再び逢えるその日を夢見て(FF]:ティユウ/ネタバレ有)

一目惚れ、だったのかもしれない。


どんなにツラい事実が前を塞ごうとしても、いつだってきみは笑いながらみんなを励ます言葉を選んでいた、いつも。
その生まれた言葉に何度も救われたんだ。いや、言葉と言うよりそれは歌だ、幸福で、素敵な響きだ。

わたしはきみの後ろ姿を見つめていた、ただ、黙って。
それが暗い正夢、
なんて、知るはずもなく。


音、ひかり、白い花。
はねる、水面。


きえてしまう、
なんて軽々しく口に出さないきみの
こころは強いんじゃなくて、ホントは弱虫だってことに
もう少し早く気付いてあげることが出来たら
わたしは君をこの手で抱きしめてあげることが出来ただろうか、どこかへ逃げないように、きみがわたしの元を離れないように
そんなことばかり考えて
もうきみがいない事実に
こころが割れる、おとがした。


さよなら悪夢。


一緒に歩く時間は増えていって
きみへの想いも強くなっていったのに
その時が終わる、最後までわたしはきみの嘘を見抜けなかった。
ううん違う。ホントは知ってた。きみがこの世で一番の嘘つきだってこと

言葉にすると怖かった、のかもしれない。

ああいつかそんなことを言われたような気がする。重たい使命を与えられたあの日から、みんなはわたしの前で無理するようになった。わたしもみんなの前で無理するようになったから、相互性が発生。お互い様かもしれない。

けれど、

きみはいつだって有りのままでそこにいて、素直にわたしのことを心配してくれた。単純。と言ってしまうとまた違うような気がする、けれどきみは単純で純真だった。
だって「ユウナは絶対死なせない!」って真っ直ぐ言ってくれたから。


嬉しかった。


なのにわたしは何も言わないままきみとすれ違った。なにもかも認めたくなくて言いたくなくて、それはだだをこねる子どものようで、わたしは自分の臆病な部分にはじめて涙を流した。



ずるいよね、ごめんね。



青空に向かって合図を送る。
それはかなしみの始まりだった、けれどわたしはそれをかなしみと名付けない。きみはいつでも笑って悲しみを背負ってきた。だから今度はわたしの番。そしてそれはわたしに与えられた罪だ。


わたし達が出逢ったはじまりの場所を覚えてますか?


ここに来ればきみに出逢える。少なくともわたしはそう信じている。いつか決めた、ふたりの間を繋ぐ“合図”を送ればきみが返してくれる気がして、何度も、何度も、鳴らす。
きみがかけてくれた言葉をひとつひとつ思い出して、こころの中で呟いて、音と言葉がずれて重なって

誰かを呼ぶ一つの音楽になった。

それはいつだってわたしの脳の中心部まで響いて、きみが近くにいるような気がしてそっと口ずさむんだけどしばらくしたら忘れて、でも、ここに来て、そして思い出す。
幾度も忘れて、幾度も出逢う。どこかで見た螺旋だ。それはきっとこの世界が休むこともなくぐるぐる回り続けているからで

だからわたしはきみを忘れることはない。
また、ここで出逢う。


きっと。



「ユウナ、行くわよ」



呼ばれた。
もう、行かなくちゃ。

海がざわめく
風がささやく
名残惜しげに。

そしてわたしは歩き出す。
きみのいない世界を
きみに伝えきれなかった、様々な言葉を抱えて。

軋んだのは、足音。
目を閉じて、すっと、前を向く。




再び逢えるその日を夢見て。




「ユウナ」



歩き慣れた桟橋の途中
きみに呼ばれた気がした、



【song by:元ちとせ“音色七色”

ティユウすき\^^/わーい
前向きな恋…せつない】

料理戦争勃発!(3)(FFZオールキャラ)

料理戦争四日目!



