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その風をまちわびるC(kmt:風柱)

夏が立ち、恋人未満が夢心地。

そうねそうよねそうなのよ
だって新芽も成長期
隣のあの子に首ったけ
風に揺られてあわよくば
伸ばして触れたい ぬるい体温
指先からはじめませんか。


「か……風柱様!?」

なんだかんだでスタートしました、人生初の女中生活。
とは言えやること変化せず。
変わったことと言いますと、

「おー、早ぇな」

大きな屋根の下でふたり、なんとも奇妙な暮らしぶり
寝室が離れてるとは言え
男女が一組、色々しどもろどろにもなりまして。

(ね、寝起きの姿を見られた……!)

まさかこの屋敷の主と、こんな時間に鉢合わせしようとは。
日が出て間もない暗い朝、いつものように
2人分の朝餉(あさげ)の支度をしようと起きた直後、だったのだ。
そこに、いつもはいないお姿ひとつ。

「も、申し訳ございません。これから朝食の準備をしようと思っていたところでございまして!」

わたしの言葉に風柱様は気にすんな、とおっしゃって下さり、それから

「ちょっと眠れなくてよォ。朝メシの準備するならついでに湯も沸かしてくれねぇか」

困ったように手のひらで
首を擦りながら嘆かれた。

「あっ、はい!承知致しました」

そういえば滋養飲料とかなんとかで、今密かなブームになっているらしい?牛の乳を買ってきたんだっけ。
値が張る飲み物だ、きっと風柱様のお役に立てるだろう。
冷たいままだと寝起きの内臓がビックリするだろうから、ゆるく温めて持っていこう。
一礼し、足早に戦場へと向かう。

朝はまだ、はじまったばかり。


「ん……うめェ」

なんとか完成した朝ご飯。
風柱様の口からお褒めの言葉がこぼれ落ち
わたしはようやく安堵する。

「恐縮至極に存じます」

「いつもそんな畏まってて疲れねぇの?めんどくせぇ敬語なんざ使わなくていいと思うけどなァ」

「いえ、風柱様の前でそんな粗相、出来るはずもありません」

あっそォ、と炊きたてのご飯を一口、それから湯気のたつお吸い物一口。

「あっ、今日なんですけど、そろそろ夏物をお出しします。汚れやほつれなどあると思いますので手入れしようと思うのですが、お召し物に針を入れて大丈夫でしょうか」

「好きにしろォ。生地や糸が欲しかったら俺に言え。今日は出る用事もねぇから、部屋で本でも読んでらァ」

「承知致しました」

開け放たれた木の戸から
におやかな初夏の風
今日はいい天気になりそうだ。
洗濯のついでに布団も干そう。
外を見つめ、ぼんやりと考えた。


「……んふうぅ」

ちくちく、くるり。
夏物の手入れを初めてもう数時間。
小休憩しながら進めているけど、そろそろお腹がすいてきた。
ひと伸びし、立ち上がる。

(牛の乳の残りで、卵汁でも作ろう。風柱様はもう少しボリュームがあった方がいいかな……おにぎりの具…なんかあったっけ)

もそもそ考えながら台所への廊下を歩く。
途中、襖が開きっぱなしの書斎を覗くと
風柱様が陽光を手元の灯りにして本を読まれていた。
銀色の髪の毛がきらきらと輝いていて、長いまつ毛の影が目元に落ちている。
邪魔しないように、素早い足さばきで通り抜けた。

「さてと」

冷蔵箱の中にはいくつかの野菜や生鮮食品。
ついでに夜の準備もしてしまおうと思い立つ。
煮物がいいかな、焼き魚もいいかも。汁物はどうしよう。
そんなことを考えながらあれこれしていると背後に気配を感じた。
振り返ると、こちらを見ている風柱様。

「あ、お昼でしょうか。今から作りますので、半時程お待ちください」

「いや、昼は急がねぇんだけどよ。何作んのかなって」

「何かご要望ございますか?」

「特にィ。なんでも」

「出来上がった昼餉は書斎に運びましょうか?それとも居間で召し上がりますか?」

「居間の方が涼しいだろうから、居間の方がいいんじゃねぇの」

「そうですね、承知致しました」

作業に戻る。
切って、沸かして、入れ混ぜて。
掬って、握って、整えて。
それでも消えない、背後の気配。

「……あのぅ、風柱様」

まだ何かあるのだろうか。
びくびくしながら振り向くと、鋭い目付きがわたしをしっかり捉えていた。

「俺のことは気にすんなァ」

「あっ、いえっ、しかし……ずっと見られてると、どうにも落ち着かず」

「何か手伝えることあるか?」

「ひえっ!そんな、滅相もない!」

ぶんぶんと首を振るけれど、風柱様は土間用の履物に足をかけ、ずんずんとわたしの横にやってきた。

(あわわわわどうしようどうしよう)

