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幸村

幸村が入院して驚いた。そして意外な病状に驚いて少しだけ泣いた。あんなに輝いていた彼が二度と輝けないのではないかと思うと嫌々ながらもそれなりに楽しく部活のお手伝いをしていた私は、また彼のお気に入りのドリンクを作ってボトルを握り締めて唇を噛む。丸井辺りにあげてしまえばいいものを自分で飲んでお腹を下した。「見舞いに行かないか」「無理だよ泣いちゃうもん」柳に言われ真田に言われ仁王に言われたところではたと幸村の思惑かなと思った。仁王はそんなこと滅多に言わないだろうし丸井もなにやらそわそわしている、行かねばならぬか幸村はそんなに私の泣き顔が見たいのかと少しだけムカついた。会ったら泣いてしまうのは知っているくせに今、幸村がコートにいないだけで毎日泣いてしまいそうなのに、奴は鬼かと思うが会いたいだけかもしれないと少し前向きに考えて「今日は行くの?」と柳に聞いてみた。一瞬、驚いた表情を見せた柳だったが「ああ」と頷く、「私も行こうかな」と言えば「喜ぶよ」と柳は笑った。病院は注射のイメージしかなくて嫌いだ。病室に入ったら何て言えば良いのだろう?--久しぶりだね?--会いたかったよ?
どれもしっくりこなくて私は柳が扉を開けるまで悩んでいた。そんな表情の私に柳は優しく「大丈夫だ、お前が思っているほど弱っていない」と言った。ガラリと扉が開く、ベッドに座っているのは紛れもなく幸村だった。「やあ、よく来てくれたね」なんて幸村が力無く笑うから私はグッと唇を噛むしかできなかった。何か言わなくては、何か、何か、テニスが出来ないかもしれない幸村を前にして私はただ、ただ、スカートを握り締めて唇を噛むしか出来ないのだ。困ったように微笑む幸村、私の背中を軽く押した柳はすぐに病室から出ていってしまった。「ゆきむら、」「うん」「アンタのボトルで、私は何度腹を下したことか」「うん」「聞いて知ってるんでしょ」「まあね、部長だから」「ゆきむら、」「うん」帰ってきてよと力無く呟いて俯けばじんわりと視界が歪む、泣きたくないのに幸村を見ているだけで--本当は見られなくて俯いて駄々っ子のように幸村を呼んでいた。「キミが泣くとは思わなかったよ」「うそつき、本当は私の泣き顔見たさに呼んだくせに」「酷いなぁ」「ほれみろ!満足か!幸村のばかっ」ボタボタと頬を伝う涙、それに幸村は困ったように笑
うから私はだんだん悔しさから悲しみに変わっていくのを意識した。「ゆきむらぁ」「うん」「帰ってきて!立海に!もうドリンクボトルが一本多いの見たくないよぅ!」「うん」見れば幸村も涙を浮かべていていつの間にか二人でわんわん泣いていた。帰ってきてよ、帰りたいよ、部活の時お腹痛いのやだよ、それはキミの匙加減だろ、また嫌がる私を全国へ連れていってよ、連れていきたいよ、二人で言いたいこと言ってわんわん泣いていた。

感情的な二人もいいと思う。
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