それからふたりは、(キ学:数学教師 シリーズもの)

自分が好きなもの、楽しかったもの、良かったもの、ときめいたもの、感動したもの
全部、とは言わないけれど
あなたにもおすそ分けしたい、んだもん。

「ということで」

「どういうことだァ」

「こないだ誕生日プレゼントにって、友達がマッサージ屋さんに連れてってくれたの」

「へぇ」

「そこのマッサージ屋さんが超気持ちよくて思わず寝ちゃってさ」

「……」

「マッサージ屋さんってなんであんな眠たくなる曲がかかってたり、いい匂いのアロマが焚いてあるんだろうね?うちの近くの整体なんか、湿布のにおいしかしないのに」

「んなの、ちょっと考えりゃ分かるだろォ。力抜いてリラックスしてもらう以外に何があるってんだ」

「あっ!そっか」

「お前なァ……」

「じゃあお香とか、そういうのも必要じゃん!待ってて、すぐ買ってくる」

「はぁ!?おい!」

***

ややあって戻ってきた女の手には、いくつかのお香の箱。こんなに種類があるのかと驚いた。

「適当に持ってきたけど、好きな匂いとかある?」

「あ?なんで俺に聞くんだよ」

「いいからいいから」

「なんなんだよ、ったく……」

「はい」

「一気に近付けんなァ!香りが混ざるだろ!」

「あ、真面目に選んでくれるんだ」

「チッ。どうせ俺ん家で焚くんだろォ。だったら真面目に選ばねぇと。気に入らねぇ匂いの中で生活すんのは俺なんだぞ」

「たしかに」

「他人事みたいに言ってんじゃねェ。つーかお前が気に入ったやつでいい」

「え?いいの?」

「好きにしろォ」

「えーっ、じゃこれは?」

「……サンダルウッド?……あー、悪くねぇな」

「名前で選ぶならこれなんだけど」

「なんだよプレシャスモグラって」

「土の匂いとかするのかな?」

「んな訳ねぇだろ、貸せ」

「……どんなかんじ?」

「……花の匂い」

「土じゃないんだ」

「当たり前だろうが」

「ね、実弥ちゃんはどっちがいい?」

「……サンダルウッド」

「はーい、じゃこれもお買い上げ」

***

香り立つ煙に包まれて、わたしは今
ベッドにうつ伏せになっている、体躯のいい男を見下ろしていた。

「いやちょっと待て意味がわかんねェ」

「だから言ったじゃん、マッサージしてあげるって」

「言ってねぇわァ!」

「あーっ!お客様、大人しくうつ伏せになっててください」

「……めんどくせぇな、おい」

「ではオペを始めます」

「マッサージすんじゃなかったのかよォ」

「力加減のご希望あったら遠慮なくどうぞ」

「腕はどうすりゃいい」

「適当でいいんじゃないですか」

「お前、マジでそんなこと言われたんかァ」

「そこまで覚えてないもん」

「大丈夫かよ。骨折られたりしねぇよな」

「ご安心ください。痛かったら左手を上げてもらえれば」

「歯医者じゃねぇんだぞ」

「ではいきますよ」

「……」

「かゆいところないですか?」

「最早マッサージ屋の言うことじゃねェ」

「冗談はさておき、どう?」

「んー……もう少し力入れてもいい」

「はーい」

「……」

「……」

「……」

「あっ!」

「うわ!なんだよ、急に!」

「眠たくなる曲かけるの忘れた」

「……チッ」

「舌打ちしないでくださいね、お客様」

***

聞こえてくるのはオルゴールの音色。絶妙な力加減と静かな曲のせいで、だんだんと夢見心地になってくる。

「全身ばっきばきですよ」

「……立ち仕事もデスクワークもしてるんだから当たり前だろォ」

「よく生きてますね」

「そんなこと言うマッサージ屋がいてたまるか」

「意外と腰回りが凝ってるみたいです」

「そりゃやってる時に一生懸命腰振ってるからな」

「セクハラ発言は出禁対象になりますよ」

「もっと欲しいとか煽ってくる奴に言われたくねぇな、いてっ」

「ばか!変態、ほんと有り得ない、デリカシーゼロ」

「ホントのこと言っただけだろ」

「お客様、いい加減に静かにしてくれませんか」

「へいへい、黙りますよォ」

***

大きくて広い背中に、ぐっと力を込めて手のひらを滑らせる。
あの時どんな風にされてたっけ、思い出しながらマッサージを続けていると、規則的な呼吸音が聞こえることに気が付いた。

