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どれが本当のあなた?(キ学:数学教師 ぬるま湯くらいの裏R15。つづきものぽい)

遠くから聞こえる雨の音で、目が覚めた。


「──ん、ぅ……」

毛布からはみ出ていた肩が冷たい。
反対方向へ寝返りを打ちながら、さらりとした波間に潜り込もうとして
首の下に枕とは違う違和感を感じる。
目覚めたくないワガママに抗いながら目を開けると
鍛えられた二の腕と傷だらけの胸板がわたしを包んでいた。

(……腕枕、してくれてるのかあ)

そう言えば昨日、夜の底で交じりあって
後片付けもそこそこに寝たんだっけ。
寝起きの頭で現状を理解して、それからふうと小さくため息をついた。

隣ですやりと寝ているこの男とわたしは付き合っているわけではなくて
まあ、所謂都合のいい関係ってやつで
お互いの都合が合う時だけ
だらだら、どろどろ。

今現在同じ職場で働いていて、なんなら昔同級生だったこともあったわたし達。
あの頃の純粋なわたしに
将来こんな不純だらけの関係になるんだよ!と言ったら
当時のわたしはどんな顔をするのだろうか。

それはそうと、寝返りを打った関係でなんだか体勢の塩梅が悪い。
ピタリとハマる位置を静かに模索していると、上からうーん、と唸り声が聞こえた。

「ごめん、起こした?」

「ん……?あー、」

ぴた、と
お互いの体温が触れ合う。
見上げると、目覚めたばかりのとろんとした瞳がわたしを見つめていた。

「……はよォ」

「おはよ」

よく生徒に「不死川先生のまつ毛って何センチあるの?」と聞かれてるそれが、ふわりと揺れる。
相変わらずまつ毛長いな、そんなことを思っていると
不意にぎゅうと抱きしめられた。

「お前、起きるの早くねェ?」

いつもよりも低く、でも優しい声が耳をくすぐる。

「雨の音で起きちゃった」

「んー……」

寝ぼけているのだろうか。
職場では見せないその姿に、自然と笑みが浮かぶ。
空いている手がもぞりと動いて、わたしの肩をそっと撫でた。

「……冷たァ」

「なんか肩だけ毛布から出てたっぽい」

「……」

「ぎゃ!ちょっと!」

肩を撫でていた大きな手が、急にわたしの身体の輪郭をなぞりはじめたので
喉から変な声が出た。
手の主がぶはっ、と吹き出す。

「お前、ホント色気ねぇのな」

「さ、実弥ちゃんがいきなり変なところ触るからでしょ!」

くすぐったくて、なんだか恥ずかしくて。
逃れようと上体を起こそうとしたら
それを阻止するように、がばりとわたしの上にのしかかってきた。

「ねえ、っ」

首筋にかかる、銀色の髪の毛。
ぎしりとベッドが軋んで、雨の音がかき消された。
触れられているところが熱くて、宙を掴んでいた掌に違う温もりが重なる。

「ちょっと、朝からマジ?」

「マジ」

「体力底なしお化けかな」

「人のこと勝手に殺すんじゃねぇよ」

整えられていない前髪が、わたしの頬を滑る。
目を細めると、彼のまつ毛がわたしのまつ毛に重なった感触がした。

「ねえ、実弥ちゃん」

「あ……?」

「……雨、降ってる」

「そうだなァ」

「買い物、どーしよっか……」

「ん……別に、車で行けばいいだろォ」

口付けをしながら、他愛ない話を交わす。
吐息が口の端から零れて、握られた手に力が入った。
苦しくなって鼻から酸素を取り入れる。
どこからか雨の匂いがした気がした。

「ぁ……。朝ごはん、どうしよ」

「……お前、こんな時に飯の話かよ」

「だって、お腹空いた……んだもん、っ」

「……っは、そりゃ仕方ねェ……我慢、しろォ」

お互いの呼吸が乱れる。
こくりと喉を鳴らして唾液を飲み込むと、近くにあった顔がそっと離れる。
それから彼は、前髪をかき上げながら軽く自分の唇を舐めた。
その動作に、ずぐんと心臓の芯が跳ねる。