硬直。
ふつふつと煮立つ白い液体と、少し冷めかけのご飯を交互に見つめ、「これを混ぜればいいかァ?」と鍋にかけてあったお玉をさっと手に取ってしまうから。
両手でおにぎりを握っていたわたしは為す術なく。

「大変申し訳ございません……わたしが至らないばかりに」

「なんもォ。俺がやりてぇだけだから謝る必要ねぇだろが」

恥ずかしさと情けなさと申し訳なさで、ぶわっと額に汗が集まる。
つう、と不快な移動を始めたので、邪魔になる前に手の甲で汗を拭き取った

ら。

「おい、米粒落ちるぞォ」

指先に触れる、ふにゃりとした感触。

「……」

「あ……」

ぶわっと、身体中に広がる柔らかな痺れ。
目をぱちぱちさせて風柱様を見ると、頬から耳まで真っ赤に染まっていた。

「わ、悪ィ……今の、忘れてくれェ……」


忘れることなんて出来ない!


(ああもう、どうすれば!)


一緒に生活することになった話の続き
この頃の生活様式が分からない…時代に合ってなかったらすいません!
多分一緒に生活するようになって隠(女)も、制服じゃなくて私服になってると思う

照れてるサネミチアかわいいねえ
ここからふたりどうなることやら】

その風をまちわびるB(kmt:風柱)

この右手じゃなにもかもが不便なんだよ
情けねぇことに小さな岩も持てやしねぇ


風柱様が戻ってきてからと言うもの
がらんどうだった戸棚にはいつも
かわいいおはぎが必ずひとつは眠るようになり
まるきり出番がなく暗闇でくつろいでいた布団を
敷いたり畳んだり片付けたりといった仕事が増えたり
ジャンケンのように悩ましい献立決め
床の間の隙間に捧げる生け花と
聞こえるくしゃみ、微かな微笑み

世界に始まりが訪れたよう


「では、風柱様。わたしはこれにて失礼致します」

「おー。ご苦労さん」


玄関で一礼し、帰る場所へ歩き始める。
頬を撫でる風が、いつの間にかあたたかくなっていた。

(そういえば)

帰路につきながら考える。

(風柱様が帰ってきてからもうしばらく経つし、わたしがあの屋敷に通う必要もないのでは)

思い返せば数年前
最終決戦を終え、療養中で不在の主に代わり
風柱邸を守って欲しいと言われ
風柱様が屋敷に戻ってきたかと思えば
今度は「旅に出てくる」と留守を任され
長年ひとりぼっちでいたけれど
屋敷の主が戻ってきたならば、わたしの存在は必要にあらず。
今度こそ職を失うことになるのでは。

それはいけない!
このままだとまずい!

現実、露呈。
道のど真ん中で変なステップを踏んでしまった。


「……という訳で、新しい仕事を探そうと思って」

相談相手は、同じ境遇の同期達。
隠としての仕事を共にし、隊が解散しても
大きな長屋を借り、身寄りのない、帰る場所がない者同士で寄りあって生きている。

「確かに、風柱様が戻ってきたんだったらアンタはいらないよね」

「そうなのー。暇を言い渡される前に転職しようと思って」

「そういえばあそこのデパート、店員募集してたよ」

「えっ!気になる!すれ違う人が鬼だって疑わなくていいから精神的に楽そう!……でも、今まで接客なんてやったことないからどうかなあ」

「蝶屋敷はどう?」

蝶屋敷とは所謂、総合病院みたいなもので。
今現在は規模を縮小して診療所として地域に根付いている。

「看護婦かあー。多分足引っ張るし……」

「あたし蝶屋敷の雑用やってるから、アオイさんに口添えしてみようか?」

「どんなことするの?」

聞けば掃除洗濯炊飯と、今やってる仕事とさほど変わらなさそうだった。
それなら今までの経験を生かせるし、うまくやっていけそうだ。
提案してくれた彼女にお願いしますと頭を下げた。