「……実弥ちゃん?」

「……」

「……」

「……」

「……もしかして、寝た?」

「……」

「……あらま、どうしよ」

「……」

「起こすのも可哀想だしなあ、かと言ってうつ伏せで寝るのって息苦しそうだし」

「……」

「ねえ、実弥ちゃん、起きて」

「……ふぁ、」

「うつ伏せで寝ないでください」

「ん……だったら仰向けで寝りゃいいだろォ」

「そういうことじゃなくて。肩とか脚裏とかこれからやろうと思ってたのに」

「んなの、いつでもできる」

「あーもう、勝手に仰向けにならないでよ」

「ねみぃんだよ。案外気持ちよくて」

「えっ、よかったの?ホント?」

「おー。なんか、大分解れた気がするわァ」

「ふーん」

「おら、こっち来い。もう寝るぞ」

「すみませんお客様、当店はそのようなサービスは行っておりません」

「……その設定、まだ続いてんのかよ」

「いいじゃん、なかなか楽しいし……ぅ、わっ!ちょっと、いきなり引っ張らないでよ」

「もういいだろ、今日は閉店で」

「あーあ、まだ途中だったのに」

「また今度なァ」

***

目が覚める。珍しく服を着ていて、そう言えば昨日コイツのごっこ遊びに付き合ってやったんだっけ、と、ぼんやり思い出した。

「(……そういう関係なのにやらない日もあるなんて、変だよなァ)」

「……」

「(まァ、いいか。なければないで俺は……でも、コイツはどう思ってるんだろう。やっぱやりてぇのか?)」

「……ぅ、ん?もぉ、起きたの?」

「お前よォ、これからするぞって言ったらどうする?」

「えぇ?馬鹿じゃないの、寝起きだし無理」

「……だよな」

「そうだよ」

「……」

「なに、朝から元気だから付き合えってこと?」

「や、そういうわけじゃねェ」

「……じゃあどういうこと?」

「……なんもねぇよ」

「変なの」

「マッサージの最中にぐーすか寝腐るお前よりは変じゃねェ」

「はぁ!?ぐーすかってなに!?ってか、実弥ちゃんだって寝てたくせに!」

「俺は起こされてすぐ起きたわァ。どうせ起きてくださいって言われても起きなかったんだろ、お前」

「……起きたもん」

「嘘つけ」

「スタッフへの暴言はやめてください」

「ほら見ろ、寝てんじゃねぇか」

「寝てませーんっ」

「じゃあ今度は俺がマッサージしてやるよ。寝たらお前の負けなァ」

「えっ、マッサージ出来るの!?」

「そんな大層なモンじゃねぇけど。要は筋トレの後にやるストレッチみたいなカンジでやりゃあいいんだろ、多分」

「……すごい力で引っ張られたりしないよね?」

「いいからうつ伏せになれェ」

「強引なのがまた怖いんですけど」

「……上に跨ってもいいか?」

「やりやすいようにどうぞ」

「力加減が分かんねぇから、痛かったらすぐ言えよ」

「はーい」

***

すごく、いい。
暖かく摩られて、血管がじわりと拡がる感覚。
筋トレをするから、身体の使い方とか頭に入っているのだろうか。それにしても、手つきとか、揉み方とか、力加減とか、全部がすごくちょうどよかった。

「……」

「……意外と痛くない」

「もっと強くするかァ?」

「ううん、今のままでいい」

「了解」

「……」

「……」

「あ、これ、寝るかも」

「寝たらお前の負けだぞ」

「分かってる……けど、上手なんだもん、実弥ちゃん」

「そりゃどうも」

「……んー、やばい気持ちいい」

「おい、ふくらはぎ、パンパンに張ってるじゃねぇか」

「それ、マッサージの時も同じこと言われた。多分、学校用の靴が合わなかったんだと思う」

「教師は一日中立ちっぱなしだからなァ」

「いいナースシューズ買ったんだけどね」

「力、ちょっと弱めるか?上半身と同じ力でやったら、揉み返しが来るかもしれねぇぞ」

「脚の張りが楽になるなら強めでもいい」

「いや止めといた方がいいんじゃね。一気にやるより、回数重ねて解した方がいいような気がする」

「そうかも」

「……」

「……思ったんだけど、男の人って女の人をマッサージする時、色んなところに触るじゃん?変な気持ちにならないのかな」

「さぁなァ。ただ、少なくとも俺は変な気持ちにはなってねぇぞ」

「なんで?」

「なんでって……どうやったら筋肉柔らかくなるかな、とか、どうやって解そうかな、とか、そっちに思考が向いてるからじゃねぇかな」

「なるほど」

「お前だって俺にしてくれてた時、ムラムラしてたかって言われたらどうよ」

「……たしかに、それどころじゃなかった気がする」

「性感マッサージなら話は別かもしれねぇけど」

「性感マッサージか……ねえ、今度やってみます?」

「俺は別に、お前がやってみたいって言うなら」

「じゃあえっちなDVD借りてこなきゃ。後学のために」

「見てどうするんだよォ」

「真似する!」

「……トンデモプレイの真似だけは勘弁なァ」


それからふたりは、


「(あ、この服から実弥ちゃん家で焚いたお香の匂いがする。いい匂い)」

「(10分でできる脚の揉みほぐし、か。今度アイツにやってやろう)」
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エフォートレスに重ねて(キ学:数学教師 シリーズもの)

何か変わるのかな、と思っていたけど
あなたと顔を合わせた瞬間、なんてことない「おはようございます」が、するりと口から出て
ああ、一緒にいることを茶化されて、気まずくなったあの頃とは違うんだな。
そんなことを、思った。

