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解釈の違いによって解答は違う

―――…珍しくエクソシスト達の休みが重なった日の夜。アレンとラビは食い入るようにテレビの液晶画面を見つめていた。
テレビからはおどろおどろしい音楽が流れてくる。

『まじめにあった怖い話!次回もまたお楽しみに!!』

ナレーターがそういった瞬間に、アレンとラビは同時にどっと息を吐いた。
その後ろでアリアとリナリーは苦笑。
巻き込まれたリンクと神田は呆れ顔でアレンとラビを見ていた。

「まったく…こんなのを見て何が楽しいというんです?」
「そんなに怖いなら見なきゃいいだろうが…」
「こっ、こここここ怖くなんかナイデスヨ!?」
「そっ、そうさ!!こっ、こここここんな子供だまし、怖くもなんともねーさ!!」

明らかに挙動不審だったが、彼らのプライドのために、誰も突っ込まないであげた。

「まあ、でも怖いもの見たさっていうのは誰しもありますよねぇ…」
「うん。夏になるとついつい見たくなっちゃうよね。ホラー番組特集とかホラー映画とか」
「でも、姉さん全然怖がりませんよね?幽霊とかお化けとか」

アレンが幼少の頃、真夜中に怖くて一人でトイレに行けない時も、アリアは嫌がりもせずに一緒に来てくれた。
怪談話などを聞いても「まあ、そんなことがあったんですか。大変でしたねぇ…」と、世間話と何ら変わりない返答をするぐらいだ。

「そう言えば、今の番組見ててもアリア全然動じてなかったね。私は何度か声あげちゃったけど」

隣にいたリナリーは、番組中のアリアを思い出し、呟いた。
ちなみに言うまでもなく、アレンとラビは幽霊が登場するたびに悲鳴を上げていた。

「神田が全然動じないのはいつものこととして…」
「オイ、どういう意味だリナ」
「だってそうじゃない。アリアが怖い話全く平気っていうのは少し意外だったかな…」
「生きている人間の方がよっぽど怖いです」

アリアはさらりと言ってのけた。

「幽霊さんはせいぜい真夜中に音鳴らしたり、徘徊するぐらいのもんでしょう。それなら山中で人食い狼の群れに出くわして、ナイフ一本で応戦する方がよっぽど怖いです」

ちなみにこれは、アリアの修業時代に本当にあった怖い話である。
ラビは口元を若干引きつらせながら、アリアに尋ねた。

「で、でも…幽霊とかは物理攻撃きかねぇじゃん?そういうのでは怖くないんさ…?」
「そうですねぇ…吸血鬼やゾンビならともかく幽霊さんは実体ないですしねぇ…でも、それなら、私に直接物理攻撃することも出来ないと思うので、やっぱり狼の方が怖いです。噛まれたら痛いですし」

理屈を逆手にとって返してきたアリアに、ラビはそれ以上何も言えなかった。
ダメだこの子。幽霊とか全然怖がってない。

「それに私…先生の処に居た時、ある程度の応急処置や医学知識を学ぶために一時期、研修医としてある病院に潜り込んだことあったんですけど、幽霊なんて一人も見かけませんでしたよ?」

待って、それよりも色々と尋ねたいことがあるんだけど。
病院…?潜り…?えっ、それって違法だよね?
その場にいた全員が幽霊よりもそちらに興味を持っていたが、アリアは気付かずに話し続けた。

「もう、どの病室にも必ず一人は問題のある患者さんがいて大変でしたよ〜。胃の検査するから食事しないでください、って言ったのに、隠れてクッキー食べてしまう人とか、薬が苦いからって、飲んだふりをして捨ててしまう人とか、全然お医者さんの言うこと聞いてくれないんですよー…」
「……それだけ医者や看護婦の苦労がわかっていて、なぜあなたは毎度病室を抜け出すんです?」

リンクの批難する目から、アリアはさっと目をそらして、その質問を聞かなかったことにした。

「えー…あっ、そうそう。とくに驚いたことが一つありまして。ある日の真夜中、ロビーの長椅子に杖を持ったおじいさんが一人座っていて「寝付けないんですか?」って声をかけたら小さく肯いて「寒いし薄暗くて嫌なんじゃ」って言うんです。古い病院でしたから、仕方ないと思って、少し世間話などをしておじいさんがベッドに戻ってくれるよう気をまぎらわせました。
三十分ほどたって、満足したのか、おじいさんは「そろそろ戻るよ。付き合ってくれてありがとう」そう言って、私の手のひらに、よく町で目にするお菓子屋さんのマフィンを一つ、乗せて帰って行きました。
親切な人だなー…と、その時は思ったんですが、朝が明けてみてびっくり。私が貰ったマフィン…実は、霊安室にお供えしていたものの一つだったんです。亡くなった方がそのお店のマフィンが大好物だったとかで、家族が遺体の側に置いていたらしいんですけど、私にマフィンをくれたおじいさん、どうもそこから盗んできたみたいなんですよ。
……霊安室は旧棟にあって、鍵がかかってて医師や看護婦しか入れないようにしていたんですけどねぇ…。…どうやって入ったんだか…。おそらく医師や看護婦が開けっ放しにした隙に入りこんだんでしょうけど。もう、私はマフィンを食べちゃっていて、他の医師や看護師にばれたらどうしよう、と肝を冷やしましたよ…。
そのあと、おじいさんに注意をしないとと思って探したんですけど、見つからなくって…たぶん、私が探しているのと入れ違いに退院しちゃったんでしょうねぇ。
確かにマフィンは美味しかったですけど「人のものを盗んじゃだめですよ」と注意できないのが心残りでした」
「「……………………………」」

そこにいた全員が、そのマフィンをくれたおじいさんの正体に気づいていた。
……それをにこにこと終始微笑みながら話したアリア以外は。

「ね?生きている人間の方が色々トラブル起こしてくれて大変だし、怖いでしょう?」
「お前の無神経さの方がよっぽど怖いわ」
「なっ!ユ、ユウに無神経とか一番言われたくありません!!って、こら!待ちなさい!ユウ!!」

捨て台詞を残して去っていく神田を追いかけていくアリアを見送り、アレン、ラビ、リナリーの三人は蒼白になって顔を見合わせた。

「……姉さんが幽霊を全然怖がらない理由がよくわかりました…」
「ええ。あれじゃあ、どんな幽霊が来たって怖くないはずだわ」
「あぁぁぁあああ…!鳥肌がさっきからとまんねぇ…!!俺、風呂入りなおしてくるさ」
「あっ、僕も!なんか変な汗かいちゃったし…」
「わ、私は温かい紅茶飲みなおしてから寝るわ」

それを見ていたリンクは、ホラー番組を見てから今まで、心の中で何度も疑問に思ったことを、再度呟いた。

(あなた達…普段からアクマ(化け物)退治しているエクソシストなのに、なんで幽霊を怖がるんですか…?)

おそらくその疑問に答えられるものは、誰もいないだろう。


解釈の違いによって解答は違う


+++++++++

アリアは優人ほどではないですが、そこそこ霊感があります。
でも、本人がそれが幽霊と気付かないため、大抵今回みたいな解釈をされて終わります。
他にもアリアはこの病院で結構な心霊体験をしているんですけれど、それを心霊現象と思っていません。
ホルマリン漬けにされたばかりの心臓がビクビク動いても
(魚だって頭切り落としても活きのいいのは動きますし、切られたばかりなら人間の心臓だって動くこともあるんでしょうね…。人間の生命力も大したものですねぇ)

…で片付けました。彼女は。
それが死後24時間経過した遺体だとも知らずに。

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