明くる日。
いつもの時刻にいつもの館におじゃまする。
玄関先でお名前をお呼びすると、ややあって寝起きの主がやってきた。
珍しい。

「おはようございます。本日もよろしくお願い致します」

「おォ、ご苦労さん。ちと手伝って欲しいことがあんだ。昨日の夜宇髄と冨岡が来てよォ」

「音柱様と水柱様がですか?」

「あー。ったく、アイツら片付けすらしていかねぇで帰りやがった」

チッ、と舌打ちが聞こえたけれど
顔はどことなく嬉しそうにほころんでいる。

「ふふ、では急ぎ片付けます。その間に茶菓子をご用意させていただきますが、なにかご所望のものがあれば」

「いや、それくらい自分でやるからいいわァ」

「いえ、わたしの仕事ですので」

わたしの言葉に風柱は何か言いたそうな雰囲気だったけど
悪ィな、と一言だけ呟いた。


宴会の片付けを終え、雑談をしながら縁側で和菓子をつつきあう。
(こんな光景、昔だったら考えられなかった)
あのかすていらの日からずっと、風柱様はわたしに菓子を分けてくれるようになったのだ。
隣でいただくのにはいつまで経っても慣れないけれど、全身がガタガタと震えることは少なくなった。

「どんな会話をされたんですか?」

「互いの近況報告ばっかりだァ。冨岡の野郎には縁談が舞い込んできたらしいぜ」

「水柱様にですか!それはいい知らせですね」

「宇髄も嫁とよろしくやってるみてぇだし、平和だなァって三人で馬鹿みてぇにしみじみしてよ」

話しながら風柱様がお盆の上から湯のみを持ち上げようとした、その時だった。
上手く指が湯のみに引っかからず、かたんと倒れ
お茶が転がり落ちるのを見た。
すかさず立ち上がる。

「風柱様!大丈夫ですか!?」

雑巾の代わりに、口元を隠していた布を剥ぎ取り零れたお茶を拭き取ろうとすると
風柱様に手首を掴まれ止められた。

「お前!素手で触んな、火傷するぞ!」

「大丈夫です!むしろ反応が遅く申し訳ございません」

空いていたもう片方の手で風柱様の静止を振り切り、拭き掃除を始める。

「チッ、情けねぇな……おい、雑巾持ってくるからもうそれで拭くんじゃねェ」

「いえ!わたしがやりますので、風柱様はそのままで結構でございます」

「そのままで、って……」

「新しい菓子もすぐご用意致しますっ」

新しい菓子の他に、飲み物も入れ直して
風柱様のお召し物も箪笥から出さないと
お風呂の準備をした方がいいのか?
火傷用の軟膏はどこにしまったか?
湯のみは割れていないだろうか
バケツと雑巾の他に何を使うか

早急にすべきこと、後回しでもいいことが脳内でぶわっと広がり、猛スピードて整頓されていく。
だから、風柱様の表情なんて
これっぽっちも、見る余裕なんてなかった。


一通りやることを終え、改めて風柱様に謝罪する。

「申し訳ございません!」

「なんでテメェが謝るんだよ」

どう見ても悪いのは俺だろうが。
眉間に皺を寄せながら風柱様が言う。

「いえ、わたしがもう少し早く気付いていれば、湯のみが倒れる前に手を添えられたかと」

「んなの、咄嗟に手なんて出る訳ねぇだろ」

「いえ……そうでなくとも、火傷の可能性がある温かい飲み物をお出しするべきではありませんでした」

「それも考えすぎだろ……まあ、ありがとなァ。顔上げろォ」

「はい……」

おそるおそる顔を上げると、悲しそうな顔で失った二本の指を見つめていた。

「この右手じゃなにもかもが不便なんだよ。
情けねぇことに小さな岩も持てやしねぇ」

「ご心労お察し申し上げます」

「嫌になっちまうよなァ。出来てたことが出来なくなるなんて考えたこともねぇし。まあでも、なんとかやってくしかないんだよな」

「……そう、ですね」

「……悪ぃ、泣き言言っちまった」

「いえ、わたしでよければいつでもお聞きします」

「おい」

「はい」

「テメェ、ここに住み込みで働け」

「はい……えっ」

沈黙。

「あ、あの。住み込みで働けとは」

「額面通りだろうが。俺はこんな状態だし、箒一本包丁すら持つことすらままならねぇ。なんかあった時、誰かが傍にいてくれりゃあ助かるんだわ。テメェだったらここの屋敷の勝手も知ってるだろ」

「あの、住み込みで働けとは?」

「はァ?俺の話、聞いてなかったのかよ」

どうやらわたしの耳と脳がおかしくなってしまったらしい。
誰が?住み込みで?ここで働くの?風柱様?
キョロキョロと辺りを見渡し、もう一度風柱様を見つめる。
薄い唇からはあ、とため息がこぼれた。

「金は出す。家賃や飯代なんかもいらねぇから、住み込みで働け」


新生活のはじまり


(……ええぇっ!?!?わたしが!?わたしがですか!?)

