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もしも【シンデレラver】
―――…ユウはたまに、花を見る。
野や、道端に生えたちっぽけな花をただ、じっと見ている。
何も語らぬまま、ただじっと、ずっと…―――
「好きなんですか?花」
ある日、アリアがついに思い切って尋ると、驚かれた。
普段あまり動揺や焦燥などを表情に出そうとしない神田からしたら、大げさなくらいに。
「……何でそう思う」
「いえ…たまに、じっと花を見つめている時があったので…花が好きなのかと…」
神田はどこか安堵したような、それでいてどこか苛立っているような声音で返した。
「……嫌でも目に入ってくるだけだ」
「そうですか……まあ、教団の周りは自然が豊かですしねぇ」
今二人がこうして会話する森の入り口だけでも、簡単に草花は見つけられる。
確かに嫌でも目に入ってくるというのは納得できるが、それをただじっと見つめているとなると、少なからず思い入れがあるようにアリアは思えてならなかった。
「私は好きですよ?。バラとかヒマワリよりは、こういう小道にぽつんと咲いてる小花の方が可愛くて好きですけど」
「お前は花よりも薬草とかの知識の方が遥かにあるだろ」
「その知識に毎回ご厄介になってるのは何処の誰ですか」
「知るか。放っておけば治るつってんのに、わざわざ治療してるのはお前だろ」
「少しでも治りが早い方が体に負担が掛らなくて楽だと毎回説明しているのがまだわからないんですか」
舌打ちをついて神田はそっぽを向く。
これ以上反駁すれば、どんどん自分が不利になっていくのは目に見えているので、とりあえずこの話題はここでブッた切っておいた。
「そういえば…一度、変わった花の種を先生に見せてもらった事がありました。確か……レンゲ…蓮華の花」
脈が不自然に跳ねた。
「水面に花を咲かせるんですよ、その花。不思議ですよね。水中の泥に植えて水面に顔を出すんですよ?まるで…泥の中から光を求めるように…」
「うるせぇ」
低く、怒りをはらんだ声にアリアは弾かれたように顔を上げた。
大きく見開いた銀灰色の瞳には、怒りと不安に揺れる彼が映った。
「俺は別に花なんかに興味はねぇ。この話はこれで終わりだ」
「っ、ユウ!?」
そのまま神田は建物の中へと消えていった。
一人その場に取り残されたアリア。その後ろ姿を見送りながら、こうささやいた。
「……不器用な人ね」
あんな顔するくらいなら、素直に打ち明けてくださいよ、ユウ…。
―――…昔は、ただ目障りに視界に咲く花だとしか思わなかったのに…
今では、その花がたまに怖くなる。
たとえばそれは、戦場でアイツが戦いつかれて倒れた時、
たとえばそれは、穏やかに眠るアイツの顔を見た時、
その周り一面に咲くあの薄紅色の花がゾッとするほど恐ろしくなる。
横たわるアイツの周り一面に咲く花。
それはまるで―――
弔い花のように
(美しく、そして恐ろしい)
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