「次いつにする?」
「今週末空いてる?」
「暇な日教えて」
どれも全部、違う気がして、
こころの想い、募るばかり。
どうしてあの時、身体を重ねてしまったのだろう。
あの熱を知らなければ、こんなに悩むこともなかったかもしれなくて
でも、好きな気持ちに溺れていたかったのも間違いなくて。

気軽に甘えることができない関係。
それを選んだのはわたしだけど
初めての距離に、ため息ひとつ。
次はどうすればいいのだろう。
一体なにをすればいいのだろう。
そんなことを考えながら、職員室から出ようとした、その時だった。
閉めようとした扉が閉まらなくて、ハッとする。
後ろに、不死川先生が立っていた。

***

「おはようございます」
あんなことがあった次の週の月曜日。
普通に、マジで普通に挨拶されたから。
どんな顔して会えばいいんだとその瞬間まで悩んでいたのに、何事もなかったかのように振る舞われたから、あれはもしかして夢だったのか?と、一瞬錯覚してしまった。

確かに酔った勢いであんなことしちまったってのはある、けど、酔いが醒めて冷静になって、物凄く後悔した。いや、後悔するならやるなって話なんだが、好きだった女に誘われて理性を保てるやつがいるなら会ってみてぇよ。無理だろ、あの状況で。
ただ、後悔したところでやり直せる訳もなく、恋愛より家族が大事なことには変わりない。だからお付き合いは出来ないとして、俺とアイツ、ホントになんとかフレンドになったのか?付き合いましょうそうしましょうというやり取りがない分、この関係に戸惑っていた。仮にそうだとして、次どうやって誘えばいいんだよ。よしやるぞホテル行くぞ、って、あけすけに誘えばいいのか?それはそれでなんか違う気もして、だからと言って家来いよ、も違う気がする。
どうすりゃいいんだよ。頭を抱えた瞬間に時計が目に入った。次の授業が俺を待ってる。
教科書とチョークの箱を手に取り、職員室の出口に向かうと、アイツが先に職員室から出ようとしていた。扉が閉まらないように後ろから押さえると、驚いた顔で俺を見上げてきた。

瞬間、香る柔らかな匂い。

香水か柔軟剤かシャンプーの匂いか分からないけれど、それに俺の心臓が大きく反応する。
触れたい。反射的に思った。
香りの正体を確かめたくて顔を近付けると、女がばっと勢いよく離れた。

***

「す、すみません。邪魔でしたよね。失礼しました」
早足でこの場を去る。
後ろから彼が声をかけてきたような気がしたけど、無視して足を進めた。
だって。
キスされるかと思ったんだもの。
あんな目でわたしを見つめ返してくる、なんて思わなかったから。

廊下の角を曲がって、一息つく。
落ち着こうと呼吸を整えていると、頭が冴えてきた。
ここは学校だし、わたし達は教師だし、そんなことされるわけない。
彼だって、それくらい分かってるはず。なのに、なんであんなことをしてきたのだろう。
分からなくて、心がざわめいた。
不意に顔が近付いてきたのを思い出して、鼓動が早まる。
同時に夜を過ごした彼の姿が脳裏に蘇って、また思考が乱れてきた。
ダメだ、ちゃんとしなきゃ。これから授業なのに。
軽く頬を叩くと、ポケットに入れていたケータイから音が鳴った。マナーモードにするのを忘れたとポケットから取り出す。
先程の通知音は、彼からの連絡を知らせるものだった。

「えっ」

偶然再会した日に交換し合ったお互いの連絡先。無事に追加されたことを確認する「よろしくお願いします」と書かれたスタンプのやり取りだけで
それ以降、なにもなかったトーク画面。
まさかこのタイミングで、でも、なんで?
アイコンをタップすると、画面が切り替わって
画面に映し出された、一言。

「今日の夜、何もないなら飯でも行かねえか?」

***

その誘い文句の裏には秘密があった。その気かどうか、一か八か、伸るか反るか。
相手の出方を試すようだったが、直接誘って断られるのもなんとなく嫌で。だから遠回しに提案してみた。さて、どうなるか。
授業が始まる鐘の音が響く。授業始めんぞと教室に入った瞬間、ケータイが震えた。日直の号令の隙間に急いで確認する。
アイツとのトーク画面に「OK」のスタンプが追加されていた。

---

「急に飯でも行こうなんて言うからビックリしちゃった」

仕事帰り、繁華街の中心部で待ち合わせた俺達。さすがに平日の夜だから、どこの居酒屋も割と空いていて。適当に入った焼き鳥屋で、各々好きな商品を頼んでいた。

「家に帰って飯作るのが面倒だっただけだァ」

「えっ。実弥ちゃん、一人暮らしなの?」

食べかけの串を握りしめながら、目をぱちくりさせる。そういや話してなかったっけか。あの夜、たくさんの言葉を交わしたはずなのに、自分達の近況はあまり話さなかったことを思い出して、端的に「大学時代から一人暮らしをしてる」と伝えた。

