月と金木犀

窓から冷気とともに入り込む金木犀の香りで目が覚めた。昨晩からひっそりとどこからともなく香るようになった。
白露を過ぎて月も白く美しい。虹色のかさも連日とても大きい。9月の夜の楽しみである。冬も空気が澄んで綺麗に見えるけれど、どことなく遠く小さくなってしまうので、その美しさを存分に堪能できる今の時期が月のベストシーズンだと僕は思っている。

風呂とマッサージ

ぬるま湯に浸かってぼうっとしていたら榊がうたた寝から目を覚ました気配。風呂に入らないって言ってたけど、「いい?」 と言って入ってきた。
かけ湯をしようとするから「ぬるいからね」と添える。「あぁ、それくらいがいい」目尻に少しだけ寝起き独特のたるみが残っていた。
貧血と、夕立のせいなのか僕は夕の入りにスケッチしながら寝落ちてしまって、榊は早めの夕飯の後寝落ちた。外はまだ雨が降り続いている。湿気が多く蒸していた。風呂やトイレの方が涼しくカラッとしてるかもしれないくらい。
「もう出るところだった?」
狭いバスタブでは向かい合わせに脚を行き来させて入る。胸の上までぬるま湯に覆われてたちまち眠くなる。
「いや、」マッサージしたり歯磨きしたり、頭の中整理したりしてこれからちょうど洗うところだった。
腰を深く落として肩まで潜りながら歯を磨く榊の脚を揉みほぐす。大して歩いてないのに張ったから、榊も同じだろうと思って。
「うわぁ…風呂出たくなくなる。それ」
手持ち無沙汰だし、手そのものもリフレッシュしたかったし、僕の体の方が下で出られない。なにより、今日に限らず風呂に限らず、体が僕の前に投げ出されていると慣習でついそうする。
体を重ねない僕らにはこれがコミュニケーション。とんだ老フーフ。
「ずっと入ってたいわぁー」
そうだね。温度もこの容器もちょうど良すぎて水も肌も互いの輪郭線も分からなくなってスライムみたいになれそうだね。
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