(そうだって言ってんだろ!他に誰がいるんだよ)

風柱が帰ってきた話の続き。
今更ながら最終決戦後の話()
サネミチアのコロコロ変わる表情をもっと書いていきたいー!もっと笑って欲しい!笑

隠の人達って最終決戦が終わったあとどんな仕事についてたんだろう
夢主ほんとできる女】

その風をまちわびるA(kmt:風柱)

蟲出しの雷と乾麺のように突き刺さる雨、口ずさむメロディー

ひとりぼっちの広い空間で
誰もいないと油断していた、から。

「久々だなァ」

「ぎゃあ!」

背後から野太い声をかけられ、思わず飛び上がった。
慌てて振り返ると、あの日別れたままの風柱様。

「あっあっ、風柱様!?」

弛緩していた体勢を光の速さで整え
ついでに脳のネジも急いで巻く。
乾拭きしたばかりの畳に額を擦り付けて
帰ってきたばかりの御方に挨拶をした。

「た、大変申し訳ございません!お帰りになっていたのですね!風柱様に気付かず申し訳ございませんっ」

「あーいい、楽にしろォ」

そうおっしゃってくださり、さらに「しかし俺が出た時となんも変わんねェなァ。屋敷を守ってくれてありがとよ」と言う、なんとも勿体ないお言葉がはらはらと降ってきた。

「と、と、とんでもない!そ、そのようなお言葉、本当に身に余る光栄でございます。ええとあの、」

「だから楽にしろって言ってんだろがァ」

「ひっ!」

布が擦れる音、風柱様が屈んでくださったのだと見ずとも分かる。
顔を上げ、はたと目が合う。
それ以上畏まると殺すぞ、と見開かれた目で脅された(気がした)

「ったく、おい、土産買ってきたんだ。一緒に食うぞォ」

すっと立ち上がると、左手に持っていた風呂敷を差し出された。

「土産……ですか」

「美味そうな洋菓子でよォ、流行りモンらしいぜ。食い方は……よく分かんねェけど」

「あっ、はい!ただ今飲み物と一緒に準備致しますっ」

絹の風呂敷が、優しく手のひらに触れた。
手触りが滑らかすぎて落としそうになる。

「でっ、ではっ!…あっ、ただ今座布団をお持ちします!」

「いらねェよ。いいから、俺のことは気にすんなァ」

「あっ、はひっ!?し、承知しましたぁ!」

両手に風呂敷を抱えながら、急いで台所へと走る。
息付く間もなく湯を沸かし、その間に風呂敷を開く。
結び目なんてかなったかのようにするりと解け、中から出てきたのは黄色くて(上は茶色かった)四角くて柔らかな何かだった。

「こ、これは……!?」

見たことのない食べ物に後ずさりする。
どどんと鎮座するそのお姿に戦々恐々。

「い、一体どうすれば!」

そのまま食べるのか否かで迷い
何の飲み物を出すかでまた迷う。
未知の領域、初体験。
とりあえず研ぎたての包丁を取り出し、さくりと一刀入れると
それはあっさりと縦に切れた。

「ひええ」

切れ端は力なくぱたりと包み紙の上に倒れる。
薄く切りすぎたのだろうか、いやこれが正しい姿なのか?
わたしの疑問をよそに、菓子の甘い香りが鼻をくすぐる。

(よく分からないけど高そうだし、薄く切って黒文字をつければなんとかなりそう)

何切れか用意し、抹茶を用意する。
ひっくり返さないようにそうっと運んでいると、居間の縁側に座っていらっしゃる風柱様を発見した。

「風柱様、お休みのところ失礼致します。いただいた洋菓子の準備が整いました」

驚かせないように遠くから声をかける。
風柱様は顔だけこちらに向け、「ありがとなァ」と笑った。

「こちらでございます」

「おォ……んん?」

浮かぶ疑問符。
同時に未だ降る雨音をかき消すくらいの声量が、わたしの喉から生まれた。

「も、もしかしてこの菓子の切り方に間違いや不備がございましたか!!?」

ああなんたる不覚!
これでは風柱様の面目が丸潰れ、しかし既に手遅れ、あれそれ考えとにかく頭を垂れ。
ところが次の瞬間、

「いや、俺の分しかねェだろォ」

なんておっしゃるものだから。

「…へ?」

今度は雨音にかき消されるくらいの、間抜けな声が出た。

「一緒に食うぞォ。テメェの分も持って来い」


かすていら、うわのそら。


(き、緊張で味が分からない!)


