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赤也

クラスメートにテニス部の先輩の従妹がいた、本当に?と思うくらい似てなくて根暗でクラスに居るのか居ないのか時々分からなくなるけど教師からの信頼は厚い方だった。優等生という看板背負って、彼女はいつの間にか俺らの代のマネージャーをやっていた。俺がレギュラー入りするまでに嫌がらせされてばかり見たけれど、屈しなかった。あといつの間にか嫌がらせが止まっていた、先輩の圧力だろうと他の奴らは言う。
「平部員からの信頼が厚いからな、彼女は本当に良くやってくれている」「柳先輩も知り合いなんスか?」「まあな、よくテニススクールで精市や弦一郎と遊んだ」「え?」「テニスの腕もなかなかだ、テニス部に入れば良いと何度も誘ったんだがな、なにせ入学が少し遅れたのも--赤也?」「‥あいつ、何か病気持ってません?」「それは‥本人に聞くべきことだろう」
先輩はだんまりを決め込んだらしい、そこからはあいつの話を進めなかった。が、一度だけ昼休みに--保健室で医者から貰うような薬を飲んでいるのを見たことがあった。そう、決まって昼休みの屋上ミーティング終わりに保健室に寄っているのだ、クラスメートなのに一緒に戻らないのはそのためかと思ったら嫌われているわけではないと理解できて安心した。
「‥‥あん‥しん?」

弥勒

「キミか」「弥勒殿」
泣いてしまいそうな表情をした女の髪はずぶ濡れで布を巻いて現れたのだ。何が女をそうさせたのかは分からないが、畳が濡れないように男の傍らに腰を下ろした。
「怪我はないのか?」「ありません、--ですが、少し、疲れました」
そう言って顔を伏せ、小さく誰かの名前を呟いた。懐かしそうに切なそうに呟いた名を男は聞き取ることが出来なかった。
「厄介ですね、龍閃組とは」「そうだな」「弥勒殿に面を頂いて正解でした、不思議な面ですね」「役に立てたのなら面も喜ぶだろう」「はい、‥素で町で見かけても誰も気付きません--彼以外、は」

「精市くんの知り合いなら安心だわ」「そうですか?」「私は時間が不定期な仕事だから、学生さんとルームシェアするのは問題ないと思うよ。よろしくね」「こちらこそ、よろしくお願いします」

バー店員(22)と高校2年生柳くんのルームシェア話を書きたいな

幸村

賑やかな教室から逃げ出すように向かった先は美術室--昼休みの箱庭。キャンバスに見えるのは、まだ形のない風景画(の予定)で瞳に写した思い出を描いていくのだが今回は煮詰まっていた。ありきたりな映像ばかりで何かないものかとキャンバスから離れて小さなスケッチブックに鉛筆を走らせる、小さなソレにならば何だって--人物も風景も閉じ込めることが出来のにソレすらもままならない。どうしたものかと道具を机に置いて伏せってみた。
「(そういえば革の余りを貰ったんだっけ‥たまには)」「あれ、キミは」「‥ゆ、きむらくん、どうしたの?」「絵の続きだよ、どうしても終わらせたくて」「‥‥そう」
やりかけの絵に布を掛けてスケッチブックに革に何を描くか考えてみる、B5サイズの小さな余りを祖母から貰ったのを思い出したのだ。
「‥ねぇ、そのスケッチブックには何を描くんだい?」「落書きだよ、いろいろ」「見せてくれないかな」「いい、けど」
手渡せば嬉しそうに幸村くんはページを捲る。風景や人物や--ファンタジーな絵までその時のインスピレーションの赴くがままの落書きに幸村くんは「素敵だね」と呟いた。なんとなく気恥ずかしくなって俯いてしまった。

弥勒

「おい!あいつ知らないか?」「‥あいつ?」「ちっ‥ここにいないとなると、外に出たのか」「用件は?」「っ‥お前には関係ないだろ、ただの手合わせだよ」「そうか、彼女が来たら伝えよう」「お、‥おう」
風祭がなんとなく困惑したような声色を出した後、走って行った気配を感じて、立ち上がると音を立てて襖を開ける。そこには小さく膝を抱えた女がいて--まるで座敷童のようだった。
「‥だ、そうだが?」「私は薬業で忙しいのです」「ならば、小屋の鍵を掛けてしまえばいいだろう」「それも簡単にはいかなくて、風祭が一番厄介です‥今のところは」「苦労をしているな」
押し入れから出てきた女は肩を落として背後に腰を下ろした。俺が溜め息をつくと背中にのしりと重みが掛かり、背後からも溜め息が聞こえた。
「弥勒殿、申し訳ありません。いつもいつも何かと立ち寄ってしまって」「いや、気にするな」「静かに作業をしたいという気持ちは理解できるのですが、どうしても‥頼りにしてしまいまして」「‥‥--だ」「えっ?」
俺が会いたいと思うときにいつもお前は来るだろう有り難いことだ、と二度は言えない事を口にしてしまった。女は暫く背を預けて--風祭の怒鳴り声がすれば逃げるように去ってしまった。
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