「…俺かよ」

「頑張ってよ、バレット!」


今日の料理当番は(ある意味大本命の)バレットだった。
が、しかし
なかなかキッチンに立とうとせず、辺りをウロウロしている。

不思議に思ったナナキが尋ねた。


「バレット、どうしたの?」

「あー、いや…」

「今日はどんな料理を作るの?バレット!」

「…どーすっかなあ……」


はあー、と
大きなため息をつくバレットに
ナナキは尻尾を振るのをやめ、
首をかしげた。


バレットはバレットなりに
プレッシャーを感じていた。

前回が散々な評価だったため
今回こそは挽回したいと
考えているのだが…。


「…料理、苦手なんだよなあ」


愛娘のマリンにも料理を作ったことがあるのだが
みんなの評価と同じどころが
かなり辛辣なことを言われたので
マリン、はたまたアバランチの面子の食事は
全てティファに任せっきりだったのだ。

炭鉱で働いていた時は
それこそ当番制だったものの
バレット自身、手軽に作れる
野菜と肉を大量に煮込むだけで出来る
鍋料理しか作ったことがなかった。


鍋であれば誰でも作れるだろう
挽回の一手には、ほど遠かった。


「どうすればいいんだ、俺!」


ついに頭を抱えてしまう。
バレットの突然の行動に、
ナナキは一歩後ずさった。


「バレット…どうしたの、変だよ」

「ナナキ…俺はどうすりゃいいんだ?」

「ごめん、バレット、さっぱり分からないよ」


ナナキが哀れみにも似た表情を
バレットに向けた、その時だった。


「あーっ、あっちい!サイダー飲みたいっ!」


ばん、と
キッチンと廊下を繋ぐ扉を思い切り開いたのは
連日続く蒸し暑さに
ウンザリしているユフィだった。

彼女はバレットの姿を見た瞬間、
あからさまに嫌そうな顔つきになった。


「うわ、今日の当番バレット!?サイアク!薬飲んどこ」

「サイアクじゃねえ!俺だって……ん?」


と、その時。
ユフィに対し、怒りの目線を向けていたバレットの顔が
次第に真顔になり、
それから間抜けなものになった
かと思えば、目をキラキラと輝かせ始める。


「…そうか!」

「へ?」

「そうだ、その手があったか!ありがとよ、ユフィ!」

「は?何言ってんの?ナナキ、どーいうこと?」

「…オイラにも分かんない」


呆気に取られている一人と一匹を尻目に
バレットは足取り軽やかに
料理の材料を取りに行った。



そんなバレットが作った料理とは…


「…」


「おめえ…マジか…」

「こ、これは…」


テーブルに並べられているのは
透明なボウルに入ったフルーツポンチ(杏仁豆腐入り)と
白いクリームが乗っかったショートケーキだった。


勿論、パーティー一同、絶句。


「うそっ!気持ち悪いっ!!」

「バレット…何、これ?」


女性陣は驚きと戸惑いを含んだ目で
バレットを見つめる。


「いや、俺はいいと思うよ…うん。意外だけど」

「…ある意味、目を疑うな」

「いや…しかしこりゃあ…おったまげたぜ。デカイ図体でこんな可愛らしいモノを作るたあ」


男性陣の反応は素直なものだった。


「見た目は完璧ですけど…バレットさん、これ、買ってきたやつやないですよね?」


ケット・シーの疑いの一言に
反論したのはナナキだった。


「違うよケットシー!オイラ、ずっと見てたけど、バレットは最初からちゃんと作ってたよ!」

「へっ、どーだ、見たか!」

「…ウソや、信じられへん」


ナナキのその一言に
踏ん反り返るバレットと
納得いかない唸り声をあげるケット・シー。


「一時期、マリンが菓子作りにはまってたことがあってな、一緒に作ってる内に、色々覚えちまって」

「…そういえば…そんなこともあったわね」


納得したように、ティファが頷く。


「うそーっ!ちゃっかり美味しいし!ナニコレ!気持ち悪いーっ!!」


ユフィが悲鳴にも似た声を上げる。

さすがに、店で売ってるものと比べたら
まだまだ荒い部分があるが
それでもしっかりとした
甘味の味だった。


「…バレット、美味いよ」


少しだけためらいながら
クラウドはバレットの方を見つめる。
バレットは得意げに笑った。


「これで汚名返上だな!」


がはは、と豪快に笑うバレットとは正反対に
パーティー一同はすっかり黙り込んでしまった。


「…人間、外見上じゃ分からないこともたくさんあるんだな」


そう呟いたのは、ヴィンセントだった。




料理戦争五日目!