サネミチアが旅に出た話のつづき。

色々考えたんだけど、続き物にしてはっぴーえんどにしようかなって!笑
隠(女)→多分10代後半。
サネミチアにおはぎじゃない食べ物を食べさせたかっただけ】

その風をまちわびる(kmt:風柱)

ほら、風見鶏から春の音。

利き手の指を失い、上手く字が書けない貴方から届く生存報告
時候の挨拶、近況報告の代わりに
紙のすみっこで息を潜めるいくつかの絵
その正体がわかったり、わからなかったりするから
その度にわたしをうれしくさせたり、じりじりさせる。


「ちょっくら旅に出てくらァ」

旅に行く。
少し前まで
夜の中で生きてきた彼には出来ないことで
彼のことを近くで見守っていたわたしは
いいじゃないですか!館のことはわたしにお任せください!
と、鼻息荒く送り出した。

限られた命で
彼がそうしたいと言うのなら
どうして引き止めることが出来ようか。

主のいない館を今日も掃除する。
隅から隅まで、きっちりと。
縁側、寝室、水周り、玄関、なんなら敷地外の道路まで。
一通りやりきって、ふう。と一息ついた。
達成感に空を仰いでいると、門のところに人の気配。
駆け寄ると、大きな鞄を持った男の人が立っていた。

「こんにちはー。郵便です」

「あっ、はい。」

「えーと……不死川実弥様からの手紙が一通ですね」

渡された封筒には、“不死川実弥”と確かに書いてあった。
この屋敷の主が、この屋敷宛に手紙を寄越しているのには
少しばかり理由がある。


忘れられない一戦。
朝日が昇り、永き戦いに幕が降り、わたしの役目もすっぱり終わり。
だと思った、のに。
すごくすごく、ものすごく偉い御方から(すごすぎて名前を口に出すのも憚られる)

「実弥が意識を取り戻すまで、彼の館の手入れをお願いしたいんだ」

と、直々にお願いされ
思考回路機能停止
身体機能複雑骨折

それでも
答えもこころも決まってた。
柱として支えてくれた人を
今度はわたしが支える番だ。


館の主がここに戻ってきたのは、あの決戦から数ヶ月後
何事も無かったかのように、ひょこっと現れたから
わたしの心臓がぴょんと跳ねて、箒が手から滑り落ちた。

「かっ、風柱様!?ご容態はもうよろしいので……!?」

「あァ、世話かけたな。ありがとよォ」

床に横たわっている箒を手に取り、わたしにぽんと渡してくれた。
見たことないような笑顔で。

「あ!?、いえっ…そんな……身に余るお言葉……!」

人間、色んなことが一気に起こると身体のあちこちがガタガタ震える
というのを
生まれて初めて知った。

「俺が不在の間、お前がこの屋敷を手入れしてくれたんだってなァ」

「ひあっ!?あっ、はいっ!何か至らぬ点がありましたか!?」

「いや……」

風柱様の言葉が途切れ
あっそうか。と、脳が急に冷静さを取り戻した。
館の主が戻ってきたから
わたしはお役御免、暇を出され、つまりは無職。
ここにいる意味などないのだ。

「ちょっと頼みてェことがある」

「はい。わたしでよければ、なんなりと」


---


「……時が経つの、早くない?」

どこからか届いた風柱様の手紙
封筒に書かれたぎこちない氏名
東風がするりと墨の上をなぞり
早く開けてとせがんでいるよう

掃除用具を片付け、陽の当たる縁側で開封の儀。
ぱらりと出てきたのは、一枚の絵葉書と小さめの便箋。
便箋には、いつものように絵がいくつか描かれていた。

「……ふふっ」

こぼれたのは、笑顔。


もうすぐ春ですね


(元気なら、それで。)


【超☆久々更新
推しがいると筆が走る!笑
サネミチアかわいいねえ
屋敷にいるのは隠(女)
月一とかで手紙よこすサネミチアかわいいねえ
夢小説はいいぞお
ゆめみていこ】
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