憂鬱、灰色の雲の下。

梅雨前線は寝転がり、しとしとと生温い水滴を落とし続けているらしい
週間天気予報は素っ気ない傘マークで埋め尽くされていた。いつまで経っても止まない雨、こころも滅入る。
それに加えて攘夷浪士の大量検挙や市内見回り、他惑星のお偉いさん方との会合など仕事がかさみ、なかなかあの人と逢うことが出来なかった。

一方通行の愛だけど、想うだけで満足だった   のに、こうも逢えない日が続くとなんだか、…なんだかなぁ。
逢いたい、なんて言える訳ない。だって向こうは俺のこと、なんとも思ってないんだから。
大気圏外 でも気付いて欲しくて、

気分は下降、宛てもない苛立ちを湿った空気に溶かした。






強くなる雨粒を見上げながら、はぁとため息をはく。
予報では今日は久々の梅雨晴れ、なんて言ってたのに。
まったく、なんだってこんな時に土砂降りになるんだか、と、すっかり外れてしまった天気予報を恨んだ(普段いい子にしてるんだけどなぁ)。

手持ちぶさた、雨宿り。
道行く人は色とりどりの傘をさして歩いている。その中に混じれずにひとりだけ、ぽつんと立ち尽くす。


「…あの、すいません」


不意に横から声をかけられ、どきりとした。
見ればエプロンをした男の人が申し訳無さそうにこっちを見ている。


「真選組の、局長さんですよね?」

『そうですが、何か?』

「あの…失礼ですが、この店に何か用でしょうか?」


え、と言葉が詰まる。
どうやら俺が雨宿りしていたこの場所は喫茶店だったらしい。
なるほど、そりゃ真選組の隊服を来た男が店の前で突っ立ってたらこの店の店員は不審に思うよなぁ、苦笑いしながらぽつりと納得した。


『ああすいません、いや、雨宿りしていただけなんで気にしないで下さい』

「あ、そうですか」


そう言ってその店員はひとつ礼をして店の中に戻っていった。
同時に見える、薄暗い店内
コーヒーを片手に談笑する女達、ゆっくり本を読んでいる老人、色々な客がいて。
その客の顔をひとりひとり確認するけど、やっぱりあの人はいない。

寂しさを隠すように鼻をすすりながら、もう一度空を仰いだ。


『あー…逢いたいなぁ…』


誰にともなくそう呟く。

不意にくちびるがこぼしたそのキモチは嘘じゃなくて、きっと目に見える確かなモノで、
何があっても揺るがないと思ってたそれに過信 してたのかな。


『(…弱いな、俺って)』


そう、俺はホントは誰よりも弱いんだ。
強がってても、ホントはずっとずっと逢えないのが怖くて、もしかしたらこのまま忘れ去られてしまうんじゃないかって、

積もり積もった色んな想いがこぼれ落ちそうになって、柄にもなく泣きそうになる。

あー、ダメだダメだ、しっかりしろ勲!情けねぇぞコノヤロー!
こんなんじゃあの人に嫌われ──、





「…あら、近藤さん?」



その、聞き慣れた声に俺の思考が一瞬停止した。
反射的に視線を戻すと淡い緑色の傘の下、想い人の姿。

雨音だけが響く。




『お、お妙…さ、ん……?』


俺が途切れ途切れにそう言うと目の前の女性は「何ですか、珍獣を発見したような顔になってますよ」と、微笑みながら返してきた。


「最近私の家に顔を出さないから、ようやくくたばったのかと思ってたのに」

『あ、いや  、…あの』

「…?どうしたんですか?」

『…え、あ、』


こんなに上手く喋れない俺を、俺は知らない。
心臓は壊れたように脈を打ち、頭の中は真っ白になっていく。動揺しているのかすらも分からなかった。

疑問符を浮かべながら、お妙さんは俺の方に近付いてきた。


「何かあったんですか?…難しい顔つきになってますけど」

『あ、いや、そーいう訳じゃないんです!』

「あら、そうですか。…ところで、こんな所で何やってるんですか?」

『いや、少々雨宿りを…』

「そう、てっきり待ち伏せされたのかと思ったんですけど、どうやら違うみたいで良かったわ」


ぱたぱた、と、お妙さんの持つ傘に雨粒が降って心地よい音を奏でる。
夢かうつつか、未だに区別のつかない狭間であなたはまた、笑った。


「なんだか久し振りに逢った気がしますね」

『そ…うですね、はい』

「これからまたお仕事ですか?」

『あ、はい、ちょっとターミナルまで…』

「良かったら入っていきますか?」

『…ええっ!!?』


勢いよく出た言葉に驚いた回りの人間が、一斉に俺達の方を見る。
戸惑って何を言おうか迷っていると、お妙さんは静かに口を開いた。


「私もターミナルに用事がありますし、最近攘夷浪士が暴れてるらしいじゃないですか
だから警護役、と言うことで」

『で、でも…』

「あら、女の子の申し出を断る気ですか?」

『そ、そんなこと!!』

「じゃあよろしくお願いします」


お妙さんの眩しすぎる笑顔に、嬉しいのか悲しいのか良く分かんない想いが沸き起こって、また泣きそうになる
ああ、どうやら俺はこの人抜きの世界から抜け出せそうにないらしい。




一秒でも長く傍にいて、愛する人




それほど、あなたのことがすきなんだ。



【初の近妙。
あり得ないくらい優しいお妙さんと、珍しくセンチメンタルな近藤。
近妙いいよ近妙(・∀・)