「いいな一人暮らし。わたしも一人暮らししたい」

「すればいいだろ、ガキじゃねぇんだから」

「うーん。悪くないしね、実家。家賃とかかからないし」

実弥ちゃんの家ってどんなかんじなの?そう聞かれたので、普通の家だと答えたら、行ってみたいと予想外の言葉が返ってきた。それはそれで構わねぇんだけど。拒否する理由は、ひとつしかない。

「……来てもいいけどよォ、明日どうすんだよ、お前」

コイツが今どこに住んでるのか分からないが、この時間帯だと俺ん家に行って色々やったとして、帰る頃には終電がなくなっているに違いない。そうすると泊まりになるのは必然で、泊まりとなると諸々準備が足りないような気がする。それに明日も仕事だし、流石に連続で同じ服はまずいだろ。それとも、この時間から明日の服を買いに行くか?現実的じゃない考えは却下だ。

「まあ、そうだよね……」

酒が入ったコップの縁をゆるゆると撫で回しながら、女がひとつため息をする。

「なァ、お前終電何時だよ」

「ん?日付変わるまでは出てる」

時計を見る。ラブホ街までちょっと移動して、休憩3時間で入って駅まで戻ってギリギリか。明日も仕事であまり無理をさせたくないから、今日はこれでお開きかもしれない。
残ってる串をぽいぽい口の中に入れていると、女が俺の服を引っ張ってくる。何事かと思い目線を向けると、なにか言いたそうに目を伏せる女がそこにいた。

そこで気が付いた。もしかして、もしかしなくても、コイツにも下心があるってことだよな?今日、そういうことになるかもしれないって思って俺の誘いに「OK」したとして、この雰囲気は合意とみていいだろ、これ。
これで「そんな気はなかった」なんて寸止めされたら、無意識に男を振り回すのをやめろと説教してやる。

残っていたビールを一気に飲み干して、会計の札を握りしめる。時間がねぇ。行くぞ。女の目は、疑問に満ち溢れていた。

「どこに?」

「決まってんだろ」

「え?あ、ちょ、ちょっと待ってよ!?」

判断早すぎじゃない?
その一言に、そうかもな。と、心の中で独りごちた。

***

帰り道、全然休憩出来なかったねと笑うと、しゅんとした顔で謝られた。

「……悪かったァ」

なんだか叱られた子犬みたい。
悪いことしてないから謝ることないんじゃない?そう言うと、隣を歩いていた実弥ちゃんの足が止まった。

「いや、なんか……我慢できなかった、っていうか」

「我慢」

「ホントはもっと優しくしてやりたかったんだけどよォ、なんつーか、その……」

頭をがしがしと掻きむしる実弥ちゃん。言葉の続きを待たずに、背中に回って無理矢理押し出した。
縺れた足を懸命に動かす実弥ちゃんが、首だけ振り返る。

「おい!何すんだっ」

優しくなんて、しなくてもいい。
我慢なんて、しなくていい。
喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。
だって、流されたわたしも共犯者だ。
それを望んだのもわたしで、求めたのもわたしなんだから。
あなたが思うままに、抱いてくれればいい。
そうしていつか、わたしを捨ててくれればいい。
言えない想いをこころの奥に封印する。

「ホント、全然休めなかったんだから。今度家に連れてってよね」


エフォートレスに重ねて


それから数日後、彼の家にお呼ばれすることになるのだけど
その話は、また今度。
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まだ好きでいさせて(キ学:数学教師 シリーズもの)

「……あれ?」
中学校の時に好きだった人。
今思えばそれがわたしの初恋で、忘れられない恋だった。
結局伝えられず、ずっと後悔していて
付き合う人にあなたの姿を重ねたりして
そんな恋なんて上手くいくはずがなくて
だから、もう一度巡り会うなんて思わなくて。

「……もしかして」
中学校の時に好きだった女。
高校も大学も違って、もう会うことなんかないんだろうなと思っていたのに
どうして、まさか、こんなところで。
再会したのは、着任先の学校。
俺もお前も、「先生」になっていた。

「あの、人違いだったらすみません」
だって、まさかこんなところで
見覚えのある顔と名前に出会うとは思わないじゃない!
あの頃より凛々しくて、身長も伸びて
おとなのひと、になっていたあなた。
久しぶりに交した言葉はとてもぎこちなくて
ああ。中学の時とは全然違うな、なんて
淡い過去を思い出して
少しだけ、切なくなった。

「……やっぱそうだよなァ」
偶然にも程があるだろ。なんでここにいるんだよ。空いた時間で話を聞いたら、元々教師になる気はなかったが、ゼミ担当の教授にきっと向いていると勧められてなったそうだ。
マジか。ってことは、その教授に勧められなかったらコイツはここにいなくて、俺達は再会することはなくて。
それに加えて、お互いここの学校の試験に受からなかったらこうして顔を合わせることもなかったはずで。
偶然の集合体って、もしかして運命と同義、なのかもしれない。

