徳川くんが隣にいる。日誌を書いている私の隣で頬杖をついてなにやら楽しそうにしていた。先に帰っていてと言ったのに彼は日誌を届けるまでが日直だと言って離れようとしなかった。シャーペンを滑らせる手が震えるのを叱咤しながら早く終わらせたいと必死だった。「終わった!徳川くんは先に帰っていて」「一緒に行こう、片倉先生は部活だろうから」「あの、徳川くんもジムに遅れちゃうよ?」「構わない、駅まで送る」「えっ?」「迷惑か?」「まさか、そんな」優しい徳川くんは私を女子と認めてくれているのだろう、大丈夫だよと言っても聞いてくれなかった。私を襲うような人はいないよと言ったら世の中には女子なら誰でもいい奴もいるんだぞと叱られた。あ、少し傷付いたわ。「その、ありがとう、また明日ね」駅にはよく一緒にいる仲間が待っていたところを見ると、もしかしたら罰ゲームだったのかもしれない。ごめんねともう一度謝るとキョトンとされた。

高校生になるまでにダイエットに励んだ結果、大成功をした。制服を買い替えないといけないぐらいに小さくなって親には渋い顔をされたけれど高校デビューには持ってこいだった。告白もされたが私はどうしても徳川くんが気になって断り続け、高校二年生になってようやく決心をした。友達を失うかもしれないという恐怖心よりも恋する気持ちが勝ってしまったのだ。「どうかしたか?」あのときと同じシチュエーション、今回違うのは私が自分の気持ちに素直になったという点だった。「中学生の時に」「うん?」「一緒に日直だったのを思い出したの」「ああ、あのときは」「あの時は徳川くんのこと怖いなって思ってた、私なんかにどうして優しくするのか分からなかった」「ひどいな、友達だろう?」「私ね」一区切り、息を飲んで徳川くんを見上げる。一瞬目を伏せて、好きになっちゃったのと呟けば徳川くんは瞬いていた。「ワシのことが?」「ほ、他に誰がいるの」「はは、それもそうだな」返事はすぐでなくていいと言えば「ひどいな」と徳川くんは笑う。「中学生のあの時から、ワシはおまえのことを好いていたのに」「は?」「誰かに恋をしているのは分かっていた
が、まさかワシだとはな」「あの頃の私を?」「あ、誰でもいいから送ったわけじゃないぞ?好いた人を一人で帰すわけないだろう」「ようやく、一代決心して告白したのに、そんなあっさり」「見た目じゃない、ワシだっていつ想いを伝えるか足踏みをしていたんだ」「え、じゃあ随分前から両想いだったの?」「ワシの態度は分かりやすいと周りは言っていたんたがな、伝わってなかったのか」「伝わるもなにも、仲良くしてくれてるんだなぁってだけで」「好きだ、」「わ、私が先に言ったのに」「では、返事を返そう。付き合ってくれ」ありがとう、と私は差し出された手を握る。夕日に照らされた徳川くんの頬は赤く照れているように見えた。

初めは爽やか後にヤンデレになる権現。