「よっし、作るぞ」

「今日はクラウドかー。腹痛止め飲まなくても大丈夫そうだな」


今日の料理当番はクラウドだった。
クラウドが料理を作る様子を、
お腹が空いて待ちきれない様子のユフィが
ニヤニヤしながら見ていた。


「んで?今日は何を作るのさ」

「兵士やってた時に、よく、ザックス…俺の親友が作ってくれた料理を」

「何それ、どんな料理?」

「色々な具を、ご飯と一緒に炒めるんだけど」


言いながら、リズムよく野菜を切り刻んでいく。
その手際のよさに、
ユフィは感嘆の声を上げた。


「うはー、すげえじゃん!」

「伊達に毎日剣を振ってないからな」

「こりゃ期待出来そうだ!早く作れよ、クラウド!」

「まあまあ」


大きなフライパンに油をひき、にんにくを炒め
野菜と肉を投入する。
ジャッと、いい音が辺りに響く。
次いでご飯、卵を入れ
鷄ガラスープを入れると
辺り一面にいい香りが広がった。


「すげー!」


クラウドの隣にいたユフィが瞳をくるくるさせ、
その様子を見ていた時だった。


「はーっはっは!見ろ!これが俺の本気だ!!」

「!?」


クラウドの突然の豹変っぷりに
ユフィの身体がびくんとはねた。


「えっ!?なに!?」

「サクッとカリッとパラパラと!!最高の味付けと食感を!!うおぉーっ!俺は火と一つになるっ!!リミットブレイク!!」

「え、ちょっ、みんな!クラウドがセフィロスに乗っ取られた!!キモい!!誰かー!!」


慌ててキッチンを出るユフィ。
慌て過ぎて、転びそうになる。

そんな彼女には目もくれず
クラウドは高笑いをしながら
フライパンを大きく振っていた。


(この後、クラウドは武器を持ったパーティー一同にフルボッコにされた)
(どうやら「この掛け声をしないと美味く作れないぞ」とザックスに教えてもらったらしい)



そんなこんなで
なんだかんだあったが
クラウドはなんとか当番をやり遂げた。

彼の作った料理は、五目炒飯だった。


「わ、割と上手く出来たと思う…痛っ!ティファ、もう少し丁寧にやってくれよ」

「ご、ごめん」


クラウドは
泣きそうな顔をしながら
みんなに炒飯をよそってやる。


「この料理は美味いんだけどよぉ…」

「さっきのクラウドの方がインパクト強すぎて、味がよく分かんねーぞ」


複雑な顔をしながらそう評価したのは
シドとバレットだった。


「さっきのクラウドは気持ち悪かったけど、これは美味いよ!クラウド!」


ナナキは炒飯を一気に掻き込み、
素直な感想を述べる。


「…複雑だなあ」


クラウドは皮膚に貼られた絆創膏をさすりながら
口元を尖らせた。




料理戦争、まだまだ続く。



【もちょい続くよッ(^-^≡^-^)!】

コントレイルが繋ぐ、ふたりの世界(FFZ:シド/続き)