「あ、不死川先生。お疲れ様です」
無事に着任式を終え、初めて「先生」として、一日を過ごしたあと。
先輩が気を遣ってくれて、新卒の先生数人と他の先生数人で飲むことになった。
宇髄先生や胡蝶先生と楽しく飲んでいる時に、急に割り込んできたあなた。
実は同級生なんです、と説明すると
数年ぶりの再会かよ!それって運命?
なんてからかわれて、そうかもしれないとぼんやり思った。

「すいません、俺ら帰ります」
初めての先生方との飲み会。
成人越えてっから当たり前なんだけど、まさかコイツとこうして酒を飲む日が来るとは。
しかもコイツ、意外と酒がいけるクチで。
途中から中学の話に花が咲いて、その結果
昔話を肴に飲み倒してやろうと、二次会を丁重に断ったんだった。
そんで適当に入った居酒屋で、俺もコイツも、まあ飲む飲む。

「そんなこともあったね、懐かしすぎ」
だけど、お酒が入ったあなたは
あの時と同じように幼く笑うから
忘れようとしていた恋心が華麗に復活して
でもそんなこと、言い出せるはずもなくて
全部、酔っ払ってるから、を言い訳にして
その場の勢いでしくじりましたと、笑って
この気持ちを終わらせる──つもりでいた。

「おい、この後どうするよ?」
二次会が終わって、お互い大分出来上がっていた。
横でヘラヘラ笑う女は、当たり前だが中学の時より綺麗になっていて。
あれ?俺、コイツのこと、まだ好きかも?いやいや待て待て判断早すぎだろ。もう一人の俺が冷静につっこんだ。
さてどうすっかな。まだ話し足りないけど時間も時間だ。回らない頭で次の一手を考えていると、コートの裾を引っ張られた。振り向くと、化粧を覚えた瞳が俺をじっと見つめていて、ドキリとする。

「今って、彼女、いないの?」
いてもいなくても、すぱっときぱっと諦めよう。
夜の喧騒に負けないように、大声で尋ねた。
発した言葉は、少しだけ震えていて。
これって告白するみたいじゃん。そう思ったら急に恥ずかしくなって、顔を隠すように俯く。
すると、大きな手のひらがわたしの肩を抱き寄せた。
びっくりして顔を上げると、千鳥足の人にぶつかりそうになっていたらしい。
ありがとう。感謝を伝えると、ボケっとしてんじゃねェと軽く怒られた。

「……いねぇよ。採用試験だ教育実習だなんだで半年前に別れた」
半分本当で半分嘘だ。
振られ文句は今でもはっきり覚えてる。
「実習がない日とか試験勉強の隙間で会いに来てくれると思ったのに、いつも家族のこと優先してたよね。そんなに家族のことが好きなら、家族と結婚すれば?」だった。
その言葉を聞いた時、ふざけんなと憤った。家族が大事で何が悪いんだと。
だけど「彼女」は、家族より自分を優先してほしかったんだ。ただそれだけで、でも、それすら出来ない俺はきっと、恋愛には向いていないのだろう。

「ふーん」
興味がない、フリをする。
でも、心中穏やかじゃなかった。
彼女、いたんだ。
そりゃあ、わたしにだって彼氏がいたことあるから
あなたの恋愛経験だって、想像できたはずなのに。
なんでこんなに、こころがざわざわするのだろう。
なんでこんなに、わんわんと泣きたくなるのだろう。

「お前はどうなんだよ」
聞かれたから、聞き返す。
いるだろうなとぼんやり思った。
俺の知らない男と付き合ってて、やることやってて、もしかしたらちょっとした未来のことまで話題に出てる、かもしれない。
次々に浮かんでくる妄想に、なんだかイライラしてきた。
何嫉妬してんだ。ガキじゃねぇか、俺。

「もう別れて1年くらいになるかなあ」
ずっとずっと、好きだったあなたの影を
付き合っていた人に重ね続けていた。
ずっとずっと、あなたに会いたかった。
どこにいても、なにをしてても。
だから、心の奥で燻り続けるこの恋心の息の根を止めれば
明日から「ただの同僚」として、過ごしていけるはず。

「……は?」
──じゃあこの後、ホテル行かない?
耳を疑う言葉が、俺の耳に確かに届いた。聞き間違いではなく、コイツの声で。
その意味がなにを示すのか、分からないわけがない。わけではないから、戸惑った。
妄想の中で何度も抱いて、めちゃくちゃにして、欲をぶつけまくった女が、今目の前にいる。そしてソイツが今、俺のことを誘ってる。

「いいよ。酔った勢いでってのも、悪くないでしょ」
──俺はいいけど、お前はいいのかよ?
目を合わせず、疑問符をぶつけてきたあなた。
拒否する理由がないのは、わたしだけしか知らない。
この恋心は、わたししか知らないまま
思い出の本棚に葬り去るのだ。
長いまつ毛が揺れて、わたしの手首を優しく掴む。
ギラギラ光る夜のネオンが、あなたをたくさんの色に染め上げていくのを、ただ黙って見つめていた。