今まで見てきた姿の、どれにも当てはまらなくて
なんだかわたしの知らない人、みたいだ。

「実弥ちゃん……それ、ずるい……」

不意に出た途切れ途切れの言葉の隙間に
ニヤリと笑う彼がいた。


---


雨は相変わらず降り続いていて、止む気配がない。
ベランダでぼんやりと雨雲を見上げていると、中からわたしを呼ぶ声が聞こえた。

「飯出来たぞォ」

「ありがとー。今行く」

部屋に戻るより早く、彼がベランダにやってきた。
わたしの隣に並んで、同じように空を仰ぐ。

「今日何時から?」

「午後練だからもうちっと余裕ある」

「ふーん」

あまり一緒にいれなくて寂しいな、なんて甘ったるい言葉はわたし達には必要ない。
実際そんなこと思ってないし、思ったこともない。
よく分からないこの関係が、案外居心地よかったりしているから。
恋人という関係に縛られず、お互いの情欲をぶつけ合って発散するだけ。
ただ、それだけ。

いい加減室内に入ろうとした時、腕を引っ張られた。

「おい、冷えてんじゃねぇかァ」

「え」

言われてから、自分の身体が冷えてることに気付いた。

「えっほんとだ!寒っ」

「気付かなかったんかァ?阿呆だろ」

腕を掴まれたまま、ぐいぐいと室内に戻される。
こういうところは面倒見がいいと言うか、なんと言うか。
テーブルの上には湯気がたったうどんの器がふたつ、真ん中には七味やチューブの生姜がご丁寧に置かれていた。

「なんつーか、実弥ちゃんってオカンみたいだよね」

「あ?」

思ったことを素直に口にすると、複雑な表情で「性別変わってんだろォ」と返された。
椅子に座り、箸を持つ。
冷えている身体に染みそうだ。

「つーかそれ、今気付いた。俺が昨日着てたシャツじゃねぇかァ」

「え、ホント今更すぎてびっくりした」

「……俺もォ」

なんとも間抜けな返事に思わず笑う。
つられて目の前の男も笑った。

「今日暇だし、学校行って授業の準備でもしようかなあ」

「女バス、今日練習ねぇの?」

「うん。まるっとオフ。ってかこれ昨日言った」

「……そーいや昨日聞いたわ」

寝ぼけてんのかァ?と
普段の彼の真似をするように言う。
ジロリと睨まれた。

「いいからとっとと食えェ」

「はーい」

あんかけ風のそれを一口運んで、美味しいと伝える。
彼は湯気をふうと払い、何も言わずに啜り始めた。


---


授業中、配布予定のプリントを職員室に忘れたことに気がついたので
問題集を解いてもらってる間に取りに行くことにした。
その道すがら、彼が授業をしている教室の前を通る。

「──ここのπ+θの三角関数の傾きだが、y座標の符号に注目するとォ……」

黒板には綺麗な単位円と、ずらずら書かれているよく分からない公式達。
白いチョークを軽快に操りながら真剣に授業をする彼の視線には
同僚の先生なんてこれっぽっちも映っていない。
立ち止まることなく、でも、わざと靴音をたてて教室の横を通り過ぎた。

(あんな顔で授業してるんだ。実弥ちゃんが授業してるところ、初めて見たかも)


どれが本当のあなた?


刻まれていく、色々な表情。
いつかわたし以外の女の人が、それを見つめる時が来るのだろうか。
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アレンジ上手は初恋の味(キ学:数学教師 続きものっぽい)

