初物〜焼き栗

先日。仕事帰りに、頼まれた買い物をしていて、栗を見つけた。
手頃な量で手頃な値段(見切り品だった。どこをどう見切られたのかは謎だけど)。
特別な調理法は知らないけれど(榊も、穀物類がさほど好きじゃないのでたぶん知らない)、
湯がいただけでも美味しいだろうと思って籠に入れた。
なんせ初物(見切り品だけどね)。

昨日。夕飯を軽くに済ませたら、やはり少し物足りなかったらしい榊が「少し栗を貸して」とおかしなことを言った。
(もちろん貸すどころかあげたけど)

携帯と手元に視線を往復させながら栗を処理して、グリルに並べてそっとしまう。
タイマー、6分。アラームが鳴ったら、ひっくり返してまた6分。
ぼこん! と1度だけ恐ろしい音もしたけれど、なんだかいい予感。

「焼き栗。ヨーロッパで食べてめちゃくちゃ美味かったから、家でもやってみたかったんだ。」

焦げた皮の、ぱっくりと割れたところから眩しいほどの黄色が覗いてる。見た目からして美味しそうだった。そして美味しかった。
榊も本当に「焼き」なら好きみたいで、「初物☆」と笑みをこぼしながら食べていた。

いつか僕も本場の焼き栗を食べたい。榊と、ヨーロッパの街を歩きながら。

ブーローニュの森でスケートを

カレンダーの図版をパネルに仕立てた。

ルノワールの冬の絵。

額はつけなかった。本音は面倒だったから。でも結果それでよかった。
絵が閉じ込められることなく、外界と接して、あわよくば侵食しようとして。
その活性と存在感が僕をわくわくさせる。

「ねぇ、見て。」

僕は榊に何か言って欲しくて、甘えた。

「ん? あれ? どうしたの?(笑)」

榊も、気づいて、なんだか可笑しそうにしていた。

「気に入ってたカレンダーの絵をね、パネルにして飾ったんだ。
嫌だった?
鴨居にのせてるだけだから、すぐはずせるよ」

「いや、いいよ。」「お前が、してもいい? て聞かずにやるなんて珍しいね」

あぁ確かに!

アイスとガラナコーク

「仕事終わって帰るよ」とメッセージを送ったら、榊からアイスのアイコンだけ送られてきた。

「買ってあげる」
約束して帰った。

家までの途中のコンビニで待ち合わせして、榊のアイスと、僕のスイーツをあさった。

僕のスイーツがなかなか決まらなくて、榊は陳列棚の間を縫うように散策し、時間を潰していた。

飲み物用の冷蔵庫の前、僕のいるスイーツコーナーのそばまで戻って来たところで
「あ、コレにする。前から飲みたかったヤツ」
とガラナコークを取り出していた。

鮎川は?
と聞かれて
あんまん、と僕は答えた。

煮物

予定外の長残業になり、会社を出るなり榊に電話して謝った。
「おそかったねぇ〜」という、ヘラヘラ声が返ってきた。いい意味で脱力した。
最寄り駅につくまでの間、夕飯はなにするか、と話した。

榊、煮物を作ったらしい。
大根とオイルサーディンの、煮物。
それが、想像する通りに、美味しいらしい。

「大根はちょっと青臭いけどね、ふふっ」

電話の向こうで、思い出したように榊が吐息で笑った。

可愛かった。

青臭いことを、哀しんだり怒ったりせず、笑えるなんていいことだと思った。
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