「ん……もっと、口開け」
まさか、こんな形で好きだった奴に触れるとは思わなかった。
熱い唇も、柔らかな胸も、細い腰も、全部本物で、それだけでどうにかなりそうだった。
今、俺の手で、好きだった女を穢している。そこにあどけなく笑う中学の時の姿はなかった。
めちゃくちゃにしているのに、どうしてこんなに興奮するのだろう。同時に生まれる独占欲。畜生、誰にも渡したくねェ。
情欲の隙間に生まれたそれを、思い切りぶつけた。

「っは、も、だめ」
想像していた何倍も気持ちよくて、どうにかなりそうだった。
酔いが回ってきてるのか、呂律が回ってないのが自分でもはっきりと分かる。
滲む視界の先で、中学の時に好きだった人が快感に顔を歪めていて、その事実がわたしの熱を昂らせた。
勢いよく貫かれて、呼吸が乱れる。余すことなく受け入れて、そして、なにもかも溶けきって。なくなってしまえばいい。

「……悪ィ、やりすぎた」
何も考えず、盛った猫のように何度も何度も求めてしまったことを謝ると、どうだった?と聞かれる。
よかったから何発も出したんだろ。そう言うと、照れくさそうに目を細めて笑った。
こんなクソだせぇ状況で、好きかもしれないとか伝えられるはずもない。つーか、かも、なんて、曖昧な気持ちでコイツを振り回したくもなかった。
それに、やっぱり今も家族が大事で、正直日常生活でコイツを優先できる自信もない。
ただ、最中に気付いた「誰にも渡したくない」という汚い感情も本当で。
中途半端な気持ちがぐるぐる回っている状態で、答えなんか出るわけがなかった。

「……」
全部終わって、脱力した。
終わったのだ、なにもかも。
終わったはず、なのに。
最中に感じた体温も、優しい言葉も、鼻をくすぐる香水の匂いも
未練がましく、わたしにまとわりついて離れない。
このままだとダメだ。眠たい目をこじ開けて、無理やり起き上がる。
忘れるために。帰ろう。
衣擦れの音が響いて、ベッドが軋んで、不意に後ろから抱き締められた。

「どこ行くんだよ」
なんだかコイツが遠くに行ってしまうような気がして、反射的に捕まえていた。
帰るよ。こともなげに言われて、耳を疑う。今ここで俺が手を離したら、きっともう想いを伝えることはできないだろう。けれど、コイツを引き止められるほどの言葉も思い浮かばなくて、回してる腕に力を込める。

「……」
回された腕を振りほどけなかった。
逃げたくて、逃げたくて、でもダメだった。
だったらいっそ、踏ん切りがつくまで甘えてみようか。
そしていつか、わたし以外の女の人が、この人を攫っていく時
そうなったら、潔く身を引くことにしよう。
だって、あなたへのこのおもい
吐き捨てられない、背を向けられない。
だったらいつか全部終わる日まで
それまで、あなたのぬくもりに、心も身体も溶けていたい。

「……」
振りほどかれると思ったのに、意外にも受け入れてくれたから、ほっと胸を撫で下ろす。
首筋に唇を寄せる。甘いシャンプーの匂いに、ごくりと喉が鳴った。
離したくない、帰したくない。
でも、家族が乗ってる天秤にコイツをかけることもできない。「家族の方が大切なんでしょ」って言われてコイツに嫌われたくない。
どうする、どうすればいい。まとまらない思考に焦りはじめる。

「……お互い、ちょうどいいじゃん」
心の奥の見られてはいけない部分を、必死に隠して
余裕ぶって、震えた声で提案する。
そう。終わりが来るまで、終わらせなければいい。
わたしもあなたも、恋人がいないんだったら、二人で好き勝手やればいい。
絡まる腕を解いて、振り返る。
大きく目を見開いたあなたと目が合って、くちびるがなにか伝えようと、動く。
その前にわたしのそれで塞いで、首に手を回した。

「っは、お前、ッ」
侵入してきた舌先を相手していると、ぐっと体重をかけられてベッドに押し付けられる。
俺を見下ろす女は扇情的に笑っていて、妄想でも見たことない姿に呼吸が荒くなった。
いいのかよ、こんな形で繋がっても。
いいんだよ、好きに利用すればいい。
理性と感情がごちゃ混ぜになって、俺に囁く。その隙間で、お互いちょうどいいじゃん。さっき言われた言葉が響く。
「彼女」じゃなくて、ただの「オトモダチ」なら、色々保留にしたままでもいいのだろうか。だったらそれで、いや、でも。
ぐだぐだ考えていると、女の指が俺の肌をするりとなぞる。くすぐったくて、変な声が出た。かわいい。小さく笑われて、その顔が可愛くて、俺の中で何かが吹っ切れた。
そっちがそうなら、俺だって。


まだ好きでいさせて


「……不死川先生」

「……今は学校じゃねェ」

「じゃあなんて呼べばいいの?」

「昔のように呼べばいいだろ」

「……実弥、ちゃん、って?」

「……」

「……ふへ」

「気色悪い笑い方すんなァ」

(終わりにしようと思ったのに。でも、まだ一緒にいられる。それだけで、うれしい)

