好きです付き合ってくださいと屋上に女子の声が響いた。私は貯水タンク近くで昼御飯を食べていたのだついうっかり箸が止まってしまった。恐る恐る顔を出すと噂の権現さまと知らない女子がいた。困ったように頭をかく権現さま、ふと視線がこちらを向いて驚いたように目を丸くするのが見えてしまった。しまった、目が合ってしまった!と慌てて身体を持ち直せば、女子のひどい!という悲鳴じみた声にバタンッと扉が閉まる音。振ったのかとまた顔を出せばすぐそこに権現さまがいた。吃驚して悲鳴を上げそうになったではないか。「覗き見とはいい趣味をしているな」「そちらこそ、私の憩いの場をよくも」「仕方ないだろう、屋上が指定だったのだから」「普通、裏庭だよねー」病弱で滅多に学校に来られない私を知っていた権現さまに吃驚したが外でご飯を食べるなんて感心しないなと言われた。「友達なんていないから」「では、ワシが友になろう」「あ、そういうのいらない。どうせまた入院しちゃうし今日はたまたま学校に来られただけだから」「そうやって突っぱねることはないぞ、ワシはおまえを知っているからな」「私は、貴方を知らない」私は、私のために小さ
な嘘をついた。本当は名前を知っていて、隣のクラスだってことも知っている。権現さまってのは私の中でのあだ名できちんと徳川くんだってことも知っている。でも、怖くて嘘をついたのだ。「徳川家康だ」「うん」「名を知っただろう?友になってはくれないか?」「私なんかでよければ」「ありがとう、まずは感謝を。」「でも、次はいつ来られるか分からないよ」「来ることができたらまた昼にこの場所で会わないか?雨が降ったら図書室で構わない」「うん」「約束だからな」

それっきり、卒業するまでに手術をしたりと忙しく私が学校に行ける日はなかった。卒業式には車椅子で出席して徳川くんは酷く驚いていた。「ようやく会えたな」「ふふ、私を知っているのは徳川くんぐらいだよ」「いいじゃないか、卒業おめでとう」「徳川くんもね、高校でも宜しくね」高校生になった七月、ようやく筋力を取り戻し普通の生活に戻ることができたのだ。「またここにいたのか」「私の憩いの場ですからねー、校舎が変わってもここから見える景色は変わらないなぁって」「ワシも一緒にいいか?」「光合成したくなったらいつでもどうぞ。歓迎するよ」「いや、そうではなくて」「?」「おまえと同じ景色をみたいんだ」「は?」「特別な絆で結ばれたい」「徳川くんは随分見ないうちにロマンチストになったんだね」「わ、笑うなよ」「私ね、徳川くんが唯一の友達だからその枠を超えるのってイマイチ理解できないの、だから」惚れさせてよと言えば徳川くんは顔を赤くして見ていろと笑った。