それからあたしは彼と会うことを拒んだ。

別に、彼に会いたくない訳じゃないし
会えない訳じゃない。
むしろ会いたかったし
会えるタイミングはいつでもあった。

けれど
会うのが怖かった。


また、いなくなってしまう。


そう考えたら
なかなか会えずにいた。


店は早目に閉めるようになった。
天井を見上げないようにした。
彼のことを、考えないようにした。

それだけのことなのに、
なぜか
視界がぼやけて、狭苦しくなった。
違う世界に移行したように思えた。


自分自身を占ったのは初めてだった。
当たり前だけど
結果はひどく曖昧で。

世界中の全てのものから
騙されているんじゃないか、

錯覚。


怖くなって、遮断した。
こんな時
あの人がいれば、

当たり前のように浮かんでくる思考を呪った。


空は、あたしから
何もかも、ぜんぶ、奪っていく。


だけど
いざ、離れてみれば、
あっさりしているものだった。
泣いてしまうだろうと思ったけれど

案外、思い出を捨てることに
慣れてしまっているのかもしれない。

それはそれで滑稽だった。


---




シドから電話が来たのは彼と会わなくなって数ヶ月後のことだった。



天候:曇り、時々、晴れ。



『よぉ、元気か?』


ノイズが走る受話器の向こう
だけど聞こえる、懐かしい、
貴方の声。

ノイズ、うるせーだろ?すまねえな

申し訳なさそうに言った。

久しぶり、だった。
だから、何を喋ればいいのか
全然分からなかった。


「…あ、アンタ、なんでここの番号を知ってるんだい?」

『なんだっていいだろが、それより』


手に持っていたカードを
テーブルの上に乱暴に起き
店の外に出る。

電波が悪いのか、何なのか
よく分からないが
相変わらず、耳元でノイズが走る。

辺りを見渡したけど、彼の姿はなかった。


『おめえ、オレ様が飛空艇のパイロットになるのがそんなに嫌だったのかよ?』

「な、なんだい、急に」

『あれから店に行っても誰もいやがらねえし、おめえの家は知らねえし、街の奴らは何も分かんねえとか言いやがるし』

「…色々事情があるんだよ、こっちにも」

『けっ、相変わらずツレねえ女だぜ』

「余計なお世話だよ」


ガガッ、と
ノイズ音が一際大きくなった。

時間がねえ、
そんな焦りにも似た呟きが聞こえた。


『おめえ、明日仕事休め』


それは、いきなりの提案だった。


「は?」

『見せたいモンがあるんだよ!上層…には来れねえんだっけか?んじゃとりあえずミッドガルから出とけ』

「何の話をしてるんだい?訳が分からないよ」

『ゴチャゴチャうるせえな!明日、空を見れば分かるっつーの!明日は晴れだからな、丁度いいんだ』

「ちょっ、何を」

『いいモノ見せてやっから、いい子にして待ってろよ!じゃあな!』


半ば強引に会話終了
残された意識、呆然。


「…なんだってんだい、一体」


何気なく空を仰いだ。
上層部分の無機質なプレートが、
黙ってこちらを睨みつけていた。




天候:快晴


夢を見た気がする。
あたしの嫌いな、空色に包まれて
飛空艇が、優雅に泳いでいた。
あたしはそれをただ、じっと見つめていた。
何も言わず、右へ左へ動く飛空艇を
目で追っていた。


覚める。
寝ぼけた頭で
あの飛空艇には、誰が乗っていたんだろう?
そんなことを、考えた。



いいモノ見せてやっから、いい子にして待ってろよ!じゃあな!



彼は、そう言った。
それは昔、
母に言われた台詞と似ていた。

母に言われた通り
何日も、何週間も、何ヶ月も
いい子にして待っていた。
だけど、
何年経っても
父も
母も
帰ってくることはなかった。

最初は裏切られたと思った。
最愛の人物に捨てられた、とも考えた。

それが違うと分かった時
誰も恨むことが出来なくて


青空。



あれから十数年
何か変わったのだろうか?
何年経っても
相変わらず臆病者で、
泣き虫で
終わった時間をいつまでも嘆いている
どうしようもない人間だ。

だけど。


「…会いに行こう」


待つのはもう嫌だった。
空の上を飛ぶ彼に、会いに行く。




ミッドガルを出たのは、本当に久しぶりだった。
空はあの日と同じ快晴で
いつだってシンプルな空色で
世界が眩しく輝いて、
微かに滲んだ。


「まぶし…」


目を細めて、空を見上げる。
何があるんだろう、と考えた

その時だった。




上空を、一艇の飛空艇が駆け抜けていった。




「───!」



突然のことに、呆気に取られる。
と、同時に
あの飛空艇に乗っているのは、彼なんだと
なんとなく、感じた。

飛空艇は
空中で何回転もして
高速で辺りを駆け回って
一筋の飛行機雲を引っ提げて
楽しそうに、踊っていた。


「…バカ、」


涙が溢れた。

この時の強烈な気持ちを
愛と呼ぶのかは分からないけれど
あたしは、幸せだった。
そして、綺麗だった。



流れ星、急降下。
飛空艇から降りてきたのは、
思った通り、金髪の男だった。

ゴーグルを額にかけながら、
足早にあたしの所にやってくる。


「よぉ、来たぜ!」

「…」

「っておい!泣いてんじゃねえよ!」

「…ああ、ホントに、アンタはいい奴だね」

「今更気付いたか、遅えよ」


タバコの煙をはきながら、
いつものように、ニッコリと笑った。

それは、あたしがずっと会いたかった笑顔だった。




拝啓:空の上から、キミに会いに来た




キミと出会えて、よかった。
ありがとう、青空。



【イエーイ!自己満足\(^ー^)/←
最後よく分かんないごめん(^q^)
つらい時に言葉じゃなく、行動で励ましてくれるシドのおっちゃんがすきです
それだけを書きたかったんだ★てへぺろ】

例えばそれを、運命の悪戯だと言うのなら(FFZ:シド/続き)

天候:雨。(しかも、土砂降り。)



「じゃあな、行ってくる」

「いい子にして待ってるのよ」


耳元で聞き慣れた、でももう聞くことのない声
ドアが閉まる音が、響く。


いやだ!やめて!
行かないで!ここにいて!