(どの顔も全部、他の男に見せたくねェ。なんてワガママ、絶対に言わねぇぞ)
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かわいいひと。(キ学:数学教師 シリーズもの)

天井から滴る雫の音に、思わず寛ぎの一息。
白く濁ったお湯からは、入浴剤のいい香り。
肩までお湯に浸かると、ぼんやりと暖かい。

目を閉じて、一日の疲れを癒す。
ちょうどいいお湯加減にうとうとしかけたその時だった。
ガラリと、扉が開く音。

「入るぞォ」

ビックリして、お湯が跳ねる。
目の前にいたのは、この家の主である実弥ちゃん、で。

「わっわっ、なっ、何!急に!?」

慌てるのも無理はない。
だってわたし達、どこかの恋人家族みたく
一緒にお風呂に入ることなんか、滅多にないから。
そりゃこんなに狼狽もしますよ、ええ。

そんな状況を招いた張本人
わたしの気持ちも露知らず
「追い炊きにも金がかかるんだよこの時代」なんて、きぱっと言う、から。
あくまでもわたしはお客様、なので
主の言うことには逆らえない。

椅子に座って、湯桶にお湯を溜めて
蛇口を捻って、お湯を気持ちよさそうに被る。
まるで、わたしのことなんか見えないように振る舞うから。
うるさい心臓も、段々と落ち着いてきた。

「……」

今がチャンス。
ここぞとばかりに、実弥ちゃんの身体を上から下までまじまじと見つめる。
あんまりないもんね、こんな機会。

鍛え上げられた腹筋と胸筋と太腿は
横から見ても形がはっきり分かって
光に透けてきらきらひかる白い毛は
香り立つ泡にもくもく包まれていて

目を閉じながら黙って手を動かす実弥ちゃんが
湯気のせいかな。なんだか幼い子どものように見えた。

シャワーを手に取り、生まれた泡を洗い流していく。
わたしの目線に気付いた実弥ちゃんは「ジロジロ見んな、変態」そう言って、意地悪く笑った。

「女の子が入ってるお風呂に乱入してくる方が変態だと思いますけど」

「俺が入ろうとしたらお前がいたんだろ」

「先に入っていいって言ったくせに」

「そうだっけかァ?」

言いながらスポンジを泡立てて、身体を滑らせていく。
わたしとの違いに、すぐに気付いた。

「左足から洗うんだ、実弥ちゃんって」

「は?」

大きな手が止まって、大きな瞳がわたしを見つめる。

「いや、しっかり見たことないから、そうなんだーって思って」

「……お前はどこから洗うんだよ?」

「わたし?首から」

「首?」

「うん」

「脚から洗った方が血行にいいんだぞ」

「えっそうなの?上から汚れを落とすように洗えって教えられたなあ」

まァ綺麗になりゃなんでもいいんじゃね。
会話を強引に終わらせて、続きからスタートする。
違いを見るのが楽しくて、もっと見たくて。
浴槽の縁に身体を寄せる。

「なんか、面白い」

「物好きなやつ」

鼻をくすぐるボディソープの匂いが、わたしの身体を包んでるものと一緒で。
当たり前なんだけど、なんだかドキドキする。

たっぷりの泡で、ついでに顔を洗う実弥ちゃん。
ボディソープで顔も洗っちゃうの。
そんなことしたら、わたしの顔面ちゃんは悲鳴を上げるだろう、多分。(敏感肌なんだよね)
羨ましいなあ。

若干逆上せ気味なのかもしれない。
ポーっとした頭でいると、いつの間にか実弥ちゃんはお風呂に入る前の儀式を全て終えていた。

「おい、詰めろォ」

「はぁい」

体育座りをして、きゅっと身体を縮める。
ざぶんと遠慮なく入ってきた実弥ちゃんの体積分、お湯がざばあと散らばっていく。
はあぁ。長い息が、お風呂場中に響いた。

「おつかれ」

考えるより先に、口から労りの言葉が出ていた。
体育祭に学校祭に定期テスト、部活の引き継ぎに二者三者面談に進路相談。
ここのところわたし達はイベントまみれでてんてこ舞いでやっさいもっさいで。
こんな風に、ゆったりと時間を使えるのって、ホント何ヶ月ぶりだろ。

「ホントなァ、マジ疲れた」

「今年ビックリするくらい忙しかったよね。去年そんなんでもなかったのに」

「去年は定期テストが学校祭の1ヶ月後だっただろォ、それに体育祭も違う月だった」

「あっそっか。体育祭、夏休み明けすぐだったもんね」

炎天下の体育祭開催はいかがなものかと、今年から体育祭は秋口に開催される運びとなったんだった。
その結果、とんでもなく忙しい毎日を送ることになったのは言うまでもない。