「うーわ、めちゃ並んでるじゃん……」

「どーすんだよ、並ぶかァ?」

「うん並ぶ!だってそのためにここまで来たんだもんっ」

「まーなァ。ここで『ヤダ無理帰る』なんて言われたら、俺が折角の休日にここまで連れてきた意味がねェ」

「うっ……その件に関しては本当に申し訳なく」

「ったくよォ、俺がたまたま部活の引率もなくて一日休みだったからよかったものの、俺が空いてなかったらどーするつもりだったんだァ」

「コンビニのアイスを端から端まで爆買いしてた!」

「そんな姿、生徒に見られたらどーすんだァ」

「わたしの住んでるところは学区外だから大丈夫っ」

「とかいう奴が見つかるんだよなァ、伊黒みてーに」

「まじ!あちゃーっ、伊黒先生ついに見つかったかーっ」

「しかも甘露寺と一緒にいたらしいぜェ」

「ひえっ、マジか!?男と一緒にいるところなんて生徒に見られたら恥ずか死にする……」

「おい待てェ。それじゃあ俺はどうなんだァ」

「実弥ちゃんは男っていうよりツンデレだから問題なし!」

「よく分かんねぇぞその理屈」

「ってかーこんな遠いソフトクリーム屋までうちの生徒が来るかって話」

「また過信してやがる」

「修学旅行の下見だって言ったら全員騙されるでしょ」

「……お前、今日日の学生舐めんじゃねぇよ。お前みてぇに単純じゃねぇんだぞ。嘴平はともかく、胡蝶の妹とかソッコーで見抜くだろォ」

「ちょっと待って、わたしがポンコツだって言いたいの?」

「そう聞こえなかったんかァ?」

「はぁ!?心外っ!」

「冨岡の真似かよ?一ミリも似てねえし」

「それはそうと、胡蝶の妹さんは騙せないな!うむ!」

「それ煉獄の真似かよ?」

「よく分かったね、煉獄先生の真似だって……あっ!実弥ちゃん、見て見て季節限定のジェラートだって!」

「へーェ、ピスタチオ味とはまた美味そうなやつじゃねぇかァ」

「なーんかだるだる話してたらもうすぐじゃん!どうする!?わたしなんも決めてないっ」

「俺ァもう決めたけどな」

「へっ!?嘘でしょ、マジ!?やばいどうしよっ」

「なんでもいいだろォ。ここレビューで星4以上だし、どの味でもハズレはねぇって」

「ねえちょっと!ミルク味とバニラ味があるんですけど!?なにこれどう違うの!?」

「どっちも頼めばいいじゃねぇかァ」

「うえぇっ!?えっと待ってまじどうしよう」

「すみません、注文いいですか?まずカップの三重で小倉あん、ミルク、それからピスタチオでトッピングにアーモンドチップで」

「えっえっまじ!?まじで決まってたの!?えーっと、わたしは……」

「俺がミルクを頼んだから、お前はバニラ味を頼めばいいだろォ」

「うっうん!そうだ!実弥ちゃん頭いいじゃん!えーっとミルク味と……ストロベリーチーズケーキ味!はいっ、二重の、えっと……コーンで!……はいっ、大丈夫です!お願いしますっ」

「……お前、『ジェラート溶けて座席につけちゃった!』とか言うんじゃねぇぞォ」

「……言いそう」

「なーんで分かってんだったら大人しくカップにしねぇかなァ」

「だっ、だって!コーンだったら最後まで楽しめるし、そっちのがいいじゃんっ」

「ふはっ、どっかの菓子の売り文句じゃねぇんだから」

「くっ……何を言っても無駄な気がする……!勝てねえ……ちくしょう……って!あっ!ちょっと!?」

「後ろ詰まってんだろォ。一旦俺が払うから、あとでくれ」

「う……分かった」

「ありがとうございます」

「どもです!」

「……意外とでけぇな」

「やばい実弥ちゃん!もうすでに体温で溶け始めてる!」

「天気いいから外で食おうぜ。それだったら俺の車も汚されなくて済むわァ」

「あ、それ、ナイスアイデア」

「……うま」

「冷たくておいしー」

「ジェラートなんだから冷たくて当然だろ……って、マジで溶けかけてんじゃねぇかァ」

「ちょっ!なんで指まで舐めたの!?」

「あ?指につきそうだったんだよ」

「……変態」

「今のひと舐めで盛ってんじゃねェ」

「ばっかじゃないの!」

「いって!蹴るんじゃねぇよ!」


アレンジ上手は初恋の味


美味しそうに食べる彼の横顔に
不覚にもときめいてしまった
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