目を閉じて
耳を塞いで
身体を縮めて
閉鎖的空間を作り出す。

だけど
その記憶は、あたしの脳に直接語りかけてくる。


鮮烈な、空色。


かわいそうに…

あの子のご両親、飛空艇の事故に巻き込まれて…

遺体、見付からなかったみたいよ…

残された子ども、孤児院に行くのかしら…



さよなら現実。



見えていないフリをした。
聞こえていないフリをした。
知らないフリをした。

だから、
家族で写っていた写真を破いた。
家族で使っていた食器を割った。
家族で住んでいた家を燃やした。

何度も吐いた。
何度も泣いた。
何度も叫んだ。

いつしか思い出は
何もなかったことになっていた。


その日の空は、とびきりの快晴だった。




「っ!──…」


息苦しさに、目が覚める。
どうやって帰ってきたのか分からないが
気付けば自分の家の、自分のベッドの上に
仰向けになって寝ていた。


「夢…」


流れる涙
痛む頭を抱える。
悪夢の後味の悪さに、
空っぽの胃がまた悲鳴を上げた。

上半身を起こすものの
しばらく動けなかった。
布団をぎゅっと握り、
必死に無心を保つ。


終わった悪夢だ
気にすることはない。

だけど
脳の奥に広がるあの色から
どうしても、逃げ切ることが出来なかった。
膝を抱え、静かに耐える。


どれくらいそうしていただろう。
心臓が落ち着いてきた頃、
あることを思い出した。


「…店!」


そういえば、昨日
店を飛び出したままだったことを思い出した。
慌ててベッドから跳ね起き、家を転がるように出た。



──オレ様は、神羅カンパニーの飛空艇パイロットの面接を受けに来たんだ。



歩きながら、
ふと、あの
金髪の男のことを思い出した。
途端に申し訳ない気持ちになる。


「…何やってんだ、あたし」


足元に転がるゴミを、軽く蹴り飛ばす。
蹴り飛ばしたゴミは、
生まれたばかりの水溜まりの
縁に転がった。

下まで雨が降ってくることはない。
故に、水溜まりが出来るということは
今日の天気は、土砂降りの雨ということだ。

上の天井の隙間から、
土砂降りの雨がこぼれ落ちているのだ。


下に住む人は、それを恵みの時間だ
と、喜ぶが
空から生まれたモノに
あたしは頼ることをしなかった。


空は、嫌いだ。




「…は?」


店に着いて、驚いた。


豪快ないびきをかいて
昨日の男が椅子に座って
寝ていたからだ。


「…」


声が、出なかった。
どうしていいのか分からず、辺りを見渡す。


「(そうだ、お金!)」


男を起こさないように、そっと歩き、
あたしがいつも座っている付近に近付く。

そこには
手の付けられていない金庫が
ひっそりと佇み
テーブルの上には、綺麗に積まれたカードの山が
誇らしげに陣取っていた。


「…」


もしかして、この男
昨日、あたしがばらまいたカードを
きちんと拾って
テーブルの上に置いといてくれたのだろうか?
金庫の金も取らずに、
あたしを待っててくれたのだろうか?


気になって、男を起こすことにした。
肩を揺すり、呼びかける。


「アンタ、ちょっと!」

「…んあ?」


寝起きの瞳が、あたしを認識した瞬間
大きく見開かれた。
男はよだれを拭いながら、あたしに食ってかかってきた。


「おい!てめえ、どこ行ってやがったんだこの野郎!」


男は思い切り立ち上がった。
その衝撃で、座っていた椅子が
大袈裟な音をたてて転げ回る。


「いなくなるならいなくなるって一言言ってからいなくなりやがれってんだ!」

「…アンタ、ずっとあたしを待っててくれたのかい?」

「何言ってやがんでえ!てめえのためじゃねえよ!店を開けっ放しにしといて、はいサヨナラ、なんて訳にはいかねえだろうが、このトントンチキ!
このオレ様がしっかり店番してやったんだ、ありがたく思いやがれ!」


