何かあったら頼ってほしいと言って、試練の山近くに住まう賢者の話をセオドアは思い出した。両親の戦友で血の繋がりがあると聞いていた、謎の男も彼女を知っていると言う。「母様に、なにか?」銀色の髪を揺らした少女が小屋から顔を出した、謎の男が少女の名を呼べば少女は嬉しそうに抱き付く。「こらこら、母の戦友を困らせるんじゃない」「だって!母様!」「あの、」「分かっているよ、大きくなったね、セオドア」「チカラをお借りしたいんです、賢者さま」「母様、セラも行きたいです」「セラル、」「セオドアはいいのに、セラは駄目なのですか?セラは三つもお姉さんなのに」「ミシディアの長老の具合を見る約束はどうするのだ?」「うっ、」「母はこの通り、友に頼られた。大切な友の頼みであるのはセラルも同じだろう?」「はい」母親らしい台詞に金糸の男は頬が緩むのを意識した、気付いた賢者はコホンと咳払いをして「支度をする」と奥の部屋に行ってしまった。「セラル、」「ふん、姉様のご用事じゃなかったらねだれるのに…ね、セオドア、セディルはどうしている」「もう立派にバロンの騎士だよ」「さすが!」「双子、なのか?」「はい。セラが
お姉さんなのに、ちょっと強いからってさっさと王様に引き抜かれたんですよ、あ!でも魔法はセラの方が強いです」「そうか」「会えばすぐにわかりますよ、王様はセオドアとセディルの仲をとても嬉しく思ってるって王妃様が仰っていましたから、懐かしいって」「まるで、国王自身とその親友を見ているようなのだろうな、待たせた」「…いや」「足手まといにはならぬよ、ミシディアを抜けてバロンへ行くのだろう?」「そのつもりだ」変わらない賢者に男は懐かしさを感じて、バロンの騎士だという彼女の息子にも会いたいと思った。
その夜、眠る子供たちを背に二人は火の番をしていた。「意外か?」「……」「簡単なことだ、私もヒトの子だっただけのこと」「父親は、」「さあ?一度きりの契りで成せるなら幸せなこと」「お前の考えは理解できない」「それは子供たちの話か?それぞれの得意分野を活かすためにこうしたんだ」「父親の話はしたのか?」「いつか、双の月がまみえるときに会えるだろうと賢者らしいことを言った、…いや、こんなことになるとはな」「?」「私の役目は終わったと思ったんだけどな、しかし、この子たちには背負わせないと決めている。父親の為にも」「ふっ、変わらないな」「当たり前だ、幸せになって欲しいと願うのは親の使命だからな。多分」