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だから、笑って。(銀魂:新神/あんま入ってないけど…)

だって、かける言葉が何もなくても、高くそびえたつビルに埋もれがちなその思いはいつの世も儚くて、変わらないものだから。

気が付いたらぎゅっと、君の冷えた手をにぎりしめていた。
今にも泣きそうに歪んだ横顔 瞳の奥に揺らめく涙の塊を、僕だけが知っている。


何かを護りたいと思ったら、余計な現実もプライドも飛び越えて自由に動けるさ。






「……新八ぃ」


小雪がちらつく冷えた午後、万事屋で留守番をしていたら朝から遊びに出掛けていた神楽ちゃんがうっすらと涙を浮かべて帰ってきた。


『あ、おかえり……神楽ちゃん?』


様子がおかしい。いつもの彼女とは大きく違う。
伏し目がちな青い瞳には太陽みたいな元気の欠片すら見当たらず、いつも大口で笑う唇はきゅっと噛み締められていた。
その横にちょこんと座る定春も何だかしょんぼりとした様子で神楽ちゃんを見つめている。

パタパタと駆け寄り、どうしたの?と訊ねるけれど固く結ばれた口が開くことはない。
僕はその場に膝をつき、神楽ちゃんの両肩に手を乗せてそっと顔を覗き込む。
不安定で、悲しみに震える彼女の表情を見たのは久し振りな気がした。


『…なにか、あったの?』


慰めるようにもう一度聞くと、僕に視線を向けて口を開いた。
静かに、ゆっくりと。


「──…あのネ、猫が…ちっちゃい猫が血まみれになって道路の端っこで倒れていたアル」

『…子猫?』

「ウン。でも、そのまま置いてきちゃったアルよ……」





そこは、車通りの多い所だった。

人々が足早に通り過ぎるその波の中で、汚いガードレールの下に子猫が血まみれでうずくまっていたらしい。
車にひかれたのだろう、辺りにはどす黒い血が飛び散り、時々助けを求めるかのようにか細い声でニャアと鳴く。

けれどそれは都会の喧騒にかき消され、行き倒れの子猫を気にかける人なんて誰もいなかった。


それどころがその子猫に気付いた人はみんな眉をひそめて、口々に呟いた。


「ねぇ、死んでるの?あれ」

「生きてんじゃねーの?知るか」

「…可哀想じゃない?」

「でも、どうすればいいの…?」

「どうしようもないよ…」

「きったね!誰か片付けてやれよ」

「ただののら猫でしょ?助ける義理もなくない?」


その言葉のひとつひとつが物凄く苦しかった。
痛くて、可哀想で、助けてあげたいと。でも、ため息と共に誰かが漏らした“どうしようもないよ”──。
その一言に矛盾する気持ちを無理矢理押さえつけてその場を足早に去ってきたのだという。


ちらほら降り始めた粉雪の中、振り返ってみるとそこに猫の姿はない。
しかし虫の息で必死に鳴くあの声が、いつまでも耳にこびりついて離れないんだ、と。




『……』

「助けてあげたかったけど…何も出来なかったヨ」


僕は言葉に詰まった。一体何を言えばいいんだろう。どんな風に説明したら神楽ちゃんは納得してくれるだろうか。

そう言えばさっき見た天気予報では、今年一番の寒波がやってきているらしい。このままじゃその子猫は確実に死ぬだろう。
寒さと出血と、もしものら猫だったら何日も食べ物を食べていないかもしれない。時間の問題だった。


「でも…きっとひとりぼっちは寂しい、アルよ……」


だから何とかしたいヨ、助けてあげたいアル、と神楽ちゃんは途切れ途切れに訴えた。


けれど、もしその子猫を助けてしまったらありとあらゆる面で問題が出てくる。
その中で一番厄介なのは金銭面だった。車にひかれているなら病院に連れていって手術してもらわなければいけないだろう。

そうなれば収入の安定しない万事屋は今月やりくり出来るだろうか。
最悪、生活に必要なライフラインが止められてしまうかもしれない。
(水が出ねーぞー!だとかテレビがつかねーぞー!だとか銀さんがうるさく言いそうだ)


それから銀さんを説得したり、子猫を引き取ってくれる人を探したり、もし家で飼うことになったら餌だなんだ色々買わなきゃいけないし、ええとそれから、でも、と情けなくもぐるぐる迷っていた。


「……新八、」


神楽ちゃんに呼ばれてハッとした。
目尻に涙をためて、彼女は言葉を続ける。


「私、お腹空いても我慢するヨ!酢昆布も一日一箱にするネ!服欲しいアル、とか、あれ欲しいこれ欲しいとか我が侭も言わないアル!だから……」


お願い、と呟いたと同時に神楽ちゃんの目から一筋涙がこぼれた。
やりきれなくなって、僕は彼女を抱きしめる。神楽ちゃんが持っていた傘は地面にかたりと落ちた。

その猫が死ぬのは仕方がない、諦めて、とここでそう言ってしまったら後悔すると思った。きっと僕も、神楽ちゃんも。
特に神楽ちゃんは今繊細な時期で、様々なことに敏感になっている。些細なことで一生消えない心の傷を負うかもしれない。


だから、まずは彼女の思いを優先しよう。現実で悩むのはそれからだ。


『ちょっと待ってて』


僕は神楽ちゃんから離れ、空き箱とタオルを探す。
タオルはすぐに見つかったけど手頃な空き箱が見つからない。
仕方なく僕は数枚のタオルを抱えて戻った。


「しん、」

『行こう!早くしないと、その猫死んじゃうから!』


そこまで案内して、と差し出した手を神楽ちゃんはしっかりと握り返してくる。
ありがとう、と小さく聞こえたような気がして、何だか照れくさかった。けれどそんなことをまともに考えてる暇なんてなくてただ走った。


悲劇を嘆くふたりは走って走って、




びゅん、と忙しく流れる景色
頼むから生きててくれ、とこころの中で願った。



【なんかもうよく分からん新神。
大事にしたいんだ、きみを】
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