「足伸ばしてぇんだけど」

急な申し出に、怒涛の日々をつらつら思い出していた脳が現実に引き戻される。
さすがにこの大きさだと、二人で入るにはちょっと窮屈だ。

「あ、ごめん。上がるね」

「いや、……」

上がろうとしたわたしを、煮え切らない言葉で繋ぎ止める実弥ちゃん。
意図が分かって、笑みがこぼれた。

「……じゃ、そっち行っていい?」

「……ん」

両手を広げながら、ぶっきらぼうに答える。
可愛いんだか、可愛くないんだか。
(そう言えば、疲れてくると急に甘えてくるんだよね)(でもプライドがあるのか、いつも素直じゃないの)

もぞもぞと動いて、実弥ちゃんの胸にわたしの背中をくっつける。
むぎゅっと抱きつかれて、わたしの肩に実弥ちゃんの額が触れた。

「……あったけェ」

お湯のことか、体温のことか。
分からないけど、多分どっちもだろう。

「そうだね」

肩に柔らかな、実弥ちゃんの唇が当たる感触がした。
こそばゆくて、でも悪くない刺激。
ちゅっと、軽く吸い付く音が反響して
なぜか不思議と、心地良さを感じていた。

「……」

静寂の中に、ぴちゃんとひとつの水音。
まるで世界にわたし達しかいなくなったみたいだ。
そんな、錯覚。

わたしを包み込む手のひらに
そっと自分のを重ねる。
首筋に熱が触れて、甘く痺れた。

「ん、実弥ちゃん。お風呂上がる?」

「……まだ、こうしてたい」

「そっか」

普段からこんな感じだったら可愛げがあるのに。
思ったけど、口にしたらすぐに拗ねるのが目に見えたから
黙って心に留めておく。

「……なァ、キス……してェ」

しどろもどろにおねだりしてくる実弥ちゃん。
さっきまで瞳孔開きまくりの「不死川先生」だったのに
落差が激しすぎて、思わず口元が緩む。
いいよ。肯定の言葉、ちょっと笑みが滲んだかも。

お湯の中で実弥ちゃんと向かい合う。
浮力のお陰で、実弥ちゃんの上に跨っても平気そうだ。
わたしが近付こうとするより先に、実弥ちゃんが動く。
伏せられたまつ毛の行方を追う前に、お湯が身体にぶつかって
ふたつの唇が重なった。
なんてことない、啄むようなキス。

実弥ちゃんの肩に手を置く。
それに反応して、大きな手のひらが
離すまいとわたしの腰に回された。

接して、離れて、また触れて。
同じタイミングでお互いの顔が遠ざかるまで
何度も何度も繰り返した。

「えっちなチューはしないの?」

ここはお風呂場で、向き合う二人は丸裸で。
そんな雰囲気になってもよいのでは。
素朴な疑問をぶつけると、「えっちなチューはダメだ」と、目を逸らしながら言う。

「挿れたくなるだろ」

「なるほど」

腑に落ちた。
ちゃんと考えてるんだなあ。

休憩がてら実弥ちゃんに寄りかかると
腰に回されていた手のひらに力が入って、引き寄せられる。
お湯が入り込む隙間がないくらいに密着して、実弥ちゃんの濡れた髪の毛がわたしに頬ずりしてきた。

「実弥ちゃんの髪の毛、くすぐったい」

「あ?」

「顔にくっつくの」

「……」

休憩終わり。
ちょっとだけ離れて、実弥ちゃんの髪の毛を耳にかけてあげる。
空いたスペースに頬を寄せると
実弥ちゃんのほっぺたがドキドキと脈打っていた。

「ん、」

耳元で、低い吐息が漏れた。
厚い胸板に手をかける。
ざらりとした触感。
指で胸元にある大きな傷口の後をなぞると、実弥ちゃんの身体が大きく震えた。
合わせてわたしの身体も跳ね上がる。

「わっ」

体勢を崩したわたしを、実弥ちゃんの手のひらがしっかり支えてくれた。

「お前っ、いきなりなにすんだ」

「ごめん、痛かった?」

「そうじゃねぇけど。……ったく」

尖った唇が「もう上がるぞ、逆上せちまう」と宣言する。
逸らされた顔。表情は分からないけれど
この反応を見るに、照れてるんだろうな。


かわいいひと。


いつまでも入ってんじゃねェ!
理不尽な言葉、だけどわたしの顔は
緩みっぱなしで、また怒られた。
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言うの忘れてた

前にコスプレしちゃう話をかいたんですけど
実はこの続きがくるっぷにあります(今更)

・がっつりえろ
・誰にも配慮してない
・くるっぷのフォロワッサン限定公開

くるっぷ自体はこことほぼ同じものが投下されているんですけど
こことの違いはえろがあるかないかです
あとこっちのはひyな言葉を書き換えたりしてます
健全!(と言い張る)

えろはいいやって人
未成年の人
引き続きこちらでおたのしみください

※そんなにたくさんあるわけではないよ!
※あたまからっぽにしてよめ
※性癖しか詰まってない好き嫌いある人はやめといたほうがいいかも

こちらからどうぞ
crepu.net

あこ
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