣れた自分の家の鍵がある。
戻るなら、今のうちだ。




──気をつけて、帰ってこい。




ふと
さっきの電話越しに聞いた声が聞こえた。


「(、そうだ)」

「(きっと国光は、待っててくれてる)」

「(いつものように)」


彼はいつも、どんな時もわたしを待っててくれた。

だから、きっと
今日も待っててくれているだろう。
そんな気がした。


「帰ろう」


意味のない落書きばかりしていたペン先が
意思を持って動き出す。

誰もわたしのことを必要としていなくてもいい
彼に、会いに行こう。




数時間後
故郷に着いた時はお昼を過ぎていた。

いつもの改札の前で、久しぶりに見る姿が待ち侘びていた。


「早いな」

「電車が頑張ってくれたおかげだよ」


肩をすくめて笑う。
彼の口元にも、笑みが浮かぶ。


「そういえば」

「何?」

「さっき、何を言いかけたんだ?」

「ああ、」


わたしは、手に持っていた封筒を差し出した。

宛て先は書いてないけれど、きっと相手に届く。


「この中に書いてある!多分、全部」

「これは…ラブレターか?」

「そうかもしれないね」

「ありがとう。家に帰って、ゆっくり読ませてもらう」

「その前にわたしを家まで送ってー。疲れたぁ!」

「そうだな。帰ろう。



お前の故郷に」




【song by:夏川りみ“フルサト”

長くなってしまった…orz
手塚…出番少ない…笑】

それはたった4文字+αの言葉(庭球:千石)

汗ばんだ手の平の中で
細かく振動して
初めてキミと繋がった瞬間

あの、ドキドキを


きっと、ずっと忘れない。



「アイツ、ちっとも笑わねーな!なんなんだよっ」



きっかけは、友人との会話だった。

“アイツ”

それは
このクラスにいれば
誰にでも分かってしまう隠語だった。


一番窓際の列
後ろから2列目

彼女は座っていた。


彼女はいつも無表情だった。
頬杖をついて、ずっと何もない空中を睨んでいた。

クラスメイトの女の子(可愛い!)が話し掛けても
先生が話し掛けても
いつも
短い返事しか返さなかった。
その時
ピクリ、とも、笑わなくて。

いつしか彼女の回りに、誰も寄り付かなくなっていた。


彼女は勉強が出来る。
休み時間やホームルームが始まるちょっとの時間
いつも参考書を開いて
参考書と睨めっこしていた。

学年順位はいつもトップクラス
授業では率先して手を挙げることはないものの
数学の時間とか
先生に不意に当てられても
100%正しい答えを出していた。


体育は…出来るかどうか分かんない。
だって
体育は女子と男子、別々に行われるから。

ああ、でも
美術で水墨画にチャレンジした時

「これは…新しい微生物か?」

そうやって
先生に呆れられていたはず。
その時彼女は珍しく

「鶏のから揚げです!」

って
ちょっと怒っていた。


そんな彼女。


俺がいつもつるむ奴らは
彼女の笑顔を見たがっていた。
なんでかと言うと
好奇心が大半だった。

彼女に近付いては
自信のある一発芸を披露したり
すべらない話をしたり
変顔をしたりするんだけど

彼女は、全く笑わなかった。



そんな、ある日のことだった。
他愛ない友人の一言で、すべてがはじまった、んだ。


「アイツ、ちっとも笑わねーな!なんなんだよっ」

「なんとかして笑わねーかなあ」

「…そうだ!千石、お前、色んな女の子と付き合ったことあるんだろ?」

「そうだそうだ、口説いてこいよ!」


…え?


「えっ、ちょ、ま」


背中を強く押され、思わずよろける。
顔を上げると、そこには彼女が黙って、参考書を読んでいた。

俺にどうしろと!?

困って友人の方を見ると、こちらを見てニヤニヤと笑っていた。


あーもうどうにでもなれ!

俺はヤケクソになり
彼女の前の空いてる席にどかりと座り
喋り始めた。


「やあ〜、今日も天気いいねえ!」

「…」

何言ってんだ俺、馬鹿か?

「えーっと、それ、数学の参考書だよね?頭いいもんね〜!羨ましいなあ」

「…」

…数学ネタはダメか。

「さ、最近なんか面白いことあった?俺さあ、テニス部なんだけど…」

「…」

テニス部であった面白い話をするも、無反応。


困った俺は、最終手段を使うことにした。


「あ、あのさあ!

今度、食事に付き合ってくれない?
そこで人気だって言うケーキ、おごっちゃうからさ!」


空気が、揺れる。



彼女は俺の方をチラリと見て






参考書に

視線を落とした。




あれ???


「おーい!千石、撃沈〜!」

「こっちに戻ってこいよ!」


友人が俺を呼び戻す。

でも
俺はどうしても彼女に何か喋って/笑って欲しくて
俺は彼女の傍にあったペンを手に取り、彼女が見つめている参考書の端に
自分のメールアドレスと番号を書いた。

これで彼女が笑ってくれるとは限らないけれど、


「ね、気が向いたらこのアドに連絡ちょうだい!待ってるから」


そう言い、友人の元に戻っていく。
彼女は、もう俺の方を見てくれなかった。



***



部活が終わった頃、既に辺りは暗くなっていた。


「うー、寒っ」


急激に汗が冷えていくのを感じながら、足早に帰路につく。

制服のポケットに手を突っ込んで、携帯電話を探す。
ストラップを指に引っかけ、ポケットから取り出した。

時刻は8時ちょっと前。
早く帰って、母さんが作ってくれたご飯を食べたい。
早く帰りたい。


そう思った、その時だった。


手の平の中で、いきなり、携帯電話が震えた。


「んうおっ!?」


間抜けな声が出て、
携帯電話を落としそうになる。

慌てて携帯電話を開くと、メールが一件来たらしい
誰からだろう?
と、何げなしにメール画面を開き



メール受信画面に




驚愕、した。




それは登録されてないアドレスだった。
その、見知らぬアドレスからのメールには

短く、こう、書かれていた。



sub:

本文
行きたい

--end--



画面の向こうで、君が笑ってる気がした。



(ケーキの絵文字使うんだ!)(す、すげえ可愛い!)

ホントに笑ったのは、どっち?



【ただきよじゅんに
「ご飯食べに行かない?」
のくだりを言わせたくて書きなぐった\^^/】
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