そう、一気にまくし立てると
寒かった、腹減った、

ぶつぶつ文句を言いながら、
男は倒れた椅子を元に戻す。

その、男の一連の行動が
なんだか少し、可笑しくて
思わず笑っていた。


「なんでえ、何がおかしいんだよ」

「いや…アンタ、見かけによらず、いい奴なんだね」

「はあ?」

「腹減ってるんだろう?飯くらい、おごるよ」




それが
あたしと、シドのはじまりだった。




恋仲、まではいかないけれど
彼はちょくちょく
あたしの店を尋ねるようになった。

別に、占いを求めてきた訳ではなく
飲んできた帰りとか
ふとした瞬間に
あたしの顔を見に来てくれた。


「また、店番することになるかもしれねえからな」


いつだか彼は、あたしにそう言って笑った。


彼が店に来る度
あの、闇が蘇ってくるんじゃないかと
内心、不安に思っていたが
彼と喋る度に
そんな気持ちは
すっかりなくなっていた。


不思議だった。
あんなに憎んでいた空が
いつしか恋しいと思うようになっていた。

彼と話していると、
こころの奥底の傷が癒されていく気がした。
勿論、まだ
傷は開いたままで


時折、思い出す。
暗い闇。


そんな時に
彼は何も言わず
タバコを吸いながら
黙って傍にいてくれた。

その優しさが嬉しかった。
彼と一緒にいるのも悪くないと思った。


だけどある日
そんな毎日が、一瞬にして奪われた。
あたしの、この世で大嫌いな、アイツに。




天候:雨、のち、曇り



「よぉ、来たぜ」

「おかえり」


ふたりの間で交わされる挨拶は、
いつしか単純なものになっていた。

シドはいつもより上機嫌な様子で
椅子にどさっと座る。


「随分ご機嫌じゃないか、なにかあったのかい?」


一緒にいた時間は短いけれど
彼の表情を読み取ることくらい、
簡単に出来るようになっていた。


けれど、
後悔。
聞かなきゃよかった、んだ。
あの日のように。



「聞いて驚け!神羅カンパニーのパイロット試験に受かったんだ!さすがオレ様、一発合格だぜ!」


「…えっ、」




例えばそれを、運命の悪戯と言うのなら




なんだよ、オレ様と会えなくなるのが淋しいのかよ?

そんな、いつもの軽口にも、
あたしは何も言えなかった。



続きます。

見上げたそらはかなしみです(FFZ:シド)

天候:晴れ、のち、くもり。



あたしは空が嫌いだった。
空はあたしから全部奪っていった。
あたしの掌は一瞬で空っぽになった。
唐突すぎて、分からなかった。

だいすきだった人が
目の前からいなくなったことを
ゆっくり理解して

泣いて
泣いて
泣いて、

なのに
その時の空は快晴で

「ざまあみろ」

って
世界に笑われているようで
悲しくなって
怒りが込み上げてきて

小さな足を動かして
空の干渉から逃げた。
そうしてたどり着いた、この空間。



層。

わたしがいるのは、底辺。
不要な物の吹き溜まり。

上を見上げても、青空は見えない。
光りも射さない
雨も降らない
雪も積もらない


「キレイな空が見たい」


誰かが嘆いた。
でも、
そんなの知らない。

あたしはこの世界で、空に背を向けて生きる。
それがあたしの、
精一杯の、洗練された
ただひとつの抵抗。




占いがすきだった。
だから、ウォールマーケットの端っこで
占いの館なるものを経営していた。

的中率ほぼ100%
と言う噂が広がっているらしく
連日、客が途絶えない。

だけど
あたしは自分自身のことを占ったことがないから
その的中率は
ひどく他人事のように思えた。


占いは不思議だ。

信じる奴もいれば
信じない奴もいて
何かにすがるように結果を待つ奴もいれば
出た結果に舌打ちして怒鳴る奴もいる。
「また来るね」と笑顔で帰る奴もいれば
「二度と来るか!」と不機嫌そうに帰る奴

