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オリジナル短編

シリーズものの一遍。最初の最初。
テスト投稿。
続き書く予定はありませんが、お声がありましたら書くかもしれません。


『平探偵事務所の怪異 ―蠱毒―』

 昔、蟷螂の玉子を拾った。
 缶の中に『宝物』としてまったが、直ぐに忘れてしまった。
 ふとある日、『宝物』の存在に気付いて缶を開けたら、
 そこには――――。




 麗らかな春の日差しが、この『平探偵事務所』に入って来る。大通りより少し離れた横路にあるテナントビルの二階に、私は事務所を開いていた。
 一階は不動産会社で、三階は私の自宅がある。年季の入ったくたびれたビルだが、親から譲り受けた大切な物件。
 そこで私は今日も雑務に追われ、書類に占拠された机で頭を抱えているのだった。
 その殆どが前回や前々回で使った仕事の資料。デジタル処理が定番が、この時代。どうにもデータ資料の管理能力と言う物が信用出来ず、未だにアナログにファイリングしている。
 お陰でこの紙の山と、面倒臭い整理。本棚を圧迫する資料達と言う訳だ。
 パソコン導入も考えなければならないが、私はやっぱりデータ媒体は信用出来ない。まだ二十代であるが、他の同年代の様に時代の波には乗れていない。携帯電話も満足に扱えないのだから。
 それにしても。と、私はちらりと応接間の方に目をやる。
 古く少し汚れた臙脂色の長椅子からはみ出ている、少年特有の筋肉のついて居ない、白く細い足。その足は靴下と焦げ茶色いローファーに包まれ、守られていた。
 建物の中だと言うのに、薄茶色いキャスケット帽を被った少年が、接客様の長椅子に寝転がっている。
 この探偵事務所の助手である。

「鬼道丸君、鬼道丸君」

 名前を読んでも微動だにしない。表情までここから確認出来ないが、寝ているのだろうか。

「ねえ、鬼道丸く…」

「その名前。嫌いなんで呼ぶの止めてくれます?ご主人様からコニーちゃんでお願いします」

 発せられたのは、子供らしからぬ氷の様に冷えきった声音。変声期前の少年のその口調は、敬語ではあるが敬う気は全く感じられなかった。
 あと冗談だか本気だか、微妙に解りにくい事を言うのは止めて欲しい。何時だって彼は上から目線で私は抗えないのだ。
 元服も行かぬ見た目の少年相手に、何も言い返せず何も出来ない自分の弱さを恨みつつ、私はめげずに口を開く。

「この資料整理手伝ってくれるかな。処理が大変で、大変で…」

「好きでやってるんだと思ってました。探偵さんMだから。面倒な事、大好きでしょう?」

 起き上がり私を見る目は実に冷えきっていた。どこからどこまで無愛想で、見た目だけは愛らしい少年である。が、同年代の少年らしさは全くと言って良い程、感じられない。

「いや!確かにアナログ作業を愛して止まないけど、私は断じてMでは無いよ!!パソコンが苦手なだけだよ!!」

「まあ、どっちにしろ好きでやってる仕事でしょう。頑張って下さい」

 そう言って鬼道丸君はもう一度、長椅子の上に寝そべった。私を省みもしない。
 そもそも君は一応『助手』だろう!その地位に居るのなら、私の手助けをしてくれたって良い筈だ。
 助手と云う字を辞書でひかせてやろうと思い、私は溜息を吐く。舌戦では彼に勝てない。
 彼は本気で私を奴隷か何かだと思っているのだろうか。そしてこんな子供を側に置いている自分の人の良さ、というか愚かさには呆れる。

 と、ピンポンと云うテンプレートな音をした、事務所のインターフォンが鳴る音が響く。私の仕事は終わってないが、どうやら新しい仕事が舞い込んできたらしい。
 これで飯を食っていると、解っているが思わず深い溜息を吐く。
 再度ソファーから起き上がった鬼道丸君が、私を見て「仕事ですよ」と、口の端を吊り上げながら言った。
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