占いは、色んな感情を持った人間を呼んでくる
だけど、前に来た客と似てる奴は来ない。
みんながみんな違う悩みを持ち、
そしてあたしの元へ来る。


それが不思議だった。




そんなある日のことだった。
その日のことはよく覚えてる。

なぜなら、
店を開けたはいいけど
いつもなら数人はいる客の姿がなく
それから数時間後まで
珍しく開店休業状態だったからだ。
(どうやら近くに新しい飲み屋が出来たらしい。興味ないけど)


時間感覚、麻痺。


こんな日もあるんだな、と
使い古したカードの柄を
まじまじと見つめていた、その時だった。


「たのもーっ!オレ様のこと、占ってくれよ!」


ゴーグルを額に引っ掛けて
タバコをくわえながら
意気揚々と入ってきたのは、金髪の男だった。


「高いよ」

「かまやしねえ、当たるんだろ?」

「さあね」


言いながらカードを混ぜる。
紙が擦れる音がすきだった。

金髪の男は
あたしの目の前にある椅子に
どっかりと座った。

タバコの紫煙が、辺りを白く染める。


「六番街の占いの館の占いがよく当たるって聞いてよ、わざわざゲン担ぎに来たって訳だ」

「ここはゲン担ぎの場所じゃないよ、悪い結果が出ても金はしっかり貰うからね」

「なに、いい結果が出るに決まってらあ!」


がはは、と豪快に笑う。
男には構わずに、
混ぜたカードを数枚、所定の位置にセットする。


「この中から好きなカードを選びな」

「なんでもいいのか?」

「アンタの心が揺れるモノを選ぶんだよ」

「んー?どれにすりゃいいんだ…迷っちまうな」


金髪の男は、眉間にしわを寄せながら
テーブルの上に置かれたカードを
真剣に見比べる。


「じゃあ…これだ!」


やや悩んで、選んだのは真ん中のカードだった。

「まだ見るんじゃないよ、結果が変わっちまうからね」

「おう、分かった」

「じゃあ次、このカードの山をアンタの気が済むまで混ぜな」

「あん?まだ結果、出ねーのかよ」

「文句があるなら止めてもいいんだよ?」


あたしの一言に、渋々「分かったよ!」
と、ぶつくさ言いながらカードの山を引ったくる。

その時気付いた。
コイツが身に付けている厚手の手袋は
あたしのカードと同じ、
愛がある使われ方をしていた。

ここら辺に住む奴は
物を大切に扱わない。

上の奴も、下の奴も。


だから、すぐに分かった。


「アンタ、ミッドガルの人間じゃないね?」


金髪の男は、驚いてあたしを見た。


「なんでえ、よく分かったな、オイ」

「長年、こういうことをしてると、眼がよくなってくるのさ」

「成程…職人の眼は侮れねえな」

「こんな所に何の用さ?出稼ぎかい?」


何気ないあたしの質問に
この男は
とんでもない一言を返してきやがった。




「オレ様は、神羅カンパニーの飛空艇パイロットの面接を受けに来たんだ」




「…はあ?」

「小っせえ頃の夢だったのよ!飛空艇のパイロットになって、空を自由自在に飛び回るのが」

「…」

「そんで、大空艇師団の団長になって世界中を旅して、最終的には宇宙に行ってやんだ!
どーだ、すげえだろ?」



何を言ってるんだコイツは
訳が分からなかった。




瞬間、フラッシュバック。

---


消えた温もり
両親の残像
見上げて、青空。


ざまあみろ!
誰かが言った。

途、切れる。
   サ ヨ ナ ラ



黒。
いや、違う。それは夢だ。
夢幻の切れ端だ




じゃあ、これは?


---


「……空は、嫌い」


唇を強く噛む。
掌に、じわりと、汗が滲んだ。


「は?どうしたんでい、いきなり、」

「っ、返せっ!」


何のことか全く理解出来ていない
呆然とした表情の金髪の男の掌から
強引にカードの束を奪い取ろうとする。

だけど
カードはあたしの手からずれて
テーブルに、床に
音をたてて崩れ落ちた。


「──っ!」

「お、おい!」


そんなことよりも
胸の辺りが一気にねじれる感覚
目眩
不快感。
広がる、空色。

込み上げるものに耐え切れなくなって
あたしは口元を抑えながら、走って店を出た。




見上げたそらはかなしみです




胸の奥に思い出が詰まって
上手く吐き出せなかった
あの日。

忘れかけていた、のに。


続きます。
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